強化したい、3つの「ヘルスケアマーケティング」

これからの「ヘルスケアマーケティング」で特に重視すべき、3つのトレンドキーワードとはー?マーケティングメディアの日経クロストレンド(日経BP)は先月、「今後伸びるビジネス」をあらわした「トレンドマップ2023上半期」を発表した。ビジネス界で特に変化の激しい「マーケティング」「テクノロジー」「消費トレンド」に焦点を当て、各分野で今押さえておきたいビジネスキーワードをランキング化。合わせて、分野別に「経済インパクト」と「将来性」の2軸でマッピングも行った。2018年から半期に1回発表しているもので、中長期視点での最新潮流を見極めることが目的。今回は88のキーワードを調査。本稿では、同社が発表したうち「マーケティング」分野にフォーカスして紹介したい。今後のヘルスケアマーケティングの戦略立案のヒントに!

前回調査から伸長、18のビジネスキーワード

調査は2023年4月に実施。計88の各キーワード(マーケティング分野29、テクノロジー分野28、消費トレンド31)の現時点での「将来性」と「経済インパクト」を5段階でスコアリングし、前回調査(2022年10月)と比較。スコアの上昇率が高かったキーワードを分野別にランキング化した。

将来性の高いキーワード、分野別TOP3

「将来性」は、将来性の見込みの高低で評価。「1.将来性は低い / 2.将来性はやや低い / 3.どちらとも言えない /  4.将来性はやや高い /  5.将来性は高い」の5段階でスコアリングし、分野別に次の結果となった。

  • マーケティング
    1位:音声SNS
    2位:チャットbot(対話型AI含む)
    3位:ジオターゲティング(位置情報・人流マーケティング)
  • テクノロジー
    1位:VUI(音声ユーザーインターフェース)
    2位:人間拡張
    3位:スマートフォン
  • 消費トレンド
    1位:越境EC
    1位:インスタ映え
    3位:ナイトタイムエコノミー

経済インパクトが大きいキーワード、分野別TOP3

「経済インパクト」は、収益面から評価。「1.どの企業も収益を得られていない / 2.一握りの企業(1~2割程度)の収益に影響している /  3.一部の企業(3~5割程度)の収益に影響している / 4.大半の企業(6~8割程度)の収益に影響している / 5.社会全体になくてはならない存在」の5段階でスコアリングした。

  • マーケティング
    1位:クッキー代替技術
    2位:ファンベース
    3位:インフルエンサーマーケティング
  • テクノロジー
    1位:VHA(バーチャル・ヒューマン・エージェント)
    2位:空飛ぶクルマ
    3位:Web3
  • 消費トレンド
    1位:Z世代
    2位:インバウンド消費
    3位:MaaS

【出典】日経BP

 

 

新潮流のビジネスキーワード

潮流の変化を読み取り、同社は今回の調査で新たに4つのキーワードを追加した。将来性が特に期待できるのは「CX(顧客体験)」と「生成AI」と見ており、共に高いスコアを出している。

【出典】日経BP

 

強化したい3つの「ヘルスケアマーケティング」

続いてトレンドマップを見てみよう。「マーケティング」分野について同社は、29のキーワードを次のようにマッピングした。縦軸は「将来性」、横軸は「経済インパクト」。

【出典】日経BP

 

さて、このマッピング。女性ヘルスケア業界においては、どのキーワードをピックアップして読み解けば良いだろうか?ウーマンズラボ編集部が注目したのは、「CX」「デザイン思考」「パーソナライゼーション」の3つ。いずれも、今年の4月にウーマンズ(ウーマンズラボ運営元)が業界向けに発表した「女性ヘルスケア白書2023年 市場動向予測レポート」で言及しており、今年度に注視すべきマーケティングとして取り上げた。

ヘルスケアマーケティング①「 CX(顧客体験)」

3つのキーワードの中でも特に注視すべきは、「CX(顧客体験)」。CXとは企業やブランドがユーザーと継続的な接点を持ち続けるために心地良い体験を提供する施策のこと。「機能的価値(機能・品質・価格など)」の追求だけではコモディティ化しやすいことから、あらゆる業界が昨今は「情緒的価値(デザイン・顧客対応・ブランドストーリー・UI/UXなど)」を重視することでCX向上を図る差別化戦略を取っている。前述の通り、日経クロストレンドでも将来性の高い新たなビジネスキーワードとして「CX」を今回から調査対象に加えているが、ヘルスケア業界は特に取り入れたい施策。命や健康に直結するヘルスケア・医療領域では機能を重視するあまり情緒的価値が置き去りになり、CXが低下しがちだからだ。特に女性の場合はヘルスケア商品・サービスの消費や医療サービスの利用であっても、機能・効果の高低や良し悪しよりも、好き・嫌いや快・不快などの感情で購入を判断する傾向が強いため、CX重視のマーケティング設計は重要だ。

実際にCX強化を図る事例は、医療・ヘルスケア業界でも出てきている。例えば、不妊治療中の女性の不安や焦りに配慮し、待合室で患者同士が顔を合わせることがないようカフェカウンターと同じつくりにしたレディースクリニック「Plume Ladies Clinic内装デザイン:タカラベルモント。患者のウェルビーイングな療養生活のために、美容・健康・食・図書・コンシェルジュサービスなどを豊富に取り揃える亀田総合病院(千葉・鴨川)は今年5月、敷地内にユニクロをオープンさせた。衣服による療養生活の彩りを目指す(ユニクロが病院内に店舗をオープンするのは2例目)。アロマ事業の生活の木は、個々に適した香りのアロマオイルを見つけるサービスをAIで実現。これまでにはない新しい買い物体験の提供を始めた。

【出典】生活の木(香りの言語表現を学習したAIシステム「KAORIUM」を活用して、店舗で香り体験を提供。開発はSCENTMATIC社)

※CXについては「女性ヘルスケア白書2023」内のp.68〜73に掲載。ヘルスケア業界でのCXの事例や、ヘルスケア消費(購入前・購入時・購入後)における女性たちの不満について紹介しています。無料ダウンロードがまだの方はコチラ

ヘルスケアマーケティング②「 デザイン思考」

デザイン思考とは、ユーザー起点でユーザーの本質的なニーズを理解し、課題を発見して解決する思考法のこと。「誰がどんな目的で利用するのか?どんな機能や使い心地が求められるのか?どうすれば使いやすいか?どう見せればわかりやすいのか?」など、ユーザーが求めているものを追求して、機能やプロダクトデザイン、パッケージデザインを決定していくーー。このデザイナーの思考法を応用することで、ユーザーに共感される製品・サービスを開発したりイノベーションにつなげようというものだ。機能設計やパッケージのデザインのみならず、ビジネス戦略、プロセス改善、組織改善など、さまざまな領域で活用されている。

ヘルスケア業界では、フェムテックとメンテック界隈でデザイン思考が広まっている。性にまつわるセンシティブな領域を扱う特性から、ユーザーが「恥ずかしい思いをせずに購入できるか?」「使っていることが家族や他人に見つかっても、気まずい思いをしないか?」「利用するのに抵抗を感じないか?」「命が助かったのだから…と、商品の見た目などデザイン面で我慢をしていないか?」など、心理面への配慮を起点にした製品開発やプロモーションが多い。

例えば、店舗で購入したり部屋に置いても恥ずかしくないパッケージデザインのコンドーム無印良品TENGA)。馴染みがある成分と剤形を採用することで心理的抵抗を払拭しつつ継続摂取につなげる、男性向け妊活用プロテインアンファー。通常のストッキング同様に機能性・履き心地・ファッション性を追求し、がん治療の後遺症「リンパ浮腫」に悩む女性自らが「履きたい」と思えるデザインを実現した医療用弾性ストッキングエンサイクロなどが好事例だ。

【出典】TENGA(アルミ缶を開けると、缶バッジのようなパッケージのコンドームが入っている。一見するとコンドームとはわからない)

 

企業サイドからしてみれば、「健康になれるだけで十分満足するのでは?」「ユーザーが求めているのはエビデンスでは?」「医療・健康・介護の領域では、デザインや世界観なんて関係ないだろう」と思うかもしれないが、モノ余りの今の時代、こういったプロダクトアウト思考ではユーザーは共感してくれない。機能を重視すべきヘルスケア商品・サービスであっても、だ。ましてやこの領域では、ユーザーの消費行動を促す前に健康意識の変容や健康行動を促さなくてはならないのだから、なおさらユーザー起点の製品開発やマーケティング設計=デザイン思考が必要だ。

※ユーザー起点で心理面への配慮をしたパッケージデザインやブランディングで参考になる事例は、「女性ヘルスケア白書2023」内のp.15〜26に掲載。さまざまなフェムテック・メンテックの製品・サービスを紹介しています。無料ダウンロードがまだの方はコチラ

ヘルスケアマーケティング「③ パーソナライゼーション」

顧客一人ひとりに合わせて商品・サービスを提供するパーソナライゼーション。近年は美容、アパレル、マーケティング業界において個別最適化を図るパーソナライズ製品・サービスが人気を集めている。ヘルスケア業界では例えば、尿検査で必要な栄養素を分析し個々に適したサプリメントを届ける、ファンケルの完全オーダーメイドサプリ「パーソナルワン」、健康的な食メニューをパーソナライズ型で選定し自宅に届ける、カルビーの「おまめし」など。医療でも、個々の体質や病気に合わせた治療を提供する個別化医療が注目されている。

 

【出典】カルビー(ウェブ上で質問に答えると、常温レトルト食品が届けられる。「個別化」と「時短」と「手軽感」を打ち出す)

 

パーソナライゼーションの波が押し寄せているのは、人々の嗜好やニーズが多様化していることに加え、一人ひとりのニーズに応えられるだけのテクノロジーが生まれていることが背景にある。この波に乗ろうと、ヘルスケア業界内でも「自社製品をパーソナライズ型にすべき?」という議論が繰り広げられるようになってきた。最近は、多様性重視の流れからジェンダーレス化を検討する企業の声も聞かれる。パーソナライズ化とジェンダーレス化、これについてはどのように捉えれば良いのか?矢野経済研究所の主席研究員、清水由起氏(フェムケア&フェムテックマーケット2021・2022を統括)は、次のように語っている。

ヘルスケア業界の理想はパーソナライズだとは思うが、その実現には、資金的にも技術的にも難しい企業がほとんど。まずは取っ掛かりとして性差分析をして、ゆくゆくはパーソナライズに持っていければいいのではと思います。引用:【対談】ジェンダード・イノベーション、商機はどこ?<矢野経済研究所×ウーマンズ>

 

ヘルスケア業界でのパーソナライズ化は長期目標に据えるのが現実的、という見解だ。フェムテックの興隆により、女性・男性それぞれ特有の健康課題が顕在化している昨今、業界全体で優先的に進めるべきは、男女の違いを明らかにする性差分析の考え方だ。近年は、持っている臓器や臓器のサイズの違いなどから女性と男性では病気の発症リスク、症状、薬の効き方が異なることが次々に報告されている。今年4月には、NHKが男女の体の違いに着目した特集番組「性差医療の最前線(NHKスペシャル)」を放送し、話題に。生活者の間でも病気のリスクや健康における性差の概念が広く知られるようになった。新聞や女性誌・男性誌などの各メディアによる報道も増えている。他業界では今後もパーソナライズ商品・サービスが増えていくと考えられるが、現時点でのヘルスケア業界においては、前出の清水氏が述べているように「ゆくゆくは」のスタンスで良いだろう。

※性差分析については、「女性ヘルスケア白書2023」のp.6〜14で解説。性差分析が広がっている背景や、性差に着目した製品・サービス事例などを紹介しています。無料ダウンロードがまだの方はコチラ!

 

 

女性ヘルスケア市場、2024年の動向予測

\ご案内/
2024年度の女性ヘルスケア市場の行方はーー?今年度もウーマンズが市場トレンドを徹底分析し、業界向けのキーワードを選定しました。当レポートをぜひ、各社様の本年度のマーケティング施策にご活用ください!2023年度版2,300社様以上にダウンロード頂きました。

女性ヘルスケアマーケティングレポート

 

 

 

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