「推し」は最強のモチベーション、ダイエットや外出機会が増加 商品化も始まる「推し活×ヘルスケア」
「推し」の存在が、消費だけでなく健康行動も動かし始めている。推しに会うためにダイエット、イベント参加や聖地巡礼のために外出、推しを見ることで気分が上向く――。調査や生活者の投稿からは、推し活が心身の健康づくりや行動変容につながっている様子が見えてくる。「健康になりたい」ではなかなか動けなくても、「推しに会いたい」なら動ける。推しは、最強のモチベーションだ。そんな“好き”の力を行動変容の仕掛けに活用すれば、ヘルスケアマーケティングの成果はぐんと上がるかもしれない。
目次
推し活が健康行動のきっかけに
推し活で「健康を意識」4割、活動量が増えるきっかけに
推しがいる15〜69歳の男女1000人を対象に、タニタが今年3月に実施した「推し活に関する意識・実態調査2026」では、推し活をするようになってから自身に起きた変化として、「健康を意識するようになった」が43.4%に上った。健康行動や身体の変化も見られ、「ダイエットを始めた」は26.6%、「痩せてからだが引き締まった」は25.6%。さらに「健康診断で気になる項目の数値が改善した」は20.8%と、5人に1人が健診数値の改善を実感していた。
「推し活=精神面の充足」と捉えられがちだが、健康意識の向上やダイエットのきっかけ、健診数値の改善まで、身体的な健康に関わる項目に幅広く好影響を与えていることがわかった。
変化は、日常生活の行動にも。同調査では「外出する機会が増えた」が47.4%と約半数に上った。ライブやイベントへの参加、グッズ購入、聖地巡礼、ファン同士の交流など、推し活は外出を伴うことが多いからだ。そもそも、人物や作品への「好き」が、「ライブに行きたい」「実際にその場所へ行ってみたい」という強い移動の動機になる。「推しに会いに行く」「推しゆかりの場所を巡る」。そんな推し活そのものが、自然と歩いたり身体を動かすきっかけになっている。
「生きることが楽しくなった」8割、メンタルに好影響
心理面での変化は、さらに顕著だ。同調査では、推し活をするようになったことで「生きることが楽しくなった」が77.5%、「気分の落ち込みが軽くなる」が75.7%、「疲れが軽くなる」が72.6%と、多数の項目で7割を超えた。推しの存在が、日々の楽しみや気分転換、精神的な支えになっている様子がうかがえる。
同様の傾向は、第一三共ヘルスケアが昨年10月に発表した「Z世代セルフケア白書2025」でも報告されている。推し活をしているZ世代では、「元気が出る」が61.4%、「ストレスが軽減される」が50.0%。「体力がついた」は17.0%だった。30〜50代のミドル世代においても同様で、「元気が出る」は61.9%、「ストレスが軽減される」は55.4%と半数を超えた。推し活がもたらす元気やストレス軽減は、若者だけの話ではないのだ。“好き”の力は、世代を超えて心身の健康を後押ししている。
推し活に費やすお金が多いほど、自己効力感へ好影響
推し活と健康との関係は、研究対象にもなっている。2023年に発表された山口県立大学の研究「『推し』活動が人の健康に及ぼす影響」では、10〜40代の172人を対象に調査を実施。約4分の3が、推し活を始めてから「健康感」と「自己肯定感」が向上したと感じていた。研究では健康感を身体的・精神的・社会的な側面から捉えており、推し活を始めてから、これらの健康感が増したという。
さらに興味深いのは、「推し活にかける時間・お金」と「健康」の関係だ。推し活に費やす時間が長い人ほど、身体的・精神的・社会的な健康感への好影響を感じる頻度が高く、また、費やす金額が多い人ほど、意欲や自己効力感への好影響を感じる頻度が高い傾向が確認された。
「好き」は最強のモチベーション、推しに会いたくてダイエット
SNSやnoteなどにも、推し活をきっかけに健康行動を始めたという投稿を多く見かける。「推しに会うためにダイエットを始めた」「推しと写真を撮ることを目標に運動や食生活を変えた」「推し活を励みに運動を習慣化できた」など、“好き”をモチベーションに食事や運動などの生活習慣を変えたという体験談は珍しくない。中には、減量に伴って「寝起きがよくなった」「階段で息が切れなくなった」「腰痛がなくなった」といった、身体面の変化を実感する声も。
注目したいのは、健康のために健康行動を始めているわけではない点だ。「推しに会いたい」「推しのようになりたい」「イベントを楽しみたい」「聖地を巡りたい」ーー。いずれも起点は「健康になりたい」ではない。“好き”を追いかけているうちに、「歩く」「身体を動かす」「体重を管理する」「食生活を見直す」といった健康行動が、自然と生まれているのだ。
「推し活×ヘルスケア」に商機、広がる商品・サービス事例
前述の調査結果や研究、生活者の投稿からは、推し活が健康や身体活動、外出のモチベーションになっている様子が見えてきた。では、この“推し活の力”を、商品・サービスづくりやマーケティングにどう生かせるのか。事例を見てみよう。
人気ドラマ『VIVANT』聖地巡礼ツアー(クラブツーリズム)
“推しの力”を商品に取り込んだ、わかりやすい例が「推し旅」だ。今年7月に始まったTBSの人気ドラマ『VIVANT』第2シーズンの放送開始に合わせて、クラブツーリズムが公式の聖地巡礼ツアーの販売を開始した。第1シーズンの主要舞台となった島根県のロケ地や、東京都内の名シーンの舞台を巡るツアーだ。
作品への「好き」という熱狂的な感情は、「実際にその場所へ行ってみたい」という動機に変わる。ツアーは健康づくりを目的としたものではないが、人を動かす「好き」の力を商品設計に生かした好例だ。推し活が人を外へ連れ出し、歩いたり移動したりするといった行動を自然と生み出していることも、この事例からイメージできる。
推し活中の活動量をアプリで見える化(OshiCue)
推し活を健康に結びつけたサービスもある。推し活のイベントやチケット、グッズ、支出など、推し活にまつわる情報をまとめて管理できる推し活管理アプリ「OshiCue」だ。有料プランではAppleのHealthKitと連携し、ライブやイベント当日の歩数・活動量・心拍の目安を参加記録として残せる。ライブの日にどれだけ歩いたか、どれだけ身体を動かしたかを、推し活の思い出と一緒に振り返れるというものだ。健康管理を目的としたアプリではないが、「推し活を楽しんだ結果、健康にもつながる」という副次的な価値に目を向けると、アプリの新たな利用動機も期待できる。健康関心層であれば、推し活のついでに身体も動かせることに魅力を感じて、アプリを使い始めるかもしれない。
「健康のために歩こう」と言われても動けない人が、推しに会うためなら何千歩でも歩く。健康を目的にするのではなく、「好き」「楽しい」を目的にした行動の先に、健康がついてくる――。そんな推し活の力を健康につなげる発想からは、推し活とヘルスケアの新たな接点をつくるヒントが見えてくる。
推しをセルフケアのきっかけに、女性向けドリンク(サントリー)
推し活の力を、日々のセルフケアにつなげた事例も。サントリー食品インターナショナルは、女性特有のゆらぎ対策ドリンク「menphys GABA&大豆イソフラボン&鉄分」とサンリオキャラクターズがコラボした「推しとやすもう」スターターセットを、昨年11月に期間限定で販売した。ドリンク7本と、ハローキティやマイメロディ、クロミなどから選べるアクリルスタンドをセットにした商品だ。
同社が着目したのは、推しから「癒やし」や「日々の原動力」を得ている人が多いこと。「推しに癒やされながらセルフケアを行う “きっかけ”」を提供することを狙い、コラボした。
菓子やファッション、雑貨など、一般的な商品・サービスとは違い、健康を訴求する商品・サービスは、関心や購買を促すだけでなく、その先の健康行動や健康効果につなげる視点も欠かせない。同社の取り組みは、単に人気キャラクターの採用で目を引くのではなく、「推しに癒やされることはセルフケアになる」という発想を、健康行動を促すマーケティング設計に取り込んだ点が参考になる。
「好き」でつなぐ推し活と健康、カギは「継続」
「推し」が人を動かす力は、今に始まったことではない。推し活はこれまでも、大きな消費を生み出す市場として注目されてきた。ここから先、面白くなりそうなのは、“推しの力”とヘルスケアを掛け合わせた商品・サービスやマーケティングだ。ただし、ヘルスケア領域で推し活マーケティングを採用するなら、一時的に関心を引くだけでなく、健康行動を継続してもらう仕掛けも必要だ。人気キャラクターや有名人とのコラボは、健康無関心層との接点をつくる有効な入口になり得るが、その先も行動を続けてもらうには、商品パッケージや広告への起用だけでは難しいだろう。
「好き」「会いたい」「応援したい」という感情を、どう継続的な健康行動につなげるか。ここに、“推し活×ヘルスケア”ならではの商品・サービス設計の面白さと難しさがある。今後どんなアイデアが生まれてくるのか、引き続き追っていきたい。
2026年の女性ヘルスケア市場はどうなる?
2026年度の女性ヘルスケア市場を予測する「女性ヘルスケア白書2026年度版 市場動.向予測 ~健康トレンド・業界動向・女性ニーズ~」を発行しました。これまでにBtoC企業、BtoB企業、自治体、医療機関、マスメディア、教育機関など、さまざまな業種の方に広くご活用いただいている、恒例の人気レポートです。新規事業の企画・開発、マーケティング設計、販売戦略における意思決定にご活用ください
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