美容市場で始まったZ世代の「バズ離れ」、購買行動プロセスとインフルエンサーの役割に変化の兆し
美容市場で「バズ消費」に変化の兆しが見えてきた。アイスタイルが5月に発表した「@cosmeベストコスメアワード2026上半期新作ベストコスメ」では、美容消費のトレンド変化として”バズ離れ”を指摘。とりわけ若年層に顕著だという。美容市場では長らく、Z世代を中心としたSNS発のヒット商品が市場を牽引してきたが、それはもう過去の成功法則なのか? 企業側にはマーケティングのアップデートが求められそうだ。
目次
Z世代の購買行動プロセス「バズ消費」は20年前半の現象
TikTokやInstagramでバズった商品が発売直後に売り切れにーー。女性たちによるそんな「バズ消費」が、2020年前後から社会現象として注目された。デザインや機能性、新しい体験の提供に長けた韓国コスメの多くも、SNS映えとの相性の良さからバズ消費を次々に巻き起こした。こうした現象を当時調査した電通によると、SNSでバズった商品を購入したことがあるZ世代女子は8割に上り、とりわけ人から見られる領域=コスメとファッション領域で顕著だと指摘していた。
背景にあるのは「売り切れ恐怖マインド」。SNS上で評価の高いバズった商品を確実に手に入れたい、といった心理で、自分自身より他者の評価を優先しようとする意識も垣間見える。こうしたバズを起点にした消費行動が、デジタルネイティブであるZ世代の新たな購買行動プロセスとして語られてきたが、今、変化の兆しが見えている。
美容市場のバズ離れ、なぜ? 変化するZ世代の意識
バズっているだけでは選ばれない時代に
アイスタイルは今年5月の美容トレンド発表の中で、「”バズっている”だけでは選ばれない時代になった」とし、「若年層を中心に『自分に合うか』『投資する価値があるか』を見極める消費へシフトしている」と総評した。これまで見られたような、話題性の高い特定の商品に支持が集中する傾向は弱まり、個々のニーズに合わせた多様な商品が選ばれる傾向が強まっていることは、同社が運営するコスメの口コミサイト「アットコスメ」のデータからも明らかになっているという。
この”バズ離れ”は特に若年層に顕著で、「SNSやYouTube・TikTokで、話題・人気・バズっている化粧品を購入したいと思うか?」と聞いた今年4月の調査では、10代と20代で「そう思う」が22年比で大きく低下した(10代は7.2ポイント減、20代は6.3%減)。
こうした意識変化を見ると、Z世代がバズった商品を追いかけなくなる時代が訪れるのかとも思えるが、そうではない。同社は「”バズ”をきっかけにしながらも、自分に合うアイテムを見極めてから投資する消費行動へと変化しつつあることが浮き彫りになった」と考察している。バズと自己判断を組み合わせる”ハイブリッド型”の消費行動が広がっていると言えそうだ。
バズの影響力は限定的、SNSは”認知”のための装置
バズだけでは動かない女性たちの意識については、美容情報サイトを運営するザ・プレミエールファクトリー(東京・中央)も見解を示している。SNSネイティブであるZ世代にとって、美容商品の認知・発見においてSNSが今なお強い影響を持つことは確かだが、一方で昨今は、購買判断の軸=消費基準は現実的な要素へ移行しており、バズの影響力は限定的であるという。
同社が20代女性1000人に実施した調査で、美容商品の消費で重視する点で上位に挙がったのは、 1位「コスパ・価格」、2位「口コミ・レビュー」、 3位「効果の実感」で、話題性やインフルエンサーの影響は少数にとどまることがわかった。
同社は「SNSで知ったあとに、価格・他者評価・自分に合うかどうかで冷静に判断していることを示している」とみている。SNSは入口として重要な機能を果たしているものの、購入を決める最後の一押しは、バズそのものではなく合理的な”納得感”にあるようだ。同社は「SNSはあくまで“認知の装置”であり、“意思決定の装置”ではない」と考察している。
インフルエンサー広告に抵抗感
では、なぜZ世代はバズや話題性だけで商品を選ばなくなったのか。背景の一つとして考えられるのが、SNS広告に対する拒否感だ。Z世代マーケティング事業の僕と私と(東京・渋谷)が実施した、Z世代3000人を対象にしたSNS広告に関する調査では、広告っぽさがあると「購買意欲が少し下がる(31.4%)」と「完全になくなる(12.0%)」は合わせて43.3%と約半数に上った。
意欲が低下する理由のトップ2は「宣伝が押し付けがましく感じた(48.9%)」「広告である時点で投稿が信頼できないと思った(47.9%)」で、いずれも約5割に上った。とりわけ「広告っぽい」と感じるのは「インフルエンサーが不自然に商品を紹介しているもの(41.6%)」で、インフルエンサーによる広告に対して、従来ほど無条件に受け入れられるわけではない実態がうかがえる。「企業の広告にうまく乗せられたくない」といった心理も働き、バズっていることだけでは消費の決め手になりづらいのかもしれない。
変化するインフルエンサーの役割
バズを生み出す役割を担ってきたインフルエンサーの影響力は、今や低下しているのだろうか。必ずしもそうとは言い切れないようだ。
プロモーション事業のCreative Group(東京・千代田)が、16〜59歳の女性800人を対象にスキンケアに関する情報収集の実態を調べた調査では、「コスメ・スキンケアを知るきっかけとなる情報源」は、「一般人の投稿」が40.7%、「インフルエンサーの投稿」が39.2%と、ほぼ同水準で拮抗する形となった一方で、参考にする口コミについては、「一般人の口コミ」は31%に対し、「インフルエンサーの口コミ」は、わずか5.2%にとどまった。つまり、商品認知の段階においてはインフルエンサーの影響力は今なお機能するものの、商品レビューなど、よりリアルな情報を得る段階では影響力がさほどないということだ。
この調査はZ世代に限定したものではないものの、認知と意思決定で参照する情報源が異なる傾向を示すものとして参考になる。
こうした結果を見る限り、インフルエンサーの役割は”購買の後押し”よりも、”商品との最初の接点づくり”へと変化しているのかもしれない。
経済環境の不透明感が消費を慎重姿勢に
こうしたZ世代の購買行動の変化の背景としては、近年の物価上昇や経済環境の不透明感も大きい。デロイトトーマツが昨年実施した調査では、Z世代が価格と実用性のバランスを見極める傾向が強まっていることがわかった。消費において、コスパや品質を重視する慎重な姿勢が広がっていると分析している。
世界的に進む「価値重視」へのシフト
この変化は日本に限ったものではない。市場調査の英ユーロモニターは、世界の美容・パーソナルケア市場のトレンドとして「価値の再定義」を挙げ、「ただ贅沢であれば良い時代は終わり、本質的な価値に目を向けた選択が求められている」と指摘している。また、美容商品を提供する企業側も、エビデンスに基づく効果や、健康効果を含めた美容効果の訴求を強めているといい、こうした、企業側と生活者側、双方の意識変化が、「バズ」よりも「効果」「納得」を重視する流れを後押ししているのかもしれない。
「バズ」+「価値訴求」のコミュニケーションを
「SNSでバズったから買う」「話題だから買う」から、「SNSやバズから認知し、自分自身で見極めてから買う」ーー。各調査からは、そんな消費行動の変化が見えてくる。女性たちはバズに無関心になったのではなく、バズとの付き合い方を変えた、と捉える方が適切かもしれない。
ここまで、Z世代の”バズ離れ”に見る購買行動プロセスの変化の理由として、インフルエンサー広告への警戒感やリアルな口コミの重視、物価上昇による消費の慎重化などを見てきたが、総じて、彼女たちがSNSを通じて大量の情報に触れる中で、商品を自ら比較・検討し納得して選ぼうとする姿勢が強まっていることがうかがえる。
ユーロモニターも指摘する通り、美容市場における「価値重視」の傾向は、世界的に強まっている。話題性やブランドイメージだけではなく、効果や成分、科学的根拠への関心も女性たちの間で高まっており、企業側には、より丁寧な価値訴求が求められている。物価上昇が続く中、この傾向は当面続く可能性が高い。他者の評価軸よりも自分の評価軸を重視しようとする近年の価値観の変化も、この流れを後押しするだろう。
今後の美容市場では、どれだけバズを生み出せるかだけではなく、商品価値をいかに納得してもらえるかが競争力を左右しそうだ。
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