話題作の「母親になって後悔してる」に女性が共感、話題沸騰のワケ
『母親になって後悔してる(オルナ・ドーナト)』という衝撃的なタイトルの本が大きな反響を呼んでいる。母親になったことを後悔している23人の女性にインタビューし、社会が女性に背負わせている重荷を明らかにしたもので、昨年の3月に刊行後(新潮社)、SNSなどでたちまち話題に。NHKをはじめテレビ番組や雑誌などで特集が組まれ、ネット上には「子がいらないのではない。母親になりたくない」「時間を10年前に巻き戻せるなら、子どもは産まない」「子どもは愛している。でも母親でいることがしんどい」など母親たちの苦しい本音がズラリーー。
子どもを産まなかったことを後悔する話はよくあれど、産んだことを後悔した話が大っぴらに語られることがこれまで無かったからだろう。胸に納めてきた母親たちの本音が一気に噴出し、各国で話題を集めている。書籍の内容に共感する女性たちの声は実に鋭く切実だ。※本稿でまとめる生活者の声のうち一部は、ネット上に投稿された文章を文意が変わらない程度に編集しています。
目次
どんな本?
著者はイスラエルの社会学者で社会活動家のオルナ・ドーナト(Orna Donath)氏。2011年に、親になることを望まないユダヤ系イスラエルの男女を研究した『選択をする:イスラエルで子供がいないこと(Making a Choice: Being Childfree in Israel)』を発表。2冊目の本書は、2016年に刊行されると欧州を中心に大きな反響を巻き起こし、世界各国で翻訳された。日本では2022年3月に刊行された。
「母親になって後悔」、共感の声
同書のカスタマーレビューやネット上に上げられた声をリサーチしたところ、最も多い印象だったのが、今現在育児・子育てをしている母親による共感の声。次いで、子育てを終えた中高年の母親。他、子どもを産まないと決めた女性や、子どもを持つか持たないか迷っている女性の声も目立った。具体的には、どんな点に女性たちは共感しているのか?主な共感ポイントとして、次の5点に分類できた。
- 後悔しているのは自分だけではないこと
- 「子どもがかわいいこと」と「後悔」は別ものであること
- 後悔しやすいのは父親より母親であること
- 女性や母親に対する社会通念にそもそも問題があること
- 母親になる前に、母親になる意味を考える機会がないこと
(1)後悔しているのは自分だけではない
- 母親になって後悔しているなんて誰にも絶対に言えなかったし、言ってはいけないと思っていた。でも、自分以外にもそう思っている女性がいることを知っただけでも心が軽くなった
- 登場人物の女性たちに共感する。母親だって一人間でいろんな感情があって当たり前
- 誰もが親になることを未経験のまま母親になる。産んでみて初めてわかることは多いのだから、産んだことを後悔する人がいるのだって当たり前のこと
- 「母親になったことを後悔」と弱音を吐くだけで、母親として、あるいは人間としておかしい、と批判されるのはおかしい
- 出産・育児・子育ては途中でやめられない。産んでみたけど違和感があるから放棄したいと思っても、絶対に言えない。そのプレッシャーが永遠に続くことが苦しい
- 子どもを産んだことを後悔することは、母親失格どころか人間失格だと思っていて、ずっと苦しかった
- 周囲の母親は皆ちゃんとしているように見えて、すごいなと思っていた。でも本音や実情は違う。後悔している人もいるとわかって安堵した
- 自ら望んで出産したものの、こんなにも自分の人生が変わるとは思わなかった。子育ては本当に大変でつらい
- 私も後悔している。子どもは障害を抱えている。妊活してようやく授かったけど、今は子を手放したい
- こんなに子どもを育てることが大変なのだとわかっていたら、産まなかった
- 離婚して子どもを夫に渡して一人になりたい。親権もいらない
(2)「子どもがかわいいこと」と「後悔」は別もの
- 「母親になって後悔している」=「こどもが嫌い」なわけではない
- 子どもはかわいいけど、母親という役割がしんどい。この矛盾に苦しくなる
- 子どもがいらないのではない。母親になりたくない
- 子どもはかわいいけど、時間を巻き戻せるなら結婚も出産も絶対にしない
(3)後悔しやすいのは父親より母親
- 私は親になったら人生が激変したが、夫は親になっても激変していない
- 社会は母親を人格者のように人としての正しさや完璧さを過大に求める。私は、母親である前にいろんな感情を持つ個人だ。一方で社会は父親に多くは求めない
- 夫は結婚しても子どもが生まれても順調に昇進している。私のキャリアは子どもを産んだ時に止まったまま
- 母親になって失ったものが多い(仕事、夢、自分の時間、自分に使えるお金、休日、睡眠、趣味の時間など)。母親になるということは、自分の人生を犠牲にするということ
- 母親になった途端、社会は一気に母親にいろんなことを押し付けてくる。それがつらい
(4)おかしいのは母親ではなく、社会通念
- そもそも「結婚すれば幸せになる」「子どもを産めば幸せになる」「子どもを産むのが当たり前」という社会通念がおかしい
- 女性の人生の選択肢は、子どもを産むことだけではない。「女性は子どもを産んで母親になる」という社会通念や「女性というものは母親になりたいものだ」というステレオタイプ的な社会の期待はある種の洗脳だ
- 母親というのは何があっても我慢しなければならない存在なの?
- 母親は絶対的に自分を犠牲にして子どもを愛さなくてはいけないのか?自分にはそれができない。母親失格だ
- 少子化の今、子どもを産まないことや母親になったことを後悔する事は言いづらいが、多様性を尊重する社会を目指すなら、本来は、そういう女性たちの選択や感情も尊重すべき
(5)母親になる前に、母親になる意味を考える機会がない
- 親になると女性は人生がどれだけ変わるのか?日常生活がどう変わるのか?ここまでじっくり考えてから結婚・出産した女性は、一体どれだけいるのだろうか?
- 子どもを持っている人、皆が皆、母親になりたいと心から願っていたわけではないのでは?社会、親、周囲の友人による圧力でなんとなく結婚・出産を決めただけの母親も多いのでは?
- 子どもを持つとはどういうことなのか?を学ぶ機会が人生の中で無いことが問題。最近は性教育の重要性が叫ばれているが、それと同じくらい、あるいはそれ以上に大切なことだと思う
- 社会は「女性は子どもを産む」ことを前提に、少子化対策や女性を支援する制度を充実させようとしているため、あたかも出産は女性にとって義務のように感じてしまう。産まないことに劣等感すら感じてしまう。だが本来は、産む・産まないの選択肢がある。それを女性たちは知るべきだし、女性自身も社会も、産まない選択をした人たちを受容できる社会になってほしい
- 私はまだ結婚も出産もしてない。その前に、「母親にならない選択肢」というものについてももう少し知ってみたい
- 母親自身が母親でいることに満足できないと、下の世代も母親になりたいとは思えないのでは
最後に、特に印象深かった声を引用紹介したい。同書へのカスタマーレビューで、アマゾンユーザーから「役に立った」の評価が特に多かった3名。ひとり目とふたり目は女性、3人目は男性(引用:アマゾン「母親になって後悔してる」カスタマーレビュー)。
●タブー視されている「母親になったことへの後悔」
Twitterで見かけ、さっそく読みました。子どもを産んで3年になりますが、母親になったことへの後悔を感じなかった日はありません。でもそれを表明するときは必ず「育児が大変」という苦労話に変化させてきました。「後悔」という言葉を使った場合のバッシングが怖かったからです。でも、実際は、自分の人生全て子どものために犠牲にしなくてはならない「母親」という役割にうんざりしています。そんな社会的にタブー視される母親の感情をさまざまな女性へのインタビューを通して考察されており、自分の感情が解放されるのを感じましたし、息苦しさが少しマシになりました。この本の中でも書かれていますが「母親になってしまったことへの後悔」と「子どもを愛している」という相反する感情は、母親というひとりの人間の中に同居できます。(私もそう感じます。)母親になって後悔しているということは、子どものことが大嫌い(憎い)ということとイコールではないのです。「母親」という「役割」が嫌なのです。もっと言えば、社会が当然のように理想像として押しつけてくる「母親」の役割が。常に全神経を子どもに集中して、自分の人生は傍に捨て置かねばならない「母親」の役割が。母親になることが当然とされるモデルは見直され始めています。母親になって後悔している人、母親になるべきか悩んでいる人、さまざまな人生の選択肢を考慮する上で役立てたい人に読んでほしいです。できれば男性にも。母親とは人間です。感情があります。「後悔」という感情も当然持ち合わせています。
● 迷っている人にとって必読の書
女性は出産できる年齢に制限があります。パートナーと出会うタイミングによっては、母になる選択は、非常に限られた時間での判断となります。その中で自分自身の答えを出す必要があり、それがその後の人生を大きく変化させます。揺れ動く心の中で、親類からのプレッシャーや心無い言葉もあります。仮に無事に子供が生まれたとしても待機児童や小1の壁など先を考えただけで、母親は鉄人にならないといけないのかと胸が苦しくなります。同世代の友達にでさえ、本音を言えない状態です。この本に書いてあることは、誰にも聞けなかったことで、とても参考になります。この本を書いてくれた著者、翻訳してくれた訳者に感謝します。
●善悪二項対立で割り切れない、複雑な問題を提起した、答えに詰まるノンフィクション
出生率の高いイスラエルで子供を持って後悔している人に心情を聞いたノンフィクション。女性の場合、結婚して子供を持つ事が最大の喜びという大雑把なイメージがありますが、それとは逆にあまり子供を持ちたくなかった、親になりたくなかったという人もいるという事実が判り、大変勉強になりました。更にそういう風な心情を吐露するだけで、考え方が間違っている、人間としておかしい、と批判されるので、精神的な逃げ場がなくなっている現代の女性の気持ちが伝わってきて、衝撃的でもありました。それと、子供が嫌いな訳ではなく親になりたくなかったという複雑な心理もある事が状況を更に複雑にしているのも興味深かかったです。社会の為に人口を増やす役割を押し付けられたり、強制される事が人に依っては精神的な重圧になるという事実には、今後の社会の機構(税金、年金等)の制度の改革もせざるを得ない重要な問題を孕んでいる様にも思えました。日本でも、過去にあるお母さんがパチンコに熱中している間に子供が車で熱中症でなくなったり、遊びたくなって子供が邪魔になったという理由で殺した人がいるのを思い出しましたが、親になると自分のやりたい事を犠牲にして子供に集中しないといけない様で、上記の様な人にもこのノンフィクションで心情を打ち明けている人みたいな部分があったのかと思い、あまり単純に批判できない要素も含まれているという風に思ってしまいました(許される行為ではないですが)。それとは別に、例えば私の親がここに登場する様な考え方だったら、私が生まれずこのノンフィクションも読まなかった可能性もある訳で、そういう事も含めると子供を持ちたくない、親になりたくない、という感情が善悪二項対立で割り切れない複雑な問題だという事、このレビュー欄に書き込むだけで解決できない難問だという事も判り、私も何も言えないで絶句してしまう問題だと感じました(私の場合、あまり生まれてきたくなかった気持ちもありますが)。という訳で、結論のでない物凄い問題を孕んだ問題提起の書として衝撃的な内容のノンフィクションでした。必読。
企業CMの母親の描き方、それでいい?
大手の質問サイトなどでは、以前から「子どもを産んだが愛せない」「欲しくて産んだが、手放したい」といった、子どもを産んだことを悔やむ発言を含んだスレッドは定期的に立てられていた。だがこういった類の話題は、それこそ、生理や更年期などとは比にならないほどにタブー視されているため激しい批判にさらされることも多く、建設的な議論に至らないケースも。スレッドを立てる本人も、「あなたは母親としても人間としてもおかしい」というレッテルを貼られることを恐れたり子どもに対する罪悪感からか、相談は恐る恐るといった感じだ。テレビドラマや報道でも、多くの場合、子どもを愛せない女性や子どもを持ったことを悔やむ女性は「悪」として描かれるため、余計に本音を漏らしづらい。
だが同書はバッシングを恐れることなく、「後悔している」という絶対的タブーな表現でストレートに問題提起。母親たちの苦しい本音をつまびらかにしたことで、世界規模での共感を呼んだ。著者はNHKの取材で次のように述べている。
私の研究について、そんな母親はいないと言われ続けてきました。後悔を語ることが人々の激しい感情を喚起するのは社会の基盤が揺るがされかねないからです。母親に後悔を口にさせないことで、私たちは『愛』や『母性』に頼りきって、母親だけに重荷を背負わせています。(中略)母は人間を越えた女神のような存在ではありません。「母性」をもっと人間らしいものにしていく必要があると思います。(引用:NHK「”言葉にしてはいけない思い?” 語り始めた母親たち」)
企業CMやテレビドラマなどでは、母親というものは「常に強く優しく、何があっても子どもを守り愛し抜く」といった画一的な理想像で描かれがちだが、そういった見方を改めるべき時が来た。あなたの会社では、母親をどんなキャラクターに設定している?
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