コモディティ化した商品の戦略とは? 海外の生理用タンポンに学ぶ差別化術
市場が飽和している今の時代、特に後発商品の場合は“差別化づくり”はかなり悩まされるところ。そのヒントを探すなら、発想豊かな海外商品に目を向けるのがおすすめ。今回は、女性ヘルスケア商品で完全に飽和している商品の代表例「タンポン」を例に、差別化する視点の持ち方を学んでみよう。
目次
差別化術①:新しい“役割”を付加
まずは、タンポン本来の役割である「経血吸収」とは全く異なる“役割”を製品に付加した事例から。膣内に挿入するというタンポン特有の製品形態を活かした発想だ。
CBD含有タンポンを開発
英国のフェムテック企業「Daye」が開発したのは、今世界的に関心が高まっているCBDを含ませたタンポン。生理痛の軽減を目的にしており、鎮痛剤の代用にもできる新発想のタンポンだ。CBDはリラックス、不眠、鎮痛、不安・ストレスの解消といった健康効果が知られており、膣粘膜はCBDを塗布するのに理想的な場所であることに着目し、安全で効果的に膣壁に塗布できる方法を研究。タンポンの外側にCBDをコーティングする技術開発に成功した。コーティングしたCBDはタンポン自体に吸収されることはなく、継続的に膣壁に投与されるという。経血を吸収しながら生理痛も軽減、一石二鳥のタンポンだ。
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見過ごされてきた女性ニーズも反映
これは、膣に挿入するというタンポンならではの製品形態だからこそ実現できた技術。本来の主目的(経血吸収)とは全く異なる視点で新しい役割を持たせた点が、参考になる。
また、生理に関する女性たちの健康不安やニーズを拾い上げた点も、特筆できる。女性の中には毎月寝込むほどつらい生理痛であっても、鎮痛剤の継続服用への抵抗から飲まずに我慢している人が一定数いる。そんな女性たちに向けて新しい生理痛対策の提案ができるのは、大きな強み。もともとのタンポンユーザーを引き込むだけでなく、鎮痛剤を避けている層も多いに取り込むだろう。
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差別化術②:斬新なパッケージデザイン
次は、タンポンそのものではなく、タンポンのパッケージデザインに新発想を取り入れて、これまでのイメージを刷新した事例を見てみよう。タンポン業界に新しい風を吹き込み女性たちの心を掴んでいる。デザインはやっぱり大事。
インテリアとしても欲しくなるデザインを採用
韓国出身の女性3人が米国で設立したRaelは、生理ケアやスキンケア商品を開発するスタートアップで、現在19カ国で販売している。腹部や腰に貼り付ける生理痛軽減用カイロや、月経カップ、布ナプキンなど、女性特有の健康悩みに特化し、かつ化学物質を使わないなど、オーガニックや環境配慮にもこだわっている。
同社はオーガニックのタンポンも開発したのだが、注目したいのは、タンポンそのものではなくパッケージデザイン。「棚の外に置いてもカウンターに置いても恥ずかしくない物にしたい」との思いから、このアイスクリーム型のデザインにたどり着いたという。見ての通り、さすがは韓国女性の感性。色合いも形も見事に女性好みの世界観だ。実際に多くの女性が高く評価しており、同社が運営するインスタグラムの中でも、このパッケージが登場する投稿はとりわけ多くの「いいね」を獲得している。
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憂鬱な期間をワクワクに、女性視点の開発だからこそ
従来のタンポンと言えば、四角い箱に詰められているのが一般的。メーカー側は、まさか箱がインテリアとして使われるなんてことは想定しておらず、開封後はすぐさま捨てられることを前提に設計している。重視することと言えば、ユーザー層に合わせたイラストのテイストと、特徴などの商品情報を目一杯記載することくらいだろう。
だがRaelは「女性が自宅に飾りたくなる」をパッケージデザインのコンセプトに掲げ、さらには、パッケージの役割を「商品を詰める」「商品情報を記載する」から「インテリア」へ再定義。生理の憂鬱な期間に、デザインの力でちょっとしたワクワク感を女性たちに提供しているのは、女性開発者ならではの視点だ。
差別化術③:環境配慮を起点
SDGsの流れから、タンポン業界でも環境配慮を起点にしたものが世界的に増えている。ここでは、従来は都度使い捨てされてきたアプリケーターそのものを見直した事例と、アプリケーターをタンポンから無くした事例を紹介。
捨てさせないアプリケーターを開発
英国のDAMEは、アプリケーターを繰り返し使えるサステナブルなタンポンを開発した。通常タンポンは、アプリケーターと呼ばれるプラスチック製の筒の中に詰められていて、膣に挿入した後は廃棄される。1人の女性が生涯に使用するタンポンは1万個を超えるという試算もあり、それだけのプラスチックが一人の女性から廃棄されていることになる。同社はこの環境負荷の問題に着目し、「使用後に捨てさせないアプリケーター」を開発した。次の手順で繰り返し使える。
- 1.アプリケーターの蓋を外す
- 2.アプリケーターの中にタンポンを詰める
- 3.アプリケーターを膣に挿入し、引き抜く
- 4.経血が付着したアプリケーターを洗い、水分を拭き取って保管
- 5.タンポンを交換するときは、また1〜4を繰り返す
動画による説明はこちら。
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ちょっと手間ではあるものの、この商品の存在を知ると、アプリケーターを繰り返し使えることに気がつき、都度捨てることに疑問を感じたり罪悪感を覚える女性は多いだろう。「一回きりでアプリケーターを捨てるのは、確かにもったいない」そんな気持ちにさせられる。
従来の当たり前であった”都度捨てる”という行動を見直して繰り返し使える形態に変えたのは、今時らしい実にエコな発想。
アプリケーターそのものが“無い”
アプリケーターそのものが無いタンポンもある。よく知られている一般的なタンポンは一つ一つのタンポンが予めアプリケーターに収められているが、非アプリケーター型の場合は、裸の状態でタンポンが個包装されている。いわゆる”フィンガータンポン”として日本では売られているが、国内ではかなりマイナーな存在。店頭で見つけるのは難しい。一方タンポンユーザーが多い欧米では、非アプリケーター型がすでにメジャーな国もあり、例えば、エコ先進国のドイツでは店頭に数多く並べられている。
国内の事例になるが、ユニ・チャームはフィンガータンポンの「エルディ」を販売している。もちろんアプリケーターは付いておらず、代わりに、挿入する際に使用する指サックが同梱されている。慣れるまではスムーズに奥まで挿入できず手を汚してしまうこともあり、また、指サックを出先に持ち運ぶときに衛生面が気になるといった難点もあるが、アプリケーターが無い分、場所は取らずコスパも良し。環境配慮レベルも高い。
受容性は事前に確認を
日本のタンポンユーザーは2割程度で圧倒的に多いのはナプキン派なので、アプリケーターの有無や繰り返し使えるタイプのタンポン需要は国内では小さい。こういった受容性は事前に考慮する必要があるが、従来のタンポンを環境配慮の視点から作り変えた点は、2商品とも参考になる。
差別化術④:安心・安全ニーズに応える
最後に紹介するのは、オーガニックタンポン。国内でも生理用ナプキンや布ナプキンなど、オーガニックの生理用商品は珍しくなくなってきたが、オーガニック市場が日本よりも大きい欧米では、商品数もユーザーも多い。
そんな欧米で近年相次いで報道されたのが、黄色ブドウ球菌が産生するTSS(トキシックショック症候群)の発症により、両脚切断や死亡に至ったという複数のニュース。非常に稀な疾患だが、TSSはタンポンの長時間使用や不衛生な手指でタンポンを触るといった衛生面が原因になることもあることから、タンポンユーザーであれば誰でも起こり得る。
このニュースは女性たちに大きな衝撃を与え、タンポンに対し安全性を求める声が世界的に強まった。「粘膜に長時間触れ続けるものだからこそ、化学物質が使われていないタンポンを使いたい」。こういった女性たちの気持ちを汲み、最近の生理ケア系スタートアップは、こぞってオーガニックなタンポン開発に着手し、膣に直接入れるものは安心・安全であるべきことを主張している。各社のHPを見ても、トキシックショック症候群を防ぐためにオーガニックにこだわっている点を大々的に明記している。SDGsの今、もはや「オーガニックであること」は、後発商品としての必須条件となっている印象だ。
オーガニックタンポンは海外ではかなり充実しているので、特筆できるおすすめブランドの特定が難しいが、18ブランドを一気にチェックできる記事があるので、確認したい方はぜひこちらへ(世界80カ国で読まれている米国のトレンド誌「コスモポリタン」に掲載の記事,The 18 Best Organic Tampon Brands, Because Your Vagina Deserves It)。
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差別化術は最先端のデジタルだけでは無い
フェムテックなどのxテックブームもあって、飽和時代の差別化戦略というと、最先端のデジタルテクノロジーの搭載ばかりに目が行きがちだが、そうなると、投資コストも大きくなる上に返って発想の幅が狭くなるリスクもある。
本項で見てきたように、デジタル以外の戦略でも十分に有効な差別化づくりはできる。「商品に新しい役割を付加する」「新発想のパッケージデザイン」「環境配慮型へのシフト」「安心・安全性の追求」。この視点で今手元にある商品(あるいは企画開発中の商品)を見返すと、差別化ポイントがあっという間にひらめくかもしれない。本稿で見てきた各事例を応用してみてはいかが?
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