業界が熱視線、トイレは商機がいっぱい!屋内・屋外トイレの最新動向
健康ニーズの高まり、ダイバーシティ、生理の貧困、女性の健康問題、ウェルビーイングブームなどを背景に、今、熱視線が寄せられているのが、トイレ。個室空間の特性を活かしたマーケティングや、トイレットペーパー同様に生理用品も無料利用できる社会の構築、公共トイレの利用を快適にするサービスなど、トイレ界隈が突如この1年ほどで賑わい始めている。トイレの存在価値は、どう再定義されている?最新事例を集めた。
目次
個室トイレの空間を活用
屋内も屋外も、個室トイレはブルーオーシャン。誰もが毎日一定時間滞在する空間であるにも関わらず企業のマーケティングが入り込んでいないため、タッチポイントとして抜群の場所だ。そこに目をつけたビジネス事例が増えている。背景にあるのは、女性の健康問題が昨年より急速にクローズアップされるようになったこと。ここで紹介する2事例を見て、新たなマーケティング戦略を思いつく人も多いのでは。今後、トイレ空間を活用したマーケティングが増えそうだ。
商業施設の個室トイレで、啓発番組を放映(バカン&ウーマンズ)
まずは、女性個室トイレ内のデジタルサイネージで放映される女性向けの健康番組「ウェルビーイングチャンネル」からご紹介。
女性特有の健康問題を啓発する健康番組で、商業施設やオフィスビルの女性個室トイレに設置されたデジタルサイネージを通じて放映される。制作・配信を手がけるのは、AIとIoTを活用して様々な場所の空き状況を検知・可視化するスタートアップのバカン(東京・千代田)と、当社ウーマンズ。今月リリースした。
個室トイレの中は文字や音といった情報量が圧倒的に少ないため、ユーザーの視覚を容易に奪える。便座に座っている間はデジタルサイネージに自然と目が向く上に、流れてくる情報に意識が集中しやすい。この特性を活かし、番組内容は女性特有の健康問題の啓発に特化。女性のヘルスリテラシー向上を目指す。
マネタイズは番組途中に入るCM枠の販売。OOH広告、TVCM、雑誌広告などと違い情報量が少ない場所で広告できるとあって、CMを流したいという企業からの問い合わせは多い。競争がまだ激化していない個室トイレの空間に、いち早く新ビジネスを持ち込んだ事例だ。
なお、当番組が放映される場所は順次拡大しており、現在は恵比寿ガーデンプレイス(東京・渋谷)、大丸百貨店 京都店(京都市)、札幌パルコ(北海道・札幌)などの女性個室トイレ全1,200個室。
トイレットペーパーで性教育(ソウレッジ)
一方、自宅のトイレは、新たな教育の場として活用されている。例えば、性教育ブームの立役者として知られる(一社)ソウレッジが開発した、性や性暴力について学べる性教育トイレットペーパー。
ユネスコの国際セクシュアリティ教育ガイダンスや医師などの監修に基づいた内容を、子どもが理解しやすいイラストでトイレットペーパーに印刷した。テーマ別に開発し、「からだの仕組み」「性的同意」「性暴力」「セクシャリティ」の全4種を販売。
前述の「ウェルビーイングチャンネル」同様に、あえて密閉されたプライベート空間に目をつけ、個室トイレを”教育の場”と定義したのがミソ。商品開発を手がけたソウレッジの鶴田七瀬さんはVOGUEのインタビューで、性教育の場としてトイレを選んだ理由、そして教育ツールにトイレットペーパーを選んだ理由を次のように語っている。
留学した際に得た「日常に性教育がある」視点にヒントを得ました。社会にタブー感が漂う中で、どうすれば「日常に性教育がある」状態をつくることができるかと考えたとき、そもそも日本の子どもたちの多くが「性に関することを学ぼうとしていることを、人に知られたくない」と感じているために、情報にアクセスしづらくなっていると気がついたんです。ですから、その恥ずかしさを和らげるために、誰にも見られず、かつ日常的に使えるものとして、トイレットペーパーに辿り着きました。(引用:VOGUE,2021.10.11)
トイレのハイテク化、排泄物で健康チェック
トイレそのもののハイテク化も進んでいる。ここで取り上げるTOTOと京セラの事例はどちらも、トイレを普段通り利用するだけであらゆる健康状態を分析できる。まだコンセプト段階ではあるが、実現すれば、こんなに楽な健康管理法はない。あらゆる家庭や施設で積極的に使われるようになるだろう。なお2社が分析対象としているのは “排泄物” と “便のにおい” だが、やがては、経血から女性の健康状態を予測する機能も生まれるかもしれない。
最先端のセンシング技術を搭載、ウェルネストイレ(TOTO)
TOTOが昨年の「CES2021(米国で開催される世界最大の技術見本市)」でコンセプトを発表したウェルネストイレは、最新のテクノロジーを詰め込んだ超次世代型トイレ。
最先端のセンシング技術を用い排泄物から健康状態を把握・分析し、ウェルネスに関するリコメンドをユーザーのスマートアプリに届けるというもの。
健康状態を把握するためにわざわざ医療機関に出向く必要はなく、また、特別な健康機器を体に装着したり操作する必要も一切ない。排泄をするだけで健康状態を把握できるというのだから、面倒ゴトは皆無。健康意識が低い人や健康行動がなかなか起きない人も、健康状態を常に把握できる。
まだこのウェルネストイレは開発中。実現に向け現在はスタートアップ企業や研究機関とともに開発を進めているとのこと。
便のにおいで健康状態を把握(京セラ)
京セラでも次世代型のハイテクトイレの開発が進んでいる。「お腹の中の花畑」と呼ばれている腸内フローラの状態を便のにおいからAI予測するというシステムで、それを元に生活習慣改善を提案する。およそ次のようなイメージだ。
- 個人認証
トイレに入ると、指紋認証などによって誰が使用しているのかを判定 - 計測
便器に設置されたデバイスが、便のにおいを計測 - 推定
AIを活用し、便のにおいからガス組成を推定 - クラウド分析
ガス組成データはクラウドに送信され、それに対応した腸内フローラの情報が抽出される - アプリ表示
腸内フローラの情報に基づき、スマホアプリに、「栄養状態」「太りやすさ」「免疫力」「ストレス負荷」などが表示され、目標値が設定される - フィードバック
アプリを通してユーザーに適した食事、運動、睡眠などのアドバイスを提案。より良い生活習慣が身につくよう継続サポートする - パーソナライズ
一人一人の要望、目的にあったモード選択や、それぞれの目的と個人差を考慮した提案も可能
こちらもまだ開発段階。実現すればTOTOと同様に、特別な健康行動を意識せずに自分や家族の健康状態を把握できるようになる。データは自動的にクラウド保存されるので、体に何か気になることが起きた時は、すぐに過去に遡り変化を確認することもできる。同社に聞いたところ上市はまだ先とのこと。詳細はこちら。
サステナ性ある生理用品の入手
社会問題化した”生理の貧困”で、昨年から今年にかけ全国各地で生理用品を無料配布する取り組みが増えている。特に自治体、学校、商業施設での取り組みが多いが、本稿では新しい事例を紹介。これまでの「一方的に無料で配布する」というスタイルから進化し、サステナ性ある形を実現している。
大手コンビニ初、生理用品のクラウドシェルフ(ファミマ)
ファミリーマートは今月より東京家政大学店(東京・板橋)の店舗トイレ内に、誰もが無料で生理用品を利用できる「つながるナプキンBOX(以下画像右側)」を設置した。新しいのは、これとは別に、来店客が自由に生理用品の寄付ができる専用ボックス「つながるナプキンPOST(画像左側)」も設置した点(寄付された生理用品は検品の上、補充する)。
このように、アイテムを自由に寄付・利用できる助け合いの仕組みはクラウドシェルフと呼ばれ、生理用品のクラウドシェルフを店内に設置するのは、大手コンビニでは同社が初。昨年より各地で広がった無料配布というスタイルは、提供可能数に上限があることからサステナ性に欠ける側面が指摘されていたが、誰もが寄付できるクラウドシェルフであれば上限がないため、無理のない継続ができそうだ。
同社は生理の貧困が社会問題化した昨年に「生理用品各種2%引き」を実施しており、生理にまつわる課題に積極的な姿勢を見せている。今年はさらに進化した取り組みをしようと、クラウドシェルフを企画したという。
「価格面でのサポートに加えて、さらにサステナブルでファミリーマートならではのやり方をもっとできないかと考え、いつでも立ち寄れる環境であるからこそ、困ったときに頼れる心強い場所になることができればという思いから、今回の「つながるナプキンBOX」を企画しました(企画担当者)
オフィストイレに生理用品を常設(サッカロン)
オフィス向けに特化した生理用品の福利厚生サービスも登場。オフィスの女性トイレの洗面台や収納スペースに、生理用品のディスペンサーを設置。女性ワーカーはナプキン2種(普通の日用、多い日用)と、タンポン2種(普通の日用、多い日用)の全4種から選択・入手できる。当サービス「サニパ」を提供するのは、生理用品のオフィス常設事業を手がけるサッカロン株式会社(東京・渋谷)。生理用品の配送・詰め替えなど、定期的なメンテナンスも行う。
同社が実施した調査によると(以下)、女性ワーカーには「オフィスならではの生理悩み」「所属している業種・職種ならではの生理悩み」があることが明らかになっており、サニパはこういった女性ワーカーのニーズに応える。興味深いのは、業種・職種による生理悩みの違いを明らかにした点。例えば情報サービスの仕事に就く女性は、「セキュリティがとても厳しく部屋の入室の際はその都度厳重に警備員にチェックされます。私物のポーチなど携帯できず、ナプキンはいつもポケットに忍ばせて持ち歩いているため、落ちないかと気になります」と、業種・職種特有の生理悩みをこぼしている。
Q.生理用品がオフィスに設置されると、どのような事が解決される?
・バッグがデスクにあるので、バッグからナプキンをポケットに入れるまたはナプキンを入れたポーチを取り出してトイレに向かうのが恥ずかしいです。
・忘れた時に誰か持っている人を探すことが無くなる。
・生理用品を売っている店まで少し歩くので、職場にあったら行く時間や、行くまで漏れないかなどの心配が無くなって良いと思います。
Q.生理用品がオフィスに設置される事について、所属する職種・業界ならではの嬉しいポイントは?
・セキュリティがとても厳しく部屋の入室の際はその都度厳重に警備員にチェックされます。私物のポーチなど携帯できず、ナプキンはいつもポケットに忍ばせて持ち歩いているため、落ちないかと気になります。そういったストレスから解放されるのが嬉しいです(情報サービス業)
・急患がきてバタバタしていてあわただしいときに生理用品をとりにロッカーに戻ったりせず時短になることが嬉しい(医療福祉業)
・建設会社で男性社員が多く生理に関して敏感になっています。ナプキンがなくて漏れてスカートについてしまって見られるという不安がなくなる(建設・土木・工業)
・店舗での接客業のため、人目を気にしてしまうので持ち運ばなくていいことに魅力を感じました。仕事中にポーチを持ち歩く訳にいかず、わざわざ控室に取りに行かなくても済みます(宿泊業飲食サービス業)
外出中のトイレを快適に
「公共トイレは臭い・汚い・怖い」、「外出中のトイレ探しに苦労する」といった、屋外トイレの利用に関する不満を起点に生まれたプロジェクトやサービスも。2つの事例を見てみよう。
佐藤可士和らが手がける、一度は行ってみたい公共トイレ(日本財団)
東京渋谷区に美しい公共トイレが次々に誕生している。日本財団が実施しているプロジェクト THE TOKYO TOILETで、世界的建築家の安藤忠雄氏、ユニクロや楽天のロゴを代表作とするクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏など、名だたるクリエイターらがデザインを手掛ける。
プロジェクトが目指しているのは、渋谷区内17カ所のトイレを、性別、年齢、障害を問わず誰もが快適に利用できる公共トイレに生まれ変わらせ、多様性を受け入れる社会を実現すること(2022年中に17カ所の設置を完了予定)。これを実現するにあたり「クリエィティブなデザインの力に頼ろう」ということになったわけだが、プロジェクトで誕生したトイレは、単純にデザインセンスが良いだけではない。
例えば七号通り公園トイレ(以下写真)。利用者が公共トイレの利用時に感じる「レバーやドアノブを触りたくない」というネガティブ感情に着目し、ドアの開閉や水を流すといったトイレにおけるあらゆる行動を人の声で行うボイスコマンド式トイレへと変貌させ、公共トイレにおける公衆衛生のあり方を社会に向け問題提起した。
さらには、トイレ内でのヘルスケア機能もオン。音楽をリクエストすると、腸を活性化する音楽も流れるというから驚き。今や公共トイレでもヘルスケアができる時代だ。
以下は、プロジェクトの紹介動画。プロジェクト実施の背景や、出来上がったトイレの紹介、デザインを手がけた安藤忠雄氏のインタビューも収録。公共トイレの社会問題に焦点を当て、「立ち寄りたくない場所」から「一度は行ってみたい場所」へとリデザインした見事なプロジェクトだ。
地図アプリで外出中のトイレ探しをサポート
外出中の困り事の一つが、トイレ探し。土地勘がなかったり建物が少ない場所に出かけた時は、ことさらトイレ探しには一苦労。そんな「困った!」を解決するのが、公共トイレを検索できる地図アプリ「トイレ情報共有マップくん(合同会社ファービヨンド)」。今いる場所から近い公共トイレを地図上から探せるもので、テレビ番組「日曜日の初耳学(毎日放送,2022.3.13放送)」など、様々なメディアに取り上げられている、今注目の人気アプリだ。
すごいのはユーザーが求める条件に合致したトイレを検索できる点で、「男女別」「洋式・和式」「ウォシュレット」「パウダールーム」「おむつ交換設備」「多目的トイレ」「車椅子対応」「駐車場」などで絞り込み検索が可能。実に便利だ。ユーザー同士で評価するコメントも参考になる。
近い将来は、生理用品を入手できる公共トイレの絞りこみ検索もできるようになるかもしれない。
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