最近よく聞くトレンドワード「GSM」って何? ソリューション事例

フェムテックブームの好影響で、中高年女性向けのヘルスケアソリューションに商機を見出す企業が増えている。今年に入り政府も本格的に動き出し、女性の更年期障害が日常生活に与える影響に関する調査研究を2022年度から実施することを明らかにしたととともに、3月には「女性の生涯の健康に関する小委員会」の会合が行われ、更年期障害に対応するための企業支援策が、中間提言案に盛り込まれた。

更年期市場は大手が5年ほど前から関心を寄せていたものの、症状の複雑さや個人差が大きいことから足踏み状態、あるいは開発を見送るところが多く、ポテンシャルは大きいも急進的な市場成長は見られなかった。だがフェムテックブームで一変、スタートアップが更年期ソリューションの開発に次々に乗り出したのを契機に、社会的関心は急上昇。更年期市場はいよいよ本格的に拡大する見込みだ。

そしてもう一つ、フェムテックブームが更年期市場に与えた好影響が、「GSM」について話せる空気が醸成されたこと。更年期症状というとホットフラッシュ、肩こり・腰痛、ドライアイといった身体的症状やメンタル症状への着目が主だが、フェムテックの基本理念とも言える「女性特有の健康問題をタブー視しない」といった考えが後押しとなり、これまでクローズアップされてこなかったGSMの認知が広がるように。

実際にGSMに関する記事を女性誌やネットニュースなどで最近よく見かけるようになった、と感じる人は多いかもしれない。遡ってみると、フェムテック元年となった2020年あたりからメディアで度々取り上げられている(編集部調べ)。更年期市場あるいは中高年市場に乗り出すなら知っておきたいGSM。その実態をサクッと理解しながら、ソリューション事例を見ていこう。

GSMとは?

GSMとは女性ホルモン低下により起こる生殖泌尿器系における様々な症状を指す総称で、「閉経関連泌尿生殖器症候群(Genitourinary Syndrome of Menopause)」の頭字語。2014年に国際女性機能学会(ISSWSH:International Society for the Study of Women’s Sexual Health)と北米閉経学会(NAMS:North American Menopause Society)が提唱した。症状は大きく分けて以下の3つ。

  1. デリケートゾーン・膣トラブル(乾燥、かゆみ、灼熱感、痛み、膣のゆるみなど)
  2. 尿トラブル(尿漏れ、膀胱炎、頻尿、残尿感など)
  3. 性交トラブル(性交痛、性的意欲の低下、出血など)

GSMのうち、社会的認知があり、かつ流通が進んできたのは「尿トラブル」領域。「デリケートゾーン・膣トラブル」と「性交トラブル」は、いわゆるタブー視されてきた背景もあり、健康問題として広く認知されていない上にケア商品・サービスそのものが少ない。情報発信者であるメディアやヘルスケア企業が、女性の健康問題として積極的に関心を向けたり実態を明らかにしてこなかったことが要因として大きいだろう。

だがフェムテックブームを皮切りにGSMを取り上げるメディアが増え(※)、また、スタートアップを中心にデリケートゾーンの商品開発が活発化したことで、徐々に知られるようになってきた。「気軽に大きな声で話せるようになった」とまではいかないまでも、一昔前と比べたら、業界人やインフルエンサーを筆頭にSNSや職場でオープンに語る女性は随分と増えた。

(※)例えば中年女性を対象にした健康・美容雑誌「my age」の2022年春号(集英社)では、「閉経前後の子宮・卵巣・膣まわり」の特集の中で、人生100年時代に絡めた課題として「GSM」を取り上げ、症状やケアについて解説している。

 

GSMの実態調査

実際にはどれくらいの女性がGSMに悩んでいるのか?これまで注目されてこなかったこともあり、GSMの実態を明らかにした調査は少ないが、いくつか参考にできるものがあったので見ていこう。

外陰膣症状、1割(30〜70代)

小林製薬は昨年11月、GSMのうち膣・外陰部の症状に関する調査結果を公開した。日本性機能学会女性性機能委員会と共同でGSMの有病率を明らかにすることを目的に実施したもので、30〜79歳の女性5,167人を対象にVSQ(外陰膣症状質問票)を用いた調査で以下を明らかにした。

  • GSMのうち膣・外陰部の症状を有する割合は11.6%(海外と比較すると低い)
  • 年代が上がるにつれ、症状を有する人の割合は減少
  • 「性的活動がある群」は「性的活動がない群」と比較し、「外陰部の痛み」や「乾燥」の症状をもつ割合が高い
  • 「性的活動がある群」は、「通常時の痛み」「乾燥」ともに年代と関連があり、加齢に伴い症状を有する人の割合が増える

なお、膣・外陰部の症状を有する割合が海外と比べて低いのは、「海外では、性交渉がある割合が日本よりも高いことから、性交渉の少ない日本では、
症状を感じる割合が少ないことが考えらる」とのこと。また、「性交渉が少ないことでGSMの存在に気づくのが遅くなり、症状に気づいたときには
重症化している可能性が高い」という指摘もしている。

尿トラブル、3割(30〜80代)

GSMのうち尿トラブルについては、山田養蜂場(岡山・苫田)が詳細に実態を調査している(女性の健康に関する意識調査,2020年)。30〜80代女性の3,366人を対象に「尿トラブルの有無」「具体的な尿トラブルの内容」「尿トラブルによる日常生活での困りごと」「尿トラブルの対策方法」について聞いている。

■尿トラブルが有る、3割

尿トラブルの悩みの有無を聞いたところ、全体で26%が該当。更年期以降で徐々に増え、80代においては約半数近くに上った。

  • 30代(21%)
  • 40代(22%)
  • 50代(26%)
  • 60代(25%)
  • 70代(33%)
  • 80代(44%)

具体的な尿トラブルの内容、トップ9

具体的にはどのような尿トラブルで悩んでいるのか?女性全体のトップ9は以下。

  • 1位:何かを持ち上げるなど、力んだ拍子に尿が漏れることがある(48%)
  • 2位:日中、頻繁にトイレに行きたくなる(37%)
  • 3位:夜、寝ている間にトイレに起きる(31%)
  • 4位:急に、我慢できないくらいトイレに行きたくなる(30%)
  • 5位:トイレに間に合わずに、尿が漏れることがある(24%)
  • 6位:トイレの後、残尿感がある(14%)
  • 7位:何度も膀胱炎を繰り返している(10%)
  • 8位:尿が出にくく、だらだらと漏れてしまう(4%)
  • 9位:トイレの際、下腹部(膀胱や尿道)に痛みを感じることがある(4%)
  • その他(3%)

尿トラブルにより困っていること、TOP9

尿トラブルによって日常生活にどのような影響があるのか?困りごとを聞いたところ、全年代で最多は「トイレの場所を気にしなければならない」。続くランキングを見てもわかる通り、尿トラブルによる不安から行動面や心理面で制限がかかっていることがわかる。

  • 1位:外出の際、いつもトイレの場所を気にしなければならない(48%)
  • 2位:服や下着を汚してしまう(33%)
  • 3位:交通機関の移動が不安になる(29%)
  • 4位:夜、ぐっすり眠れない(27%)
  • 5位:臭いがしたらどうしようと、不安になる(25%)
  • 6位:映画やコンサートなど、長時間のイベントに行けない(12%)
  • 7位:散歩や運動を楽しめない(9%)
  • 8位:仕事や家事がはかどらない(6%)
  • その他(5%)

【出展】山田養蜂場

 

尿トラブルの対策方法、TOP10

続いて尿トラブルの対策方法を聞いた。圧倒的に多いのは「尿漏れパッドやおむつの使用」で、それ以外は「寝る前にトイレに行く」「運動」「水の摂取量を減らす」など。ケア商品のバリエーションが少ないことが改めて浮き彫りとなる結果に。

  • 1位:尿漏れパッドやおむつの使用(64%)
  • 2位:外出前、寝る前にトイレに行く、外出時にトイレの場所を確認するなど、事前の準備(50%)
  • 3位:筋力を維持、増強させるための運動(45%)
  • 4位:水分を摂る量の調節(18%)
  • 5位:通院・治療中(15%)
  • 6位:下半身のむくみを解消させるための冷え対策(マッサージや湯船につかるなど)(12%)
  • 7位:食事の改善(刺激物やカフェインを避ける。緑黄色野菜を多めに摂るなど)(7%)
  • 8位:医薬品・医薬部外品、漢方薬の使用(6%)
  • 9位:健康食品・サプリメントの使用(3%)
  • 10位:その他(4%)

【出展】山田養蜂場

 

性交痛、5〜6割(20〜50代)

最後に性交痛に関する調査結果を。更年期症状としての性交痛のみに焦点を当てた最近の調査が見当たらず少々古い情報にはなるのだが、参考にできるものをシェアしたい。1996年の厚生省心身障害研究報告書に掲載された研究報告生涯を通じた女性の健康づくりに関する研究,樋口恵子,更年期に関するアンケート調査(試験調査)内p.11によると、40〜60代女性が更年期に感じた身体症状として「性交痛」を挙げたのは18.6%で、特に50代で多いとのこと。

  • 1位:50代(24.8%)
  • 2位:40代(11.1%)
  • 3位:60代(10.9%)

上記以外でも、「40代前半で5割、40代後半〜50代前半で6割近くが性交痛を訴えている」という研究報告も。なかなか明るみに出ることのない実態だが、性交痛は中年期以降の女性に比較的多い身近な健康悩みと言えそうだ。

 

GSMのソリューション事例

続いてGSMの商品・サービス事例を見ていこう。現時点で特に開発・上市が進んでいるのは、尿トラブルのソリューションと、デリケートゾーンの乾燥・かゆみトラブルのソリューション。

尿吸収ショーツ

生理吸収ショーツの一大トレンドに続き、ついに尿吸収ショーツが登場。生理吸収ショーツで一躍知名度を上げたフェムテックブランド「Nagi(株式会社BLAST)」が今年3月に、尿漏れ対策を訴求した吸収ショーツ「ナギコンフィー」を発売した。アンモニア消臭効果のある生地を使用しており、吸収量は40ml(ティースプーン8杯分)

 

【出典】BLAST

 

生理吸収ショーツと言えば、日本のフェムテック市場でマネタイズに成功している最たる事例。スタートアップによるローンチに続き、昨年から今年にかけてGU、イオン、ベルメゾン(千趣会)などが続々と参入を果たし、ついには3コインズを運営するパルグループホールディングスも。あっという間にレッドオーオーシャンと化した。一方で尿吸収ショーツを上市した事例はまだ数えるほどしかなく、これから各社からの上市が相次ぎそうだ。

膀胱に溜まった尿を検知、ウェアラブルデバイス

尿漏れ対策というと、骨盤底筋トレーニングや尿パッドの使用といった非デジタルな方法が一般的だが、最先端のデジタルツールを活用した対策法もある。

膀胱内の尿のたまり具合を検知する「D Free」は、世界初の排泄予測デバイス。小型の超音波センサーを用いたIoTウェアラブルデバイスで、下腹部に装着することで膀胱の変化を捉え、排尿のタイミングをスマホアプリに知らせる。

 

【出典】トリプル・ダブリュー・ジャパン

【出典】トリプル・ダブリュー・ジャパン

 

医療機関・介護施設で要介護者の排泄介助の支援に使われているが、個人向けにも販売しており、「トイレが近く外出が不安な人」「おむつに頼りたくない人」「尿意を感じないなどの障害がある人」などが利用している。

使い捨て型、排尿検知センサー

使い捨て型のウェアラブルデバイスも登場。シール製品・工業用機能部品などの製造を手がけるNOK(東京・芝)は、グループ会社の日本メクトロンと共同で、使い捨て可能な排尿検知センサー「C-Letter」を開発した。

 

【出典】NOK

【出典】NOK

 

濡れても検知できるデバイスを不織布で挟み、おむつに貼り付けるという仕様で、介護施設で使用されている見守りシステムや記録システムと連携することで、使用者の排泄タイミングを自動的に記録できる。

これまで介護者の大きな負担になっていた、要介護者個々の排泄パターンを考慮した介護計画の作成負担を軽減するとともに、要介護者の自立支援にもつなげることで、高齢者や要介護者のQOL向上を目指す。

医療機関で治療、モナリザタッチ

医療機関でGSMを治療するという選択肢もある。女性ホルモンの減少による腟萎縮をレーザーにより再生させる膣レーザー療法で、例えば「モナリザタッチ(伊/デカ・エムイーエルエイ・エスアールエル)」。レディースクリニックで導入されている治療機器で、顔のリフトアップに使われるフラクショナル炭酸ガスレーザーの技術を膣壁に応用したもの。治療により膣がふっくらとした厚みと潤いを取り戻し、その結果、腟萎縮による不快な症状が軽減する。

同社によると、1回の治療による膣の不快症状の改善率は平均50%。治療を重ねることで膣の灼熱感、かゆみ、乾燥、性交痛、ゆるみ、いずれも優位に改善したと報告している。

医療機関で治療、ウロギネ科

あまり知られていないが、GSMの広がりと並行して最近注目されているのが「ウロギネ外来」。「ウロギネ」の言葉の由来は英語の「Urogynecology(ウロギネコロジー)」。ウロ(Urology泌尿器科)とギネ(Gynecology 婦人科)を組み合わせた造語で、泌尿器科と産婦人科の境界領域にある病気を治療する診療科のこと。

対象としているのはGSMに該当する症状全般。医療機関によるが概ね、骨盤臓器脱(子宮脱、膀胱脱、直腸瘤など)、尿トラブル(尿失禁、頻尿、夜間頻尿)、排便トラブル(便失禁、直腸脱など)、デリケートゾーンのトラブルに対応する。要は女性の尿・膣全般を診てくれるところだ。GSMの症状は産婦人科と泌尿器科のどちらにもあてはまるため、患者はどちらの診療科に行けば良いのか判断ができないが、ウロギネ科なら「産婦人科」と「泌尿器科」それぞれの範疇を区別することなく診てくれるので、”病院ジプシー”に陥らずに済む。

ウロギネの訴求でGSMの治療に力を入れているのは、亀田総合病院。「ウロギネ・女性排尿機能センター」を2007年に開設し、女性のデリケートゾーンの専門治療を行ってきた。日本屈指の症例数を誇り、最新の治療や多様な治療の選択肢を提供している。

ウロギネ科は産婦人科と比べると聞き慣れず身近な存在ではないが、GSMの認知拡大に伴い、受診者は今後増えそうだ。

乾燥や性交痛の軽減アイテム

外陰部の乾燥・かゆみをケアする保湿アイテムも、フェムテックブームにより数多く登場。いわゆる「デリケートゾーンケア」に用いられるアイテムで、生理吸収ショーツ同様に、今、市場が急成長しているカテゴリーだ。デリケートゾーンケアほどではないが、性交痛を軽減するアイテムも注目カテゴリー。両者を牽引するのはスタートアップや中企業で、例えば、医薬部外品・医療機器などの製造販売を手がけるジェクス(大阪)は昨年、女性のデリケートゾーンや性交痛をケアする3アイテムを発売した。

 

【出典】ジェクス

  • 膣のかゆみやニオイをケアする膣洗浄器(画像左)
  • 性交時の痛みや違和感を軽減する潤滑ゼリー(画像中央)
  • デリケートゾーンの乾燥をケアする保湿液(画像右)

 

GSM、フェムテック業界のネクストトレンドに

GSMはフェムテックブーム以前からも、健康雑誌や中高年女性向けの生活情報誌が取り上げてはいたが、なんとなく”ヒッソリ感”があり、読者である女性自身もなんとなく”コッソリ”と読んでいた印象。だが最近は雑誌ジャンルや対象年齢を問わず、あらゆるファッション誌や美容雑誌が女性生殖器や男性生殖器を紙面いっぱいに取り上げるようになり、GSMにまつわるトピックが影を潜める必要はもはや完全になくなりかけている。

フェムテック元年と言われた2020年からこれまでは、生理・妊娠・更年期領域でのソリューション事例が一気に増えたが、今年から来年にかけては、更年期の中でも特にGSM領域のソリューションが増える気配だ。GSM市場では女性たちの選択肢はまだまだ限られている。これからどんなソリューションが登場するのか、引き続き動向を追っていきたい。

 

 

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