女性の健康課題の対処で、2040年までに世界で年間1兆ドルの経済効果 マッキンゼー

女性特有の健康課題による国内の “経済損失”は年間で3.4兆円ーー。今年2月に経産省が試算し、女性の健康課題を社会全体で解決すべき重要性が、改めて提起された。同時期に試算されたのは、世界レベルでの”経済効果”。こちらはマッキンゼー健康研究所と世界経済フォーラムによるもので、今年1月に公開したレポートClosing the women’s health gap:A $1 trillion opportunity to improve lives and economiesの中で、「女性にかかる健康負担や男女間の健康格差を解消することで、2040年までに世界経済に年間1兆ドルの経済効果をもたらす」との試算を示した。

Clothing the women's health gapの表紙

【出典】McKinsey Health Institute

 

経産省の試算は、経済損失への影響が特に大きい4項目「月経随伴症」「更年期症状」「婦人科がん」「不妊治療」に限定しているのに対し、同レポートは女性の健康を幅広く捉えており、男女共通疾患を含め女性に影響する多様な疾患を含めているため、女性の健康課題がもたらす経済インパクトについて思考を深める視座としては、同レポートがより的確で参考になる。

同レポートでは世界疾病負荷研究(GBD)をベースに、疾病負荷(※)が世界的に大きい女性の64疾患の分析や、男女間における医療・健康のデータ格差や医療アクセスの格差を挙げながら、女性の健康課題を解決する重要性とともに、具体的なアクションを示している。以下はレポートのサマリー。(※)ある集団における健康問題の影響の大きさを、罹患率・死亡率・医療費などの指標で表したもの

■経済効果
・女性の健康課題や男女間の健康格差の解消に取り組むことで、2040年までに世界全体で年間1兆ドルの経済効果がもたらされる
・GDPへの貢献度が高い女性の疾患トップ10は、降順で「月経前症候群」「うつ病性障害」「偏頭痛」「その他の婦人科疾患」「不安障害」「虚血性心疾患」「変形性関節症」「喘息」「薬物使用障害」「卵巣がん」

■現状の課題
・女性の健康課題を解決できなければ女性のQOLは低下し、女性の経済参加を促せず、自分自身や家族の生計を立てられなくなる
・世界の女性の平均寿命は男性より5年長いが、女性の方が不健康な時期を25%長く過ごす
・医薬品の有害事象は男性より女性に多く発生し、医療にアクセスするまでの時間は女性の方が長く、女性特有の症状などに適した医療が提供されず、医療費の自己負担額は男性より女性の方が大きいという諸問題が各国の研究で報告されている
・女性の健康=性・生殖の領域に限定されやすいため、女性の健康課題は過小評価されやすい。だが実際は有病率や症状に男女差が見られる疾患は多く存在し、これも女性の健康課題である。まずは「女性の健康」の定義を幅広く捉える必要がある
・性・生殖領域に起因した健康負担は、女性の全体の健康負担の中でわずか5%に過ぎず、それ以外の大半は、頭痛障害やうつ病、自己免疫疾患などの男女共通疾患で、これらは、男性より女性に多く見られたり、男性とは異なる症状が見られる性差医療・性差ヘルスケアに関する詳細解説

■女性の健康格差を埋める方法
疾患・健康の性差に関する知識不足、性差に関するデータ不足、医療の提供における男女格差(女性特有の症状に適切な医療を提供できていないことや、女性が医療にアクセスしづらいこと)、女性の健康に対する投資不足に対応するためには、以下のアクションが必要。

  • 女性の健康に関する研究・開発を強化する
  • 性別ごとの疾患や健康データの収集と分析を強化する
  • 性別に応じたケアや医療へのアクセスを強化する
  • 女性の健康ビジネスへの投資を拡大する
  • 女性の健康を支援する政策を検討する。例えば、性差を認識・理解するために医学部や医療者の研修を強化するなどの施策も必要

女性の健康課題にまつわる経済インパクトについては、日本では他、国立がん研が2023年に女性のがん罹患・死亡による経済的負担を1.4兆円と試算しており、女性の健康課題解決を社会のトップアジェンダに位置付ける見方は急速に強まっている。これを追い風に女性ヘルスケア市場は今後さらなる活況が予測され、とりわけ、フェムテック業界には3つの転換が訪れると見られる(詳細は「女性ヘルスケア白書2024 市場動向予測レポート」に掲載)。現時点でのフェムテック業界の課題と対策については、分析レポート売れるフェムテックの「開発」と「販売戦略」17の障壁に掲載。

 

 

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