妊活にまつわる男女の意識、最新動向
女性側に負担が強いられがちな妊活は、女性にとって”孤独な闘い”。だが近年は国による少子化対策や女性活躍推進、フェムテックブームによる性差ヘルスケアへの着目、女性の健康問題の表面化、商品・サービスの充実化などを背景に、男性側の妊活意識も高まっている。これにより女性側の意識・行動や社会の空気も変化していく兆しだ。男女それぞれの妊活意識はどうなった?不妊・妊娠・出産・子育てにまつわる人々の意識や行動がわかる最新の調査結果を集めた。
目次
男女3万人の妊活・不妊治療の実態(メルクバイオファーマ)
妊活・不妊治療に関する男女の意識と実態について、バイオ医薬品のメルクバイオファーマが調査を実施した。20〜40代の男女3万人を対象に行った調査で、不妊の悩みや妊活経験の他、不妊治療と仕事の両立、職場環境が不妊治療に及ぼす影響、不妊治療のための有休の取りやすさ(業種別)など、仕事やキャリア形成との関連についても調べた。以下は主な調査結果。詳細は「第5回 妊活®および不妊治療に関する意識と実態調査(2021.8)」に掲載。
- 20〜40代の男女3万人の約半数が子どもを望むも、22.5%が不妊に悩み4人に1人は妊活経験あり。30代は不妊に関する悩みが28.0%と最も多く、3人に1人が妊活に取り組んでいる
- 不妊治療経験者の3人に1人は治療のため仕事を辞めた経験があり、半数以上は治療の中断を経験または検討。理由は治療のための「経済的負担」
- 妊活、不妊治療中の従業員のパフォーマンス低下による損失は年間約 1,260 億円。不妊治療のための退職による損失は年間2,126億円超
- 不妊治療のためにとる有給休暇は年間4日。治療のための突然の有給休暇を最も取りやすい業界(郵送業・郵便業)でも34.0%にとどまる
- 不妊治療中の過半数が仕事と妊活の両立を自負するも、キャリアへのマイナス影響も。不妊治療中の人の45.7%が、妊活は「収入減になる可能性がある」と回答
男性の妊活意識が向上(ロート製薬)
ロート製薬が2018年から毎年公表している「妊活白書」は、男女への意識調査をもとに妊活の実態をまとめているもので、今年2月に公表した「妊活白書2020」では、COVID-19による妊活への影響と、男性の妊活にフォーカスをした。
興味深いファインディングスは男性側の妊活意識が高まっている点で、子どもを望む男女の中で「ふたり妊活(女性だけが取り組むのではなく、パートナーと共に取り組む妊活)」に取り組む人が増えていることがわかった。これまでは「妊活は女性が取り組むもの」「妊娠できるかできなないかは女性側の問題」といった認識が男女ともに強かったが、妊活を自分ゴト化して捉える男性が増えてきたようだ。以下は主な調査結果。詳細は「妊活白書2020 〜男性妊活編〜」に掲載。
- 「ふたり妊活できている」と回答した男性は、36.3%(2019年)から63.1%(2020年)へ上昇
- ふたり妊活ができている男性が取り組んでいる妊活は、
1位:夫婦で家族設計について話をする(39.3%)
2位:規則正しい生活をする(33.3%)
3位:食生活に気をつける(29.5%)
4位:排卵日に合わせて夫婦生活を行う(28.2%)
5位:適度な運動、適切な体重を心がける(26.1%) - 既婚男性の63%が「将来子どもができにくい・できないかもしれない体質だ」という不安を抱えている
- 既婚男性の63%が「将来子どもができにくい・できないかもしれない体質だ」と思う理由は、
1位:年齢的に不安があるから(32.7%)
2位:現在、妊娠を望んでいるが妊娠しないから(25.5%)
3位:不妊に関する記事やニュースを見聞きするから(24.5%)
4位:普段からストレスを溜め込んでいるから(20.7%)
5位:精子に問題を抱えていると思うから(14.4%) - 男性の「排卵日予測検査薬」の認知は57.9%、「精子セルフチェック」の認知は54.7%
最新の結婚・出産・子育て観と支援策(内閣府)
結婚観や出産・子育ての意識、就労形態、男性の家事・育児時間、日本の少子化の現状や国による少子化対策など、妊活意識に影響を及ぼす各種データや全体像を把握するなら、内閣府が毎年公表している少子化対策白書をチェック。
日本の年間出生数は減少傾向にあり、第1次ベビーブームの1949年は269万人、第2次ベビーブームの1973年は209万人だったのが、徐々に減少し2019年には86万人に。少子化急進の背景にあるのは、子どもの養育コストの増大、働く女性の増加による生き方の多様化、未婚化・晩婚化、結婚・出産の価値観の変化、経済不安などだが、近年専ら指摘されているのは、働く女性が「妊活・妊娠・出産・子育て」と「仕事」を両立できる環境が十分に整っていないことや、男性の家事・育児への参画意識が低いこと、社会や企業が男性の育児休業取得に寛大ではないことなどだ。
こういった環境を改善して女性や夫婦の妊娠意欲を高めるために、国・自治体・学校・企業・医療機関など各所はどのような取り組みを行っているのか?その概要についても、同白書の中で確認できる。詳細は最新版の「令和3年版 少子化社会対策白書」に掲載。
国際比較で読解く日本人の特性(内閣府)
結婚・出産・子育ての意識を国際比較した調査結果もあるので、ぜひ参考にしてみては。日本、ドイツ、フランス、スウェーデン4カ国を比較したもので、以下についてまとめている。
- 交際について
- 結婚について
- 出産について
- 育児について
- ワーク・ライフ・バランスについて
- 社会的支援について
- 生活意識について
各質問項目の結果を見ていくと日本の特性や課題が浮き彫りとなり、例えば、日本は他国と比べて妊娠・出産・子育てに対して後ろ向きの傾向が見られることを読み取れる。理由はやはり、妊娠・出産・子育てをしやすい社会ではないこと、不妊治療や子育ての経済的負担が大きいこと、職場環境などだ。一方で日本以外の3カ国は、家族計画において経済的負担をネックに感じている人の割合は低い。保育サービスを始め、仕事と出産・子育ての両立支援が充実しているからだろう。
詳細は「令和2年度 少子化社会に関する国際意識調査報告書」に掲載。なお「第3部 調査結果の解説」では、調査結果についてグラフ付きで解説をしている。日本の妊娠・出産・子育て世代の男女が抱える不安・ニーズなどを理解するのに役立つ。
環境整備の鍵は男性の妊活意識向上
仕事と出産・子育ての両立支援がいまだ不十分である日本は、スウェーデンに代表されるように家族政策に成功した先進国と比べると妊活意欲が生まれづらい環境だ。かねてより指摘されてきた問題ではあるものの、社会や企業の理解はなかなか進まず、少子化に歯止めがかからないのが現状。
だが、ここにきてようやく変化が起きそうだ。鍵を握っているのは男性側。メルクバイオファーマとロート製薬が示した調査結果の通り男性側の妊活意識は高まっており、妊活のための具体的な健康管理に取り組む男性が増えている。こういった男性側の意識や行動が社会・企業へ及ぼすインパクトは期待大。女性が妊活しやすい社会を実現するには、法制度の整備や企業内の健康経営推進といったややこしい環境整備から攻めていくよりも、男性の妊活意識を高める方が手っ取り早そうだ。
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