フェムテック市場はどうなる? 2024年に起こる3つの転換

フェムテック元年から5年目に突入し、過熱していた市場の期待感に落ち着きが見られてきた。PMFに到達できず撤退や事業縮小を決めた企業の存在が顕著になり、フェムテックはいわゆる「幻滅期」に突入。話題性の高さと売上に相関性がないことを実感する企業が増えてきた。一方で、フェムテック事業の知見が徐々に業界全体で蓄積・共有されてきたことで、現実的な需要やクリアすべき課題が明確に考察できる段階に。国内のフェムテック業界は今後、どこへ向かっていくのか?

フェムテック市場、堅調に拡大

フェムテック市場は生理・妊娠・更年期・セクシュアルウェルネスを中心に拡大しており、矢野経済研究所の推計では2022年に前年比107.8%で695億円、2023年には743億円に達すると見込まれている。市場の拡大は他調査でも示されており、フェムケアをテーマにした健康食品市場は特に成長が著しい。例えばクラシエ薬品はフェムテック・フェムケアブームによる恩恵を受け、女性疾患処方が年平均11.7%で成長しているという。

女性ヘルスケア白書用の挿絵

 

市場拡大するも、「幻滅期」へ突入

業界動向:相次ぐ大手の参入と筆頭格の撤退

2023年はフェムテック市場への大手企業の参入が増加した一方、それまで市場を牽引してきた筆頭格企業の撤退や事業縮小が相次いだ。大手企業の参入は、知名度や資金力などを武器に2022年ごろから活発化していたが(※1)、持続可能なビジネスモデルの構築や売上面で苦戦しているケースが目立ち、メディアの報道量も減ったことで、フェムテックに対する社会の関心が落ち着いたと見る企業は多い。実際に、「期待していたほど売上は伸びない」「類似品が増え、売上が減少している」など落胆の声も方々から聞かれるようになった。いわゆるハイプサイクルの「幻滅期」に突入したと見られ(※2)、今後は市場での淘汰が進むと予想される。言い換えれば、本当の勝負はここからだ。今後は、フェムテック元年からこれまでに業界全体で蓄積された知見や課題(※3)を払拭しつつ、PMF到達に向けPDCAを実直に重ねた本質的な製品・サービスだけが生き残り、市場で定着していくだろ う。

(※1)企業のフェムテック市場への参入類型は当社分析で全4タイプ。詳細は「売れるフェムテッ クの『開発』と『販売戦略』 17の障壁と対策」内の28ページに掲載
(※2)当社によるタイムライン分析では2023年に「幻滅期」に突入。タイムラインの画像データは「女性ヘルスケア白書2024 市場動向予測レポート」内の11ページに掲載
(※3)フェムテック業界の現在の課題詳細は「女性ヘルスケア白書2024 市場動向予測レポート」内の10ページに掲載

 

女性生活者動向:着実に高まる認知と関心、だが購入に至りづらいのはなぜ?

現状、市場では業界人の方がフェムテックに熱狂しており女性生活者の熱量はそれと比べると小さいが、女性特有の健康に対する意識や行動は着実に前進している。これは、マスメディアが中心となって生理・不妊・更年期などの問題を積極的に報道し、国や自治体が妊活支援や生理の貧困問題に対応してきたことが大きい。フェムテック企業各社のプロモーションや啓発活動も奏功していると言えよう。

オムロンヘルスケアの調査では、約9割の女性が「生理に関する情報が入手しやすくなった」と回答し、小林製薬の調査では、女性の更年期に対する周囲の理解がポジティブに変化していることが示されている。矢野経済研究所が毎年実施しているフェムテックの認知調査では、「フェムテックの言葉の意味を知っている」と回答した20〜60代の女性は全体で7.1% (2023年)で今なお認知度は1割を切っているが、2021年の3.4%から着実に高まっている。

だが、“女性の健康課題を解決する”という社会課題の解決に賛同する女性生活者は多いものの、具体的なフェムテック製品・サービスの購入に至りづらいという課題が顕著になっていることも、また事実だ。なぜなのか?その理由は多様な要素に及ぶため解決は簡単ではないが(※4)、企業側が女性たちの一般的な購買行動の特性を理解していないことや、ヘルスケアビジネス特有のマーケティングを考慮していないこと、また、製品・サービスの開発や設計の際に、開発者が重要な視点を見落としていることが特に大きく影響している。女性の健康課題への社会的関心の高さから、開発部署も販促部署も、話題性だけをエビデンスにプロダクトアウト思考に陥っていることが最たる原因で、こういった姿勢の改善が、今、業界全体で求められている。

(※4)フェムテックの購買行動が起きづらい主な理由は5つ。詳細は「女性ヘルスケア白書2024 市場動向予測レポート」内の16ページに掲載

 

フェムテック市場はヘルスケア市場の0.3%

フェムテック市場は現在「幻滅期」にあるが、ポテンシャルが大きいのは確かだ。

第一に、現在のフェムテック市場は性・生殖領域がメインで語られがちだが、本来、女性の健康課題は多様に存在するため、市場を広義にとらえ女性向けのヘルスケア全般にまでその範囲を広げれば、市場規模は桁違いに大きくなる。ヘルスケア産業全体の市場規模は24兆円という巨大市場だ(2020年時点)。ここに占めるフェムテック市場を前述の「695億円」で示すのであれば、フェムテック市場はわずか0.3%に過ぎない。だが、ヘルスケア産業を構成する「患者向け製品・サービス」「計測関連の製品・サービス」「要支援・要介護者向けの製品・サービス」「健康志向家電や設備などの住関連」など、あらゆる領域で女性特有の症状や健康ニーズに対応する視点を持つことができれば、フェムテック市場がさらなる勢いで拡大することは容易に想像できるだろう。

加えて性差医療という先行事例も、フェムテック市場のポテンシャルを期待できる理由だ。2000年台初頭に国内に導入された性差医療は、当初は子宮周りや乳房など女性特有の性・生殖系疾患をメインとしていたが、やがて男女共通疾患においても性差に着目した診断・治療が行われるようになり、性差医療が対象とする範囲は大きく広がった。フェムテックも同様の道を辿るとみられ、現状は性・生殖領域への関心が高いが、今後は男女共通疾患における女性特有の健康課題に焦点をあてた製品・サービスの開発が活発化する見込みだ。また、2024年度中の開設が予定されている「女性の健康ナショナルセンター」では、女性特有疾患に重点を置いた性差医療の研究開発推進が掲げられ、男女の違いに着目した女性特有の不調・症状・病気・治療法の確立に期待が寄せられている。性差に焦点をあてているフェムテック業界にとっても、この動きは強力な追い風だ。

 

2024年に起きる3つの転換

女性の健康課題が社会的に重要視される中、フェムテック市場の存続や今後の拡大速度は業界全体で「幻滅期」を乗り越えられるか否かにかかっており、市場環境の変化を素早く嗅ぎ取ったフェムテック企業は、すでに事業開発や事業コンセプト、マーケティング戦略の転換に動き出している。その転換は3タイプに分類される。各タイプの詳細は「女性ヘルスケア白書2024  市場動向予測」内の8〜28ページ内で解説。同レポートではフェムテック業界に起きる3つの転換の他、女性ヘルスケア市場全体の最新動向を掲載。女性ヘルスケア市場の有望領域、若年〜高齢女性まで需要が大きい不調・疾患領域、人口減少・少子高齢化時代を見据えた事業判断と商機、先端テクノロジーの事例と導入判断の考え方、女性ヘルスケア業界の最新の開発トレンドとマーケティングトレンド、主流化する新たなヘルスケアアプローチなど、2024年度の女性ヘルスケアビジネスに欠かせない最新情報を、豊富なデータや図解、企業事例などとともに収載!

女性ヘルスケア白書2024 市場動向予測レポート

 

 

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