「女性の健康権利」が飛躍的に向上、押さえておきたいSRHRニュース振り返り

生理の貧困問題やフェムテックブームを契機に、2021年はこれまでにないほどに社会的関心が女性の健康問題に向けられた。特に生理・PMS・妊娠・更年期・セクシャルウェルネス・性教育といった性・生殖領域で顕著で、いわゆるSRHRに関する報道が今年は相次いだ。女性誌のコンテンツや企業各社の動きを振り返ってみても、女性の健康問題の盛り上がり具合を実感する。SRHRは27年前にうまれた概念だが、ようやく生活者レベルにまで浸透してきたようだ。実際に、女性の健康問題を自分ゴト化したり課題感を持って声を上げる女性が今年は増えた印象。

SRHRに関するニュースは女性たちの健康意識・健康行動・健康消費に影響を及ぼす。フェムテックど真ん中企業だけではなく、ヘルスケア企業の誰もが復習しておきたい今年のSRHRニュースをピックアップ!

 

SRHRとは?

本稿に入る前に、改めてSRHRの復習から。SRHRとはSexual and Reproductive Health/Rights(セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)の頭字語で、「性と生殖に関する健康と権利」という意味。1994年にエジプトで開催された国際人口開発会議(ICPD/カイロ会議)で提唱された概念で、以後、世界で広く認識されるようになった。

誰もが性・生殖において自由に選択できる権利を持ち、誰もが健康的な性的活動・生殖活動ができる社会を実現するための概念で、以下のような性・生殖に関する様々な問題を解決するために掲げられた。

  • 貧困、医療格差
  • 児童婚やFGM(女性器切除)などの慣習
  • 男性中心主義・男性優越主義による女性差別や性暴力
  • 人工妊娠中絶の権利
  • ピルや医療機関へのアクセス
  • 性感染症
  • 妊産婦の死亡
  • 性的マイノリティーへの差別

先進国である日本にいると、貧困、医療格差、児童婚、妊産婦の死亡などといった問題を認識しづらいためSRHRに考えを巡らす機会が少ないが、先進諸国も未だ様々な問題を抱えている。例えば人工妊娠中絶が違法であったり、性暴力や女性蔑視などだ。日本においては性教育の遅れ、緊急避妊薬へのアクセス困難、ジェンダー格差、ジェンダー格差により引き起こされる問題(性別役割分業や、性別役割分業を背景にした女性の高い離職率、賃金格差など)、妊活・不妊治療・生理痛やPMS・更年期に対する職場の無理解などが課題として挙げられる。

カイロ会議から25年が経過した2019年には、170カ国の政府機関、市民社会、ユース団体、企業などが参加したナイロビサミット(ケニア)が開催され、25周年を機にSRHRの振り返りが行われたことで、世界・国内で改めてSRHRへの関心が高まった。この概念は女性のみを対象にしているわけではないが、性・生殖において特に不利益を被りやすい女性・若者・子どもが主な対象とされている。詳細は以下の記事で解説。

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話題になったSRHRニュース

それではここからは、2021年に社会的関心を集めたSRHRに関連するニュースを振り返っていこう。

飲む中絶薬、承認されれば国内初

“飲む中絶薬”が日本でも承認されるかもしれない。各メディアが11月末に報じた。製薬会社のラインファーマ(英)は、中絶に使う飲み薬の製造販売について、年内に厚労省に承認申請をする見通しを明らかにした。現在、世界70カ国以上で使われているが日本では認められておらず、承認されれば国内初。

日本で中絶手術を実施する場合は、ソウハ法(器具で子宮内容物を掻き出す)あるいは吸引法(器具で子宮内容物を吸い出す)。主流なのは前者で料金は10〜20万円ほど。体への負担も金銭的負担も大きい。飲み薬が承認されれば、中絶を希望する女性にとって負担の少ない選択肢ができる。

ネット上には「悪用・乱用する人が出てくるのでは?」と懸念・批判する声もあるが、「負担の少ない選択肢ができることは良いこと」「望まない妊娠による母親の子ども殺しが減るのでは」とポジティブに捉える声が多く見られた。

  • 「飲む中絶薬」月内申請へ 国内初、海外で使用多く―英企業(時事ドットコム)

不妊治療の保険適用が拡大

2022年の4月から、不妊治療の保険適用範囲が拡大される。これまでも不妊治療の一部については保険適用がされてきたが、人工授精と体外受精は適用外で自由診療。人工授精は1回数万円、体外受精については1回数十万円と高額なため、経済的負担から妊娠を諦めるカップルが多かった。適用が拡大されれば高額な治療も受けやすくなる。国は不妊治療利用者の自己負担を軽減し、少子化対策に繋げたい狙い。具体的な適用範囲については、年内に決定する見通し。

このニュースが流れるや否や今年後半期に見られたのが、不妊治療の開始時期を延期する女性やカップル。民間調査によると、不妊治療を現在受けている女性あるいは検討している20〜40代の女性のうち83%が「適用開始まで待つもしくは現在の治療を延期する」と回答した。40代60%、30代92%、20代84%と年齢差は見られたものの、法制度が女性たちの健康行動に明らかな影響を及ぼすことが浮き彫りとなった。

COVID-19の感染不安から妊活控えが問題視された2020年に続き、2021年は不妊治療控えが。パンデミック終息と保険適用拡大で、2023年は妊活カップルは増えるか?

子宮頸がん予防ワクチン 積極勧奨再開へ

厚労省は11月、子宮頸がんの原因となるHPVの感染を防ぐワクチンについて接種を勧める「積極的勧奨」を来年4月に再開することを決めた。ワクチンは2009年に承認され、原則無料の定期接種となったが、接種後の副反応が相次いだことから2013年に積極的勧奨を中止。8年ぶりの再開となる。

積極的勧奨再開にあたり他方で注目されているのが、性教育。ワクチン接種の必要性や子宮頸がん・HPVの理解について、接種対象となる子どもはもちろん、家族や学校教員など大人も理解を深める必要がある。ルナルナのエムティーアイが今年3月に実施した調査によると、「子宮頸がんの主な感染経路が性感染症であることを知らない」女性は、10代で6割、20〜50代以上であっても3〜4割にも上った。さらには、「子宮頸がんの予防としてHPV感染を予防するワクチンがあることを知らない」女性は全体で4.5割も。ワクチン普及に当たっては、子ども・大人両方の健康教育・性教育が必要だ。

 

生理の貧困で広がった、生理用品の無償配布

貧困により生理用ナプキンにアクセスできない「生理の貧困」が社会的問題として国内で関心を集めたのは今年はじめ。政府も支援の取り組みに動き始め、以降、自治体、学校、団体、商業施設などが無償配布を始めた。パブリックスペースでトイレットペーパーを誰もが自由に使えるのと同様に、もはや生理用品もそうなるか?この動きは今後も加速する気配。

 

骨太方針2021に「フェムテックの推進」

昨年10月、野田聖子会長率いる「フェムテック振興議員連盟」が自民党内に発足されたのに続き、今年は政府のフェムテックへの注目が加速。経産省が「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」を実施し、6月に閣議決定した骨太方針2021には「フェムテックの推進」が盛り込まれた。

政府による強力なバックアップが期待されることからフェムテック業界は大いに沸き立ったが、一方で、フェムテックの社会的インパクトや政府の関心がいつまで持続し、かつ、法制度の環境整備も着実に進んでいくのか否かは未知数。健康経営銘柄の選定基準に「女性の健康」に関する取り組みの項目が加わった2019年当時、健康経営関連の事業者がこれを商機と睨んだが、実際は導入先各社の社内文化、男性従業員への配慮(女性ばかりを優遇できない)、担当者の低いヘルスリテラシー、社内の課題が顕在化されていないといった様々な実情が壁となり、市場の反応はイマイチ。いまだに需要を掘り起こせずにいる。

フェムテックについても然り。政府の動きをただ眺めて口を開けているだけでは、法制度の壁を乗り越えることも需要の掘り起こしも難しい。企業自身にも積極的な推進が求められる。

第三者の精子・卵子を求める人が増加

配偶者ではない人の精子や卵子で子どもをつくる人が増えている。国内で1948年に始まった非配偶者間人工授精(AID/夫以外の男性から提供された精子を子宮内に注入して妊娠を図る方法)で生まれた子どもは、これまでに推定で1〜2万人。

精子バンクや卵子提供をするエージェントが乱立しているため正確な数字は把握できないようだが、女性セブンの記事によると、第3者の精子・卵子を求める人が増えている背景としては、LGBTQ +のカップルや、選択的シングルマザー(パートナーを持たないと決めて1人で出産する女性のこと)の存在が大きいという。

未婚化・晩婚化やジェンダーへの社会的配慮の進行で、選択的シングルマザーやLGBTQ +カップルの世帯は今後増えていく可能性が高い。「ママ=配偶者がいるもの」「ママのパートナーは男性」「ママ=生物学的女性」というステレオタイプに陥りすぎないよう、これからのプロモーションは要注意。

 

フェムテックブームで社会・女性はこうなった

ニュースの振り返りはもちろん大事だが、ヘルスケア企業のマーケターが一番知りたいのは、フェムテックブームの到来で社会や女性たちの意識・行動がどうなったのか?というところだろう、編集部が総括。

  • 更年期、生理痛、PMS、妊活、不妊、デリケートゾーンケア、セックストイなど、これまで人前でオープンに話せなかったことを話しやすい空気が醸成された
  • セクシャルウェルネス、セルフプレジャー、ラブグッズ、セックストイなど、女性でも抵抗を感じづらいトレンド感ある言葉が広がり、女性誌などのメディアも、オシャレなアイテムとしてセックス関連の商品・コンテンツを取り上げるようになった
  • 日本が性教育後進国であることを女性たちが自覚するようになり、特に小さい子を持つ母親たちが課題感を持ってSNSなどで声を上げるように。性教育に特化したインフルエンサーも登場
  • フェムテックのトレンド・商品・サービスを通じて、女性たちが女性特有の健康問題を自分ゴト化して考えるようになった

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海外編

番外編として海外のSRHRニュースを2つご紹介。日本では考えられない法律に愕然とする。国内でも話題に。

流産をして刑務所へ、禁錮30年

11月にBBCニュースが報じたのは、妊娠4ヶ月で流産をした米オクラホマ州の女性が禁錮4年の有罪判決を受けた事件。妊娠中の違法薬物使用で胎児を殺したとして、故殺罪で収監された。BBCニュースによればこれは氷山の一角で、米国ではこれまでにも、「意図的な転倒」や「自宅での出産」が理由で逮捕された事例があるという。

米国の一部の州に限らず、中絶が非合法の国・地域はいまだ存在する。その一つである中央アメリカの国エルサルバドルでは、流産後に殺人罪で禁固30年の有罪判決を受けたという女性が。刑期を終える前に刑務所内で死亡したという。胎児の命は母親の権利より優先されるのか?日本では考えられない法律だが、中絶の是非に関する論争は各国で続いている。

コンドームを同意なく外す「ステルシング 」、違法に

米カリフォルニア州で10月、相手の同意なしにコンドームを外す行為「ステルシング」が違法となった。女性が気づかぬうちにステルシングをされた場合、望まぬ妊娠や性感染症のリスクにさらされることから「レイプと同罪」との見方だ。ネット上では「日本でも違法にしてほしい」という声が。

 

 

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