マーケターと母親が描く”母親像” に乖離 産後うつへの社会的関心で今が変革期に(1/3)

今年9月末の竹内結子さんの突然の訃報は、「産後うつが原因では?」という憶測を呼び、社会が “産後うつ”に大きな関心を寄せた。原因は明らかにされていないものの、産後うつと結びつけられた彼女の死が与えた社会的インパクトは大きく、特に育児の真っ只中にいる母親たちの間で、産後うつに共感する声や、過酷な育児の現状を訴える声が上がった。全ての女性が産後うつや自殺に追い込まれるわけではないが、その深刻さや母親たちの本音を知ると、現代のリアルな母親像が見えてくる。これまで描かれてきた母親像はもう時代遅れ?社会や企業が描く母親像に、今、変革が求められている。

4割の母親「産後うつになりそう…」

産後うつとは?

産後うつとは、産後に発症するうつ病のこと。産後女性の4〜21%が発症すると言われており、抑うつ気分、涙もろくなる、意欲低下などの症状が見られる。

産後うつの病因は産後の急激なホルモンの変動や環境の変化による心理的負担で、特に初産婦の場合は影響が大きい。それまで自分中心・夫婦中心であった生活が一変し、子ども中心の生活になる。24時間365日・不休・不規則の育児が始まることへの不安、子を守り育てなくてはならない母親業のプレッシャー、授乳や夜泣きによる慢性的な睡眠不足、夫や親、地域など周囲のサポートがない不安、身体的・精神的疲れなどを背景に発症する。

同じ“産後の精神障害”であるマタニティーブルーズにおいても同様の症状はあるが、産後5日以内に発症し2週間ほどで寛解するという軽度なもの。生理的反応のようなもので自然と良くなるため特に治療は必要とされておらず、実際に産後しばらくすると「気づいたらネガティブな感情がおさまった」という母親は多い。一方で産後うつはより症状が重く、治療が必要。

 
産後うつ マタニティブルーズ
頻度 4〜21% 7〜30%
症状 軽度〜重度のうつ状態(抑うつ気分、涙もろさ、集中力・意欲低下、行動の減少など) 軽度のうつ状態(抑うつ気分、涙もろさ、集中力低下など)
発症時期 多くは産後2〜5週だが、その後の発症もある 産後5日以内
経過 数ヶ月 1〜14日間
治療 薬物・精神療法・環境調整 特に必要なし

資料:「女性医療のメンタルケア」久保田俊朗・松島英介

深刻な産後うつ、自殺に至ることも

産後うつの発症率は4〜21%だが、誰にでも起こり得る。産後うつを体験した女性の中には、「まさか自分がなるとは思わなかった」「今思うとあれは産後うつだったんだと思う」という声も。

たまごクラブ(ベネッセコーポレーション)が実施した調査で「このままだと産後うつになりそう…と心配した経験がある」と回答した母親が4割に上ることが明らかになったことからも、産後うつ、あるいはそれに近い心理状態に陥ってしまうことが決して珍しいことではないことがわかる。

産後うつが重度な場合では自殺に至るケースもある。東京都に限定したものだが、産後に自殺をした女性のうち3割が産後うつを患っていたという調査結果も出ている東京23区,2005〜2014,日本産婦人科医会「妊産婦メンタルヘルスケアマニュアル」

高齢出産は3割、産後うつの増加が懸念

女性を取り巻く近年の社会情勢を踏まえ特筆すべきは、高齢出産による産後うつ。高齢出産は産後うつのリスクがあることが明らかにされており、例えばスウェーデン・カロリンスカ研究所が約75万人のデータを基に実施した調査では、35歳以上の初産婦が90日以内に精神病を患った確率は、19歳以下の初産婦に比べて2.4倍高かったというAFP「高齢の初産は「産後うつ」になる可能性が高い、スウェーデン研究」,2009

武谷雄二医師は著書「働く女性と健康」の中で、高齢出産とうつ病の関係について次のように述べている。

職業人としてのキャリアを確立させ、経済的基盤がしっかりしてから第一子をもうける女性は、その後うつ病にかかりやすいと言う研究結果がある。この理由として、高齢の出産となることが多く、妊娠・分娩の異常を伴いやすく、育児に関しても体力的な負担を感じることが多いということがあげられる。このような女性は、これまでの人生を自分が計画した通りに進めてきたことが多い。そのため育児などで困ったときに第三者に手助けをしてもらうことを好まないと言う傾向が強く、出産や育児に関し思い通りにいかないと壁に突き当たってしまうのだろう。(引用:武谷雄二「働く女性と健康」)

近年国内の高齢出産は増加傾向にあり、高齢出産と言われる35歳以上で出産をする女性は今や全体の約30%を占める(2019年の出生数は86万人、そのうち25万人が35歳以上の出産)。1985年はわずか7.1%で10万人ほどだったので、この約30年の間で高齢出産が急激に増えたことがわかる。以下は2019年の、母の年齢別に見た出生数。

女性の社会進出による晩産化を背景に、高齢出産は今後も一定割合を占めると考えられる。高齢出産の産後うつ対策は急務だ。

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