マーケターと母親が描く”母親像” に乖離 産後うつへの社会的関心で今が変革期に(3/3)
母親の本音「子どもは大好き。だけどママを辞めたい」
過酷な育児に疲弊する母親たちに笑顔をもたらす救世主的映画が、今、話題を集めている。育児に奮闘する母親を主人公にしたドキュメンタリー「ママをやめてもいいですか!?(ナレーション:大泉洋)」。育児中の母親たちから多くの共感を得ている理由は、綺麗事抜きでリアルな母親像を描き出していること。
この映画に登場する母親たちの口からは、「ママを辞めたいと思ったことは幾度となくある」「子どもはかわいい。大事。愛おしい。だけど離れたい」「子どもが嫌いとか一緒にいたくない訳ではなくて、本当は一緒にすごくいたいけど、一緒にいると苦しくなる」「かわいいだけが子育てじゃない」など、リアルな本音が次々に飛び出してくる。
育児に協力してくれない夫、育児に疲れ果てる自分を理解してくれない夫への不満も炸裂。「自分の体クタクタなのに、なんでこの人(=夫)寝てるの?(夫を)蹴飛ばしたことがある」「ぶっ殺すよ」「(夫に)ジャガイモ投げた」など、これもまた、妻としてのリアルな本音がそのまま写し出されている。
女性誌などが描くような浮世離れしたキラキラママからは程遠く、いろんな家庭、いろんな夫婦のリアルがそのまままとめられている。夫側の本音に迫っているのもおもしろい。育児ストレスを抱えながらも子どもにたくさんの愛情を注ぐ母親の姿に、涙ほろりの場面も(以下は予告動画)。
視聴者からは、共感や続編を期待する声が寄せられている。
「それぞれが家庭の中で抱えていた光景や心のうちを見て、安心できるママたち、きっと沢山いると思いました。それで現実が変わらなくても、気持ちが救われてまた今日も頑張れる!そんな気がします」
「うちの子供達は9才5才ですので、産後のピーク時はとっくに過ぎているですが、あーーーまさにこうだった、、と沢山共感しながら涙しながら」
「映画を通じて家族のあり方について考えされされるきっかけとなりました。産後うつが男女共にあること、映画のような家族における社会問題について続編として抜本的原因を取り上げてほしいです」
「新型コロナ感染再拡大の中、自分も子供も感染するのが怖くて、子供の通っている幼稚園の夏期預かり保育をキャンセルしたため、子供が家の中にいる時間が長く、ちっとも言うことを聞かない子供にストレスは溜まりまくり、何とかしなければと思っていた時に、この映画を観ました」
「うちの子供が最近特に言うことを聞かなかったのは、愛情不足だと分かってはいたのですが、改めて痛感しました。もうすぐ帰宅する子供を今日は、いっぱいっぱい抱きしめてあげようと思います!ここ暫くすご~くどんよりしていた気分が、スッキリしました。本当にありがとうございました!!!」
(引用:vie)
時代とともに変化する母親像
安倍政権が女性の活躍推進を掲げてから7年。労働力人口率を示すグラフにM字カーブが出現する通り、出産が女性のキャリアを中断するきっかけになりやすいことから、仕事と育児を両立しやすい社会を目指すことにもフォーカスした内容であった。
この政府の推進を機に「働くママ(ワーママ)」ブームが到来、企業がこぞって働くママをターゲットに据え、CM、ドラマ、女性誌などマーケティングの至る所で働くママを見かけるようになった。今は“トレンド”というより定着した感があるが、この5年を振り返ると、企業が描く母親像は微妙に変化を続けている。
女性活躍推進法
第1次:理想は「キラキラママ」
働くママブームが始まった当初は“完璧なワーママ像”が描かれることが多く、当時の働くママたちの憧れは「仕事と育児の両立をそつなくこなし、美容やおしゃれも抜かりなないキラキラママ」。
第2次:理想の育児・家事は「夫婦分担」
その後しばらくすると、育児と仕事の両立に苦しむ妻側の重圧や、夫の育児不参加が社会問題化。イクメンブームの社会的機運醸成と共に、夫との家事・育児分担を提案する広告・商品・サービスが増加。育児も家事も「頑張らなくていいんだよ」「手抜きOK」といった、育児負担軽減に寄り添う言葉が積極的に使われるようになった。ただ同時に、企業が表現する母親のあり方に敏感になる女性が増え、ワンオペを連想させるCMや動画広告が度々炎上。
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第3次:「産前も産後も自分らしく」
そして現在は、ちょうど第3次に突入するところ。育児・家事に協力的な夫は珍しくなくなったものの、結局は妻側にかかる負担の方が大きく、根本的な解決が進まない社会構造(働き方や男女格差など)や夫婦間の育児負担格差に不満爆発。
「頑張らなくてもいいんだよ」「手抜きOK」といった寄り添われるような表現に違和感を感じる母親たちの声も最近は大きくなっている。腫れ物扱いされているようで聞き心地が悪い上に、自分が頑張らないことで夫婦間の育児負担問題が解決される訳でもない。そもそも「頑張る・頑張らない」の基準が曖昧。育児・家事の正解・不正解も、人それぞれ、各家庭それぞれー。
そんな悶々とした感情を抱える母親たちが今求めているのは、母親・妻に求められるステレオタイプからの脱却だ。そもそも、社会が描く従来の母親像は“人格者”レベルであり、ハードルはかなり高い。子どもを産んだその日から突然、あらゆる女性が「完璧な母親」という人格者に変身できるわけがないのだ。
社会が求める立派な母親・良き妻になろうと無理に努力する必要はなく、出産後も引き続き自分らしく生きていけばいい。愚痴も言っていいし、たまには母親業を完全休業しても良し、夫を支える良き妻になる必要もなし(妻だって夫に支えてほしいし、胃袋をつかまれたい)。やりたい仕事やプロジェクト、やりたい趣味がある時は、育児より自分のニーズを優先しても良し。自分流・我が家流の育児でOK。
そんなメッセージを含んだ母親像が、今の社会にしっくりくる母親像ではないだろうか?そんな社会であれば、「こんな自由な感じでいいなら、私も母親になれるかも」「もう1人産もうかな」「仕事続けようかな」、そう思える女性が増えるかもしれない。現代の母親像の描き方の参考に、ぜひ「ママやめ」をご覧あれ。
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