働く女性向けの健康経営ソリューション、なぜ定着難しい?

2019年に健康経営の選定基準に「女性の健康」に関する取り組みの項目が追加されたことで、女性ワーカーの健康への関心は国内で急速に高まった。

健康経営推進に積極的な企業は、自社の女性ワーカーの健康課題・ニーズの把握と合わせ、ヘルスケアソリューション導入の検討に前向きになり、一方でサプライヤー側も、女性ワーカーに向けた自社商品の開発・提案に積極的になった。

だが実際はというと、「女性の健康に取組むことについて、社内で合意を得られない」「定着しない」という声が多く聞かれ、当初期待されていたほどの浸透は進んでいない感を否めない。なぜ導入・定着は難しい?女性ワーカーの健康維持・増進には何から着手すればいい?データを見ると、その答えが見えてくる。

女性のための健康経営、なぜ必要?

そもそも、なぜ企業は女性の健康づくりに取組むべきなのか?女性の健康経営に着手する前に、あるいは、女性ワーカーのいる企業にヘルスケアソリューションを提案する前に、サクッと復習しておこう。

月経随伴症による労働損失、4,911億円

日本の全従業員のうち約44%は女性(2016年)。この数字を見るだけでも女性の健康に取り組む意義を理解できるが、女性特有の健康問題により引き起こされる社会的損失に着目すると、重要性をより理解できる。

女性特有の月経随伴症(※1)による労働損失は、なんと4,911億円。年間の社会経済的負担は6,828億円にも上ると試算されている(※2)。女性特有の健康問題のうち月経随伴症だけでも、これだけの大きな損失が発生しているのだ。

※1)月経期間中に起こる様々な症状のこと。下腹部痛、腰痛、頭痛、吐き気など
※2)内訳:通院費用930億円,OTC医薬品費用987億円,労働損失4,911億円

女性特有の健康問題が原因で休職・退職を考えた、3割

月経随伴症に限定したものではないが、既述の数字を裏付けるのに参考になるデータがある。経産省が働く女性の健康について実施した調査によると、「女性特有の健康課題・症状が原因で休職や退職を考えた経験のある女性(20〜50代)」は、全体で3割に上ることがわかった。年代別に見ると30代の割合が最も高い。

  • 1位:30代(36.0%)
  • 2位:20代(33.7%)
  • 3位:50代以上(25.8%)
  • 4位:40代(25.7%)

では具体的に、この女性たちをそう思わせたのは何の健康問題なのか?トップ3を表にまとめた。各年代で女性特有の健康問題が異なる点にも着目したい。

【休職や退職を考えた時の理由となった健康問題】
20代 30代 40代 50代以上
1位 メンタルヘルス 妊娠・出産関連 妊娠・出産関連 妊娠・出産関連
2位 妊娠・出産関連 メンタルヘルス メンタルヘルス メンタルヘルス
3位 月経関連
PMS
不妊・妊活 月経関連 更年期障害
4位 不妊・妊活 月経関連 PMS 月経関連
5位 頭痛・偏頭痛 PMS 不妊・妊活 PMS

 

女性特有の健康問題が原因で職場で諦めたこと

同調査では、「女性特有の健康問題が原因で職場で諦めたこと」についても聞いている。前述の調査結果と合わせ次の結果を見ると、女性の健康問題に取り組まないことは、企業の生産性低下を招き、女性の活躍推進を阻むことがよくわかる。

  • 1位:正社員として働くこと(24.6%)
  • 2位:昇進や責任の重い仕事につくこと(20.4%)
  • 3位:希望の職種を続けること(16.2%)
  • 4位:管理職となること(13.8%)
  • 5位:研修や留学、赴任などのキャリアアップ(11.5%)

女性が会社で必要だと感じたサポート

「女性特有の健康問題が原因で休職・退職を考えた、3割」という調査結果を紹介したが、この質問には続きがあり、「休職・退職を考えた時に必要だと感じたサポート」についても聞いている。次がその結果で、制度やコミュニケーションによるサポートを求める声が多いことがわかった。

  • 1位:会社による業務分担や適切な人員配置などのサポート(41.8%)
  • 2位:受診・検診・治療のための休暇制度や柔軟な勤務形態など両立を支えるサポート(38.7%)
  • 3位:上司や部署内でのコミュニケーション(34.5%)
  • 4位:総務部や人事部などからのアドバイスやサポート(24.6%)
  • 5位:産業医や婦人科医、カウンセラー、アドバイザーなど専門家への相談窓口(24.1%)
  • 6位:病気や出産・育児などのライフイベント、年齢などにかかわりなく活用できるキャリアアップ制度(21.5%)
  • 7位:保険者によるサポート(17.1%)
  • 8位:事前に予防や意識啓発を図るための健康教育(12.8%)

優先課題は、男女ともに乏しい女性の健康に関する知識

ここまで読むと、女性の健康経営に必要なことは「制度面やコミュニケーションの充実」と帰結しそうになるが、その前に見ておきたいデータがあるので紹介したい。この調査結果を知ると、女性の健康経営推進における真の課題と優先すべき施策が見えてくる。

女性の社会的健康課題、男女ともに低い認知

女性の健康は、今でこそ健康経営の推進や健康ブームにより多くの人が問題意識を持つようになったが、具体的な健康問題の認知度を見ると、そうでもない。「女性の健康問題は色々ある」という認知は進むも、詳細については曖昧な人が多いようだ。

こんな調査結果がある。「女性の健康に関する社会的な問題の認知度」について男女それぞれに聞いたところ、次の結果となった。健康問題に性差があることを知っている人は男女ともに半数に上るものの、それ以外の女性特有の健康問題については、男性は1割未満、女性ですらも1〜2割程度という低い結果となった。

【女性の健康に関する社会的な問題の認知度】
女(%) 男(%)
発症の仕方や頻度にも男性と比較して性差がある 53.6 41.0
現代は出産の高齢化や回数減少により、生涯で経験する月経数が増えている 20.4 8.8
女性の痩せ・貧血は心身の不調、妊娠出産への悪影響、骨粗鬆症とも関連する 16.9 16.5
不妊治療は、仕事との両立が難しくなる事情が存在する 16.5 9.2
更年期症状は、全ての項目で更年期症状がない人に比べ、指数が低下している 13.6 10.1
ガン治療のため、仕事を持ちながら通院する者は32.5万人、内女性は18.1万人である 12.4 8.6
就労期の女性にはメタボリックシンドロームに該当する割合は少ない 8.2 7.4
仕事の生産性等に与える影響の第3位は月経不順・PMS 8.0 7.3
月経随伴症等による社会経済的負担は年間6,828億円 4.4  6.0

 

女性特有の健康問題による具体的な症状、女性の認知は半数程度

さらにもう少し掘り下げてみよう。女性特有の健康問題による具体的な症状については、男女それぞれでどれくらいの認知があるのか?

こちらも前述の調査結果と同様に女性の方が全項目において認知度が高い。男性は総じて低く、女性特有の健康問題の代表とも言えるPMSであっても2割以下という結果。

【認知している女性特有の健康課題や女性に多く現れる症状】
女(%) 男(%)
月経関連の症状や疾病 75.4 54.7
女性のがん・女性に多いがん 66.6 45.7
妊婦・出産に関する症状・疾病 61.5 39.0
更年期障害 61.5 37.8
不妊・妊活 54.5 31.9
子宮内膜症や女性の良性腫瘍 56.4 27.9
PMS 62.2 18.8
冷えやのぼせなどの血流障害 49.7 28.1
貧血 50.2 26.9
便秘や下痢などの胃腸障害 46.8 26.3
メンタルヘルス 46.7 26.3
頭痛・偏頭痛 49.3 22.5
閉経後の女性ホルモン低下による症状・疾病 45.8 21.2
やせ・肥満・むくみダイエットや栄養障害 43.8 18.1
甲状腺疾患や膠原病などの自己免疫疾患 38.7 14.9
骨盤底の症状・疾病 32.1 10.7

 

男性の認知は女性の半分以下という項目が多く、女性の健康問題について男性の理解がいかに進んでいないかということがわかるが、女性のみに焦点をあてて見ても意外と認知が低くて驚く。月経、妊娠、更年期、女性特有がん、この辺りは半数以上の女性が知っていると回答しているが、それ以外については半数を切っている。女性特有の健康問題といっても、当の本人である女性ですらも、現実はきちんと理解している人は2人に1人程度なのだ。

 制度やコミュニケーション充実の前にすべきこと

女性の健康問題をきちんと理解できている男性はとても少ない上に、女性ですら理解している人は多くない。ここまで読み進めてくると、女性の健康経営推進において必要なことがわかるだろう。

制度やコミュニケーションの充実以前に、社内全体でヘルスリテラシーを上げることが最重要事項なのだ。これを解決できない限り、いくら制度を整えたりコミュニケーションを充実させても、女性の健康を重視する取り組みについて社内で(特に男性ワーカーの間で)理解を得られず、定着を図るのは難しい。

女性の健康問題が会社にどのような損失をもたらすのか?そして、女性が仕事中にどのような健康問題を抱えて苦しんでいるのか?これを男女ともに理解できていれば、様々な制度を利用しやすい空気が醸成され、女性が周囲を気にするあまりに健康を犠牲にしてまで働くといった状況を回避できる。女性同士であっても、女性の同僚の健康問題を理解できるようになるだろう。

ちなみに、女性の健康問題に関する学び意欲は結構高いので、社内で教育の機会を実施して喜ぶワーカー(特に女性)は多いはずだ。

日本医療政策機構の働く女性の健康に関する調査によると、「性や女性の健康に関して、学校の授業でもっと詳しく教えて欲しかったこと」の1位は、「女性に多い病気の仕組みや予防・検査・治療の方法」で48%だった。

 

 

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