健康経営優良法人のメリット・認定基準・健康経営銘柄との違い
「健康経営銘柄」の選定基準と「健康経営優良法人」の認定基準の中に、新たに「女性の健康保持・増進に向けた取り組み」が加えられたことで、これまで以上に関心が寄せられている”女性の健康”。日本の全従業員数のうち約44%(2016年)を女性が占めているという事実から考えても、企業が女性の健康に注視するのは必須の流れ。これを契機に女性ワーカーを取り込もうと、健康経営優良法人制度の活用に動き出す企業は急速に増える見込みだ。健康経営銘柄より取得しやすい健康経営優良法人、その制度の詳細や認定のメリットとは?健康経営銘柄の違いも踏まえて解説。
目次
健康経営優良法人認定制度の基礎知識
健康経営とは
健康経営とは従業員の健康管理を経営課題と捉えることで、生産性向上、企業価値向上、業績向上を目指す経営手法のことを指す。ワーカーの健康に配慮することが結果的に業績につながるという考え方から生まれ、その概念を広めるため、健康経営に積極的に取り組む企業を可視化する取り組みとして生まれたのが、経済産業省による健康経営の顕彰制度で、「健康経営銘柄」の選定と「健康経営優良法人」の認定がある。
健康経営優良法人認定制度とは
健康経営優良法人を認定する健康経営優良法人認定制度は、健康経営を実践している大企業や中小企業などの法人を顕彰する制度。健康経営に取り組む優良な法人を「見える化」することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的に評価を受けることができる環境を整備することを目的としている。
規模の大きい企業や医療法人を対象とした「大規模法人部門」と中小規模の企業や医療法人を対象とした「中小規模法人部門」の2つの部門があり、それぞれの部門で健康経営優良法人を認定する。大規模法人部門は「ホワイト500」という愛称がつけられており、これは、2020年までに500社以上の企業が健康経営に取り組むという目標が設定されたことに由来する。
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申請方法
健康経営優良法人の申請方法は大規模法人と中規模法人で異なる。2019年の申請方法を例に、申請から認定までの流れを見てみよう(参考:「健康経営銘柄2019」及び「健康経営優良法人2019」に係るスケジュール)。
大規模法人
- 経済産業省が実施する「健康経営度調査」に回答し提出(2018/8/27〜10/12)
- フィードバックシートが返却される。その中で「健康経営優良法人(大規模法人部門)の要件に適合している」と判定された場合は申請書類が同封される。
- 保険者と連名で申請書類を提出(2018/11中旬〜11月末)
- 認定審査
- 日本健康会議において認定(2019/2に認定。認定期間は2020/3/31まで)
中小規模法人
- 協会けんぽ等保険者が取り組む「健康宣言」事業に参加
- 自社の取組状況を確認し、認定基準に該当する具体的な取組を申請書に記載して提出(2018/8/31~11/30)
- 認定審査
- 日本健康会議において認定(2019/2に認定。認定期間は2020/3/31まで)
健康経営優良法人の認定基準
認定基準
大規模法人部門と中小規模法人部門、いずれも5つの大項目を認定基準に設定しているが、さらに細かく設定している評価項目と認定の要件に違いがある。
大規模法人部門の認定基準、5大項目
- 経営理念
社内外に健康宣言をしていることと、経営者自身が健診を受診していること(認定の必須要件)。 - 組織体制
健康経営に対する経営層の体制として「健康づくり責任者が役員以上」であることと、健保など保険者と連携していること(必須要件)。 - 制度・施策実行
この大項目にはさらに中項目が設けられている。「自社の健康課題の把握・対策の検討」「健康経営の実践に向けた土台づくりとワークエンゲイジメント」「従業員の心身の健康づくりに向けた具体的対策」「取組の質の確保」の4項目があり、さらに評価項目が細かく決められている。その評価項目に該当する項目数が一定数を満たしている必要がある。 - 評価・改善
健康保持・増進を目的とした導入施策への効果検証を実施していること(必須要件)。 - 法令遵守・リスクマネジメント
定期健診、健康診査・特定保健指導、ストレスチェック(50人以上の事業場)を実施していること。従業員の健康管理に関連する法令について重大な違反をしていないこと(必須要件)。
中小規模模法人部門の認定基準、5大項目
- 経営理念
社内外に健康宣言をしていることと、経営者自身が健診を受診していること(認定の必須要件)。 - 組織体制
健康経営に対する組織体制として「健康づくり担当者」を設置していること(必須要件)。 - 制度・施策実行
この大項目はさらに中項目が設けられている。「自社の健康課題の把握・対策の検討」「健康経営の実践に向けた土台づくりとワークエンゲイジメント」「従業員の心身の健康づくりに向けた具体的対策」の3項目があり、さらに評価項目が細かく決められている。その評価項目に該当する項目数が一定数を満たしている必要がある。 - 評価・改善
(求めに応じて)40歳以上の従業員の健診データを提供すること(必須要件)。 - 法令遵守・リスクマネジメント
定期健診、健康診査・特定保健指導、50人以上の事業場でストレスチェックを実施していることと、従業員の健康管理に関連する法令について重大な違反をしていないこと(必須要件)。
健康経営優良法人に認定されるメリットは?
健康経営優良法人に認定されることで、経営者・従業員には具体的にどのようなメリットがあるのか?経済産業省が行った調査結果が参考になる。以下は、健康経営優良法人2017と2018に連続して認定を受けた法人に聞いた、「認定後の変化や効果」。
この結果について経産省は、健康経営優良法人の認定が、「社内での意識の高まり」「企業イメージの向上」「コミュニケーションやモチベーションの向上」「労働時間適正化や有給取得率の向上」につながったと考察している。
自社内での意識の高まり
大規模法人、中小規模法人ともに最も回答が多かったのは、「自社の健康経営の取り組みのさらなる推進」と「従業員の健康に対する意識向上」で、社内の意識が高まったことをあげている。社内全体で健康意識が高まれば健康経営への理解が進み、企業価値の向上・生産性向上へとつなげられる。従業員としては、健康づくりに理解のある社風が醸成されることで、心身の健康を壊さずに働き続けられる安心感を得られる。ワークライフバランスが整いQOLが高まるので、やる気も向上する。
企業イメージの向上
次に多かった回答が、「他社からの健康経営に関するヒアリングなどの依頼」「顧客や取引先に対する企業イメージの向上」「講演・インタビュー・新聞露出などのPRの機会の増加」で、企業イメージの向上につながる変化をあげた。働き方改革の推進により長時間労働を従業員に強いる企業やパワハラ問題が明るみに出るようになった近年、従業員やその家族が企業に寄せる目は厳しくなっている。一方で、従業員の心身の健康を一番に考える企業は、従業員や家族はもちろん取引先企業や就活生からも高く評価され、社会的評価とともにブランディングの向上につながる。
コミュニケーションやモチベーションの向上
「社内コミュニケーションの活性化」「従業員の仕事満足度・モチベーションの向上」と回答したのは、大規模法人よりも中小規模法人に多かった。健康経営への取り組みとして、社員食堂での健康メニュー提供や、従業員やその家族も含めた運動会の開催、ヨガ教室などの運動プログラムや健康関連の講座の実施、健康行動を行うとポイントが付与されるシステムの導入、仕事中の座り過ぎを防止することを目的にスタンディングテーブルを設置するなどして仕事環境の整備を進める企業が増えており、これらの取り組みが従業員内のコミュニケーション活性化に寄与している。
労働時間適正化や有給取得率の向上
「時間外労働の減少」「有給休暇取得率の向上」と回答したのは、大規模法人に多かった。近年、長時間労働が重大な病気や過労死(自殺を含む)につながる要因として問題視されていることもあり、経営者も従業員も労働時間に対する意識が高まっている。労働時間の適正化が従業員の健康状態に直接的に好影響をもたらしているとして、これを「認定後の変化・効果」と捉えている企業は多い。
「健康経営優良法人」と「健康経営銘柄」の違い
健康経営優良法人の初回選定(2017年)より早く始まったのが、健康経営銘柄の選定。健康経営優良法人認定制度と同様に健康経営に積極的に取り組む企業を顕彰する制度だが、こちらは上場企業のみが選定される。第1回目は2015年、今年で5回目を迎える。条件が厳しく選定企業の数が少ないためハードルが高く、選定されたのは、第1回目は22社、第2回目は25社、第3回目は24社、第4回目は26社、今回の第5回目は37社のみ。一方、健康経営優良法人は選定数が多く、2019年は大規模法人部門に821法人、中小規模法人部門に2,503法人が認定され、前回の2.5倍の認定数となった。健康経営銘柄2019で選定された企業一覧は「健康経営優良法人2019に3,324法人を認定(ウーマンズラボ)」から確認できる。
今後の健康経営
経産省は今後の健康経営の方針として、中小企業への普及促進と、健康経営による女性の健康課題への対応をあげている。
中小企業への促進
国内の中小企業に健康経営の認知度と実施状況について聞いたところ(平成29年実施,3,476社が回答)、52%が「健康経営を全く知らなかった」と回答、32%が「聞いたことがあるが、内容は知らない」と回答しており、中小企業間で健康経営が浸透していないことが浮き彫りとなった。
だが、健康経営実践の現状と意向について尋ねると53%の企業が「今後取り組みたい」と回答しており、健康経営に対して前向きな企業は多い。
各自治体では中小企業の健康経営を推進するために、独自の認定・表彰制度を実施しており、各地域でも健康経営に取り組む企業の「見える化」が進んでいる。
女性の健康課題への対応
中小企業への促進と合わせて重要視されているのが、女性の健康課題への対応。日本の全従業員のうち約44%は女性が占めており(2016年)、女性の健康課題への対応は急務だ。女性は、月経随伴症、妊娠、更年期症状といった女性特有の体の変化による不調があるため、仕事と健康の両立は働く女性にとって大きな課題である。経産省のまとめでは、月経随伴症による1年間の労働損失は4,911億円と試算されている。よって、健康経営において女性の健康課題への対応として女性が働きやすい環境を進めることが、生産性向上や企業の業績向上に結びつくとの考えから、今回から、健康経営銘柄の選定基準と健康経営優良法人の認定基準に女性の健康に関する取り組みの項目が設けられた。
すでに企業の女性の健康づくりに対する関心は高く、経産省ヘルスケア産業課が行った調査では、「健康経営の取り組みで関心が高いものは?」という質問に対し「女性特有の健康問題対」が56%で最も回答数が多い結果となった。
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健康経営、企業のスタンダードに
健康経営優良法人の認定は健康経営銘柄の選定よりも基準がやさしく、また、政府や各自治体による中小企業への推進と、女性の健康づくりが認定基準に入ったことで、健康経営優良法人の認定にチャレンジする企業は今後さらに加速度的に増えると考えられる。健康経営が企業のスタンダードになる日は近い。
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