性差で見る「チル消費」、女性は「ご褒美のため」男性は「リセットするため」
本稿は、女性インサイト総研の株式会社ハー・ストーリィによる連載記事です。女性視点マーケティングで30年以上にわたり企業の商品開発やマーケティングを支援する同社では、女性インサイトを探る調査を常時実施しています。前回の「キダルト消費」に続き今回のテーマは、近年注目の「チル消費」。性差視点から、女性特有のチル消費を解き明かしていきます。
目次
チル消費とは?その実態を調査
近年、心身の疲労やストレスへの対処として「チル消費(=休息・癒しを目的とした消費行動)」への関心が高まっている。そこで、休息やリラックスに対する意識や行動の実態を把握するため、WEBアンケート調査を実施した。調査の結果、男性は「気持ちの切り替え」、女性は「自分をいたわる・ご褒美」を目的とする傾向が明らかに。また、男女で異なる意識の差がチル消費の内容や支出にも反映されていることがわかった(調査概要:15歳以上の女性462人・男性68人にインターネット調査を2025年4月に実施)。
日常的にストレスを感じる女性は約8割、要因は男性より“複合的”
「日常でストレスを感じているか。感じている場合はその要因は何か」という質問では、女性の82.0%が日常的にストレスを感じていると回答、さらには「とてもストレスを感じている」と回答した割合は32.0%と、男性(17.6%)の約2倍に達した。ストレスの原因については、男性は「仕事(60.9%)」が中心であったのに対し、女性は「仕事(54.9%)」に加え、「家事・育児(43.5%)」や「介護(28.3%)」など、家庭内での役割も重なっていることから、複合的な役割負担がストレスの主因となっていることが明らかとなった。
日常的に疲労を感じる女性は約9割、要因は男性より“多重的”
続いて、「日常的に疲労を感じるか。感じる場合はその要因は何か」という質問では、女性の88.1%、男性の80.8%が「日常的に疲れを感じている」と回答し、特に「とても疲れている」と答えた割合は女性35.3%、男性17.6%と、女性の方が深刻な疲労を抱えていることが浮き彫りとなった。その背景として、女性は仕事(52.1%)に加えて「家事・育児(36.6%)」や「人間関係(28.5%)」、「介護(8.1%)」など、家庭内・生活周辺での負荷が高く、多重的な疲労要因を抱えている傾向がある。一方、男性は「仕事(60.0%)」が突出しており、他の要因は1ケタ台にとどまるなど、疲労の構造自体に性差が見られた。
ストレス・疲労対策のセルフケア行動者率、女性9割、男性7割
ストレスや疲労に対して何らかの対策を取っている人の割合を調査すると、女性は92.0%と高く、男性(77.2%)よりもセルフケアへの意識が強いことが明らかになった。
休息・リラックスの目的にも性差、女性は「いたわり・ご褒美」、男性は「気持ちの切り替え」を重視
「休息・リラックス」によって求めることを調査したところ、男性は「気持ちを切り替えたい(33.8%)」、「安心感を得たい(30.8%)」など“気分転換”を重視する傾向が強い。一方、女性は「自分をいたわりたい(42.3%)」、「ご褒美をあげたい(39.6%)」、「睡眠の質を高めたい(39.2%)」など、心身を回復させるための“自分へのケア”を重視していることが特徴として表れた。
休息・リラックスのスタイルは、女性は「分散型」・男性は「没頭型」
半年以内に「休息・リラックス」するために行動したものは何か、という質問には男女共に、日常の延長線上で取り入れられる”自宅で気軽にできること”が上位を占めた。だが、男性は「横になる」「散歩」「動画を見る」など、静的で個人的な手段に集中しているのに対し、女性は「カフェ・外食」「自宅での入浴」「ヨガ・ストレッチ」「推し活」「お菓子・料理を作る」など手段が多岐にわたっている。
女性は休息を取れていない背景から、重視したいことも多い傾向に
「休息・リラックスに関して今後重視したいこと」という質問に対し、女性はほぼすべての項目で男性よりも高い数値になった。これは、女性の方がストレス・疲れを感じている割合が高く、休息する時間も取れていない背景から、より強い不満があり、重視したいことが多いと考えられる。
チル消費は“癒し”より“いたわり”へ進化
今回の調査結果からは、「ストレスに対する性差構造」が消費にも強く反映されていることが読み取れます。特に女性は「機能性」だけでなく「情緒性・意味性」までを含んだ“セルフケア体験”を求めており、休息=ご褒美・いたわり時間と位置付けていることが明らかとなった。このことは、以下のような商品・サービス設計において大きな示唆となる。
- 「ご褒美」に見えるパッケージ・ネーミング
- 忙しい中でも“すぐできる”“すぐ満たされる”体験設計
- ひとりで完結できる+共感・シェアできる構造(SNSとの親和性)
こうした“休息の目的”の違いは、消費行動にも直結しており、女性の「チル消費(癒し・ご褒美系消費)」は、今後の消費市場における成長領域として注目される。
【提供元】 株式会社ハー・ストーリィ
【資料無料ダウンロード:本稿詳細をダウンロード可能】法人クラブ inher会報誌 HERSTORY REVIEW 2025年6月号「男性はリセット、女性はご褒美 男女で異なる急速ニーズ『チル消費価値』」
女性顧客のインサイトを見える化する日本で唯一の専門コンサルティング会社、女性インサイト総研 株式会社ハー・ストーリィです。1990年の創業以来、女性の消費行動や深層心理を継続的に研究・分析し、 企業のマーケティングや商品開発における課題解決を支援しています。職業や家族構成などの「ライフコース」と、年齢や年代といった「ライフステージ」の2軸で女性を分類し、実態に基づくデータを体系的に分析。得られた知見をもとに、企業の戦略設計や施策の最適化を行っています。
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