なぜ女性に響かない? なぜ男性に売れない?17年間の7万人調査で見えた「男女で異なる購買のスイッチ」
本稿は、女性インサイト総研の株式会社ハー・ストーリィによる連載記事です。女性視点マーケティングで30年以上にわたり企業の商品開発やマーケティングを支援する同社では、女性インサイトを探るため、長年にわたる調査で定点観測をしています。今回は、17年間で蓄積した7万人のデータをもとに、男女の購買行動の違いを紐解いていきます。
目次
17年間・7万人の蓄積データから導く、次の「男女別戦略」
当社では、2004年より男女の購買行動の違いに着目し、継続的に研究を重ねてきた。2008年以降は当社で開発した男女購買行動診断ツールを活用し、これまでに蓄積されたデータはのべ7万人にのぼる。この豊富なデータから浮かび上がった“男女の違い”をもとに、今後の戦略立案に資する知見を整理した。すると、性差に着目することで、訴求対象に応じた伝え方や提案の方向性を選べるようになり、マーケティングや営業施策の精度を高める視点が得られることがわかった(調査概要:2008年6月~2025年5月まで、診断ツールを用いたインターネット調査を実施。15歳~70代の男性 19,723人、女性 47,870人が回答)。
購買行動は3タイプに分類される
本調査では、診断ツールから導き出された購買行動を次の3タイプに分類している。
- 戦略型:スペック・機能・コストパフォーマンスを重視し、論理的に比較して選ぶタイプ
- 調和型:「使う場面」「気分」も意識して選ぶ、論理と感覚のバランス型
- 平穏型:「気分が上がる」「心地よい」といった感情価値を優先、“買い物そのものを楽しむ”タイプ
17年間分の診断結果を分布図に表すと、男性は「戦略型」、女性は「平穏型」が最も多い。特徴的なのは、男性は「戦略型」に寄り、「調和型」「平穏型」へと少数ながら左右幅が広がっている。女性は「調和型」の中央位置に集まり、左右幅の広がりは少なくなる。
女性は商品を「使う場面の心地よさ」で選択、男性は商品を「スペック」で比較
「戦略型」が多い男性の購買決定は、「引き算=優劣・徹底比較」。欲しいものを他の商品・サービスと徹底的に比較して選ぶ男性は、頭の中で「比較表」をつくり、スペックや価格を並べて合理的に判断しようとする傾向が強い。一方、「平穏型」が多い女性の購買決定は「足し算=加点の総合判断」。商品・サービスがどれだけ自分の日常を幸せにしてくれるか?が購入の決め手で、幸せの加算点数が評価基準となるため、頭の中はネットワーク状になっている。
女性は社会環境の変化によって購買行動も影響を受けやすい
購買行動のタイプについて2008年から2025年までの変遷を追うと、男性では大きな変化が見られず、年代による比率の揺れも少ない。一方、女性は社会環境の影響を受けやすく、自然災害や物価高騰など社会情勢に合わせて柔軟に購買行動を変えている。男女ともに大きな変化が現れた2021年は、2020年から続くコロナ禍により生活様式が大きく変化したことが要因と考えられる。また、近年は若年層を中心に男性の育児・家事参加が増えているため「調和型」が微増したと推察される。
購買行動に見る集中と分散の傾向、女性は「感性重視で多様に選ぶ」 男性は「一点集中型」
男女購買行動診断では、「訳もなく、ちまちました雑貨などを『かわいい』と言うだけで買ってしまうことがあるか?」「ちょこちょこと買い物するより、高価な物を買うと達成感があるか?」など全30の設問に「はい」「いいえ」の2択で回答してもらっている。最新の2025年の結果を見てみると、男女間で差異が大きく女性の回答者が多かった上位5項目(以下上図)と、男女間で差異が大きく男性の回答者が多かった上位5項目(以下下図)では、選び方や価値基準に顕著な違いが表れた。男性は「機能性」や「優位性」を重視し、目的に向けて一点集中で選ぶ“没頭型”の傾向が強い一方で、女性は、感性や気分による衝動的・分散的な買物行動が目立つ。これらの結果から、男性は商品の機能や優位性を重視し、女性は購買後の気持ちや情緒的な価値に重きを置く傾向が読み取れる。
女性の購買を左右する「6つの選択価値基準」
女性の購買行動には、商品の機能や価格といった「スペック重視」の視点だけでなく、「誰と」「どこで」「どう使うか」といった「暮らしに根ざした視点=ライフスタイル志向」が強く影響する。こうした特性をふまえ、当社では、女性が商品やサービスを選ぶ際に重視するポイントを「6つの選択価値基準(持続的価値・共感的価値・個人的価値・情緒的価値・基本的価値・便宜的価値)」として整理している。これは、機能・品質・デザインなど “モノそのものの特性” に注目するプロダクト志向だけでなく、社会貢献・環境配慮・共感など “買い手の価値観や気持ち” に寄り添った視点までを含む、女性の選択を多角的にとらえるためのものだ。実際、今回の診断データでも、男性はスペックや価格などの“優位性”を重視する傾向が強いのに対し、女性は利用シーンを想像しながら、この6つの視点で商品を判断しており、その重視度はシーンによって柔軟に変化している。女性市場を的確にとらえるには、こうした複層的な価値観を前提に、戦略を設計することが不可欠だ。
蓄積データの結果から見えた、男女で異なる購買の“スイッチ”
今回の分析結果から、男女の購買行動には明確な傾向の違いが存在することがわかった。男性は機能性や合理性を重視し、買い物を “目的達成の手段” と捉える傾向が強い。一方、女性は感情や体験を重視し、購買そのものを楽しむ “プロセス型” の傾向が見られる。
また、こうした行動特性は固定的ではなく、特に女性ではライフステージや社会環境の影響を受けやすく、柔軟に変化する。一方、男性も近年では育児参加の進展や社会的価値観の変化により、行動に揺らぎが見られ始めている。こうした変化を的確に捉えるためには、性別や時代背景に応じたコミュニケーション設計と、インサイトに基づく柔軟な戦略の構築が不可欠だ。
【提供元】 株式会社ハー・ストーリィ
【資料無料ダウンロード:本稿詳細をダウンロード可能】17年間、7万人の購買行動データから見る 「男女で比較!購買分析レポート」
女性顧客のインサイトを見える化する日本で唯一の専門コンサルティング会社、女性インサイト総研 株式会社ハー・ストーリィです。1990年の創業以来、女性の消費行動や深層心理を継続的に研究・分析し、 企業のマーケティングや商品開発における課題解決を支援しています。職業や家族構成などの「ライフコース」と、年齢や年代といった「ライフステージ」の2軸で女性を分類し、実態に基づくデータを体系的に分析。得られた知見をもとに、企業の戦略設計や施策の最適化を行っています。
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