防災市場を動かすヒントは性差とクラスターへの着目、男女で異なる防災意識・行動が明らかに

本稿は、女性インサイト総研の(株)ハー・ストーリィ(東京・港)による寄稿記事です。女性視点マーケティングで、30年以上にわたり企業の商品開発やマーケティングを支援する同社の豊富な知見と調査をもとに、ヘルスケア業界でも近年関心が高まっている防災市場の動向を解説。女性の防災意識・行動を、性差視点で解説します。

防災の実態調査を実施

近年、自然災害の頻発を受け、防災への関心が高まっている。そこで、防災に対する意識や取り組みの現状を把握するために、防災に関する意識調査を実施した。アンケートの結果から、約6割が「防災意識が高まった」と回答。男女の違いなどにも着目し、より実態に即した防災意識の現状を探った(調査概要:10~70代の男女1,353人にインターネット調査を2025年1月に実施)。

 

防災意識が高いのは男性より女性、「シングル」より「ママ」

直近1年以内の防災に対する意識の変化をアンケートしたところ、全体の約60%の人が「防災意識が高まった」と回答しており、多くの人が災害に対する意識を強めていることがわかった。男女で比較すると、女性の方が男性よりも防災意識が高まっている。また、女性を属性ごとに比較した場合、シングル層よりも家族を持つ(特に幼い子どもがいる)層の方が防災意識が高い。子どもを守る責任感や家庭での防災対策の必要性が防災意識に影響している可能性がある。

【出典】ハー・ストーリィ(直近1年以内の防災に対する意識の変化に関する調査結果グラフ)

【出典】ハー・ストーリィ(直近1年以内の防災に対する意識の変化に関する調査結果グラフ)

 

地域で異なる、防災意識が向上したきっかけ

直近1年で「意識が高まった」理由を聞いたところ、能登半島地震(2024年1月)が防災意識向上の最も大きなきっかけになっていた。全国的にこの地震をきっかけに防災意識を持った人が多い。特に北陸地域(富山・石川・福井)では56.2%の人が防災意識向上を実感している。また、九州地方では宮崎日向灘地震(2024年8月)がきっかけになった人が16.7%、四国地方では南海トラフ情報(2024年8月)がきっかけになった人が42.3%いた。

【出典】ハー・ストーリィ(直近1年で「意識が高まった」理由に関する調査結果グラフ)

【出典】ハー・ストーリィ(直近1年で「意識が高まった」理由に関する調査結果グラフ)

 

 

防災グッズの備え、地域と世代で差が鮮明に 東北地方の人とシニア女性は備える傾向強

防災グッズの備えについて聞いたところ、73.5%が「備えがある」と回答した。地域別に見た場合、最も高かったのが東北地方で85.9%。最も低かったのが北海道で66.7%。女性の属性別に見た場合、最も高かったのがセカンドライフ層(65~79歳のシニア女性)で86.2%。低かったのが若手シングル層(25~39歳の働く独身女性)・中堅シングル層(40~49歳の働く独身女性)で約63%。

【出典】ハー・ストーリィ(防災グッズとして備えているものの有無に関する調査結果グラフ)

【出典】ハー・ストーリィ(防災グッズとして備えているものの有無に関する調査結果グラフ)

 

非常用持ち出し袋の備え、「ママ層」で多く「若手シングル層」は少

非常用持ち出し袋一式の用意について聞いたところ、全体では52.8%が用意していると回答した。乳・幼児期ママ層(0歳~未就学児の子を持つ母親)と、児童・思春期ママ層(小学生・中学生の子を持つ母親)が非常用持ち出し袋を用意している割合が高い。一方、若手シングル層(25~39歳の働く独身女性)は用意していない人が58.2%と、比較的多いことがわかった。また、未婚・既婚どちらの場合も子どもがいない女性は、同居家族全員分を準備している傾向が高い。これには、準備する防災グッズの量が少ないことが影響していると考えられる。

【出典】ハー・ストーリィ(非常用持ち出し袋一式の用意に関する調査結果グラフ)

【出典】ハー・ストーリィ(非常用持ち出し袋一式の用意に関する調査結果グラフ)

 

非常用持ち出し袋は何に備えるため?トップ3

どのような災害を想定して非常用持ち出し袋を用意しているのかを聞いたところ、97.8%もの人が「地震」と回答。日本人にとって地震は避けることが難しい災害との認識が強くあることがわかる。大雨・暴風が36.5%、津波(地震が原因で発生するもの)が19.7%と続いた。

【出典】ハー・ストーリィ(どのような災害を想定して非常用持ち出し袋を用意しているかに関する調査結果グラフ)

【出典】ハー・ストーリィ(どのような災害を想定して非常用持ち出し袋を用意しているかに関する調査結果グラフ)

 

非常用持ち出し袋を用意しないのはなぜ?男女で異なる理由

非常用持ち出し袋を用意していない人に対して、用意していない理由を聞いたところ、「何をそろえればいいか分からない(43.7%)」、「中身の交換が面倒(41.5%)」がトップ2となった。男女別では、女性は「何をそろえればいいか分からない」「置き場所がない」、男性は「中身の交換が面倒」が高い傾向にある。このことから、防災で必要なものが一式そろっているものや、交換がしやすいもの、交換時期がわかりやすいものの需要があると言える。

<女性>
・1位:何を揃えればいいかわからないから(45.6%)
・2位:賞味期限などによる中身の交換が面倒だから(42.5%)
・3位:お金がかかる/値段が高いから(32.0%)
・4位:置き場所がないから(30.6%)
・5位:用意することが面倒だから(20.8%)
・6位:自分には必要ないから(3.3%)
・7位:その他(5.8%)

<男性>
・1位:賞味期限などによる中身の交換が面倒だから(35.3%)
・2位:お金がかかる/値段が高いから(35.3%)
・3位:何を揃えればいいかわからないから(31.8%)
・4位:用意することが面倒だから(27.1%)
・5位:置き場所がないから(17.6%)
・6位:自分には必要ないから(7.1%)
・7位:その他(5.9%)

【出典】ハー・ストーリィ(非常用持ち出し袋を用意していない理由に関する調査結果グラフ)

【出典】ハー・ストーリィ(非常用持ち出し袋を用意していない理由に関する調査結果グラフ)

 

男女の防災グッズを比較!備えている個数に差はないものの内容に差あり

自宅で、防災グッズとして備えているものを聞いたところ、男性は20個中8.6個のグッズを備えており、「ヘルメット、防災頭巾」「手袋、軍手」「乾電池、モバイルバッテリー、非常用電源」「ラジオ、携帯テレビ」を備える傾向が強かった。一方、女性は20個中8.7個のグッズを備えており、「調理器具(カセットコンロ、ナイフ、お皿など)」「女性用品(生理用品、基礎化粧品など)」「乳幼児用品(粉ミルク、離乳食、おむつ、哺乳瓶など)」「簡易トイレ」を備える傾向が強かった。このことから、男性は作業用品や情報収集のためのアイテムに、女性はみんなが過ごしやすく日常に近い生活を営む備えに意識が向いていることが分かる。

【出典】ハー・ストーリィ(自宅で防災グッズとして備えているものに関する調査結果グラフ)

【出典】ハー・ストーリィ(自宅で防災グッズとして備えているものに関する調査結果グラフ)

 

“キモチ”で見る女性 と、“モノ”で見る男性

非常食や防災グッズを用意するとき、どのようなことを意識しているかを聞いたところ、男性は「持ち運びのしやすさ」「品質の良さ」「最新の防災グッズかどうか」といった実用性と機能性を重視していた。一方、女性は「長期保存が可能」「日常生活でも使える」「気持ちをポジティブにしてくれる」「家族構成に配慮している」といった安心感や情緒を重視していることが分かった。また、年代別に見た場合、10~30代では特に、品質の良さや気持ちをポジティブにしてくれるもの、家族構成に配慮したものが選ばれていた。そして、年齢が上がるにつれ、防災用品は「備え」だけでなく日常使いできるかどうかや、自宅避難を想定した品揃えも考慮されるようになっていた。

【出典】ハー・ストーリィ(非常食や防災グッズを用意するとき意識することに関する調査結果グラフ)

【出典】ハー・ストーリィ(非常食や防災グッズを用意するとき意識することに関する調査結果グラフ)

 

フェーズフリーの認知度はまだ2割未満、でも実践者は意外と多い?

フェーズフリー(普段の生活で便利に活用でき、災害時にも役立つ商品・サービス・アイデア)の認知度を聞いたところ、「フェーズフリー」を知っていたのは約2割のみ。男女を比較すると、男性は32.9%、女性は18%が知っていると回答。男性の方がフェーズフリーの認知度が高いことがわかる。女性にはまだフェーズフリーという言葉が浸透しておらず、特に20~30代女性のおよそ7割が「言葉も聞いたことがない」と回答。しかし、前出の非常食や防災グッズを用意する時に意識することについて聞いた質問では、「日常生活で役立つ防災グッズ」を意識している人は全体の約半数にのぼっていた。このことから、フェーズフリーという言葉の認知は進んでいないものの、実際にはその活動や考え方に沿った行動をとっている人が多いことがわかる。

【出典】ハー・ストーリィ(フェーズフリーの認知度に関する調査結果グラフ)

【出典】ハー・ストーリィ(フェーズフリーの認知度に関する調査結果グラフ)

 

 

【提供】 株式会社ハー・ストーリィ

 

【資料無料ダウンロード:本稿詳細をダウンロード可能】女性インサイト研究クラブ in hersotory 会報誌 HERSTORY REVIEW 2025年3月号「防災意識が高まった「6割」備えの新価値『日常×キモチ』」

女性インサイトマーケティング業歴・実績共にNO.1の専門会社、女性インサイト総研の株式会社ハー・ストーリィです。日本の女性5,515万人を対象にオリジナル開発した10クラスター・29ペルソナで女性インサイトを定点的に追い続けています。最新の統計データと独自の定量調査、定性調査、トレンド分析、SNS分析に基づき、生活者の潜在ニーズ(インサイト)を的確に捉え、企業のビジネス機会に繋げることで、社会課題解決と企業発展の両立を目指しています。

 

 

 

 

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