21兆円の総合経済対策、「女性の健康・疾患に特化した研究」や「攻めの予防医療」を盛り込む
政府は今月21日、21.3兆円規模の総合経済対策を閣議決定した。強い経済の実現に向けた対策で、掲げる柱は次の3つ。
- 生活の安全保障・物価高への対応
- 危機管理投資・成長投資による「強い経済」の実現
- 防衛力と外交力の強化
一部の大企業や特定の業界だけでなく、中小企業や地方、あらゆる世代の国民に恩恵を行き渡らせるとしており、女性の健康課題、医療・介護、創薬、予防医療など、ヘルスケア関連の施策も多数盛りこんだ。本稿では総合経済対策の中から、ヘルスケア分野の施策の要点を整理した。
女性・高齢者の活躍に向けた環境整備
- 性別や年齢にかかわらず活躍できる社会の実現に向け、女性の活躍をさらに推進する
- 困難や不安を抱える女性への支援、意欲や能力に応じた高齢者の社会参加を促進する
- 女性用トイレの利用環境の改善に向けて、国内外の動向等の把握を進め、収集した好事例を広く発信する
- 暴力や性犯罪・性暴力の被害者など困難を抱える女性が支援を受けられる体制整備に向け、官民連携による包括的支援、一時保護所の確保、モデル事業等を実施する
- シルバー人材センターが、高齢者の就業ニーズを踏まえた独自事業を創設・運営するための体制整備を支援する
- 認知症の人や家族等の地域の居場所づくりを支援。また、地域支援の担い手として高齢者の自主組織による取組を促進する
「攻めの予防医療」の推進
- 女性特有の健康課題への対応を引き続き推進する。女性の健康総合センターを中心とした診療拠点の整備や研究、地方公共団体における相談支援員養成支援を通じて、女性の健康相談支援体制の構築に取り組む。また、性差に由来した健康課題への対応の普及に向け、女性の健康や疾患に特化した研究やデータの収集・ 解析、情報発信を行う
- 生涯を通じた歯科健診を推進するため、口腔スクリーニングを実施する地方公共団体や民間事業者を支援する
- 科学的根拠に基づくがん検診の受診率向上に向けた取組を進める。具体的には、精密検査未受診者への個別勧奨の徹底とともに、他のがん種に比べて精密検査受診率向上の余地のある大腸がんと子宮頸がんを中心に、普及啓発を進める
- レセプトデータ等を活用した予防・健康づくりへの取組やデータヘルス、保健事業に取り組む保険者を支援する
- AMEDにおける研究開発等を通じて、エビデンスに基づくヘルスケアサービスの開発を支援する
- 移植医療対策を推進するため、臓器移植と造血幹細胞移植を実施する医療機関やあっせん機関の体制を強化する
- 第一類医薬品の定期的な販売区分の変更の要否を検討し、必要に応じ、販売区分を見直す仕組みを設けることについて、2025年度内を目途に結論をまとめる
医療・介護等支援パッケージ
- 「医療・介護等支援パッケージ」は、医療・介護分野で依然として物価・賃金上昇の影響を受けていることを踏まえ、医療機関・薬局・介護施設の経営改善と従業員の処遇改善につなげるための緊急措置
- 医療分野では、診療に必要な経費に係る物価上昇への対応や、物価を上回る賃上げの実現に向けた支援を行う。また、物価上昇の影響を受けた医療機関や福祉施設等の資金繰りを的確に支援するため優遇融資を実施する
- 事業継続に困難が生じている地域の基幹的な民間病院に対しては、民間金融機関と連携して経営改善を図る
- ICT機器等の導入・活用による生産性向上や職場環境改善に取り組む医療機関を支援する。病床数の適正化を進める医療機関に対しては、 医療機関の連携・再編・集約化に向けた取組を加速する観点から、地域の医療ニーズを踏まえ必要な支援を実施する
- 周産期医療と小児医療体制を確保するため、出生数減少等の影響を受けている産科施設や小児医療の拠点となる施設を支援する
- 介護分野の職員について、他職種と遜色のない処遇改善を図る。人材流出を防ぐための緊急的対応として、賃上げ・職場環境改善の支援を行う。
- 介護事業所・施設が、物価上昇の影響がある中でも必要な介護サービスを円滑に継続するための支援を行う。さらに、ICT等のテクノロジーの導入や経営の協働化、訪問介護・ケアマネジメントの提供体制の確保に向けた取組を支援する
- 人材不足が厳しい状況にある障害福祉分野についても、経営状況を踏まえた賃上げ措置等の支援を行う
医師偏在の是正
- 総合的な診療能力を有する医師の養成、医師少数地域の医療機関と医師をマッチングする取組を支援する
- 地域の救急医療体制の維持に向け、ドクターヘリ等の調達・整備、人材確保等の対策を講じる
- 医療・介護・保育等の分野における人材確保のため、ハローワークに設置している全国119カ所の専門窓口を増設する。また、ハローワークと連携を行っているナースセンターによる潜在看護師の掘り起こしを強化する
創薬・先端医療の推進、国内製造拠点の整備
- 健康医療安全保障の構築に向け、医薬品産業を成長・基幹産業と位置付けた取組を進める
- AMED等への支援を通じて、創薬における研究開発を加速化
- 国際水準の治験・臨床試験実施推進により、優れた基礎研究の成果を革新的医薬品として社会実装につなげる
- 再生・細胞医療・遺伝子治療の研究開発を促進するとともに、その生産拠点としてCDMO(受託開発・製造事業者)の設備投資を支援する
- ゲノム情報基盤の整備や解析結果の利活用を進めるため、革新的がん医療の研究開発を支援する他、全ゲノム解析を推進し、がん・難病の全ゲノム等解析等の事業実施組織を2025年度中に設立する
- 創薬プラットフォーム構築を含め、医療研究開発へのAIの利活用を推進する
- 後発医薬品の品目統合や事業再編等に向けて、生産性向上に取り組む企業の設備投資やバイオ後続品の国内製造施設の整備を支援する
- 医薬品卸による安定供給の維持・強靱化に向けた強力な支援を行う
- プログラム医療機器を含め、革新的医療機器の創出に向けた産業振興拠点の強化を支援する
合成生物学・バイオの開発強化
- バイオエコノミー市場の拡大に向けて、バイオ由来製品・バイオ医薬品・再生医療などの研究開発を引き続き推進する
- バイオ技術を活用した再生医療等製品の製造に必要な自動培養装置等の設備導入や人材育成を促進する
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