ヘルスツーリズムの人気事例・認証制度・企画のポイント

ヘルスツーリズムは、個々の健康力アップ、医療費削減、新市場創出、地域活性などが期待されている。需要に対してまだ供給が追い付いていない感は否めず、また、収益の点からヘルスツーリズム導入を見送る地域・旅館・ホテルが多いが、数年前と比較すると確実に広がりを見せている。消費の形態がモノ消費からコト消費へ移行していることもヘルスツーリズムニーズの広がりを後押ししている。ヘルスツーリズムの企画に役立つ基礎知識と事例を紹介。

ヘルスツーリズムとは

ヘルスツーリズムとは

ヘルスツーリズムとは健康増進を図ることを目的にした旅行のこと。従来の観光といえば、「ホテル・旅館に到着→食事→温泉→就寝→チェックアウト」が一般的だったが、ヘルスツーリズムはこれら一連の流れの中の随所にヘルスケアプログラムが組み込まれている。滞在型と日帰り型に分類される。日本ヘルスツーリズム振興機構では、次のように定義している。

「健康・未病・病気の方、また老人・成人から子供まですべての人々に対し、科学的根拠に基づく健康増進(EBH:Evidence Based Health)を理念に、旅をきっかけに健康増進・維持・回復・疾病予防に寄与する」もの。(引用:NPO法人 日本ヘルスツーリズム振興機構)

 

ヘルスツーリズムは、「ウェルネスツーリズム」「ウェルネストラベル」とも呼ぶが、今のところ広く認知されているのは「ヘルスツーリズム」。日本のヘルスツーリズムの主な資源は和食、温泉、森林で、これらを活用して企画されるケースが多い。日本の湯治文化はヘルスツーリズムと相性が良いので温泉がプログラムに組み込まれているのがベストだが、必ずしも必要なわけではなく、温泉がない地域や施設でもヘルスツーリズムを提供することは十分に可能だ。

ヘルスツーリズムはニューツーリズムに含まれる

ヘルスツーリズムとあわせてよく耳にする「ニューツーリズム」は、旅先での人や自然との触れ合いを重視する旅行のこと。テーマ性が強く、地域の特性を活かす体験型に重きを置いている。ヘルスツーリズム、産業ツーリズム、グリーンツーリズム、エコツーリズム、ボランツーリズムなどが含まれる。現在、観光庁は「ニューツーリズムの振興」に代わり、「テーマ別観光による地方誘客事業」に取り組んでいる。

なお、ヘルスツーリズムと似た用語に「メディカルツーリズム」があるが、メディカルツーリズムは、主に海外で医療サービスを受けたり治療を目的とした医療観光を指すため、ヘルスツーリズムとは区別して使用する。

ヘルスツーリズムの分類

ヘルスツーリズムを企画する際は、「基本プログラム単体」にするのか、それとも基本プログラムを複数組み合わせた「複合プログラム」にするのかを決めておくと検討を進めやすい。

ヘルスツーリズム事例

ヘルスツーリズムに期待される「行動変容」

ヘルスツーリズムそのものに心身の健康維持増進の効果を期待できるが、他に期待できるのが、ヘルスツーリズムを通して行動変容を促すこと。行動変容には5ステージあり、特に「無関心期」から「関心期」へとステージが移行するきっかけになることが多い。ヘルスツーリズムで提供される各健康プログラムの体験を通して、健康行動の楽しさに目覚め、健康に対する興味関心が高まるからだ。

行動変容ステージモデル

ヘルスツーリズムの主な利用者

ヘルスツーリズムは「一般的な旅行や宿泊」に「ヘルスケアプログラム」が追加されるプランになるため、価格は高くなりがち。そのため、全てではないがヘルスツリーズムの多くは価格帯の高さから、中間層上位~富裕層の利用が目立つ。

また、もともとヘルスリテラシ―は、低所得者層よりも高所得者層の方が高いことからも、ヘルスツーリズムに関心を寄せるのは所得に余裕がある層になりやすいという特徴がある。そのため、ヘルスツーリズムの企画においては、所得にある程度余裕のある層をターゲットにそえると、集客しやすい傾向にある。

なお、当サイト運営会社である当社「ヘルスケア女性マーケティングのウーマンズ」の分析では、富裕層女性を8クラスターに分類している。同じ富裕層でもそれぞれ特徴が異なるので、ヘルスツーリズムの企画において、富裕層女性を対象にすることを検討している場合は、ぜひ当社分析レポート「富裕層女性の分類」もご参考にして頂きたい。

 

 

ヘルスツーリズムの認証基準

ヘルスツーリズム認証制度とは

ヘルスツーリズム認証制度とは「旅と健康」の視点から観光商品を客観的に評価する第三者認証サービスのことで、ヘルスケアサービスの品質を見える化することを目的としている。国は健康寿命を延ばす事業を推進しており、ヘルスツーリズム認証制度は、経済産業省「健康寿命延伸産業創出推進事業」の一環として誕生した。ヘルスツーリズム認証委員会が認証する。消費者にとっては品質が保証されたヘルスツーリズムの体験が可能で、提供者にとっては国内旅行者だけでなく外国人旅行者や企業の社員旅行向けに品質を保障したヘルスツーリズムをPRできる。

取得の手続き

ヘルスツーリズム認証制度を取得をしなくてもヘルスツーリズムの提供や集客は可能だが、取得する場合は以下の流れとなる。

申請の流れ

  1. 申請受付
  2. 申請要件への適合確認、申請受理
  3. 契約締結、初回認証審査料金の請求
  4. 審査様式の送付 (事業者は審査様式への記入及び資料提出)
  5. 審査の実施
  6. 認証の判定、付与及び公表
    ※1~7までおよそ3カ月

2020年度の認証スケジュール

  • <第6期申請受理>  ~2019年12月27日
  • <第7期申請受理>  ~2020年5月29日
  • <第8期申請受理>     ~2020年11月13日

申請

申請はこちらから。

ヘルスツーリズムの事例

ヘルスツーリズム認証を取得した事例

(1)癒やしの森のセラピーウォーキング(千葉県 南房総市)

  • 【特徴】
    森林セラピー基地に認定されている大房岬自然公園で森と海を活用する、ドイツの気候療法を取り入れたプログラム
  • 【健康テーマ】
    ・生活習慣病
    ・運動
    ・心の健康
  • 【プログラム内容】
    1.オリエンテーション、健康チェック(15分)
    2.ウォーミングアップ・準備体操・ストレッチ(15分)
    3.砂浜タラソウォーク&ビーチコーミング(15分)
    4.ストレッチ、座観(15分)
    5.森林セラピー、要塞跡見学(15分)
    6.ストレッチ、記念撮影、脈拍・皮膚表面温度測定(15分)
    7.香り体験、音当カルタ(ネイチャーゲーム)(10分)
    8.ハンモックで休憩(20分)
    9.森林セラピー(15分)
    10.ストレッチ、健康チェック、アンケート記入、ふり返り(15分)
  • 【公式サイト】
    こちら
    ※参考:ヘルスツーリズム認証委員会

(2)乳がんリハビリヨガ(兵庫県 神戸市)

  • 【特徴】
    乳がんリハビリヨガインストラクターが、心身をサポート。レッスン後は、通常は宿泊者限定の「展望大浴場」の貸し切り利用可
  • 【健康テーマ】
    ・生活習慣病
    ・運動
    ・心の健康
  • 【プログラム内容】
    1.ヨガプログラム(60分)
    2.天然温泉入浴(60分)
  • 【公式サイト】
    こちら
    ※参考:ヘルスツーリズム認証委員会

(3)大自然阿蘇健康の森 基本プラン3泊4日(熊本県 南阿蘇村)

  • 【特徴】
    阿蘇の自然に囲まれた環境を強みに、健康の専門家が監修した生活習慣病予防のための健康体験を通じて「自分の健康は自分で守る」を学び実践する滞在型健康プログラム
  • 【健康テーマ】
    ・生活習慣病
    ・運動
    ・食
    ・心の健康
    ・飲酒、喫煙
  • 【プログラム内容】
    <1日目>
    ・オリエンテーション(20分)
    ・健康チェック(60~90分)
    ・肉体年齢測定(60分)
    ・ヘルスケア温熱浴体験(60分)
    ・夕食
    ・温泉ヒーリング(60分)
    ・就寝
    <2日目>
    ・朝のウォーキングや朝湯など自由行動
    ・朝食
    ・健康講座(40分)
    ・健康運動トレーニング~骨盤調整体操など(60~90分)
    ・昼食
    ・運動チャレンジ体験(60~90分)
    ・自由行動・リラクゼーションタイム~動物ふれあい体験、酸素浴、瞑想体験など
    ・ヘルスケア温熱浴体験(60分)
    ・夕食
    ・温泉ヒーリング(60分)
    ・就寝
    <3日目>
    ・朝のウォーキングや朝湯など自由行動
    ・朝食
    ・自由行動~施設内にて運動チャレンジ体験、周辺観光など
    ・健康料理教室・昼食(120~150分)
    ・運動トレーニング~ピラティス、VRサイクリングなど(60~90分)
    ・ヘルスケア温熱浴体験(60分)
    ・夕食
    ・温泉ヒーリング(60分)
    ・就寝
    <4日目>
    ・朝のウォーキングや朝湯など自由行動
    ・朝食
    ・健康チェック 血圧&血行動態測定、体成分分析など(40~60分)
    ・健康講座(40分)
    ・昼食
  • 【公式サイト】
    こちら
    ※参考:ヘルスツーリズム認証委員会

ヘルスツーリズム大賞を受賞した事例

日本ヘルスツーリズム振興機構が実施しているヘルスツーリズム大賞の受賞事例。

(1)保健農園ホテルフフ山梨(山梨県 山梨市)

  • 【特徴】
    医師・専門家が監修する、心のバランスに着目した体験プログラムを提供。マインドフルネスの理論を重視。曜日ごとに異なるメニューを用意
  • 【健康テーマ】
    ・運動
    ・心の健康
  • 【プログラム内容】
    宿泊代にすでに含まれているプログラムとオプションプログラム、2つのパターンを提供
    <宿泊代にすでに含まれているプログラム>
    ・座禅
    ・クリヤヨガ
    ・マインドフルネスヨガ
    ・農園づくりクッキング
    ・無極功
    ・操体法
    ・セルフ筋膜リリース
    ・からだリセット
    <オプションプログラム>
    ・森林セラピー
    ・トレッキング
    ・アロマトリートメント
    ・アート療法
    ・自律神経バランス測定
    ・個別カウンセリング
    ・体質改善アロマテラピー
    ・筋膜リリースセラピー
    ・アーユルヴェーダ
  • 【公式サイト】
    こちら

(2)ホテルクエスト清水(静岡県 清水市)

  • 【特徴】
    食事制限が必要な人でも楽しめる「駿河湾レシピ」を糖尿病専門医の監修のもと開発、ホテル内レストランで常時提供。糖尿病患者だけでなく健康志向の健常者の利用も促している。低たんぱくコースも提供
  • 【健康テーマ】
    ・食
  • 【プログラム内容】
    低糖質パスタ、低糖質パン、低糖質スイーツを提供
  • 【公式サイト】
    こちら

その他、全国各地の取り組み事例

他、全国各地で提供されているヘルスツーリズム事例は以下。

  • スパリゾートハワイアンズ
    エクササイズ専用プールで水中ウォーキングを提供
  • 江の島アイランドスパ
    温泉、プールエリアでの水中運動、ヘルシーメニュー、トリートメントスパなどを提供
  • リハビリ旅行(昼神温泉)
    稲取温泉または昼神温泉の滞在を目標に、リハビリ旅行療法士と共に旅を計画・実施。旅行を通じて心身の機能回復、QOLの向上を図る
  • 久米島町観光協会(沖縄県 久米島)
    アレルギー対応食を提供
  • 熊野古道(和歌山県 田辺市)
    熊野古道ウォーキング。道中ストレッチなどを取り入れ、健康配慮の弁当を用意

企業が実施するヘルスツーリズム取り組み事例

  • サンスター
    1985年に、社員の健康づくりの場として開設された健康道場。現在は一般客も利用できる。「サンスター心身健康道場1日体験」は2019年は5月14日(火)、6月25日(火)に開催
  • メナード化粧品
    メナード化粧品が提供する美容に特化したリゾート旅。三重県伊賀市・青山高原の中に位置する、総合リラクゼーションリゾート「メナード青山リゾート」に宿泊する

 

今後求められるヘルスツーリズムとは?企画のポイント

ヘルスツーリズムに取り組む地域や施設、企業が増えているとはいえ、まだまだヘルスツーリズム市場は発展途上と言える。成功事例がまだ多くはないこと、収益確保の難しさ、社内オペレーションや社内理解を得づらいことなどが課題となり、取り組みに意欲的になれないことが大きい。最後に、ヘルスツーリズム企画のポイントを紹介。

  • 地域ならではの魅力を活かした地元食材をふんだんに使う。どこでも食べられる食よりもその地域でしか食べられない食にニーズがある
  • 健康プログラムのエビデンスはあるのがベストだが、必ずしも必要ではない(エビデンス取得を重視しすぎると、時間・労力・金を多く使うことになるため)
  • 消費者がヘルスツーリズムに求めることは、「その地域ならではの体験」。最新トレンド(=海外トレンドや東京トレンド)を無理に入れる必要はない
  • 歴史、文化、伝統をほどよく取り入れる(地域資源の活用)
  • ターゲットのヘルスケアニーズと合致した健康テーマになっているか要確認
  • 若い層をターゲットにするなら、今流行っているヘルスケアトレンドを取り入れると集客しやすい。高齢層をターゲットにするなら、人との交流に重きを置いたヘルスケアプログラムだと集客しやすい。このように、ターゲットごとに「集客しやすい健康プログラム」は異なる
  • ヘルスツーリズムは価格帯を高く設定しないと、事業として成立しづらい側面もある。安ければその分集客も容易になるが、事業として成立させることを目的にしているなら、富裕層女性をターゲットに策定するのがおすすめ(富裕層女性の分類レポートはこちらをご参考に)。一方で単純な話題づくりや、広報活動の一環なら特に富裕層女性をターゲットにする必要はなく中間層ターゲットでも問題ない
  • プログラムが魅力的でも、“見せ方”で集客に失敗するケースも多々ある。“見せ方”は十分な工夫を。参考にしたいのは、保健農園ホテルフフ山梨
  • そうではないケースもあるが、基本は、ヘルスツーリズムは地域との連携(観光資源の活用)がカギ
  • 「ヘルスツーリズムを探しているがなかなか見つけられない」という消費者の声は意外に多い。開発して終わりではなく、消費者にどうリーチするか?のPRの部分までしっかりとマーケティング設計を行う
  • 旅館やホテルなどでヘルスツーリズムを企画する際、ネックになりやすいのは社内理解。個々の従業員に新たな仕事負担が発生するため、社内協力を得ることに苦戦することも。社内理解を得るために時間を割くことは重要。参考にしたいのは、星野リゾート
  • 旅館やホテルなどでヘルスツーリズムを企画する際、オペレーションの複雑さがネックになる。いかにオペレーションをシンプルに設計するか?が運用のカギ

 

 

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