マツキヨココカラ副社長に聞いてみた、「ドラッグストアでフェム系商品の取り扱いは進む?」
先月末から3日間にわたり開催されたJapanドラッグストアショーでは、今年で2回目となる「フェムケアゾーン」が目玉企画として開催された(詳細:3日間で10万人が来場「Japanドラッグストアショー」 フェムケアゾーンに32社が出展)。来場者となる生活者に向け、女性特有の健康課題やフェム系商品の理解促進・認知向上を図ることを主目的としているが、ドラッグストアの各店頭でフェム系商品の取り扱いが広がることも同時に目指して実施しているもので、開催初日の記者会見で事務総長は、「女性の健康課題を、小売として生活者の身近にあるドラッグストアで解決していきたい。今後、それをメーカーや卸にアピールしていく」と意気込みを語った。だが課題は山積、実現までの道のりは険しい。
課題は山積、生活者認知は低迷
フェムテックの生活者認知は未だ低迷しており、矢野経済研究所による2021年以降の経年調査では、徐々に認知が高まっていることを明らかにしているが、2023年時点でも1割を切り、わずか7.1%に留まる(調査対象は20〜60代女性)。女性の健康事業に取り組む企業やアクティビスト、トレンドに敏感なアーリーアダプターの間では言葉の理解が広く進むも、市場全体で見ると、認知しているのは残念ながら今なお少数だ。
商品の利用経験率と購入意向率を見ても、大きく期待できるものとは言い難い(矢野経済研究所「フェムケア&フェムテック市場に関する消費者アンケート調査」2023)。生理管理アプリ、婦人体温計など、以前から広く普及している商品カテゴリーについては利用経験率は5割台と半数に達するが、フェムテックのブーム以降で知られるようになったアイテム、例えば月経カップ、ホルモン検査キット、卵巣年齢チェックキット、膣トレーニンググッズなどは1割を切る。購入意向率は、卵巣年齢チェックキットは2.5割、膣トレーニンググッズは3割と利用経験率を上回り、他にも多くの商品カテゴリーにおいて、購入意向率が利用経験率を大きく上回っていることが調査でわかっているが、実際に消費に至るかどうかは別問題だ。
住居費、水道光熱費、保険料、通信費、教育費といった固定費に加え、食費、日用品費、美容費、医療費、交際費、趣味費といった支出が日々ある中で、これらを上回るだけの消費意欲が果たして女性たちにどれだけあるのか、その優先度を考えると、調査結果の購入意向率を真に受けることもできない。実際に、フェム系商品が世間の話題に匹敵するだけの十分な売上に達していないことに頭を抱えるメーカーの声は方々から聞かれる。要因はやはり、市場全体で見ると未だフェムテックの認知が低いことに加え、認知していたとしても、市場を牽引する主力商品・サービスが妊娠・生理・更年期・セクシュアルウェルネスといったセンシティブな領域を訴求していることから、「人に知られたくない」と購入を躊躇ったり、「我慢して当たり前」という意識から消費意欲がなかなか高まらないことが大きい。
店舗での売り場確保、難しい現状
こういった背景から、大きいはずの需要をなかなか取り込めず、小売店舗での売り場確保が難しいのが現状だ。フェムケアゾーンの企画・運営を担当した、ドラッグストアショー副実行委員長の米原まき氏(エバグリーン廣甚 代表取締役社長)らも、ドラッグストア業界ではフェム系商品の取り扱いが遅々として進まない現状を指摘し、現場での推進強化に向けた施策の必要性を強く訴えている。フェム系事業に注力する各メーカーも、ドラッグストアの姿勢は気になるところだ。
そこで、ショーを主催するJACDSの協会会長に今年就任したマツキヨココカラ&カンパニー副社長の塚本厚志氏に、フェム系商品の店舗での取り扱い状況や今後の意向について、本メディアの編集部が尋ねてみた(ショー開催初日に行われた記者会見にて)。
マツキヨココカラ副社長に聞いてみた
編集部
先ほど、事務総長が「女性の健康課題を、小売として生活者の身近にあるドラッグストアで解決していきたい。今後、それをメーカーや卸にアピールしていく」と言っていましたが、実際に、ドラッグストアの各店頭での取り組み状況はいかがでしょうか?例えばマツキヨココカラ社の中では、フェム系商品の取り扱い強化については、積極的な議論は進んでいるのでしょうか?
塚本氏
はい、取扱いは前向きに議論していますが、全店でコーナー展開するところまでは発展していません。
編集部
ですよね。私自身、ドラッグストアに行って買い物をしていても、そう感じています。既に各所で指摘がされていますが、やはり収益面から、フェム領域の売り場の拡充は難しいことが背景にあるのでしょうか?
塚本氏
店内という物理的に限られたスペースでは、収益を上げられる商品がどうしても優先されるため、フェムテックやフェムケアといった商品の棚取りは、現時点ではなかなか進めづらいという現状はあります。
編集部
ドラッグストアは、年齢や性別関係なくいろんな不調・病気に対応する役割が期待されていることを考えると、生理のある女性、妊活をしている女性、更年期症状のある女性、セクシュアルウェルネスのニーズがある女性というように、特定の属性を対象にした商品カテゴリーの棚を集中的に拡充するのは現実的ではないということは容易に理解できます。また、フェムテックやフェムケアの現在の定義が「生理・妊娠・更年期・セクシュアルウェルネス」と、女性の数ある健康課題の中でも部分的に切り取られたまま市場で解釈が進んでしまっていることも、小売側がフェム系商品の取り扱いに積極的になりづらい構造を生み出しているのでは、と感じています。
塚本氏
今の市場のそういった解釈で”女性特有の健康課題”を見るとなると、需要の側面から判断して、積極的な売り場拡充は難しいですね。
編集部
女性の健康を何と定義するのか?によって回答はもちろん変わってくると思いますが、今後、女性の健康課題の解決について、ドラッグストアとしてはどのように向き合っていきますか?
塚本氏
やはりドラッグストアとして大事なのは、性別・年齢問わず生活者の困りごとを解決することなので、(今現在の市場で解釈されている)フェムケア商品の取り扱いを増やすというよりは、「女性の多様なライフスタイルに対応する」という視点から、女性の健康支援を積極的に強化していきたい、と考えています。そういう意味では、すでにドラッグストアとして取り組みを行っています。
編集部
ありがとうございました。
フェム系事業者にとっては厳しい回答となったが、塚本氏が指摘する通り、各地域住民の健康を支えるドラッグストアの役割を考えると、スペースが限られる店内で特定の属性を狙った売り場の集中的な拡充は、収益に大きく貢献しない限りは、当然のことながら踏み切れない。生理・妊娠・更年期・セクシュアルウェルネスに限らず、他の商品カテゴリーであったとしても、当然のことながら同様だ。
ただ、フェム系商品の取り扱いが広がらない根本的な理由として、女性の健康課題が妊娠・生理・更年期・セクシュアルウェルネスといった特定の領域だけで強調されがちなことも、こういった小売側の判断に少なからず影響していることは否めない。小売各社と話をしていても、そこがネックになっていると日頃から痛感する。いくら政府が国を挙げて女性の健康推進に取り組んでいるとはいえ、業界やメディアの熱狂ぶりから一過性の流行りもののように映ってしまったり、ドラッグストアの主要商品と比べると、健康行動や購買行動といったアクションがどうしても見えづらいからだ。BtoCにおいてもBtoBにおいても、「女性特有の健康課題」を特定の領域に限定することなく、緊急性や優先度の高い「不(不満・不便・不快・不安)」やニーズに実直に寄り添った開発やコミュニケーションができれば、市場での固定的なイメージを払拭し、妊娠・生理・更年期・セクシュアルウェルネス系商品を含め、女性向けの健康商品全体が、もっと幅広い層にスムーズに受け入れられるようになるのではないだろうか。
ドラッグストアでの全国的な売り場拡充というポジティブな変化は、残念ながら今すぐには起きそうにないが、フェムテック市場はハイプサイクルで言う幻滅期にはありながらも、発展途上にある生まれたての市場だ。この市場を活性化させ、ドラッグストアをはじめ各小売店頭での取り扱いを進めるには、フェムテック業界全体で女性の健康ニーズを幅広い視点で捉え直すのと同時に、これまで同様に引き続き、女性の健康課題の認知向上や理解促進に向けた地道な啓発活動、情報発信、解決策=商品のPRを忍耐強く続けていく作業が必要だ。今年10月には女性の健康総合センターがいよいよ開設され、若年層〜老年期における様々な女性の健康・疾患に関する研究が性差視点で進めらていく。これも強力な追い風となるだろう。
だが大前提として、塚本氏の言葉が示す通り、多様化する女性のライフスタイルへの対応力が不可欠だ。生き方・働き方の多様化、少子高齢化や家族形態の変化によるニーズや困りごとの多様化、平均寿命の延伸、それに伴う医療・健康・介護ニーズの多様化と高度化、病気・不調と共生する人の増加、テクノロジーの急速な進展による消費意識・消費行動の変化、物価高などを背景に、女性の意識やライフスタイル、消費行動は急速に多様化している。VUCA時代における女性たちのニーズに、ヘルスケア事業者がどのような商品とコミュニケーションをもって応え続けていくのか? 改めてその問いから考えを巡らせる必要がありそうだ。
ちなみに、ドラッグストアショーの目玉企画として昨年から始まった「フェムケアゾーン」は、生理・妊娠・更年期・セクシュアルウェルネスをテーマにしており、一見すると塚本氏の回答と矛盾しているように映る。が、女性の代表的な健康課題を入り口に、女性の健康について考える機会が市場全体で創出されるという意味においては、意義は大きいだろう。
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