【女性特有の健康問題】更年期女性のリアル 〜症状・意識・向き合い方〜
更年期女性を対象にしたビジネスは、ここ数年ほどで特に大手各社が関心を寄せるようになったが、フェムテックブームの到来で状況は一変。ベンチャーも一気に関心を向け始め、フェムテック業界の次のビッグトレンドとして、各国がプロダクト開発に乗り出している。だが、更年期ビジネスの難しさに未だ変わりはない。更年期症状は個人差が大きく複雑な上に、女性たちのケア意識が高くはないため、一大需要が起きそうでなかなか起きないからだ。事業性あるビジネスに育てるために、更年期女性の理解を深めよう。
目次
更年期とは?
更年期の定義
更年期とは生殖期から老年期へ移行する期間で、閉経を挟む前後5年ずつの10年間を指す。日本人女性の平均閉経年齢は50.54歳(日本女性医学学会)なので、この定義にならうと更年期は45〜55歳となる。ただし閉経時期は初経と同様に個人差があり、40代前半で迎える女性もいれば60代の場合も。
更年期に出現する様々な症状の中で、何か他の病気によるものではない症状のことを「更年期症状」と呼び、その中でも、症状が重く日常生活に支障をきたす状態を「更年期障害」と言う。
更年期症状
更年期症状は実に様々で、その種類は40〜80にも及ぶと言われている。だがその判別は難しく、更年期による症状なのか、あるいは加齢や精神的な問題からくるものなのか、その境界線は未だ明らかでないことが多い。よって本稿においても全症状を書ききることができないが、代表的なものとしては以下が挙げられる。
- 血管運動神経系の症状(のぼせ、ほてり、発汗、ひえ、動悸、息切れ、手足の冷えなど)
- 精神神経系の症状(不安感、無気力、抑うつ感、判断力の低下、イライラなど)
- 脳機能の症状(もの忘れ、記憶力低下など)
- 皮膚の症状(乾燥、かゆみ、湿疹など)
- 口の症状(唾液分泌量の低下、ドライマウス、舌痛症、歯周病など)
- 目の症状(ドライアイ、老眼など)
- 頭の症状(頭痛、めまい、耳鳴りなど)
- 消化器系の症状(食欲不振、吐き気、便秘、下痢、腹部膨満感など)
- 運動器官系の症状(肩こり、腰痛、関節痛、手足のしびれなど)
- 体力の症状(倦怠感、疲れやすいなど)
- 泌尿器の症状(頻尿、尿失禁、残尿感など)
- 生殖器系の症状(膣の乾燥、月経異常、性器下垂感、外陰掻痒症など)
- 体重・体型の変化(太った、痩せた、上半身に脂肪がつくようになったなど)
- 骨密度の低下
- 血中脂質の変化
- 血圧が高くなる
- 血糖値が高くなる
更年期症状・障害の要因
更年期症状・障害の要因についても複雑で個人差が大きいが、一般的に言われているのは以下。
- 生物学的要因(加齢)
- 卵巣機能の低下
- 社会的・環境的要因(子どもの自立, 親の介護,夫婦関係,生殖期から老年期への移行など)
- 心理的・性格的要因(落ち込みやすい性格、心配性など)
上記の各要素が複雑に絡み合いながら心身に影響を及ぼし、更年期症状が発症したり、症状が重くなったりする。「社会的・環境的要因」と「心理的・性格的要因」は特に個人差が大きいため、更年期症状の出方・感じ方や重さは人によって複雑さを増すことになる。
更年期症状の評価ツール
更年期症状を簡単に自己判断できる評価ツールがある。よく知られていて医療機関やヘルスケア系の企業が消費者とのタッチポイントなどで採用しているのは、生殖内分泌学が専門の小山嵩夫医師(小山嵩夫クリニック)が開発した「更年期症状指数票(SMI)」。質問項目にチェックをつけるだけの簡単なもので、合計点数によって更年期症状の度合いや今とるべき行動がわかる。
更年期の医学書
更年期について知識を深めるなら、「女性医学ガイドブック〜更年期医療編〜(日本女性医学学会)」がおすすめ。更年期の主要な疾患・症状・対応、検査・治療法、更年期医療の歴史、更年期女性の健康診断やヘルスケアなどがまとめられており、ビジネスパーソンも読みやすい医学書。
更年期女性の健康悩み、ニーズ、一般的な治療法の課題なども読み取れるので、これから更年期女性のビジネスを始める際のシーズ探索にも役立つ。
更年期女性の実態 〜意識・行動〜
少し前のものになるが、参考になる調査結果があるのでご紹介したい。統合医療メディアのQLife(東京・港)が40〜59歳の女性3,888人を対象に実施した調査で、更年期症状・障害の内容、対策・ケアの実態を明らかにしたもの(更年期障害とその症状に関する調査結果報告書,平成25年実施※)。調査では様々な視点から女性たちに質問をしているが、中でも特に更年期ビジネスで理解しておきたい項目をピックアップした。
(※)近年は女性の健康ブームやフェムテックブームにより更年期の認知が広がり、同時に社会・企業・個人の更年期の捉え方が徐々に変化しているため、現在も同じ調査を実施した場合、特に、更年期症状・障害の対策・ケアについては以前とは多少異なる結果が出ると思われる。だが、これまで各所が実施してきた更年期に関する調査結果や、ウーマンズラボ編集部が女性生活者へ実施しているインタビューを鑑みても、同調査結果は今なお参考になると考えているため、本稿で取り扱うこととした。
女性たちが思う「更年期6大症状」
更年期症状は前述の通り実に多岐にわたるが、女性たち本人は、どんな症状を更年期症状だと自覚しているのだろうか?
「更年期障害における症状に該当する、とあなたが思うものを選んでください」と聞いたところ、回答者は平均して5つの症状を選択したとのこと。なお半数以上の女性が回答した症状は「急に顔がほてる(63.1%)」「怒りやすくイライラする(61.4%)」「くよくよしたり憂鬱になる(56.9%)」「疲れやすい(56.4%)」「汗をかきやすい(55.9%)」だった。女性たちが一般的に認識している更年期6大症状と言えるだろう。
なお「更年期症状がどのようなものかわからない」と回答したのは少数で6.7%。
更年期症状の有無
「この3年の間に不定愁訴や不調を感じたことがありますか?」と聞いたところ、「ある(54.7%)」と回答した女性の方が多く、その女性たちに「感じた症状」を聞いたところ、次の結果となった。上位に入った項目は、前述した「更年期障害における症状に該当すると思う症状」として自覚している上位の項目と一致する結果となった。
医療機関の受診経験の有無
不定愁訴や不調を感じたことがある女性のみを対象に「治療のために病院を受診したか?」と聞いたところ、「はい(24.6%)」「いいえ(75.4%)」だった。7割以上の女性は受診していないことがわかった。
「医療機関受診派」の実態
不定愁訴や不調を感じたことがある女性のうち医療機関を受診したことがある女性に焦点をあて、実態をもう少し深掘りして見ていこう。
<何科を受診した?>
不定愁訴や不調を感じたことがある女性のうち、医療機関を受診したことがある女性を対象に「何科を受診したか?」と聞いたところ、最多は婦人科(58.2%)。次いで多いのが内科(35.3%)だった。
当質問は複数回答を求めたものだったが、女性一人当たりの平均受診科目数は1.38だったとのこと。更年期症状は多岐にわたるものの、科目をまたいで受診するケースは少ないようだ。どの科を受診すれば良いかわからない、あるいは受診先を自分で探すのが難しく面倒であるため、受診を諦めている。そんな背景が関係しているのかもしれない。
<受診後、処方された薬は?>
医療機関を受診した女性たちは、どんな薬を処方されたのか?最多は漢方薬(43.9%)。2位以降は割合が低くなり、ホルモン剤(26.6%)、睡眠導入剤(23.9%)、精神安定剤(22.2%)が続く。
<受診後、症状は改善した?>
医療機関の受診や薬を処方されたことで、症状は改善されたのか?「医療機関受診で症状は改善したか?」と聞いたところ、「良くなった(※)」と回答したのは65.5%。「変わらなかった」は32.6%。(※)「とても良くなった」「やや良くなった」の計
着目したいのは3割以上が「変わらなかった」と回答していること。症状や要因が多岐にわたるため、医療機関の受診だけでは対応しきれていないのかもしれない。あるいは、女性たち(患者)が選択した受診科が適切ではなかった可能性も考えられる。
「医療機関を受診しない派」の実態
一方、医療機関を受診しない女性たちはどのような意識・行動をとっているのか?
<受診しない理由>
不定愁訴や不調の治療のために病院を受診したことがない女性を対象に「受診しなかった理由」を聞いたところ、最多は「我慢できるから(45.8%)」、次いで「そのうち治るから(35.7%)」。症状があるものの、”やり過ごす”女性が多いことが明らかに。
金銭的理由、時間的問題、受診科がわからないといったことを理由に挙げている女性も一定数おり、受診行動が起きない理由においても多岐にわたることがわかる。
<どんなセルフケアをしている?>
医療機関の受診はせずとも、セルフケアはしているのか?「病院受診以外に対処したこと」を聞いたところ、最多は「特に何もしなかった(57.5%)」。6割もの女性が、症状を感じているものの何もしてないことがわかった。2位以降は様々なセルフケアが並び、最も人気なのはサプリメントの服用で半数近く。
<セルフケア後、症状は改善した?>
セルフケアの実施で、症状は改善したのか?上記の質問で何かしらのセルフケアを実施した女性を対象に聞いたところ、最多は「変わらなかった(69.2%)」。セルフケアに取り組むも、効果を実感している女性は少ない様子。
更年期症状の相談の有無
最後に、更年期症状について女性たちは誰に相談しているのか?について見てみよう。「この3年間で不定愁訴や不調を感じたことがある」と回答した女性を対象に「その症状について家族や友人に相談したことはありますか?」と聞いたところ、最多は「友人・知人(60%)」。「相談したことはない」は約4割にも上ることがわかった。
「医療機関以外でのカウンセリング」で相談したことがある女性は1割程度。前述した「医療機関を受診したことがある女性は24.6%」からもわかる通り、医療機関やカウンセリングなど、専門家に相談する女性は少数派であることが、本調査を通して明らかになった。
更年期女性の実態 〜リアルな悩み投稿〜
更年期女性のリアルを定性的にも見てみよう。質問サイトの発言小町(読売新聞)には、更年期症状に関する様々な悩みが投稿されている。各スレッドを読むと、「楽になる方法が知りたい(更年期とはこういうものですか?)」「相談できる相手が周りにいない(あなたの更年期はどうですか?どうでしたか?)」「病院で受診したけど…この感じはなんでしょうか(更年期障害でしょうか)」「次から次へと…。今までは強気の性格だったけど急に気弱に…鬱になりそうで怖い(更年期障害ってこんなに辛いのね)」など、様々な悩みや本音が投稿されている。
各質問や相談に対し、更年期をすでに経験した女性や、まさに今が更年期真っ最中という女性たちが意見を寄せている。女性たちの更年期に対する意識や行動、悩み、ニーズが見えてくるので、ぜひ一読してみては。
難しい更年期ビジネス、どう対応すればいい?
更年期症状は、症状の出方も重さも要因も千差万別であるため、対策やケアは一筋縄ではいかない。そもそも、働き盛りでかつ家族のケアワークの負担が大きい40〜50代の女性たちにとって、一気にふりかかってくる様々な症状を一つずつ丁寧に対処していくこと自体、現実的ではない。
ここに更年期ビジネスの難しさがあり、症状・重さ・要因が多様な上に、女性たちの更年期対策意識が低いために、更年期市場は一大需要が起きそうでなかなか起きない。
とは言えフェムテックブームも手伝い、今後、更年期ビジネスは確実に盛り上がっていく。画期的なプロダクトも登場してくるだろう。さてこの商機にどううまく乗ればいいのか?
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