「LGBTQ+」のヘルスケア市場規模と、特有の健康課題
電通は今月8日、国内におけるLGBTQ+層の割合や社会的認知を分析する調査「LGBTQ+調査2020」の結果を取りまとめ公表した。消費状況についても調査し、LGBTQ+層全体の市場規模を5.42兆円、そのうちヘルスケア領域は8,343億円と推計した。今後期待の注目市場だ。だが、LGBTQ+層は特有の健康問題・健康リスクがあり、ヘルスケア業界にとっては少々捉え方や訴求が難しい一面も。どんな健康問題・健康リスクがあるのか?市場参入の前に理解を深めておこう。
目次
LGBTQ+層、8.9%
LGBTQ+とは?
LGBTQ+の市場規模を見る前に「性的マイノリティ」と呼ばれるクラスターの定義を簡単に確認しておこう。
- L …レズビアン。同性を好きになる女性のこと
- G…ゲイ。同性を好きになる男性のこと
- B…バイセクシュアル。男性も女性も好きになる人のこと
- T…トランスジェンダー。生物学的・身体的な性、出生時の戸籍上の性と性自認が一致しない人
- Q…クィア。性的マイノリティの総称。クエスチョニングの「Q」も含む
最近は性的マイノリティを表現するのに「LGBT」ではなく、「Q+」をつけた「LGBTQ+」を見かけるようになってきたが、これは、LGBT以外の性的マイノリティへの配慮が理由。そもそも、セクシュアリティは多様で、LGBTには当てまらない人もいる。あらゆる性的マイノリティを包括するために生まれた表現が、「Q+」だ。
その他、LGBTQ+を理解するのに知っておきたい関連用語は以下。
- 性自認…自分で認識している性別
- 性的指向…好きになる相手の性
- ストレート…異性愛者で、生まれた時に割り当てられた性と性自認が一致する人
- クエスチョニング…性自認もしくは性的指向が決められない・分からない人
- アセクシャル・アロマンティック…他人に恋愛感情を抱かない人
- エックスジェンダー…性自認が男性・女性どちらとも感じる人・どちらとも感じない人
- パンセクシュアル…相手のセクシュアルに関係なく好きになる全性愛者
LGBTQ+層の割合、8.9%
電通が全国20〜59歳の60,000人に調査を行ったところ、LGBTQ+層に該当する人は8.9%で、前回調査(2018年)と同じだった。
調査ではこのクラスターをさらに細かく分析しており、例えば「出生性×性自認」「性自認×性的指向」の組み合わせによるクラスターと各割合は次の結果となった。実に多様なセクシュアリティが存在することがわかる(実際には、下記以外にも様々なセクシュアリティがある。以下では代表的なものだけを抽出)。
<多様な性自認、各割合>
- エックスジェンダー…1.20%
- トランスジェンダー…0.64%(MtF、FtM両方)
- 性自認のクエスチョニング…0.62%
<多様な性的指向>
- バイセクシュアル+パンセクシュアル…2.94%
- ゲイ…1.94%
- 性的指向のクエスチョニング…1.63%
- レズビアン…1.33%
- アセクシュアル・アロマンティック…0.81%
LGBTQ+層のヘルスケア市場規模、8,343億円
調査では市場規模も推計している。LGBTQ+層の消費状況から算定したところ、対象とした12の商品・サービスカテゴリーにおける市場規模は5.42兆円。そのうちヘルスケア関連は8,343億円だった。
- 医療・保健費(診療・市販薬・介護サービスなど)…5,266億円
- 化粧品・理美容商品費…1,442億円
- 美容・健康サービス費…849億円
- 医療・保健費(健康食品、サプリメントなど)…786億円
2015年の調査で明らかになった市場規模5.94兆円から今回は減少したものの、人口減少やCOVID-19による家計消費全体が減少している中では堅調で、教育・資格関連費、書籍・雑誌・新聞費が伸びているという。なお、LGBTQ+層はストレート層に比べ、医療・保険費(診療・市販薬・介護サービス・健康食品・サプリメント)の消費金額がより大きいことも分かったとのこと。
LGBTQ+層、特有のヘルスケア課題
LGBTQ+の社会的認知はかなり進んだが(※)、当事者の“生きづらさ”の解消は進んでおらず課題は山積みだ。その一つが、医療・健康問題。LGBTQ+層を対象にした各調査でもこのクラスター特有の問題が明らかにされており、精神的影響のみならず、身体への深刻な影響も出ていることがわかっている。(※)電通の調査では、LGBTの認知度は80.1%。「Q+」の認知は低かった。
健康への影響があった、約4割
NHKが2,600人のLGBTに行った調査(2015年)によると、「LGBTであるこで健康への影響があった」と回答した人は約4割に上ることがわかった。では、具体的にはどんな影響があったのか?(以下、読み解きやすいよう 「性的マイノリティ特有の身体的健康問題」と「精神的ストレスからくる心身の健康問題」に分類して整理した)
<性的マイノリティ特有の身体的な健康問題>
- 自認する性(戸籍とは逆)のトイレが使えず、我慢して膀胱炎になった
- 性同一性障害で戸籍の性別を変えるため子宮を摘出したところ更年期の症状が出始めた
- 性同一性障害でホルモン治療による体調の不安定さがある。今後の健康管理も不安だ
- 心と体の性が一致していないと、体調が悪くなっても病院に行きづらい。健康診断も同様
<精神的ストレスからくる健康問題>
- 自分のことを話せないストレスが積み重なり、パニック障害に
- 家族の理解のないことや就労困難、将来への不安から精神的に参ってしまい、解離性障害と重度の鬱を発病
- 職場で偏見、差別にさらされないか常に不安でうつになった
- 職場で性的マイノリティであることを差別されストレスで病気になりやめた
- コミュニケーションが困難になり友人関係が次々と破壊。失語症になった
特有の健康リスク、健康不便
特有の健康リスクも徐々に明らかにされており、「レズビアン、バイセクシュアル女性は肥満の割合が高い(米)」「LGBTの人々はうつ、不安障害、自殺企図、喫煙・飲酒・薬物使用のリスクが高い」といったことが指摘されている。(参考:坂井雄貴,LGBTと健康問題〜性の多様性の基礎知識「医療者のためのLGBT基礎講座①」〜)
性自認によって特有の健康不便があることもわかっている。職場に限定した調査になるが、性的マイノリティの困りごととして「トイレ・更衣室などの施設利用」「健康診断を受けづらいこと」を挙げた人の割合は、L・G・BよりT(トランスジェンダー)で高かった。
LGBTQ+に配慮したマーケティング
LGBTQ+が抱える特有の健康問題のうち、ストレスや不安、うつなど、精神面における健康問題はよく知られているが、前述したような身体的な健康問題については認知が進んでおらず、生きづらさを感じたり健康リスクを抱える当事者は多い。医療・ヘルスケア業界が今後把握・配慮をしていかなくてはならない領域だ。だが、性自認や性的指向によって健康問題・健康リスクは異なるため、LGBTQ+を一つのクラスターとして捉えることはできず、そうすると、何をどこまでマーケティングに反映していけば良いのか、その範囲の設定は簡単ではない。まずは、多様な性自認・性的指向があることを前提に、ジェンダーのステレオタイプに陥らないことから出発すると良いかもしれない。
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