ヘルスケアマーケの世界的トレンド、DX化と「デジタルウェルビーイング」の共存
「ウェルビーイング」や「ウェルネス」を会社の理念やコンセプトに掲げる企業・製品・サービスが、今年に入り急激に増えている。もちろん以前から広く知られている言葉だが、このトレンド急進の背景にあるのは、COVID-19のパンデミックによりメンタルヘルスが重視され、人々が精神的幸福を追い求めるようになったことが大きい。
さて今回は、そのビッグトレンド「ウェルビーイング」の中でも、IT領域に着目したい。いわゆる「デジタルウェルビーイング(Digital wellbeing)」と呼ばれているもので、グーグルによる啓発を機に注目されるようになった。日本ではまだ日常的に聞く言葉ではないが、コロナ禍でDX化が進む中、今後のマーケティングで欠かすべきではない概念だ。アプリ、AI、ネットショッピング、ライブコマース、SNSマーケティング、ネット広告など、オンラインをマーケティングの主戦場にしている企業は必見。デジタルウェルビーイングって、なんだ?
目次
デジタルウェルビーイングとは?
デジタルウェルビーイングの共通概念
「デジタルウェルビーイング」とは、デジタルと良好な関係を築きながら心身の健康や幸福を構築・形成することを指す。心身の健康や幸福を崩さないようデジタルと上手に付き合っていこうという捉え方もあるが、どちらかというと、デジタルを適切に使いこなすことでメリットを最大限に享受して心身の健康・幸福度を高める、というポジティブな側面が強調される。
一定時間あるいは一定期間スマホやパソコンの使用を断って生活をするという「デジタルデトックス」が数年前に流行ったが、これは、デジタルの負の部分(スマホ中毒、SNS疲れなど)に着目し、デジタルと物理的・精神的に距離を置くという”行動”そのものを指していたのに対し、「デジタルウェルビーイング 」は、”心身の健康・幸福”と”デジタル”の上手な共存を目指す概念を指す。
この言葉が使われ始めたのは2018年。グーグルが開発者向けに開催したイベント(Google I/O 2018)の中で、デジタルウェルビーイングの必要性に触れながら、同社開発のOSであるアンドロイドに新たに搭載するデジタルウェルビーイングの機能(詳細は後述)を紹介したことで、この言葉が世界的に注目されるようになった。
それまで心身の健康を崩す悪者と見られていたデジタルの提供者でもあるビッグテック企業が自らこの社会問題に向き合い始めたインパクトは大きく、世界に新しい風を吹き込んだ。以降、各所がこれに倣うこととなった。
定義・解釈は各所それぞれ
グーグルによる啓発を機に関心が高まったウェルビーイングだが、定義は各所それぞれ。それぞれの立場から定義を言語化している印象だ。例を見てみよう。以下は、グーグル、英国の情報分析の団体、スペインのデジタルウェルビーイングソリューションアプリを開発するベンチャー企業による定義。
- デジタルウェルビーイングとは、テクノロジーとの健全な関係を形成すること(グーグル)
- デジタルウェルビーイングは、テクノロジーとデジタルサービスが人々の精神的・肉体的・感情的な健康に与える影響を考慮している(情報システム合同委員会Jisc/英)
- 心身の健康をサポートする積極的な方法でテクノロジーを使用する(Qustodio/子どものスマホ利用をコントロールするデジタルウェルビーイングソリューションアプリ/スペイン)
その他、世界の各所や専門家がどのような言葉でデジタルウェルビーイングを定義しているのか?それについて、デジタルウェルビーイングに特化した英国のメディア(digitalwellbeing.org※)が、29の事例を紹介している(2021年9月時点)。ニュアンスや表現は微妙に異なるものの、定義の柱となる部分はどこもほぼ同じだ。詳細はこちらの記事「What is Digital Wellbeing? A List of Definitions」から確認できる。
※心理学者のポール・マースデン博士によるメディアで、デジタルテクノロジーが人々のウェルビーイングに与える影響に関する最新の科学的研究をキュレーションしている。
デジタルウェルビーイングの企業事例
アンドロイドOS(グーグル)
アンドロイドOSを搭載するスマホには、デジタルウェルビーイングのための様々な機能が備えられている。「Digital Wellbeing」という機能で、例えば次のようなことができる。
- 【伏せるだけでサイレントモード】スマホを裏返しにするだけで自動でサイレントモードになり、様々な通知が止まる機能。会議中や食事中、大切な人との会話に集中したい時は、さっと画面を伏せるだけでOK。画面をタップするなどの手間は不要。
- 【フォーカスモード】選択したアプリを一時的に停止させる機能で、目の前のことに集中したい時に使う。
- 【アプリタイマー】どのアプリやウェブサイトをよく使用しているかを確認できる機能。1日の上限を設定し、上限に達するとアプリやサイトが自動で停止され、通知などが来なくなる。「ネットやアプリを使っていたらあっという間に時間が経った!」というデジタル依存を防ぐ。
- 【仕事用プロファイル】1台のスマホで、仕事用と個人用の2つのモードを使用できる。個人用に切り替えると、カレンダー、メール、通知など仕事用のアプリが見えなくなる。そうすることで、就業時間が終わった後も仕事のことが気にならなくなり気持ちが解放される。
- 【ファミリーリンク】子どものスマホ利用を親が管理・制御できる機能。子どもに見せたくないアプリを隠したり、スマホの使いすぎを防ぐ。
エンジニアなどの勉強会(ヤフー)
ヤフーの技術・デザインコミュニティ「Bonfire」は昨年1月、デジタルウェルビーイングに関する勉強会・交流会を開催した。グーグルやアップルなどの世界的企業がデジタルウェルビーイングに取組むも、日本ではまだ事例が少ないことから本テーマを選定。サービス・プロダクト提供者としてユーザーとどう向き合うべきか?について、エンジニアやデザイナーが集い意見交換をした。
その様子は「Digital Wellbeingって何? 生活とテクノロジーの付き合い方をディスカッション – Bonfire Nextレポート」に掲載。
デジタルとの新しい関係を提案(講談社)
世界の情報を発信するオンラインメディアのクーリエ・ジャポン(講談社)は、今年10月号の特集でデジタルウェルビーイング をテーマに取り上げた。「依存から共存へ これからのデジタル・ウェルビーイング」と題し、パンデミックを機にオンラインで過ごすことが日常的になった今日の問題点や、デジタルに”依存”するのではなく”共存”する道を探ることに主眼を置いた記事を掲載している。
ヘルスケアマーケの新トレンド、DX化とデジタルウェルビーイングの共存
近年のヘルステックブームに加え昨年からのパンデミックにより、今ヘルスケア業界でもDX化が急速に進んでいる。オンラインでのショッピング、バーチャル体験、イベント開催、店舗スタッフとの遠隔相談、他者との交流など、オンラインを駆使したマーケティングが活発化し、消費の利便性はこの1年で格段に高まった。
だが一方で新しい生活様式は、これまでに指摘されてきたデジタルにつきまとう様々な問題をさらに深刻にしたという側面も。
DX化を図っていくなら、「デジタルウェルビーイング」の配慮も今後のマーケティングに必須だ。本稿ではアンドロイドOS搭載のスマホ機能を紹介したが、デジタルウェルビーイングへの配慮が必要なのは、スマホやネット、SNSのプラットフォーマー企業だけではない。ネットショッピング、アプリ、ネット広告、オンラインコンテンツを提供する企業も当てはまる。
あなたの会社では、顧客にどんなデジタルウェルビーイングを提供できるだろうか?
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