【展示会レポ】AIでどんな事ができる?ヘルスケアマーケティングに使える最新ソリューション
DX推進のための最新テクノロジーが集結する展示会「NexTech Week【春】」が、5月10日から12日までの3日間、東京ビッグサイトで開催された。編集部が注目したのは、AIを活用したマーケティングソリューション。AIを製品・サービスに組み込んだ開発やマーケティングへの活用は、これまでにも医療・ヘルスケア領域の一部の企業で進んでいたが、米オープンAIが開発した生成AI「ChatGPT」が急速に広まったことで、業界内外全体で関心が急上昇。自治体がChatGPTを業務に活用する動きが広がり始め、民間企業各社も社内での業務活用に向けた議論を進めている。5月上旬には伊藤忠がブレインパッド(東京・港)と共同で、ChatGPTなどの生成AIを用いて企業の業務変革や新規ビジネス開発を支援する「生成AI研究ラボ」を設立。先日のG7広島サミットでも議論され、生成AIのガバナンス強化に向けた国際的なルールづくりがこれから始まる。AIは突如、各国・企業・生活者にとって身近な存在となった。著作権の懸念、情報の正誤、差別・偏見助長のリスク、教育現場でのルール化など、生成AIの課題は国内外で議論の真っ最中だが、このうねりは確実にマーケティングの精度やスピードにも変革をもたらす予感だ。そこで編集部が、ヘルスケアマーケティングで活用できる最新のAIソリューションを探しに「NexTech Week【春】」へ。展示会主催者や出展者に話を聞いた。
目次
2023年、各業界でAIの変革期
NexTech Weekは、DX推進のための最新テクノロジーが集結する展示会で今回で7回目。「AI・人工知能EXPO」「ブロックチェーンEXPO」「量子コンピューティングEXPO」「デジタル人材育成支援EXPO」の4つのエリアで構成されている。
今年はどんな傾向が見られるのか?展示会主催者の事務局長、下田アトム氏(RX Japan)に出展者の傾向を聞いたところ、「出展者の間でも生成AIがブーム」とのこと。ChatGPTがAPIを開発者向けに公開したことで、各社が自社のソリューションにChatGPTを組み込めるようになった。それによる影響で、ChatGPTを活用したソリューションの出展が今年は目立ったという。ソリューション開発企業にとっても生活者にとっても、AIは以前と比べて格段に身近になった。同氏は「AIの活用で各業界に変革が起きる。それが今年だと感じている」。事前申し込みが多かった人気セミナーもやはりAI関連で、特に人を集めたのは以下とのこと。
- AIビジネス入門(人工知能学会)
- 生成AIの未来(Stability AI Japan)
- ChatGPT導入! 生産性をあげるAI活用(時空テクノロジーズ)
- 生成AI活用の鍵! いま企業が取り組むべき人材育成(日本マイクロソフト,日本ディープラーニング協会)
- Web3.0による社会変革(日本ブロックチェーン協会)
- 世界の量子コンピューティング最前線(Google Cloud Japan,アマゾンウェブサービスジャパン)
ちなみに、AIはどの業界で特に進んでいるのか?同氏は「製造・物流・マーケティングの業界で進んでいる。AIは効率化や自動化を目的に活用されるケースが多いため、人手不足・品質管理・作業の標準化・不良品の発見などに課題を感じている製造・物流業界と相性が良く需要が大きい。マーケティング業界でのAI活用は以前からあったが、生成AIが登場したことで飛躍的に活用の幅は広がっていく。広告のクリエイティブに使用する画像、動画、文章、人物モデルもAIで生成できるようになるため人手不足の解消、コストカット、時間の節約にもつながる。新しいマーケティング手法として主流になっていくだろう」。一方で医療・ヘルスケア領域においては、「現状マーケティング施策としての活用はあるものの、製品・サービスの中にAIを組み込む事例は、他業界と比べるとまだ少数と思われる」とのこと。
出展者も口を揃えており、ブースを回って各社に話を聞いたところ、「医療・介護・ヘルスケア企業での開発・導入事例はほぼ無い」「当社のメイン顧客は製造・流通で、コールセンターでのAI活用も多い」「医療・介護・ヘルスケア領域への営業は特に力を入れていない。メイン顧客とは考えていない」「医療・介護・ヘルスケア領域でのAI活用はもちろん色々できることがあるが、センシティブな領域だから、制度やユーザーのプライバシーの問題から、導入のハードルが高い。ヘルスケア界隈の企業から相談はあるが、実際は進まない」という声が多かった。中には、高齢者の転倒を事前に検知するAIを開発したが、プライバシーの問題がクリアになっていないため技術発表にとどめているという出展者も。医療・介護領域のデジタル化の遅れは方々で指摘されているが、ヘルスケア領域も含めこの界隈では、製品・サービスにAIを組み込むという動きは他業界に比べると時間がかかりそうだ。
だがマーケティング施策としての導入なら、ヘルスケア業界でも加速度的に進む気配だ。消費者調査、販促支援、顧客分析、顧客対応の自動化、顧客体験の高度化など多様なマーケティングソリューションが出展していた。本稿では、取材した中でも特にマーケティングの活用におすすめのAIソリューションをピックアップ。
マーケティングに活用、最新のAIソリューション
チャットボットの不満を解決、ボイスボットと組み合わせて顧客対応(トゥモロー・ネット)
一般的なチャットボット(スマホやPCなどのウェブ上でAIが人間と会話をするシステム)は、「会話が途切れる、続かない」「回答の概要は分かったが、詳細がわからない」「質問の細かいニュアンスを理解してくれない」「文字を打ち込まないと会話できないのが面倒。電話で人と話す方が楽」「高齢者はスマホを使い慣れていないため、スムーズに文字を入力できず不便。電話の方が楽」といった不満が多く、チャットボットとの会話中にユーザーが画面から離脱するという課題があった。これを払拭するAIを開発したのが、AIプラットフォーム事業を展開するトゥモロー・ネット(東京・品川)。
「CAT.AI (キャットエーアイ)」は、文章で人と会話をするチャットボット(テキスト対話AI)と音声で会話をするボイスボット(音声対話AI)を組み合わせることで、スムーズにユーザーの質問に答えたりサービス利用の案内や予約・購入につなげる、最新の「ナビゲーション型」対話AI サービス。
会話中にユーザーに画像投稿を指示することもできるし、投稿された画像を的確に読み込むこともできる。編集部も実際に使ってみたが、音声と文章の両方で操作ができるので従来のチャットボットより遥かに楽で、ストレスなく正確に会話ができた。操作性にも優れ、会話中のウェブページへの遷移や選択画面の表示のタイミングも的確。実際にどのように会話が進み予約やサービス利用まで繋がるのか?デモの流れを動画で見てみよう。以下の「レストランの予約デモ」では、途中で予約日時の選択画面が出てくる。
「ロードサービス受付デモ」でのサービス申し込みでは、パンクしたタイヤの画像投稿をユーザーに指示する場面がある。
AIが口コミを分析、商機も発見(フロンテオ)
データ解析企業のフロンテオ(東京・港)は、自然言語処理に特化したAIエンジン「KIBIT」を開発。膨大な量のテキストデータの中から意味のある重要なデータを検出することで業務負担軽減や業務効率化を実現するAIソリューションを提供している。
テキストデータを収集・解析し、デジタルフォレンジック(※)や論文解析、市場・競合・技術調査を支援し、ビジネスリスクや商機を見つけ出す。新製品の「KIBIT WordSonar for VoiceView」は、口コミ解析やソーシャルリスニングによる生活者の声の解析も可能。ポジティブなコメントとネガティブなコメント、それぞれの傾向を読み取り分析することで、顧客ニーズを包括的に把握。マーケティング戦略の設計に役立てることができる。(※)不正行為の防止・原因究明や訴訟のための証拠収集として、メールや電子データなどを調査・解析すること
人の“無意識”を可視化、視線計測で競合調査やデザイン調査(トビー・テクノロジー)
アイトラッキング(視線計測/視線追跡)市場で世界一のシェアを誇るトビー・テクノロジー(スウェーデン)は、人がどこを見ているのか?を可視化し、人の興味・意識・感情などを捉えるサービスを展開。
アイトラッキングは人の瞳孔を検知し、 その人が何を見ているかをリアルタイムに追うことができるセンサー技術。実際に社内で活用したことはなくても、聞いたことがある人は多いだろう。ウェアラブル型のアイトラッキング機器(上画像)やウェブカメラを使って計測する。工場での作業標準化、設備保守点検、技術の伝承、教育、事故防止などを目的にしたものから、ポジティブ・ネガティブ、ストレス、恐怖などの状態を推定する研究や調査まで、幅広い場面で活用されている。マーケティング分野では、店舗内調査、広告調査、ウェブサイトや動画のユーザビリティ調査で使われている。
例えばドラッグストア内での調査では、「来店した人が自社商品を手に取るまでの間に、店内のどこを歩いてるのか?何を見ているのか?自社商品以外にどの商品を見ているのか?パッケージデザインのどこを見ているのか?」を知ることができる。化粧品と日用品メーカーの利用が多く、競合調査や、自社商品のパッケージデザインを変更した後の消費者の反応を調べるという。
どんなパッケージデザインだと目を引くのか?、どんなキャッチコピーだと広告を見てもらえるのか?、どんなコンテンツならウェブサイトでの滞在時間を伸ばせるのか?といったことを確認するための事前検証もできる。アンケートやインタビューなどの主観的な評価による調査ではなく、生体計測によるデータで調査ができるため、情報の信頼性が高い。人の無意識の感情や直感を容易に可視化できるということだ。マーケティング施策の効果を最大化できるのが、アイトラッキング活用の魅力だ。
以下は同社の紹介動画。アイトラッキングにより実現できることや、実際に計測している様子がまとめられている。
企業人に求められるAIリテラシー
他にも会場内では多様な視点のAIソリューションが展示されていた。ユーザーの感情を表情や声の抑揚などから読み取り個々の感情・状況に寄り添った個別応答をするAIコンシェルジュは、店頭・イベント・会社受付の場面で活躍する。営業や接客の練習を実施し定量評価までを担うAIロールプレイングは、ユーザーの発話ごとの感情の変化を可視化できるという。商業施設内の人流を解析し売上を上げるのに最適なレイアウトを人間に変わって決めるAIや、従業員が記録する日報からメンタルヘルスの悪化を検知するAIもあった。
市場リサーチ、商機発見、失注リスク検知、需要予測、口コミ分析、販促、パッケージデザイン、キャッチコピー作成、論文翻訳、接客、サービス利用受付、営業のロールプレイング…。今や、マーケティングに関わるあらゆるシーンでAIを活用できる。魅力はやはり業務効率化、専門作業の精度向上、サービスの標準化、人手不足解消だ。本稿の冒頭で先述した通り特に生成AIについてはクリアにすべき課題が残されているものの、AIを駆使することでビジネスのスピードが飛躍的に上がることを改めて実感した。
ヘルスケアビジネス参入にあたり企業が最も障壁に感じているのは「適切なケイパビリティを持った人材の不在・不足」という調査結果があるが(詳細:ヘルスケア市場は本当に魅力的?異業種からの新規参入意向は7割も実際は2.5割、なぜ?)、AIを使いこなせば、ヘルスケアビジネスやマーケティングスキルに精通している人材の確保といった課題も難なくクリアできるかもしれない。
ただしAIソリューションを駆使するには、AIそのもののリテラシー向上が前提。前出の展示会事務局長の下田氏によれば、「ヘルスケア業界に限ったことではないが、企業人の間ではまだまだAIのリテラシーが低い」とのこと。AIによるマーケティングの恩恵を十分に受けるには、ヘルスリテラシーとマーケティングリテラシーに加え、ある程度のAIリテラシーも必須のようだ。さて、あなたの会社ではどんなAIを使ってみたい?
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