29年ぶり高水準のエンゲル係数「生活レベル悪化」とは言えない理由

総務省の2016年家計調査速報によると、エンゲル係数(※)が25.8%と、29年ぶりの高水準になったことが分かった。(※)エンゲル係数とは家計の消費支出に占める飲食費の割合のこと。生活の豊かさを示す指標で、エンゲル係数が高いほど、飲食費が占める割合が高く生活水準が低いと言われる。

エンゲル係数上昇=生活困窮、という見方が強いが…

各メディアではエンゲル係数が上昇した状況について、以下のように指摘している。

  • 国民生活の悪化
  • 根強い節約志向のため被服費は抑えて、生きていくために必要な食費は削れない状況が続く
  • エンゲル係数が高いほど他の支出に回す余裕がなく、経済的に苦しい…
  • 消費税増税の影響
  • 食品価格の上昇
  • 10年前と比較して世帯あたりの消費支出は減少しているのに、食費は上がっている。収入上がらず家計の負担は増加

「国民は苦しくなっている」という悲観的な見方が強い。しかし、データ・統計の数字だけでは判断しがたいことも多く、生活者の本当の姿が見えづらくなってしまう点は気を付けたい。

異なる側面から生活者を見ると「豊かさ」も感じられる

「消費税増税の影響」「食品価格の上昇」は確かに今回のエンゲル係数上昇に関係していると考えられるが、マーケティング視点では次の視点からの考察もできる。

被服費は抑えているわけではない

アパレル業界全体は不振なのに他業界(例えばアニメ業界、健康業界、シニア向け旅行業界など)は活況なことからもわかるように、被服費は抑えているのではなく、単純に生活者の興味関心がファッションから他様々な分野へと多様化しただけのことだ。また、ファストファッションが定着したことや、生活者同士でいらなくなった物を安くお得に売買するフリマ市場の牽引も、被服費に対する支出が減ったことに関係しているだろう。

食に対する「楽しみ」を見出す生活者が増えた

モノ消費からコト消費へ移っていることも関係しているだろう。全てに満ち足りた今の生活者にとっては、物質的豊かさよりも精神的豊かさを求める傾向が強くなっている。そこで精神的豊かさを高める一つとして生活者が楽しみを見出すようになったのが「食」だ。

また最近は非日常で楽しみを見出すよりも、日常生活を充実させて毎日の生活に幸せや充実を求める傾向が強くなってきている。そこで、せっかくなら毎日の食を楽しく豊かに過ごしたいというニーズから、「家飲み」「友人を招いて本格的なホームパーティ」「自宅で本格料理をするための高級家電購入」「グルメお取り寄せ」といった消費行動が目立つにようになってきた。「食」にお金をかけて生活を楽しむ人が増えているのだ。

食で健康になりたいニーズが増加

飲料、酒類、菓子、野菜、加工食品、健康食品、トクホ、機能性表示食品など様々な健康・美容に良い食品が登場していることもあり、「食で病気予防・健康維持増進したい」ニーズが高まっている。

例えば「くるみ」を食べる習慣はなかったけれど、テレビ番組でくるみの効果を知ったのをきっかけに購入するようになる女性もいれば、骨粗しょう症予防のためにカルシウムを摂取しようと魚介類を積極的に購入するようになる女性がいる。これは一例だが、食で健康になりたいニーズが高まることで、このようにして食の支出が増える。

働く女性の増加により「食スタイル」が多様化した

働く女性の増加により、「外食」「冷凍食」「惣菜」を選択する女性が増えている。生鮮食材よりも割高なので必然的に食費は高くなるが、時短ニーズの強い忙しい女性は惜しまずに消費する。

消費支出が減って、食費が上がっているのは「価値観の変化」

世帯あたりの消費支出が減り食費が上がっている点に関しては、もちろん将来への不安から財布の紐が固くなっていることも考えられるが、一概に「支出が減ったのは生活が困窮しているため」とは言えない。

例えば今の20代を中心に広がるシェアリングエコノミー(家や車、服ををシェアする)。モノを過剰に持たない生き方がカッコいい「ミニマリスト」の広がり。「しまパト」「セリパト」に見られる、安くても高品質な商品の増加。高級品やブランド品への興味関心の低下。買い物するなら新品よりリユース商品がお得ー。近年見られるこのような消費者動向からは、「お金を使わない生き方が幸せ・カッコいい・賢い」という考え方が浸透してきていることが見えてくる。生活困窮から消費支出が減ったのではなく、価値観が変わっただけ、という見方もできるのだ。

エンゲル係数上昇は、生活者の多様化や食を楽しみたいという背景がある

今回のエンゲル係数上昇に対して悲観的な見方が多いが、データ・統計の数字だけで一概に判断すべきではないだろう。本当の生活者の姿を見極めるためには、数字はあくまで参考として捉え、その背景にある市場動向や消費者動向、トレンド、傾向も把握すべきである。マーケティング視点から上記の背景を考慮すると、エンゲル係数上昇は決して”悲観的な市場動向”とも言えなそうだ。⇒【詳細】家計調査報告 平成28年平均速報(総務省)

 

 

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