女性ヘルスケア市場、次なる成長の鍵は「満足度ギャップ」と「知識の壁」にあり
本稿は、医療・ヘルスケアに特化した市場調査会社の株式会社インテージヘルスケアによる連載記事です。伸長する女性ヘルスケア市場で持つべきは、「“全世代共通の悩み”と“世代特有の深い悩み”、という二層構造で捉える視点」と言います。女性の健康課題が社会的に認知されてきたからこそ、今、この視点が有用となるのかもしれません。。前回の記事では、更年期市場に特化した未対処者層へのアプローチについて解説しましたが、今回は、女性ヘルスケア市場全体で考えていきます。
目次
「解決されないお悩み」にこそ、次の一手
女性のウェルネスやQOL向上を目指す市場は成長を続けていますが、成熟期を迎えつつある今、次なる成長の鍵はどこにあるのでしょうか。私たちインテージヘルスケアが実施した調査から見えてきたのは、多くの女性が抱える「深刻な悩み」と「既存のソリューションへの不満」という、明確な“ギャップ”です。本稿では、このデータから読み解く3つの示唆をご紹介します。
既存の製品・サービスではニーズが満たされない
当社が実施した『女性の健康に関するお悩み実態把握調査(調査実施:2025年2月,対象:女性20〜79歳)』では、「PMS(月経前症候群)」と「更年期」の症状経験者の約6割が高い悩みを抱えていることがわかりました。ここで注目すべきは、PMSや更年期の症状経験者は、「症状による日常生活への支障度」と「対処の満足度」の間に、極めて大きなギャップが存在する点です。多くの女性は、単に「症状がある」だけでなく、症状に悩まされながらも、満足のいく対処ができていない状態に置かれています。実際、PMSと更年期の症状経験者の実に半数以上が、生活への支障度が高く、かつ現在の対処に満足できていない「お悩み層」に該当します。これは、既存の製品やサービスが、彼女たちのニーズを未だ満たしきれていないことの表れと言えるかもしれません。この「満足度ギャップ」こそ、女性ヘルスケア市場における次なるビジネスチャンスが潜んでいる領域と言えるでしょう。
「対処者」と「未対処者」の間にあるのは“知識の壁”
更年期市場に目を向けると、もう一つの重要な実態が浮かび上がります。『メノポーズ(更年期)世代のニーズ探索調査(調査実施:2025年2月,対象:女性40〜59歳)』からは、40~50代女性のうち、更年期特有の症状を経験しながらも、医薬品やサプリメント以外の方法で対処している層が12%、具体的な対処を何もしていない層が12%存在することがわかりました。
なぜ彼女たちは、医薬品やサプリメントで積極的に対処しないのでしょうか。更年期に対する理解度を医薬品やサプリメントでの「対処者」と「未対処者」別に見たところ、「未対処者」の理解レベルは「対処者」を全般的に下回る結果となりました。「未対処者」でも、「更年期に女性ホルモンが減少する」ことの理解はある程度あるものの、「女性ホルモンの減少が“自律神経の乱れ”を引き起こし、それが症状に影響する」というメカニズムへの理解が「対処者」に比べ低く、十分ではないようです。
つまり、「未対処者」に取るべきアプローチは、単に対処方法を訴求することではなく、このように知識の差を埋めるコミュニケーションにあるのではないでしょうか。「なぜその症状が起きるのか」というメカニズムを丁寧に解説し、製品やサービスがどうアプローチするのかを明確に伝えることが、「未対処者」という潜在顧客を動かす鍵となります。
女性の健康は、「全世代共通の悩み」と「世代特有の深い悩み」の二層構造で捉える
最後に、女性が抱える悩みの全体像です。20~79歳までの幅広い年代で見た場合、経験症状として挙げられたお悩みのトップ5は「目の疲れ」「肩・首筋・腰・背中のこり・痛み」「睡眠」「疲労」「手足の冷え」です。これらは世代を問わず、日々の生活の質に直結する基本的な悩みであり、多くの人が抱える慢性的な悩みです。ケアにおいては、日々の生活に取り入れやすい手軽さや継続のしやすさが、消費者に選ばれるための鍵となります。
一方で、「PMS」や「更年期」のような限定的な世代特有の不調は、前述の通り、満足度の低い領域です。対処の手軽さよりも「根本的なメカニズムへのアプローチ」や、確かな「効果実感」が求められます。女性ヘルスケア市場は、この「全世代共通の悩み」と「世代特有の深い悩み」という二層構造で捉える必要があります。それぞれの製品やサービスの強みが、どこで最も価値を発揮できるのか、戦略的な見極めが不可欠です。
市場の「深化」を促す「満足度」と「知識」へのアプローチ
女性ヘルスケア市場は、今後はより深い進化・深化への展開が見込まれます。本稿で提示したデータが示すのは、既存のソリューションでは満たされない「満足度ギャップ」や「知識の壁」という、明確な需要の受け皿が存在するということです。この市場で次の一手を打つ鍵は、まさにこの「ギャップ」を埋めるアプローチにあります。ターゲットとなるセグメントの心理と行動特性に最適化されたアプローチこそが、成熟市場における「次なる展開」を切り開く鍵となるのではないでしょうか。
【提供元】 株式会社インテージヘルスケア
女性のインサイトを、貴社の次のヒット商品へ!本記事でご紹介したデータは、弊社インテージヘルスケアの自主企画調査「女性の健康に関するお悩み実態把握調査「メノポーズ(更年期)世代のニーズ探索調査」」からの抜粋です。これらの膨大なデータベースを活用し、特定の悩みを持つ層のデモグラフィック、他の健康課題との関連、購買行動などを詳細に分析することが可能です。製品開発やマーケティング戦略の立案に、ぜひ弊社のリサーチソリューションをご活用ください。
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