「物言わぬ消費者」を動かすには? 更年期症状の“未対処者”のインサイトから探る新市場
本稿は、医療・ヘルスケアに特化した市場調査会社の株式会社インテージヘルスケアによる連載記事です。前回の記事「再定義される『エイジングサイン』 中年女性の潜在ニーズから浮かび上がる、人生100年時代の市場機会」に続き、中年女性に焦点を当てていきます。今回のテーマは「更年期」。更年期症状を感じながらも、何も対処をしていない未対処者層の “動かし方” を探ります。
目次
潜在市場の主役、「物言わぬ消費者」たち
女性の健康課題への関心が社会全体で高まる中、「更年期」はフェムケア・フェムテック市場においても無視できない重要テーマとなっています。当社が毎年実施している「健食サプリ・ヘルスケアフーズレポート」の2024年度版においても、「更年期障害対策」の市場は成長を続けており、生活者の高い関心がうかがえます。しかし、その一方で、多くの女性が更年期によるものと思われる症状を自覚しながらも、具体的な対策を講じていない「未対処者」であることも事実です。彼女たちは、なぜ不調を抱えながらも行動を起こさないのでしょうか。
この記事では、当社の自主企画調査「メノポーズ(更年期)世代のニーズ探索調査」のデータをもとに、これまで声なき存在であった「未対処者」の深層心理に迫ります。彼女たちのインサイトを解き明かし、企業が彼女たちに寄り添い、新たな市場を創造するためのコミュニケーション戦略を提言します。
更年期症状の経験者8割も、未対処者は2割
40~59歳の女性のうち、実に82%が何らかの更年期症状を1年以内に経験しています。しかし、その症状を更年期によるものと認識しているのは半数程度にとどまります。さらに、その中で医療機関を受診したり市販薬やサプリメントなどで何らかの対処をしている人は、全体のわずか22%に留まります。症状を自覚しながらも何も対処していない、あるいは医療機関を受診していない、市販薬やサプリを使用していない「未対処者」は24%で、実に約4人に1人があてはまります。これは、更年期ケア市場における非常に大きなギャップであり、同時にポテンシャルが眠る領域であることを示唆しています。
更年期症状の経験と対処の実態
なぜ彼女たちは行動しないのか?データから見る「未対処者」のインサイト
では、なぜ彼女たちは医療機関を受診したり市販薬やサプリを使用した対処に踏み出せないのでしょうか。更年期症状があるにもかかわらず、市販薬やサプリメントで対処していない女性たちにその理由を尋ねたところ、「年齢的な症状として受け入れている」「我慢できるくらいの症状である」「お金をかけたくない」「いつかは改善する、ずっと続くわけではないと思う」といった声が挙がっており、緊急性を感じていない、あるいはコスト意識がハードルになっている様子がうかがえます。注目すべきは、これらの理由の根底に「自分の症状と更年期を結びつける知識の不足」や「対処方法に関する情報過多による選択疲れ」が隠れている点です。実際、対処者に比べて未対処者は、症状の原因を「運動不足」や「ストレス」と捉える傾向が強く、「ホルモンバランスの乱れ」が原因であるという認識が低いことが、データからわかりました。
「未対処者」を4タイプに分類、アプローチの鍵はどこに?
私たちは、この「物言わぬ消費者」である未対処者を、症状による「生活への支障度」と「更年期であるという認識度」の2軸で4つのセグメントに分類しました。
未対処者4セグメント
①先取り対処スタンバイ層(支障:低 × 認識:高)
- 特徴: 症状がまだ深刻ではないため支障は小さいが、更年期に対する情報感度の高い層
- 対処に向かわせるポテンシャル: 大
②迷えるピンチ層(支障:高 × 認識:低)
- 特徴: 支障は大きく困ってもいるが、その症状の原因が更年期にあることを受け入れきれていない。ストレスや忙しさなど生活環境によるものだと考えがちで、あふれる情報の中から自身が何をしたら良いのか、どんな手段を選べば良いのか分からず、もやもやしている
- 対処に向かわせるポテンシャル: 中
③納得がまん層(支障:高 × 認識:高)
- 特徴: 症状の支障が大きく、更年期であることの認識も高い。ただ、この症状の原因は「年齢のせいだから」「いつかは終わる」と受け入れていて、今ある症状を我慢して日々を過ごしている
- 対処に向かわせるポテンシャル: 中
④のんびりライト層(支障:低 × 認識:低)
- 特徴: 支障も認識も低い層。「言われてみればそうかもしれない」と思う程度で、対処へのモチベーションは低い
- 対処に向かわせるポテンシャル: 小
「物言わぬ消費者」を動かす、「そっと寄り添う」コミュニケーションとは
一見すると、症状による支障も更年期の認識も高い「①納得がまん層」が、最もアプローチしやすいターゲットに思えるかもしれません。もちろん、症状に悩む彼女たちに寄り添うコミュニケーションは重要ですが、この層は「年齢のせいだから仕方ない」という諦めの気持ちが強く、我慢することが習慣化してしまっているため、行動を促すアプローチのハードルは高いのが実情です。
そこで、より行動変容へと導きやすい、対処に向かわせるポテンシャルが高い層として注目したいのが、情報感度が高い分、より先んじて対処したいと考える「③先取り対処スタンバイ層」と、「どうにかしたい」と思いながらも解決策を見つけられずにいる「②迷えるピンチ層」です。彼女たちを動かすためには、それぞれのインサイトに「そっと寄り添う」コミュニケーションが鍵となります。どちらの層にも重要なのは、「更年期=老化」というネガティブなイメージを払拭し、誰もが迎えるこの時期は、からだの変化と上手に付き合い、より快適に過ごすための移行期間であるといったポジティブなリフレーミングを行うことです。
更年期症状の未対処者に、決してニーズがないわけではありません。むしろ、どうすれば良いか分からず、あるいは我慢することが当たり前だと思い、静かに不調を抱えている「物言わぬ消費者」です。彼女たちの声なき声に耳を傾け、データに基づいてそのインサイトを深く理解すること。そして、一人ひとりの不安や迷いに寄り添い、正しい知識と選択肢を届けること。そこに、これからのフェムケア・フェムテック市場を切り拓く大きなヒントが隠されています。すべての女性が、からだの変化を前向きに捉え、自分らしく健やかな毎日を送れるように、この記事が、その未来に向けた皆様の新たな一歩を応援するきっかけとなれば、幸いです。
【提供元】 株式会社インテージヘルスケア
40代・50代女性のインサイトを、貴社の次のヒット商品へ!本記事でご紹介したデータは、弊社インテージヘルスケアの自主企画調査「女性の健康に関するお悩み実態把握調査」「健食サプリ・ヘルスケアフーズ・セルフへルスケアレポート2024」からの抜粋です。これらの膨大なデータベースを活用し、特定の悩みを持つ層のデモグラフィック、他の健康課題との関連、購買行動などを詳細に分析することが可能です。製品開発やマーケティング戦略の立案に、ぜひ弊社のリサーチソリューションをご活用ください。
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