関節リウマチ患者の特性を「行動ログ」から性差分析、健康・美容・グルメなどの関心領域も明らかに
本稿は、医療・ヘルスケア分野の市場調査を手掛ける株式会社インテージヘルスケアによる連載記事です。今回は「関節リウマチ」をテーマに、患者の行動・性格・SNS利用率・興味関心のあるカテゴリーを、性差視点で明らかにしていきます。
目次
関節リウマチとは
関節リウマチは、免疫機能の異常によって関節に炎症が生じる疾患です。この炎症は関節の痛みや腫れだけでなく、進行すると変形や機能障害を引き起こす可能性があります。明確な原因は未だ解明されていないものの、遺伝的要因や生活習慣(喫煙、歯周病など)が関連しているとされています。特徴として以下が挙げられます。
- 女性患者数が男性の約4倍に上る
- 発症が多いのは40~60歳代、高齢での発症例も増加中
- 女性ならではの原因として、出産やホルモンバランスの影響が指摘されている
関節リウマチの主な症状は、大きく2つに分けられます(参照:日本リウマチ学会)。
■朝のこわばり
朝起きた際に、関節を動かし始めるときにこわばりを感じ、動かしにくい状態になることがあります。この症状は、関節をしばらく動かしているうちに少しずつ解消され、次第に楽に動かせるようになります。
■関節の痛み、腫れ
関節が熱を持ったように感じたり、腫れが生じたり、動かした際に痛みを感じることがあります。これらの症状は、関節炎によるものである場合が多いです。特に手首や指の付け根、第二関節、足の指の付け根などの小さな関節で見られることが一般的ですが、それ以外にも足首、肩、膝、肘、股関節などの関節に症状が現れることもあります。また、この痛みは左右対称に発生する場合もあれば、体の各部位を移動するように感じられることもあります。症状が強く現れている時は、安静を保ち、関節をしっかり保護することが重要です。一方で、症状が落ち着いてきた際には、適度な運動やリハビリテーションを取り入れることで、筋力を維持し、関節の動きがスムーズになります。
行動ログから関節リウマチ患者を分析
2023年10月に、当社は株式会社NTTドコモのグループ企業の一員となりました。NTTドコモは約1億人規模の会員基盤を有しており、許諾を得た会員から収集した「行動ログ」を分析することが可能です。「行動ログ」とは、日常の行動データ(アプリの利用履歴や位置情報など)のことです。今回は、この行動ログデータを活用し、「アプリ利用履歴」と「位置情報から推定される外出行動データ」から関節リウマチ患者に特有の行動特性を分析しました。アンケートでは一般的に、回答者が意識的に「正しい」と思う答えを選ぶ傾向がありますが、行動ログは”事実”の記録であるため、その人の「素」が現れた、客観性のある情報として見ることができます。
■本稿で用いる表現について
<リウマチ患者>
NTTドコモの会員のうちリウマチ患者であると自己申告した人を対象にアンケートを実施。その回答者の中から、行動ログの許諾者のみを抽出した属性を「リウマチ患者」としています。
<定期アンケート回答者>
NTTドコモでは定期的にアンケートを配信しており、その回答者の中から行動ログの許諾者のみを抽出した属性を「定期アンケート回答者」としています。こちらはリウマチに罹患していない属性で、”一般的な生活者”として見ることができるため、対象群として設定しました(※)。
(※)一般的に、アンケート回答者は一般生活者に比べ意識が高い傾向があるため、回答には一定のバイアスがかかる可能性があるとされています。そこで、バイアスを考慮した考察ができるよう、NTTドコモの「定期アンケート回答者」を一般生活者と見なし、対象群としました。
アプリの利用時間帯・外出時間帯からみる生活の規則性
2025年3月1日~3月31日の期間において、各日の1時間ごとのアプリ利用有無と外出有無を確認しました。そのデータから、生活の規則性の指標としてエントロピー(ばらつき具合)の指標「JSD」を算出したのが、図1〜図4です。値が大きいほど不規則であることを示します。
リウマチ患者と定期アンケート回答者を比較すると、リウマチ患者の方が規則的な生活をしていることが分かります(図1・図2)。年代別で見ると、アプリの利用時間帯において、40代は他の年代よりも差が大きく、リウマチ患者の方がより規則的です。外出時間帯において、40代、50代は他の年代よりも差が大きく、リウマチ患者の方がより規則的です(図3・図4)。関節リウマチに罹患した、または関節リウマチの症状が進行したことにより、規則的な生活を心がけている可能性が考えられます。
■アプリの利用時間帯からみる生活の規則性 性別(図1)
■外出時間帯からみる生活の規則性 性別(図2)
■アプリの利用時間帯からみる生活の規則性 年代別(図3)
■外出時間帯からみる生活の規則性 年代別(図4)
外出時間からみるライフスタイルの変化
2024年10月1日~2025年3月31日の期間において、スマートフォンの位置情報から自宅または職場以外に居ることを推定し、その滞在時間を外出時間として算出しました。リウマチ患者と定期アンケート回答者を比較すると、リウマチ患者の方が、外出時間が短いことが分かります(図5)。年代別で見ると、定期アンケート回答者は、50代から60代にかけて外出時間の減少が確認できますが、リウマチ患者においては40代から50代にかけての減少であることが分かります(図6)。定期アンケート回答者の50代から60代にかけての外出時間の減少は、退職などによるライフスタイルの変化によるものであると考えられます。一方で、リウマチ患者の40代から50代にかけての外出時間の減少は疾患も影響していると考えられ、関節リウマチに罹患したまたは関節リウマチの症状が進行したことにより、外出時間が減少した可能性が考えられます。
■外出時間 性別(図5)
■外出時間 年代別(図6)
性格推定からみる関節リウマチ患者の特徴
ビッグ・ファイブ理論という、「開放性(Openness)」「誠実性(Conscientiousness)」「外向性(Extroversion)」「神経症傾向(Neuroticism)」「協調性(Agreeableness)」の5つの因子の組み合わせから性格を導き出す性格分析理論を用いて、リウマチ患者と定期アンケート回答者の性格の比較も行いました。リウマチ患者と定期アンケート回答者を比較すると、性格は大きな差がないことが分かります。年代別で見ると、リウマチ患者の40代から50代でNの値が下がる(おおらかになる)ことが分かります。外出時間同様、疾患が影響していると考えられ、疾患の受容が進み新たな価値観を持つようになり、おおらかになっていると考えられます(参照:スマートフォンの利用履歴に着目したBigFive推定モデルの提案)。
■ビッグ・ファイブ理論(図7)
YouTube、Instagram、Xの利用率からみる関節リウマチ患者の特徴
2025年3月1日~2025年3月31日の期間において、Androidユーザーのアプリの利用履歴から、各アプリを一度でも起動しているユーザーの割合を算出しました。いくつかのアプリの中でも、指先の細かい操作が必要であると予想される3つのSNS「YouTube」「Instagram」「X」に着目しました。
リウマチ患者と定期アンケート回答者を比較すると、YouTubeはリウマチ患者の方が、女性が5ポイント低く、Instagramはリウマチ患者の方が、女性は10ポイント、男性は6ポイント低く、Xはリウマチ患者の方が、女性が7ポイント低いことが分かりました(図8)。リウマチ患者と定期アンケート回答者を比較すると、リウマチ患者の方が、アプリの利用率が低いことが分かります。リウマチ患者の方が低い理由は、指先の操作が細かいアプリであるため、操作性の面において差が出たと考えられます。一方、なぜ女性の方が低いのか、本調査では明らかにすることが難しい結果となりました。
年代別で見ると、50代が最もアプリ利用率の差が出ており、リウマチ患者の方が低いことが分かりました。アプリの利用時間や外出時間でも50代が低かったことから、関節リウマチが生活に大きく影響を及ぼす年代であると考えられます(図9〜11)。
■アプリの利用率 性別(図8)
■アプリの利用率ーYouTube 年代別(図9)
■アプリの利用率ーInstagram 年代別(図10)
■アプリの利用率ーX 年代別(図11)
興味関心データからみる健康・美容・グルメへの関心
続いてNTTドコモの各種データを用いて、興味関心の度合いをスコア化しました。そのうち、疾患と関係のありそうなカテゴリに着目しました。どの性別・年代も、リウマチ患者の方が、健康・美容・グルメに関する関心が強いことが分かります。関節リウマチは薬物治療だけでなく、食事・運動・睡眠などの生活習慣が炎症や進行に大きく影響すると考えられているため、健康への関心が高まり、それが美容・グルメといった周辺領域への興味にも波及していると考えられます。
■興味関心データ 性別(図12)
■興味関心データ 40代、50代(図13)
■興味関心データ 60代、70代 (図14)
まとめ
本稿では、関節リウマチ患者の生活リズムや行動特性について、行動ログデータを活用して分析しました。特に以下の特徴が明らかになりました。
- アプリの利用時間/外出時間帯から生活リズムを見ると、リウマチ患者は規則的な生活を行っている
- 外出時間帯、性格推定、YouTube、Instagram、Xの利用率から、関節リウマチに罹患すると、50代で関節リウマチが生活に大きく影響を与える
- 関節リウマチに罹患すると健康への関心が高まり、それが食事や運動、美容といった周辺領域への興味にも波及している
アンケートでは取得できない事実の記録となる「行動ログ」を可視化することで、新たな視点から、疾患に伴う行動特性の理解を進めることができます。行動ログを活用することで、アンケートの回答では得られない「本質的な情報」に迫ることが可能です。
【提供元】 株式会社インテージヘルスケア
インテージヘルスケアは幅広い疾患領域における実績、医療やヘルスケアに特化した専門性の高さ、豊富なアセットを活かし、お客様の意思決定につながるインサイトをご提供します。
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