障がい者向けビジネスを牽引するファッション業界、注目のアダプティブアパレルブランド3選
障がい者に特化した商品・サービスは、健常者向けのものと比べて市場が圧倒的に小さい上に、PRも地味。ほぼ手付かず状態の未開拓市場だ。だが近年は、インクルージョンの加速やマス市場に依存したビジネスモデルからの脱却を背景に、障がい者やLGBTQ+など、いわゆるマイノリティグループに市場機会を見出す企業が増えている。特に世界最大のマイノリティグループと言われる障がい者市場は、今後注目のブルーオーシャンだ。
先行事例として参考になるのが、この市場にいち早く乗り出したファッション業界。障がいのある人がスムーズに着脱できる衣類を指す「アダプティブファッション」「アダプティブアパレル」という言葉が確立されるまでに市場が形成されている。アパレル大手とベンチャーの事例を紹介しよう。
障がい者は世界最大のマイノリティグループ
世界経済フォーラムによると障がい者は世界最大のマイノリティグループで、世界人口の17%にあたる13億人以上が何らかの障害を抱えて生活をしている。さらに障がい者は世界全体で増加傾向にあり、これは世界的な高齢化が影響している。障害の80%は人生の後年に発症するため、高齢化が進むと必然的に障がい者の数が増えるということだ。
では、日本の障がい者数はどれくらいなのか?障害者白書(内閣府,令和2年版)によると、男女別の日本の障がい者の数は次の通り(障がい者数は「身体障がい者」「知的障がい者」「精神障がい者」の総数)。
- 女性…278.6万人
- 男性…311.5万人
全体で見ると女性の方が少ないが、65歳以上に絞ると女性の方が多くなる(以下)。女性は長生きをする人が多いことが関係していると考えられる。
- 女性…177.2万人
- 男性…175.6万人
利便性とファッション性の両立(アローズ)
衣類・小物を販売するセレクトショップ大手のユナイテッドアローズが2018年に立ち上げたのは、障がい者を対象にしたアダプティブアパレルブランド「ユナイテッド クリエーション 041 ウィズ ユナイテッドアローズ」。
「自力で服をスムーズに着れない」「自分に合ったサイズがない」など、障がいや病気が理由で洋服選びに悩んでいる人に向けたデザインを提案しており、例えば「フレアにもタイトにもなるZIPスカート」は、車椅子ユーザーの女性を対象にデザインされた。
車椅子ユーザーにとってスカートは着こなしづらいファッションスタイル。車椅子に座るとシワになりやすく、またヒップ部分に縫い代があるタイプの場合、その厚みにより床ずれを起こすこともある。人によっては、風でスカートがめくれた時に自力で直すのが難しい。また、スカートはパンツと違いどちらが前面・背面かわかりづらいため、介助者も履かせづらく不便。このような悩みを解決するため、このスカートには様々な工夫が散りばめられている。
- 床ずれを起こさないよう、ヒップに負担がかからないデザインを採用。スカートの前面にはプリーツが入っているが背面は無し
- 寝たままでも着脱が楽にできるようストレッチ素材を採用し、両サイドにはジッパーを設置して履き口を大きくした(詳細はHP内に掲載の動画)
- 座った時に最適な丈となるよう、スカートの前面の丈は長めに。座るとちょうど良い丈になる
- スカートが車いすに巻き込まれないよう、背面の丈は短めに。座るとちょうど良い丈になる
追求したのは利便性だけではない。ファッション性にもこだわり、履いた時に2種類のシルエットを楽しめるようスカートの前面に5本のジッパーを採用した。ジッパーを閉めるとタイトスカートになり、開けるとフレアスカートになる。ジッパーは他の役割も担っており、ジッパーの重みによりスカートが風でめくれるのを防止する。
このスカートは、デザイナーが車椅子ユーザーへのヒアリングを重ねたことで生まれた。製品の誕生秘話や女性が実際にスカートを着用した様子はHPに公開されている。
その他、子ども向けに作られた「スタイ(よだれかけ)にもなるエプロンドレス」も発売した。一般的にスタイは赤ちゃんに着用させるものだが、傷害や病気で口を閉じることができないと食事がうまくできず、こぼしたりよだれが出てしまうため、大きくなってもスタイが必要な子どももいる。だが赤ちゃん向けのデザインが多いため、大きくなった子どもに着用させるのは親としても抵抗がある。そんな声を反映したのが、一見すると普通の洋服に見えるエプロンドレス。筋ジストロフィーを患う女の子が実際に着用している写真や製品誕生秘話は、HPで。
アダプティブ感を目立たせないデザイン(トミー・ヒルフィガー)
アダプティブアパレルブランドとして国内外で知名度があるのは、トミー・ヒルフィガーの「トミー・ヒルフィガー・アダプティブ」。2016年春に米国で、国内では昨年に発売を開始した。前述のアローズよりも商品数が豊富で、実にオシャレなラインナップ。男性向け、女性向け、子ども向け、それぞれで本格展開している。
トップスのジッパーの開け閉めを簡単にできる機能、車椅子利用者の悩みや困りごとを考慮した機能、義手・義足などの装具に対応した機能など、様々な障害に適した機能を備え、かつ、目立たないようにデザインしているのが特徴だ(詳細は以下動画)。
トミー・ヒルフィガー・アダプティブは、自閉症の子どもの子育てを経験したというトミー・ヒルフィガー本人の経験が背景にあり、障害のある大人にも子どもにも自立心と自信を持ってもらいたいとの思いから立ち上げた。
障がい者のセクシーな下着(インティメトリー)
最後にベンチャーの事例をご紹介。米国の女性起業家が立ち上げたインティメトリーは、障がい者のランジェリーに特化したブランド。米国で拡大を続けるアダプティブアパレル市場の代表的な事例として各メディアに取り上げられている。
足を曲げたり持ち上げることなく着用できるよう、サイドオープニングのデザインを採用したパンティや、前開き型かつマグネット式で着脱できるブラジャーなどをデザイン・販売しているのだが、最大の特徴はセクシーなデザイン。「健常者同様にセクシーなランジェリーの選択肢があっても良いのでは?」との着眼点から、機能性とセクシーを併せ持ったデザインを重視している。ぜひ、読者の皆さんにもHPから見てほしい。
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