広がるインクルーシブデザイン、ヘルスケア商品・サービス事例4選

今年1月、SONYが「2025年までに全ての製品・サービスを障がい者や高齢者に配慮した仕様にする」と発表し、3月には弱視や全盲の人でも使いやすいカメラを発売したことで話題を呼んだ、インクルーシブデザイン。これまでビジネスの対象から除外されてきた人たちの視点やニーズに着目した製品・サービスを開発する手法で、ビジネスの次の一手として注目されている。あらゆる人の社会的健康の実現に向け、いよいよ市場で標準化の流れへ。

※本稿は、今年4月に発行した「女性ヘルスケア白書2023」のp.46〜51でご紹介している内容の一部に、新しい情報を加筆してお届けします。無料ダウンロードがまだの方はコチラ!

広がるインクルーシブデザイン、標準化の流れへ

インクルーシブデザインとは?

インクルーシブデザインとは、これまでビジネスの対象から除外されてきた人たち(体が不自由な人、高齢者、病気のある人、外国人などマイノリティにあたる人たち)と企業が一緒に、身体機能の制約の有無に関係なく、あらゆる人が快適に使える製品・サービスを企画・開発する手法のこと。当事者が企画・開発の過程に参加することで、これまで気づくことができなかった不(不便・不安・不満・不快)やニーズを発見し、イノベーションに繋げていこうとする取り組み。広義では、当事者のニーズに着目して製品・サービスを開発することそのものや、当事者と健常者を区別せずにどちらも使える製品・サービスを目指して開発することも指す。いずれの意味であっても、ハンディキャップがある人たちを含め、可能な限り幅広いユーザーを対象にできるような使いやすさを追求したデザインが重視される。

なぜ今広がっている?

インクルーシブデザインは以前から知られている言葉だが、DE&Iの推進が加速し、これまでマイノリティとされてきた人たちの存在が健常者にとって身近になったことや、テクノロジーの進化により解決できることが増えたこと、そして、マイノリティを対象にした製品・サービスが実際に社会実装され多くの人の目に止まるようになったことで、改めて社会的に関心が高まってきた。

マジョリティの嗜好やニーズを対象に製品・サービスを開発する、従来の一般的なマーケティング=マスマーケティングの考え方では簡単に売れない時代に突入したことも、この発想に共感する企業が増えている大きな理由だ。

2017年より提唱(電通)

電通ダイバーシティ・ラボは2017年からこの概念を提唱しており、電通が運営するメディアの記事「インクルーシブ・マーケティングがなぜ大きなビジネス成果を生むのか(2023.6)」の中で、インクルーシブ視点の事業開発をするのであれば、CSRの文脈ではなく一事業として真剣に取り組むことが前提だと強調している。これまでマイノリティを対象にした企業の取り組みは、社内でCSRの一環として据えるきらいがあった。そうではなく、「社内の重要な一事業として成長させていく」というビジネス思考を根幹に据えよ、ということだ。

記事内では温水洗浄便座を例に取り上げ、医療用・福祉用に使われていたものを一般向けにも販売したところ、世の中に広く受け入れられ見事に市場が形成されたという、マイノリティデザインの成功事例も紹介した。マイノリティを対象に開発をスタートすることで、マスマーケティングの発想では生まれなかった機能や製品デザインにつながり、結果的に、多くの人にとって利便性の高い製品・サービスを開発できる。これこそが、インクルーシブデザインによる恩恵だ。

2025年までに全製品・サービスをインクルーシブデザインに(SONY)

コモディティ化した市場の中で、新たなビジネスの一手として取り組む企業は続々と登場。インクルーシブデザインの製品・サービスが市場の標準化となる流れまでもが起きている。

例えばSONY。日経新聞の報道によると、2025年までに全ての製品・サービスを障がい者や高齢者に配慮した仕様にすることを今年1月に発表した。同社はインクルーシブデザインを積極的に取り入れており、3月には弱視や全盲の人でも使いやすいカメラ(VLOGCAM™ ZV-E1)を発売。操作メニューと動画再生画面を音声で読み上げてユーザーの操作をアシストする「音声読み上げ」機能を搭載したカメラで、国内初の取り組み。インクルーシブデザインのカメラとして話題を呼んだのはもちろん、インクルーシブデザインの考え方そのものにも注目が集まった。

開発に携わった同社の全盲の社員は、日本テレビの取材(2023.3.30)で、「視覚障害だけではなく、目が見える人にとっても助けになるのかなと思っている」と答えている(以下動画)。弱視や全盲の人だけではなく、老眼や視力の低下で画面が見えづらい人や、暗い場所で操作がしづらい“目の見える人”にとっても便利だ。

 

製品・サービス事例

聴覚障がい者も健聴者も、誰もが受けやすいX線検査

X線検査支援システムのアイスゲート(東京・墨田)は、これまで音声指示のみで行われていたX線検査に絵や文字、動画、手話などによる指示を加えることで、聴覚障がい者のがん検診受診をスムーズにする「e-検査ナビシステム」を開発した。検査中の「指示の見える化」は、高齢者や日本語のわからない外国人のみならず、耳に障害を持たない健聴者や検査に慣れていない人にとってもわかりやすい。令和4年のバリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰を受賞した。

【出典】アイスゲート

 

視覚障がい者も高齢者も晴眼者も、誰もが読みやすいフォント

フォントデザインのフォントワークス(東京・港)は、高齢者、視覚障がい者(弱視)にとって「可読性」「判読性」が高いフォントを開発した。「ソ」や「ン」、「シ」や「ツ」など判別が難しい字は線の角度を変えたり、「゛」や「゜」はサイズを大きくしたりと、書体デザインを変更した。高齢者や視覚障がい者だけでなく晴眼者の見やすさ向上にも繋がる。

【出典】フォントワークス(判別性が難しい文字「ソ」「ン」「シ」「ツ」「ぼ」「ぽ」「l(エル)」「0(ゼロ)」などを、誰もが判別しやすいようにデザインした)

 

病気の人も赤ちゃんも、誰もが食べやすいカトラリー

関西電力の社内ベンチャー制度から生まれた猫舌堂は、口を開きづらい、一度にたくさん口に入れられないなど、食に悩みをもつ人に寄り添うスプーンやフォーク「iisazy」を開発。がんや麻痺などによって食べることに苦痛を抱えた人に向けて幅、薄さ、平らさ、軽さ、デザインなど細部にこだわった。そのこだわりが幅広い層に受け入れられ、赤ちゃんや子ども、高齢者などにも支持されている。

 

色覚異常の人もファッショニスタも、誰もが色合わせができる靴下

靴下専門商社のマリモ(愛知県)は、色覚異常や視覚障がいのある人も色の判別ができる靴下を開発した。視覚障がいや、色弱・色盲といった色覚異常がある人にとって、靴下の左右の色を合わせるのは難しい。そこで、視覚障がい者と共に、障害の有無に関わらず誰もが楽しめる靴下の開発を開始。靴下の側面には、色を表す点字のみならず、後天的に目が見えなくなり点字がわからない人でも理解できるよう、色を表す英字も併記した。色が見えなくても、触るだけで色合わせができる。視覚に障害のない人も楽しめるアイテムとなるようデザインにもこだわり、点字と英字は、靴下のロゴデザイン風に側面上部に配置した。

【出典】マリモ(点字と英字を触ることで、視覚に障害がある人でも靴下の色がわかる。一見、靴下のロゴに見えるデザインだ)

【出典】マリモ(全5色で展開)

 

その他の事例

本稿で紹介した以外に、「女性ヘルスケア白書2023」内では、公共交通機関やアパレル、日用品領域でのインクルーシブデザイン事例を紹介。「ユニバーサルデザイン」と「インクルーシブデザイン」の違いや、インクルーシブデザインが生活者の新しい購入基準になる理由についても解説。無料ダウンロードがまだの方はコチラ! 

 

 

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