治療における男女格差を埋めることは、製薬企業の新たな収益機会に R&Dチームがすべき5項目
製薬企業が女性の健康を推進するために性差に着目することは、道徳的責任の側面のみならず、新たな価値創造と大きな収益機会にーー。マッキンゼー&カンパニーが、治療における男女格差の課題点とその解決策をまとめたレポートを1月に公開し、製薬業界の新たなポテンシャルを示した(Closing the women’s health gap: Biopharma’s untapped opportunity)。
レポートでは始めに、研究者が女性の健康を性・生殖という狭い領域で捉えがちであるとの指摘のもと、治療における男女格差が生まれる背景を次の4つに整理している。
- 生物学的差異に関する理解が限定的
- 医療提供システムは男性を中心に設計されることが多く、診断や介入で女性特有の症状が見落とされやすい
- 臨床における決定において活用されるデータは性別で分類されていないことが多く、女性の疾病負担が大幅に過小評価されている
- 女性の健康に関する研究に対し、未だに積極的な投資が行われていない
続いて、疾患における治療の男女格差の実態を解説。例えば喘息。成人の喘息は女性に多いものの、治療の有効性や服薬の遵守率は女性の方が低いことがわかっており、治療に使われる吸入器の有効性は、男性より女性が約40%低いという。ホルモンの変動などが理由で、こういった喘息治療における男女格差を製薬企業が埋めることができれば、効果的な治療を受ける女性の数を今より27〜35%増やすことができるとしている。他の疾患においても同様のメリットが期待できることから、製薬企業が性差に着目するメリットは大きいと強調し、研究開発・営業・医療業務のあらゆるフェーズにおいて性差に対処するための明確な戦略が必要だと訴えている。とりわけ焦点を当てているのはR&Dチームにおける推進で、その手段として挙げているのは以下5項目。
- 性別に特化した前臨床研究を行う
- 満たされていないニーズで大きな市場の可能性を秘めた女性特有の疾患に関する基礎研究を増やす
- 女性の健康という視点からアセット戦略を策定する
- 試験では適切な性別バランスを取れる設計をする
- 試験結果を分析・報告する
これにより目指すのは、治療における男女平等と製薬企業の収益機会の拡大で、各社が既存の業務に”女性の健康の視点”を取り入れることで、新たな価値創造を生み出すことができ、最終的には真にパーソナライズされた医療の目標を推進することができるとしている。
マッキンゼー健康研究所と世界経済フォーラムは昨年、「女性にかかる健康負担や男女間の健康格差を解消することで、2040年までに世界経済に年間1兆ドルの経済効果をもたらす」との試算を発表しており、同レポートの提言は、製薬業界による貢献を示したものとなる。
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