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タバコ1本で縮む寿命は「女性22分」「男性17分」、1箱で約7時間を喪失 英研究

本稿は、たちばな台クリニックの秋谷進医師による連載記事です。今回のテーマは「喫煙」。喫煙による健康被害の中でも、最も恐ろしい”寿命の短縮”。その具体的な数字を性別で明らかにした英国の研究報告を解説します。

喫煙で寿命が縮まる?

喫煙が寿命を縮めることを知らない人は、ほとんどいないと思いますが、「じゃあ、実際どのくらい縮まるの?」と言われて答えられる人は少ないかもしれません。そんななか「タバコ1本で20分の寿命を失う」という衝撃的な研究結果が発表されました。今回は、タバコが寿命に与える影響を調査した研究をご紹介します。英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのSarah Jackson氏らが、紙巻きタバコと寿命の関係性について、「Addiction」に2024年12月に報告しました。Sarah E Jackson,Martin J Jarvis,Robert West,et al.The price of a cigarette: 20 minutes of life?.Addiction. 2025 May;120(5):810-812. doi: 10.1111/add.16757. Epub 2024 Dec 29.

 

喫煙で損失する寿命を男女別に分析

研究背景:過去の報告「喫煙1本で寿命11分が短縮」を再評価

喫煙が体に及ぼす影響については以前からさまざま研究が行われており、肺がんや咽頭癌、食道がんといった、がんをはじめとする様々な疾患の罹患率を上昇させることがわかっています。過去に、イギリスで1本あたり11分寿命が短くなるといった報告がされましたが、最新の疫学データに基づいてその影響を再評価する必要があると考えられました。そこで「タバコ1本がどれだけ寿命を縮めるのか」という問いに、最新の信頼できる大規模研究データを基に、新たな見積もりを示すことを目的としてこの研究が行われました。

 

研究方法:男女別に喫煙者と非喫煙者の平均寿命を比較

英国の大規模かつ信頼性の高い2つの長期追跡研究を用いて調査が行われました。1つは「Million Women Study」という、1996年から開始された一般の女性約130万人を対象とした調査で、こちらは英国の女性における生活習慣と健康との関係を広範に分析しており、喫煙が女性の寿命や死亡リスクにどう影響するかを詳細に把握できる重要な資料となっています。

もう1つは「British Doctors Study」のデータが用いられました。これは1951年に開始された34,000人の英国の男性医師を対象とした研究で、医師たちに喫煙習慣の有無や量を尋ね、その後、数十年にわたって健康状態や死亡率を追跡することで、喫煙が寿命にどう影響するのかを明らかにしたものです。世界で最も影響力のある喫煙関連研究の一つとされています。

これらの研究から得られた豊富なデータを用いて、まず、喫煙者と非喫煙者それぞれの平均寿命を比較し、その差を明らかにしました。たとえば、生涯を通じてタバコを吸っていた人と、全く吸わなかった人の間で、最終的に平均してどれだけ寿命に差が出るのかを年単位で計算します。その上で、喫煙者が生涯で吸っていたと推定されるタバコの総本数を元に、「1本あたりどれだけ寿命を短くしているか」を導き出したのです。

 

研究結果 :女性は22分、男性は17分の寿命を喪失

研究の結果、タバコを1本吸うと女性で約22分、男性で17分、平均で20分寿命が喪失するという結果が得られました。これは1箱で6時間40分の寿命が縮むことを示しています。1日10本吸っている人は、7日間禁煙することで1日分の寿命、1ヶ月禁煙すれば10日分の寿命が改善する計算になります。すなわち、「女性の喫煙者は男性の喫煙者よりも、大切な人々と健康な状態で過ごすことができるはずの時間をより多く失う」と言うことがわかったのです。

 

研究から得られた知見:寿命は「完全な禁煙」で取り戻せる

この研究から得られた最も重要な知見は、喫煙によって寿命が短くなるという一般的な理解を、単なる統計的リスクではなく「1本のタバコが平均して20分の命を削る」という具体的かつ直感的な数値で示したことです。少量喫煙(たとえば1日数本)であっても心血管疾患やがんなどのリスクが有意に高まることから、単に本数を減らすだけでは健康被害を十分に防ぐことはできず、「完全な禁煙」が重要です。喫煙によって失われる命の時間は「固定された運命」ではなく、今からでも確実に取り戻せる「取り返しのつく損失」です。現在喫煙をしている人も、諦めずに禁煙にトライすることが重要です。

 

禁煙できなかった同僚の医師たちが禁煙できた理由

今回は喫煙の寿命に対する影響を調べた研究を紹介しました。タバコによる「害」は常日頃から言われていますが、私の周りにも喫煙者は数多くいます。私の恩師はよく医局で葉巻をふかしながら、「ニコチンは脳内伝達物質を放出させる。ノルアドレナリンによる覚醒作用、ドーパミンによる快楽作用、そしてセロトニンによる抗うつや抗不安への気分の調整作用があるのだよ。だから、私から喫煙を取り上げてはダメなのだよ」と語っていました。

私を始め医局のスタッフは、自分たちが受動喫煙しないよう、そして彼自身の体を心配して禁煙を勧めていましたが、一向に効果はありませんでした。やがて時代の流れとともに非喫煙者の人権も考慮され、病院敷地内は禁煙となりました。院内で喫煙する医師たちを見なくなったので、てっきり「皆、禁煙したのかな?」と思ったのですが、実は彼らは病院近くの喫煙可能な喫茶店を見つけて喫煙していました。非喫煙者の私たちからすれば、受動喫煙がなくなったので彼らのタバコ休憩には閉口していましたし、個人の権利を尊重する観点からも無理強いはできず、喫煙を勧める声は聞かれなくなりました。しかし、前述した愛煙家の恩師が晩年、喫煙による肺疾患を患い、日常生活でも酸素療法が必要となり、酸素カート(在宅酸素療法を受けている人が、外出時や移動時に酸素ボンベを運搬するためのカート)を押しながら医局に来て「タバコはやめた方がいい。苦しい人生になるぞ」と話した後には、一斉に禁煙する医師が増えました。私のように喫煙したことがない人がタバコの害を語るよりも、喫煙者がタバコの害を話す方がよっぽど効果があったのでした。

禁煙はいつ始めても寿命を伸ばす効果があります。禁煙は「人生の時間を取り戻す」行為であり、“無駄に時を失う”ことを避けるためにも、一刻も早く始めるべきです。「もうだいぶ吸ったし、禁煙なんかしても意味ないか」と思う前にぜひ禁煙にトライしましょう。

【執筆】秋谷進

 

小児科医・児童精神科医・救命救急士。たちばな台クリニック小児科勤務。1973年東京都足立区生まれ、神奈川県横浜市育ち。1992年、桐蔭学園高等学校卒業。1999年、金沢医科大学卒。金沢医科大学研修医、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て現職。過去の記事一覧はこちら

 

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