女性ヘルスケアのガイダンス(中高年期編)要点整理、更年期症状と29疾患の鑑別ポイントを整理
日本産科婦人科学会など10学会が、「女性のヘルスケアに関するガイダンス(中高年期編)」を策定した。女性版骨太の方針2026で掲げられた「診療領域を横断したガイダンスの作成」を具体化したもので、更年期症状として捉えられがちな12症状について、鑑別が必要な29疾患や専門医への紹介の目安などを整理したもの。中高年女性を診療する一般診療医による適切な診断・対応を支援することを目的とし、今後は研修資料やeラーニング教材の整備などを通じて普及が進められる予定だ。本稿では、ガイダンスの特徴や構成、盛り込まれた内容の要点を整理した。
目次
ガイダンス策定の背景
女性ホルモンの低下に伴う更年期症状は、ほてりや発汗、めまい、頭痛、関節痛、不眠など多岐にわたる。一方で、これらの症状は更年期障害だけでなく、甲状腺疾患や関節リウマチ、うつ病など他の疾患でもみられることがあり、更年期によるものと捉えられて適切な診断や治療が遅れるケースが指摘されてきた。こうした課題を踏まえ、国は女性版骨太の方針2026の中で、診療領域を横断したガイダンスの作成を掲げ、中高年女性を診療する医師が適切に対応できるよう、関係学会にガイダンス作成を依頼した。
ガイダンスの特徴
ガイダンスの特徴は、産科婦人科だけでなく、内科や整形外科、泌尿器科など診療科横断で策定された点にある。女性の健康課題を特定の診療科だけで扱うのではなく、診療領域を横断して対応することを前提としているためで、作成には、以下の10学会が参画した。
- 日本産科婦人科学会
- 日本女性医学学会
- 日本整形外科学会
- 日本性差医学・医療学会
- 日本精神神経学会
- 日本内科学会
- 日本内分泌学会
- 日本泌尿器科学会
- 日本プライマリ・ケア連合学会
- 日本リウマチ学会
ガイダンスの主な想定利用者は、更年期医療の専門医だけではなく、中高年女性を日常的に診療する一般診療医。患者が訴えるめまいやほてりなど、更年期症状として捉えられがちな症状を、更年期障害だけでなく他疾患の可能性も踏まえて診療し、必要に応じて適切な専門医へつなぐことを目的としている。
なおガイダンスは、診療ガイドライン作成手法に基づく「診療ガイドライン」ではなく、関連学会の医療者らによる知見をもとに作成した、実践的な手引きとして位置付けられている。
ガイダンスの要点
ガイダンスは全6章で構成され、中高年女性の健康課題を幅広く理解し、適切な診療や専門医への紹介につなげられる内容となっている。本稿では、このうち中核となる「更年期症状として捉えられがちな症状」と「更年期症状と鑑別を必要とする代表的な疾患・症候群」を中心に要点をまとめた。
【ガイダンスの構成】
1.中高年女性の身体的・心理的変化
2.更年期障害の診断と治療
3.更年期症状として捉えられがちな症状
4.更年期症状と鑑別を必要とする代表的な疾患・症候群
5.女性のライフステージと生活習慣病
6.中高年期女性の診療における診療領域を横断した対応
更年期障害の症状として捉えられがちな12の症状
更年期症状として捉えられがちであるものの、他の疾患との鑑別が必要となる主な症状として挙げているのは、以下の12項目。
- めまい
- ほてり・発汗
- 頭痛・頭重感
- 易疲労感・倦怠感
- 胸部違和感
- 慢性腰痛
- 頻尿・尿もれ
- 手指の関節痛
- うつ
- 不安
- 不眠
- 物忘れ・集中力低下
鑑別が必要な代表的29疾患
そして、上記12症状との鑑別が必要な代表的疾患として、以下の29項目を挙げている。ガイダンスでは、各疾患の特徴や診療上のポイント、紹介先となる診療科などを整理し、一般診療医が初期診療から適切な専門医への紹介までを判断できるようにしている。
- 甲状腺中毒症(甲状腺機能亢進症、無痛性甲状腺炎など)
- 甲状腺機能低下症
- 褐色細胞腫・パラガングリオーマ
- 関節リウマチ
- シェーグレン病(症候群)
- 変形性関節症
- めまいを伴う脳血管障害
- 頭痛を伴う脳血管障害
- 不整脈
- 虚血性心疾患
- 片頭痛
- 緊張型頭痛
- 貧血症
- 睡眠時無呼吸症候群
- うつ病
- 不安症
- 適応障害
- 若年性認知症
- 尿路感染症
- 間質性膀胱炎/膀胱痛症候群
- 腹圧性尿失禁
- 過活動膀胱
- 変形性脊椎症に伴う脊椎変形
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 脊柱管狭窄症
- 椎体圧迫骨折
- 良性発作性頭位めまい症
- メニエール病
- 子宮筋腫・子宮内膜症・子宮腺筋症
症状別にみる鑑別が必要な主な疾患
では具体的に、更年期症状として捉えられがちな12症状には、それぞれどのような疾患が隠れている可能性があるのか。同じ症状でも、背景にある疾患はさまざまであり、ガイダンスでは症状ごとに鑑別が必要な代表的疾患を整理している。
例えば、「めまい」でも、回転性のめまいに耳鳴りや難聴を伴う場合はメニエール病、起床時や寝返りなど、頭の向きを変えた際に誘発される場合は良性発作性頭位めまい症が疑われる。また、「易疲労感・倦怠感」でも、動悸や労作時息切れなどを伴い血中ヘモグロビン値が低下している場合は貧血症、寒がりや体重増加、むくみなどを伴い甲状腺ホルモンが低下している場合は甲状腺機能低下症の可能性がある。12症状と29疾患の対応関係は以下の通り。
| 主訴 | 疾患の典型的な特徴 | 考えられる疾患 |
|
めまい
|
反復する回転性めまい、難聴、耳鳴り、耳閉感 | メニエール病 |
| 頭位変換時の短時間の回転性めまい | 良性発作性頭位めまい症 | |
| 持続性の浮動性めまいで、構音障害、運動失調などの神経症状を伴うことが多い | めまいを伴う脳血管障害 | |
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ほてり・発汗
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イライラ、動悸・頻脈、手指振戦や体重減少等を呈し甲状腺ホルモンの上昇を認める | 甲状腺中毒症 |
| 発作性あるいは持続性の高血圧や、発作性の頭痛、動悸・頻脈、不安感などの症状を伴い、血漿遊離メタネフリン分画・尿メタネフリン分画等の上昇を認める | 褐色細胞腫・パラガングリオーマ | |
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頭痛・頭重感
|
拍動性頭痛、光音過敏や吐き気を伴い、数時間~数日持続する。月経周期や更年期のエストロゲンの変動に伴い誘発されやすい | 片頭痛 |
| 頭の両側に締め付けられるような鈍痛、肩・首のこりを伴う | 緊張型頭痛 | |
| 突然の激しい頭痛、今までにない強い痛みで、嘔吐や意識障害、麻痺など神経症状を伴うことが多い | 頭痛を伴う脳血管障害 | |
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易疲労感・倦怠感
|
動悸、労作時息切れ、めまい、立ちくらみ、気力・集中力低下等を伴い血中ヘモグロビン値の低下を認める | 貧血症 |
| 寒がり、体重増加、むくみ、徐脈、便秘、眠気、皮膚乾燥等を伴い、甲状腺ホルモンの低下を認める | 甲状腺機能低下症 | |
| イライラ、動悸・頻脈、手指振戦や体重減少等を伴い、甲状腺ホルモンの上昇を認める | 甲状腺中毒症 | |
| 朝に症状が強く、気分の落ち込み、興味喪失、不眠・過眠、食欲低下・過食、集中力低下を伴う | うつ病 | |
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胸部違和感
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脈の乱れ、胸の不快感や痛み、息切れ、めまい、失神等を認める | 不整脈 |
| イライラ、動悸、手指振戦、体重減少や易疲労感・倦怠感等を伴い甲状腺ホルモンの上昇を認める | 甲状腺中毒症 | |
| 日常的な生活状況の様々なことに関して、過剰な発汗、動悸、震え、息苦しさ、集中困難、睡眠障害などを伴う | 全般不安症 | |
| 胸痛や胸部圧迫感、息切れを伴い、典型的には発作時の心電図変化を認める。女性の場合は、男性に比べて顎・首・背中や肩の痛みなどの非典型的症状を訴えることが多いとされる | 虚血性心疾患 | |
| 突然起こり、震え、息苦しさ、めまい、死への恐怖などの強い不安を伴う。発作は数分でピークに達し、繰り返すことが多い | パニック症 | |
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慢性腰痛
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腰の重だるさや鈍痛が中心で、動作や姿勢で悪化し、安静で軽減することが多い | 変形性脊椎症に伴う脊椎変形 |
| 片側下肢のしびれ・痛みや感覚鈍麻、咳や前屈で悪化することが多い | 腰椎椎間板ヘルニア | |
| 下肢のしびれや間欠性跛行が特徴で、前かがみで症状軽減、長時間歩行で悪化する | 脊柱管狭窄症 | |
| 月経時や排便時・性交時に悪化することがある | 子宮筋腫・子宮内膜症・子宮腺筋症 | |
| 突然の痛みが特徴で、安静で軽減し、前かがみや体動で増悪することが多い | 椎体圧迫骨折 | |
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頻尿・尿もれ
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尿意切迫感を主症状とする蓄尿障害で、頻尿や夜間頻尿を、明らかな器質的疾患がないのに認める | 過活動膀胱 |
| 咳やくしゃみ、運動などで腹圧が上昇した際に尿が漏れる状態 | 腹圧性尿失禁 | |
| 排尿時痛、残尿感などの膀胱炎症状や発熱、腰背部痛などを認める | 尿路感染症 | |
| 感染など原因がないのに膀胱痛や尿意切迫、頻尿を慢性的に呈する | 間質性膀胱炎/膀胱痛症候群 | |
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手指の関節痛
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手指などの多関節に疼痛・腫脹・朝のこわばりを来す | 関節リウマチ |
| 口腔乾燥(ドライマウス)や眼乾燥(ドライアイ)を主徴とする | シェーグレン病 | |
| 疼痛、可動域制限や骨性結節を生じる変性疾患 | 変形性関節症 | |
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うつ
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朝に症状が強く、気分の落ち込み、興味喪失、不眠・過眠、食欲低下・過食、集中力低下を認める | うつ病 |
| 明確な心理社会的ストレス因子に反応して情緒面や行動面の症状が出現し、社会生活に支障を来す状態で、原因から離れると比較的速やかに改善する | 適応障害 | |
| 倦怠感や、寒がり、体重増加、むくみ、徐脈、便秘、眠気、皮膚乾燥を伴い甲状腺ホルモンの低下を認める | 甲状腺機能低下症 | |
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不安
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イライラ、動悸・頻脈、手指振戦や体重減少等を呈し、甲状腺ホルモンの上昇を認める | 甲状腺中毒症 |
| 日常的な生活状況の様々なことに関して、過剰な心配や恐怖が持続し、動悸、発汗、震え、息苦しさ、集中困難、睡眠障害などを伴う | 全般不安症 | |
| 突然起こり、動悸、震え、息苦しさ、めまい、死への恐怖などの強い不安を伴う。発作は数分でピークに達し、繰り返すことが多い | パニック症 | |
| 朝に症状が強く、気分の落ち込み、興味喪失、不眠・過眠、食欲低下・過食、集中力低下を認める | うつ病 | |
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不眠
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いびきや呼吸停止を伴い、夜間何度も目が覚め、熟睡感が得られず日中眠気が強い | 睡眠時無呼吸症候群 |
| カフェインやアルコール摂取、就寝前のスマートフォン使用、生活リズムの乱れなど | (生活習慣) | |
| 日常的な生活状況の様々なことに関して、過剰な心配や恐怖が持続し、動悸、発汗、震え、息苦しさ、集中困難、睡眠障害などを伴う | 全般不安症 | |
| 朝に症状が強く、気分の落ち込み、興味喪失、不眠・過眠、食欲低下・過食、集中力低下を認める | うつ病 | |
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物忘れ・集中力低下
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倦怠感、寒がり、体重増加、むくみ、徐脈、便秘、眠気、皮膚乾燥を伴い、甲状腺ホルモンの低下を認める | 甲状腺機能低下症 |
| 朝に症状が強く、気分の落ち込み、興味喪失、不眠・過眠、食欲低下・過食、集中力低下を認める | うつ病 | |
| 日常的な生活状況の様々なことに関して、過剰な心配や恐怖が持続し、動悸、発汗、震え、息苦しさ、集中困難、睡眠障害などを伴う | 全般不安症 | |
| 神経心理検査にて機能低下を認め、進行性で日常生活への影響が徐々に出現する | 若年性認知症 |
【表】「女性のヘルスケアに関するガイダンス(中高年期編)」よりウーマンズラボ作成
今後の予定
国は今後、ガイダンスの医療現場での活用促進に向け、医療従事者向けの研修資料やeラーニング教材を整備する。また、今回の「中高年期編」に続き、若年女性を対象としたガイダンスや男性版ガイダンスの策定も進める予定。同ガイダンスの詳細はこちら。
女性ヘルスケア白書2026 市場動向予測レポート
2026年度の女性ヘルスケア市場を予測する「女性ヘルスケア白書2026年度版 市場動向予測 ~健康トレンド・業界動向・女性ニーズ~」を発行しました。これまでにBtoC企業、BtoB企業、自治体、医療機関、マスメディア、教育機関など、さまざまな業種の方に広くご活用いただいている、恒例の人気レポートです。新規事業の企画・開発、マーケティング設計、販売戦略における意思決定にご活用ください
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