健康サポート薬局とは?メリットと女性が抱えるニーズ
健康サポート薬局は平成28年から始まった制度。国民に対して病気の予防や健康維持増進をサポートする機能を高めることを目的とし、一定の要件を満たした薬局は「健康サポート薬局」の表示ができる。
健康サポート薬局では要指導医薬品と呼ばれる薬剤師でなければ取り扱えない市販薬の適切な選択・供給や助言の体制づくりのほか、生活者からの健康相談を受けたり、必要な場合は医師への受診を勧める役割が求められている。
背景には薬局に対して処方箋調剤だけではなく、地域における健康情報拠点といった機能を高めてほしいという政策意図が込められている。こうした機能向上を目指す薬局が増えれば、健康関連商品を取り扱うヘルスケア企業にとっても情報発信拠点として薬局活用の期待が高まると考えられる。
目次
健康サポート薬局とは
健康サポート薬局の概要
健康サポート薬局の制度の施行は平成28年年4月1日。薬局開設者が健康サポート薬局の要件を満たしていることを届け出ることで、「健康サポート薬局」の表示が可能になる。利用者や地域住民に対し、身近な健康相談のできる場所であることをアピールすることができる。
日本薬剤師会や日本保険薬局協会が健康サポート薬局のロゴマークをサイト上で公開している。健康サポート薬局であることは薬局機能情報提供制度により、都道府県が提供している薬局機能情報検索システムで公開されるほか、認められた薬局の店舗での張り出しによって生活者に告知される。
健康サポート薬局の特徴
健康サポート薬局は「個人の主体的な健康の保持増進」を促す取り組みを支援する薬局と定義されている。下図の通り、「かかりつけ薬剤師・薬局」の機能のほか「健康サポート機能」が必要。
健康サポート薬局の要件
具体的には以下のような要件が設けられている。
- (1)かかりつけ薬局の基本的な機能
① 患者がかかりつけ薬剤師を選択できるような運営の体制
② 飲んでいる薬の包括的管理な把握
③ 親切な服薬に関する指導
④ お薬手帳を活用する
⑤ かかりつけ薬剤師の認知を高める
⑥ 24時間の対応
⑦ 在宅医療への対応
⑧ 処方箋に疑義があった場合の医師への照会
⑨ 必要な場合は医師への受診を勧める
⑩ 医師以外にも介護職・看護職などとの連携 - (2)地域での連携体制
① 必要な場合は医師への受診を勧める
② 連携している地域にある各種機関の紹介
③ 地域で連携体制をつくりそのリストも作成する
④ 連携機関へ場合によっては紹介の文書を作成する
⑤ 関連団体との連携 - (3)所定の研修を受け、実務経験を持つ薬剤師の常駐
- (4)個人情報に配慮された相談の窓口
- (5)薬局の外側と内側で表示をする
- (6)要指導医薬品や介護用品を取扱う
① 要指導医薬品などを取扱う
② 専門的知識に基づいて説明する - (7)開店している時間
- (8)健康サポートに資する取組
① 健康の保持増進に寄与する相談の対応とその記録
② 健康サポートに寄与する取組を実施する
③ 健康サポートに寄与する取組を周知する
④ 健康の保持増進についてポスターを掲示したりパンフレットを配布する
※参考:厚生労働省「告示(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則第1条第5項第10号に規定する厚生労働大臣が定める基準)」
健康サポート薬局になるために必要な研修
前述した健康サポート薬局の要件の中でも特に届け出のハードルとして高いと指摘されるのが、(3)の「健康サポート薬局に係る研修を修了し(研修修了薬剤師)、一定の実務経験を有する薬剤師の常駐」だ。研修修了薬剤師には一定の研修を修了する必要がある。
研修プログラム実施機関
「研修修了薬剤師」の研修を実施する研修実施機関は、厚生労働省が定める「指定確認機関」に届け出、確認を受ける必要がある。この「指定確認機関」として、公益社団法人日本薬学会が指定されている。日本薬学会が認めた研修実施機関は以下の通り(2019年5月現在)。
- ①公益社団法人日本薬剤師会・公益財団法人日本薬剤師研修センター
- ②特定非営利活動法人 Healthy Aging Projects for Women
- ③一般社団法人日本保険薬局協会
- ④一般社団法人上田薬剤師会
- ⑤一般社団法人薬局共創未来人財育成機構
- ⑥一般社団法人日本薬業研修センター
※参考:日本薬学会「健康サポート薬局にかかる研修の第三者確認について」
研修プログラム内容
研修プログラム内容は「技能習得」と「知識習得」に分かれており、合計30時間の受講が必要。「技能習得型研修」は講義及び演習で、このうち演習はグループ討議形式。一方「知識習得型研修」は、eラーニングでの受講が可能。30時間のうち一部はeラーニングでの受講が可能だが、集合研修との組み合わせになっている。
健康サポート薬局研修は合計30時間の研修が必要とされているが、全ての課程について同じ研修実施団体のものを受講しなければ研修修了証は発行されない。なお30時間の研修内容は、健康サポートに関わる広範なものとなっている。一例をあげると、「禁煙支援」「認知症対策」「感染対策」「衛生用品、介護用品」「包括ケアシステムにおける先進的な取組事例」など。詳細は「健康サポート薬局研修について(日本薬剤師会)」から確認できる。
健康サポート薬局に求められる取り組み
健康サポート薬局の表示をする薬局は、積極的な健康支援の取り組みを行う必要がある。月に1回以上は誰でも参加できる各種相談会や教室などのイベントを開催するのが良いとされている。例としては以下のものが挙げられている。
- (1)薬剤師による薬の相談会の開催や禁煙相談の実施
- (2)薬剤師による健診の受診勧奨や認知症早期発見につなげる取組
- (3)医師や保健師と連携した糖尿病予防教室の開催
- (4)管理栄養士と連携した栄養相談会の開催
なお(1)の取り組みについては、薬局内だけでなく薬局以外の場所での取り組みも推奨されている。
健康サポート薬局のメリット
健康サポート薬局がもたらすメリットは、薬局視点からみたものと、患者視点からみたものに分けられる。
患者のメリット
患者のメリットは以下6つ。
- ①健康サポートに必要な専門知識を習得した薬剤師に相談に応じてもらえる
- ②相談内容によって、医療機関での受診の提案や必要に応じた他の医療機関の紹介が受けられる
- ③専門知識を持った薬剤師が要指導医薬品や介護用品などに関し適切な商品選びの手伝いをしてくれる
- ④週末も開局しているため仕事が休みの日に気軽に相談できる
- ⑤プライバシーに配慮した相談スペースが用意されている
- ⑥健康相談に関するイベントに参加することで健康にまつわる知識を身につけられる
かかりつけ薬局が相談場所としても機能することで、患者にとっては健康相談におけるハードルが下がることや病気に対する予防意識の向上につながることが期待される。
薬局・薬剤師のメリット
薬局・薬剤師にとってのメリットは、ほかの薬局との差別化につながり、経営上も優位性を発揮できることにある。届け出によって「健康サポート薬局」の表示が店頭でできるようになり、利用者からの関心を集めやすくなるとともに、信頼感向上につながる。健康イベントの開催は地域での薬局の認知度を高め、普段、処方箋調剤で接点のある既存の患者だけではなく、地域住民に薬局のことを知ってもらうことができる。イベントや会話をきっかけに新たな顧客・患者を獲得できる可能性が広がる。
また、これまで処方箋調剤に偏重していた薬局では、例えば栄養相談会実施による健康食品の販売増、あるいは生活の体調の悩み相談を起点にOTC医薬品の販売増なども期待できる。調剤だけではなくOTC医薬品の選択への助言は健康サポート薬局に求められている重要な役割の一つだ。
今後、患者はネットなどを通して自分のニーズに合った薬局情報を得ようとする流れが拡大すると考えられる中、公的な「薬局機能情報提供サービス」の中で健康サポート薬局である旨が検索できることは患者へのアピールツールにもなる。薬局機能情報提供サービスは、例えば東京都では「医療機関・薬局案内サービス」として展開されている。同様の検索サービスは全都道府県でも提供されている。
これら情報サイトは、健康サポート薬局のためだけでなく、薬局の情報を集約して利用者にわかりやすく提供するためのサイトで、無菌調剤室の有無など、在宅療養中の患者が求める薬局情報も検索できるようになっている。検索条件では「健康サポート薬局である旨の表示」にチェックを入れ、該当する薬局を調べることができる。
健康サポート薬局に対する女性のニーズと今後の可能性
健康サポート薬局が支えるのは、地域住民全体の健康だが、女性層への相談機能の発揮は社会的にも役割が大きいとして注目されている。家庭の中の「健康に関する教育者」で且つ「地域におけるコミュニケーションを積極的に行う」女性の健康知識習得は家庭、地域への波及効果が高いからだ。
健康サポート薬局に対する女性のニーズ
親の介護、妊娠・子育てに関する悩み、自らの更年期に関する相談などは今後急増する相談ニーズと考えられる。背景には団塊の世代が後期高齢者となり介護問題が急増する「2025年問題」や核家族化による妊娠・子育てに関する知識の世代間の継承不足、女性の社会進出によって重い更年期症状を抱える女性が増えていることが挙げられる。
女性を取り巻くこうした社会情勢を考慮し、女性を対象とした健康サポート薬局研修を展開する研修実施機関も登場している。研修実施機関の一つである「特定非営利活動法人Healthy Aging Projects for Women(略称HAP)」は、大塚製薬に協力し健康サポート薬局研修のコンテンツ以外に、女性の健康支援を学ぶ薬剤師向けの講座「OATHAS」を展開する。「OATHAS」では「女性のライフステージごとの健康課題・女性ホルモンとの関わり」や「女性に伝えたい女性に多い疾患、検診」などの内容を提供している。
健康サポート薬局の今後の可能性 ~特に女性の健康支援に向けて~
健康サポート薬局が女性の健康の支えとなるケースが出てきている。実際の例を挙げたい。
健康サポート薬局である大岡山北口薬局(東京・大田)は、「女性の健康力向上を支援したい」との理念から、女性のライフステージについて説明し健康相談を受け付けている。同薬局は「女性は家庭、仕事、子育て、介護などで忙しく、体調変化があっても健康相談をする機会が少ない上に、家族に話せず病院に行くのも躊躇していたり、自分のことは後回しにしていることが多い」と女性の健康支援を強化する背景を語る。「女性が要介護にならないためには骨粗しょう症による骨折を予防することが大切」として、10代女児の母親に栄養教育、若い世代の健康教育、40~50代には骨量減少について、高齢者には骨粗鬆症治療について伝え、骨粗しょう症予防の啓発活動を行っている。骨粗しょう症の知識に詳しいスタッフが在籍し、医療機関と連携もしている。同薬局は「女性の一生は女性ホルモンに大きな影響を受けている」とし、女性ホルモンと健康のかかわりに関する知識が重要と考えている。
健康サポート薬局にはプライバシーに配慮した相談スペースもあることから、ナーバスな女性特有の健康相談に、こまめに応じることができる。女性特有の疾患に関わる情報も幅広く、女性の健康寿命延伸に向けた情報・製品も幅広い。健康サポート薬局の機能が向上することで、健康サポート薬局は企業各社にとって、女性の健康に関わるヘルスケアサービス・製品情報を届ける力強い味方になっていくだろう。
健康サポート薬局の課題
病気になる前の「未病」や健康な状態をより長く維持するための健康寿命延伸に寄与する健康サポート薬局だが、今後の課題は届け出数増と、認知度向上だ。厚生労働省によると、健康サポート薬局の届け出数は全国でわずか1275軒(平成31年2月28日時点)。およそ5万9000軒ある薬局の2%程度にとどまっている。また認知度も低い。日本薬剤師会が2018年9月に実施した調査では、全国の20歳~79歳の男女1000名のうち、92%が「知らない」と回答している。
ただ、同調査で「健康サポート薬局を使いたいと思うか」を聞いた設問では、「そう思う」が51.3%と半数以上になっている。健康サポート薬局への潜在ニーズは大きい。認知度の高まりとともに、地域での存在感は大きくなっていくだろう。なお、この調査で「健康をサポートしてくれている身近な人」を聞いた設問では既婚者の1位は「配偶者」だが、未婚者の1位は「母親」だった。健康支援における女性の存在の大きさがうかがえる。
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