お薬手帳アプリ、人気10選と今後の動向・普及率
電子版お薬手帳サービスは、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部が2010 年5 月に策定した「新たな情報通信技術戦略」で議論が開始され、翌年2011年の東日本大震災をきっかけに、誰もが携帯しているスマートフォンで薬の管理ができるメリットに注目が集まるようになった。その後、現在に至るまでにさまざまな電子版お薬手帳サービス(お薬手帳アプリ)が登場している。女性生活者にはどのようなお薬手帳アプリが今後求められるのか?
目次
お薬手帳アプリの基礎知識
お薬手帳アプリとは
「お薬手帳アプリ」とは、処方された薬の管理をスマートフォンで行えるアプリのことで、多様な種類がある。そもそも「お薬手帳」とは薬の名前や使い方の情報、過去のアレルギー歴、副作用があったかどうかを記録するもので、患者本人をはじめ医師や薬剤師が、患者が使用中または過去に使用した薬について確認できる。
重篤な副作用や死亡事故防止のために必要
現在お薬手帳は調剤された医薬品の情報を記録するだけのツールとして広まってしまっているが、本来は医薬品による重篤な副作用やそれによる死亡事故を防ぐために必要なものだ。
お薬手帳の起源は、1993年に発生した医薬品の併用による重篤な副作用が引き起こした死亡事故をきっかけとして、患者自身が服用(使用)した医薬品の履歴を管理することの重要性が認識されたことに始まっている。1994年には東京大学医学部附属病院において外来患者を対象に、患者自身が服用している医薬品について記録を取ることの重要性を説明するとともに、売店でノート(市販品)を購入してもらい、このノートをお薬手帳として活用することを開始するなど、一部の大学病院や薬局等がお薬手帳の活用に取組始めた。安心して薬を使用するためにも、病院や薬局に行くときは携帯しておきたい。これまでは紙のお薬手帳が主流だったが、近年は電子版のアプリが次々に開発されている。(引用:電子版お薬手帳の適切な推進に向けた調査検討事業 報告書)
お薬手帳アプリ普及の背景
お薬手帳アプリが開発されれるようになった背景には2011年3月11日の東日本大震災が関係している。震災時にお薬手帳を所持していない避難者が多く、薬の特定や処方が難しかった一方で、携帯電話やスマートフォンを持って避難している人は多かった。そこで、避難時にも欠かせない携帯電話やスマートフォンで薬の情報を管理できれば万が一のときも対応しやすいとの考えから、お薬手帳アプリの必要性が高まった。
2012年9月にはデータの標準化を目的に、保健医療福祉情報システム工業会により電子お薬手帳のデータフォーマット仕様書が公開され、同データフォーマットが事実上の標準として広く認知されるようになる。2015年11月には厚生労働省がお薬手帳に関するガイドライン「お薬手帳(電子版)の運用上の留意事項について」を発行。
2016年度診療報酬改定では算定上、電子お薬手帳が紙媒体のお薬手帳と同等の取り扱いになることが盛り込まれ、これにより電子お薬手帳の利用拡大につながった。現在は、幅広い機能が搭載された電子お薬手帳サービス(お薬手帳アプリ)が登場している。
お薬手帳アプリの基本的な使い方
お薬手帳アプリは多様な種類があるが、共通の基本的な使い方は以下の通り。
- お薬手帳アプリをインストールする
- アカウント登録を行い、氏名や生年月日などの情報を入力する
- 調剤薬局で薬を処方してもらう際、お薬手帳アプリがある旨を伝える
- 薬局で薬を処方されたら、印字されたQRコードを読み込むと薬の情報をスマホに取り込める
※厚労省通知のガイドラインでは「利用者がどの薬局でも調剤情報を受け取れるよう、QRコードによる情報の提供を基本とすることが適当である」とされているが、QRコードによる読み取り機能がないアプリもある
お薬手帳アプリを利用するメリット
1.常に携帯できる
スマートフォンで管理できるため、お薬手帳の持ち忘れを防げる。災害時や緊急時、外出先で急に体調が悪くなったときに、行きつけ以外の病院でも自分の使用している薬や過去の使用歴を伝えられるため安心。
2.情報をまとめて管理できる
年月が経つと紙のお薬手帳は複数冊必要になるが、アプリであればスマートフォン1つで管理できるので、過去のアレルギーや副作用歴を各医療機関に伝えやすくなる。自分自身だけでなく、高齢者や子どもに代わって家族の情報も管理できる。
3.アプリならではの便利な機能を利用できる
お薬手帳アプリなら、服薬アラームで薬の飲み忘れの防止もできる。処方箋の画像を薬局に送信し、薬が処方されるまでの待ち時間を削減できる機能もある。
人気のお薬手帳アプリと今後の動向
アプリの提供は、主に「ITベンダー」「調剤薬局(日本調剤薬局など)」「団体(日本薬剤師会など)」などが行っている。ITベンダー提供アプリは既存のサービスと連携させ、調剤薬局提供のアプリは店舗連携によるメリットを提供している。提供元の事業内容によってアプリの特徴に色が出ている。
人気のお薬手帳アプリ
例1:EPARK
- 【開発】
株式会社EPARK - 【特徴】
・QRコード読み込みや写真保存ができる
・家族分も管理可能(最大10人まで)
・データはサーバーで管理(スマホの機種変更や紛失時もデータが消えてしまうことがない)
・災害などの非常時でもデータの閲覧が可能
・服用アラーム機能
・調剤予約機能(EPARK加盟の約8,000薬局のうち希望の薬局に、事前に薬をつくってもらうことができる機能)
など - 【人気の理由】
調剤予約機能は「薬局の待ち時間を減らせる」「時間指定できるのが嬉しい」とのことで評価が高い(ただしEPARK加盟薬局が近辺にないと利用できない)。副作用含め、薬に関する情報も掲載されており、わざわざ自分で調べる必要がない点も重宝されている。
例2:お薬ノート
- 【開発】
株式会社カラダノート - 【特徴】
・服用アラーム機能
・服用チェック機能
・家族分も管理可能
・無料のバックアップ機能
・健康に関する情報サイトの閲覧
など - 【人気の理由】
EPARKのような調剤薬局予約機能はついていない分、シンプルで直観的に使いこなせる設計に対する評価が高い。ロック画面にしていても飲み忘れを何度も通知してくれるため、飲み忘れがなくなって助かった!との声多数。特に決まった時間に必ず服用しなければならない薬がある人から支持されている。
お薬手帳アプリ一覧
他、お薬手帳アプリ動向を把握するのに、チェックしておきたいお薬手帳アプリは以下。
- お薬手帳プラス(日本調剤薬局)
⇒処方箋送信機能、服薬情報の自動反映、健康管理機能機能、健康コンテンツ提供など - ココカラファインお薬手帳(ココカラファイン)
⇒処方箋送信機能、飲み忘れ防止機能、体調管理メモ記録機能、市販薬の登録など - クオールグループ処方せん送信&お薬手帳(クオール)
⇒処方箋画像送信機能、服薬チェック、アラーム設定、複数人対応、データ預かり機能など - おくすり手帳Link(NTTドコモ)
⇒処方箋送信機能、薬の検索機能、市販薬のバーコード読み取り、一部機能はdアカウントとの連携が必要 - harmoソニーの電子お薬手帳サービス(ソニー)
⇒harmo加盟薬局で調剤された薬に限り自動でアプリに記録、市販薬や健康食品なども手入力で登録可、複数台のスマホでお薬手帳の共有が可 - 日薬eお薬手帳(日本薬剤師会)
⇒アレルギー歴や既住歴等疾患に関する記録機能、データのサーバー管理、処方箋送信機能など - ルナルナお薬手帳(エムティーアイ)
⇒処方箋送信機能、アレルギー歴・副作用歴・予防接種履歴などの情報管理機能、家庭の医学コンテンツ、家族の管理機能など - ヘルスケア手帳(PHC)
⇒処方箋送信機能、お薬できあがり呼出機能、服用アラームなど。2015年にグッドデザイン賞受賞
お薬手帳アプリの普及率・動向・3つの課題
普及率と動向
市場調査を行うシードプランニングの調査「国内の電子お薬手帳サービスの市場予測」では、電子お薬手帳サービスの市場規模を、2016年の7.1億円から2025年には約70億円になると予測。利用者数に関しては2016年が112万人で、2025年には422万人に増加すると予測し、2016年での普及率は約13%と推計している(患者数を母数とした場合に13%。人口比では約1%)。電子お薬手帳サービスの普及を国が積極的に行っていること、中高年層にもスマホやアプリが広がっていることなどの市場動向も考慮すると、今後市場が拡大することは確実だが、お薬手帳アプリ開発の際にクリアしたい課題は以下。
課題1.高齢者の利用率向上
ネット上の口コミなどを観察していると、お薬手帳アプリの利用者は現状、親や義理親、子どもの健康管理をしているママの利用率が高いことが分かる。高齢者のスマホ所有率があがっているとはいえ、高齢者のスマホ利用の主な使い方は「検索」「ライン」「メール」で、多様なアプリまで使いこなすのはITリテラシーが高い一部の高齢者に限る。患者の約半数は高齢者が占めていることを考えると、高齢者のお薬手帳アプリ利用促進をどう促すか?が課題だ。
課題2.差別化
お薬手帳アプリの特徴は、「ITベンダー」「調剤薬局」など提供元企業のジャンルにより多少異なるが、機能が似たり寄ったりのものが多い。ユーザーから見ると何が違うのか判断が難しい。差別化のアイディアの一つは「過剰設計」ではなく「シンプル設計」かもしれない。先述のお薬ノート人気の理由は他のアプリにはない「シンプルな使い勝手」にある。
課題3.使い勝手の向上
アプリの口コミを見ていると、使い勝手を指摘するユーザーの多さに気づく。「手書き入力できるようにしてほしい」「パパとママでアプリの連携ができるようにしてほしい。現状、私(ママ)が子どもの薬管理をしているが、私が病院に行けないときはパパが連れていくことになる。そのときに子どもの薬情報をパパが持っていくことができない」「どの薬局に行っても、情報を共有できるような仕組みにしてほしい」「周辺に対応している調剤薬局がないからアプリを使えない」などまだまだ不満は多い。また、各社アプリの口コミには、「こんな機能を追加してほしい」というリクエストも目立つ。
お薬手帳アプリ 利用意向
年代別のお薬手帳アプリ利用意向を見ると、年齢の上昇に伴い利用意向は低下傾向にある。
日本薬剤師会の調査によると「お薬手帳」を活用している割合に関しては年齢の上昇に伴い、上昇している。20代(46.4%)と70代(80.7%)では34%もの開きがある。
「お薬手帳」が「お薬手帳アプリ」になると高齢者の利用意向は下がってしまうようだ。
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