進む「顧客体験の高度化」 ヘルスケア業界の事例
「機能的価値(機能・品質・価格など)」はコモディティ化しやすいことから、業界問わずあらゆるビジネスにおいて「情緒的価値(デザイン・UI/UX・ブランドストーリー・顧客対応など五感から受ける印象など)の向上による差別化が重視されている。一方で機能面が重視されるヘルスケア・医療領域では「情緒的価値」が置き去りにされがち。
例えば医療の現場。「医者が話を聞いてくれない、態度が悪い、診察に時間をかけてくれない」「時間や医師のプライドに気を遣い質問しづらい」「他の患者に顔を見られたくない」「妊活中でなかなか妊娠が叶わない時に待合室で妊婦さんを見るのはつらい」など、コミュニケーション力の欠如や心理面への配慮がないことに不満を感じる患者は多い。例えば補聴器。機能としての役割は果たすものの、「年寄りじみたデザインで恥ずかしい」「大きくて目立つ、周囲に悟られる」と、デザインを理由につけたがらない人は多い。
このように機能より感情で製品・サービスの良し悪しや購入を判断しているケースは、ヘルスケア・医療領域であっても、企業が思っている以上に多い。ヘルスケア・医療領域は命や健康に直結することから機能性の追求やテクノロジーの高度化に全力投球しがちだが、モノ・コトの選択肢や接触する情報が激増し機能面での判断が難しくなっている今、購入判断に占めるウェイトが高いのは、実は感情的な部分だったりする。
女性の健康問題に対する社会的関心が高まり、各社の参入の激化が始まった今こそ、情緒的価値を追求し顧客体験を高度化するタイミング。女性たちに安心して自社製品・サービスを選んでもらえるよう、そして心地よく使い続けてもらえるよう、機能的価値の高さはもちろん、ユーザーの心理面への配慮、顧客対応、感動体験の提供、年代・ライフコース・ライフステージ別の悩みやニーズへの細やかな対応など、多様な側面からマーケティングを設計していこう。
※本稿は、2023年4月に当社が発行した「女性ヘルスケア白書2023」のp.8〜73でご紹介している内容の一部を掲載しています。本稿に記載の情報や画像は2023年4月時点となります。女性ヘルスケア市場の最新動向がわかる「女性ヘルスケア白書2024(最新版)」はこちら!
目次
ヘルスケア消費における女性たちの不満
実店舗、通販サイト、健康系施設、医療機関などでヘルスケア行動・消費が起きる時、検討中・購入時・購入後の各フェーズで、女性たちはどのような不満を感じているのか?女性生活者へのヒアリング、民間調査、主要口コミサイト、SNSなどをリサーチした(本文はウーマンズ編集)。
情報収集・購入検討中
- 興味はすごくあったが、安全性や効果がわかりづらく怖いので買うのをやめた(膣トレボール)
- 「吸水量は●●ml」という記載をよく見かけるが、そもそも自分の経血の量がどれくらいなのかがわからないので、その吸水量についてどう受け止めれば良いのかわからない(吸水ショーツ)
- 機能が高度化・複雑化していて、かえって使いづらい。もっとシンプルにしてほしい(健康家電・アプリ)
- やらせレビューで不自然に評価が良すぎる(健康商品全般)
- 選択肢が多すぎて、どれが良いのか判断できない。特に自分が知らない会社が作ったものは抵抗がある(サプリ)
- 添加物を避けたいが、自分の添加物のリテラシーがそもそも曖昧(食品全般)
購入時
- スタッフに製品知識や健康知識がなく自分の方が詳しい。購入しようと思っていたが、信用できなくて結局買わなかったことがよくある(店舗、電話、メール)
- 着圧ソックスを試着できないまま購入するのがいつも不安。買った後に、きつすぎて結局使わないままのものがいくつかある(店舗、通販)
- レジでの会計時に、ポイント付与や割引の代わりにアプリ登録を求められるのが苦手。登録しないと損するので登録するが、時間がかかるのですごく面倒(店舗)
- 大抵どこも医者には質問しづらい空気がある。お金を払っているのに、どうしてこちらがこんなにも気を使わなくてはいけないんだろう?(医療機関)
- 予約したのに待ち時間が長い。なのに診察はあっという間に終わる(医療機関)
購入後・使用中
- 説明書が省かれアプリのDLが基本となっている場合があるが、高齢者には不向き。そもそも「スマホ保持」がデフォルトとなっているサービスや製品が増えているが、高齢になればなるほどITリテラシーは落ちるので、高齢の両親は不便を感じている(全般)
- 隣にいる患者と距離が近いとリラックスできない。会話が丸聞こえ。パーテーションすらないところもある(歯科医院)
- サポート体制を「電話からチャット」に移行する企業を見かけるようになってきたが、質問しても的確な回答が来ず、返って不便(全般)
- 直感的に使用できないのが面倒。かと言って、説明書を読み込むのも面倒(家電)
顧客体験の高度化事例
入院中のQOLを徹底重視、ユニクロも出店(亀田総合病院)
患者が快適な療養生活を送れるよう、理美容室、リラクサロン、メディカルウィッグのカウンセリング、福祉用具ショップ、ラウンジ、レストラン、カフェ、ギフトショップ、図書室、コンビニ、コンシェルジュ・サービスセンターなど、さまざまなサービスを院内で提供。2023年5月には敷地内にユニクロがオープン。ウェアによる療養生活の彩りを目指す。「治療」という病院の本来の機能のみならず、療養中の快適さやウェルビーイングを追求することで顧客体験を高度化している。
VR散歩で、続けたくなる楽しいリハビリ(silvereye)
VRによる景色の類似体験と自転車運動を組み合わせたリハビリツール「RehaVR」。観光都市や自然の景色を楽しみながらバーチャル散歩ができるので、リハビリをするモチベーションに。リハビリにエンタメ要素を掛け合わせることでワクワク感や楽しみを創出し、情緒的価値を向上している。
ドライブスルー薬局(フォルマン)
車に乗ったまま、処方せん受付から薬の受け取り・会計までできる。小さな子どもを連れている親、ペットを連れている人、体調が優れない時、顔を見られたくない時、雨の日などに便利。待合室で他者と同じ空間にいる必要がないので、感染予防対策にも。「薬を渡す」という薬局本来の機能に受け渡し時の利便性をプラスオンすることで、薬局での顧客体験を高度化。
不妊治療の気持ちに配慮、待合室はカフェカウンター(タカラベルモント/プリュームレディースクリニック)
デリケートな不妊治療における女性の心理面に配慮した、他人の視線を気にさせないレディースクリニック(Plume Ladies Clinic)。患者同士が顔を合わせることがないよう、待合室はカフェのカウンターのようなつくりに。患者は壁に向かって着席する。ホテルライクな滞在も目指した内装デザインで、居心地の良さも提供。クリニック内のデザインはこちら(内装デザイン:タカラベルモント)。
AIが香り選びをお手伝い、香りと言葉の融合体験(生活の木×セントマティック)
植物の効果・効能から選ぶのではなく、「香り」と「香りの印象を表す言葉」を切り口に自分の好みに合ったアロマオイルを選ぶという、これまでにはない新しい買い物体験を提供。香りの言語表現を学習したAIシステム
「KAORIUMU」を用いて実現。購入体験の中にAIを組み込んだことはもちろん、商品を検討する際の新しい選択方法を提供することで購入体験を高度化した点が参考になる。
あのヘルスケア商品、なぜ人気?人気商品の高評価要素
最新レポートのご案内です(2024年10月発行)。女性たちに人気のヘルスケア商品は、なぜ人気なのか?人気商品には、どんな共通項があるのか?2023〜2024年のヒット商品を中心に、今人気を集める話題のヘルスケア商品のユーザー評価を徹底調査・分析し、各商品の人気を支える高評価要素と、その共通項を探りました。レポート詳細・お申し込みはこちら。
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