世界規模の消費トレンドを反映、ユニリーバの新戦略に学ぶ女性マーケのNG概念

ビューティ&パーソナルケアブランドのユニリーバは先月、同社の全てのパッケージと広告から「標準・普通」を意味する「ノーマル」という言葉をなくすことを発表した。これは同社の新戦略「ポジティブビューティ」の一環となる取組で、これまで企業が定義してきた「美しさ」へのアンチテーゼが顕著となってきた近年の世界的な消費トレンドを反映したもの。

SDGsの範疇であるダイバーシティとインクルージョンの実現に向け、今、グローバル系企業を中心に、ブランドや商品の”見せ方”や”伝え方”が大きく変わりつつある。中でも変革が進んでいるのが、美容業界とファッション業界。今回はユニリーバの事例を参考に、これからの女性マーケティングで避けるべき“NG概念”を考えていきたい。本稿後半にまとめている“NG概念”に当てはまるものが社内・部署内に蔓延していたら、黄色信号。マーケティングの見直しを図ろう。

ユニリーバが掲げた新戦略

サステナブルなビジネス戦略

ユニリーバが先月、サステナブルなビジネス戦略として新たに掲げたのが「ポジティブビューティ」。同社はより公平でインクルーシブな社会を築くことを目指しており、これまでにも、バリューチェーンに関わる数百万人の人々の生活水準を高めることや、マイノリティの人々に、より多くの機会を創出することなどを公約してきた。

また広告業界からステレオタイプをなくすため、2016年にはステレオタイプを排除するブランドプログラム「#UNSTEREOTYPE」を開始。例えば同社ブランドの「ダブ」は、日本を含む全世界で、ありのままの女性の美しさを伝えるために、広告で一切の画像加工を加えていない。

その他、プラスチックごみをなくす取り組みや、水の保全、土壌の回復、森林の再生、野生生物の保護などの幅広い環境問題に取り組むために10億ユーロを投資するなど、サステナブルな戦略のもとビジネスを展開してきた。

新戦略「ポジティブビューティ」で掲げたこと

今回同社が新たに掲げた「ポジティブビューティ」は、これまでの公約やコミットメントを補完する位置付けとなる。その核となる取り組みが、全ブランドのパッケージと広告から「ノーマル(標準・普通)」という言葉をなくすことだ。「ノーマル」という言葉をなくすことで「美しさ」の定義を広げ、そして「美しさ」にまつわる差別のない世界を目指す。

これまで多くの女性たちが、企業が定義してきた「美しさ」の標準を目指し、美容ケアの努力を重ねてきた。だがその裏では、その標準に達せないことでコンプレックスや劣等感を抱いたり、自分に自信を持てずに自己肯定感を押し下げられた女性たちが大勢いる。わかりやすい例が、例えばこんなことだ。

美の標準 商品や広告の見せ方 女性が思うこと
色白 ・日焼けや色白ではない肌を否定
・シミを「悪」と見なした訴求
・もともと色黒の私は色白になれず、女性としての美しさがない
・肌を露出した洋服は着たくない
・シミがある肌は恥ずかしいもの。人前ですっぴんになれない
スリムな体型 ・細い女性を広告モデルや商品パッケージに起用
・「太る=悪」「細い・痩せる=良し」を前提とした訴求
・太っている自分は他の女性より劣っている
・痩せなくてはいけない(強迫観念から摂食障害になることも)
若さ・若見え ・若い女性を広告モデルやパッケージに起用
・エイジングサインを悲しいものとして描く。そして、それを少しでも遅らせることが、女性として”普通”で”正しい”行動であるような見せ方をする
・実年齢より若見えする女優やモデルを起用し、老けないためのライフスタイルを消費者に提案
・歳をとるって悲しい…怖い
・加齢とともに女性としての価値が下がっていく
・老けて見える自分は、同年代の女性より劣っている
・加齢による自分の外見の変化を受け入れられない

 

企業が定義してきた「美しさ」の標準はこのように、実は多くの女性たちを苦しめてもきた。もちろん、色白やスリムな体型、若さの維持を訴求することがNGなのではない。そういう訴求を肯定的に捉える女性は世の中にたくさんいるし、より良い美容ケアを求め、最新技術を搭載した高機能の新しい商品・サービスを心待ちにしている女性も大勢いる。誰もが認める外見的美しさを持つ女性をテレビCMや商品パッケージで見ることで、前向きな気持ちになったり元気になる女性もいる。

問題なのは、あらゆる企業が一斉に、美しさの標準を一律同じ定義で消費者に発信することなのだ。例えばテレビCMなどのマス広告を大量投下できるほどの影響力ある大手企業が一律、女性の美しさを「白い肌、スリムな体型、若さ」と定義すれば、人々はそれが”一般的な美しさの指標”だと思い、そして、それに当てはまらない女性たちは劣等感や疎外感を抱えることになる。

実際に同社が9カ国で行なった美容業界に対する意識調査(1万人)では、広告などで肌や髪に「ノーマル」という表現が使われることに大多数の人々が疎外感を感じていることがわかった。同社はこの意識変化を「世界的な消費トレンド」と考察している。以下は同社が発表した調査結果サマリー。

・半数以上(56%)が「ビューティ&パーソナルケア業界は人々に疎外感を抱かせる」と回答

・10人に7人以上(74%)が「ビューティ&パーソナルケア業界は、単に外見を良くすることではなく、人々がより心地よくいられることを重視してほしい」と回答

・半数以上(52%)が「製品を購入する際、その企業の社会問題への姿勢に注目している」と回答

・10人に7人が「製品のパッケージや広告にある『ノーマル』」という言葉が人々に悪い影響を与えている」と回答。この数字は18~35歳では10人に8人にも上ります

 

ポジティブビューティ推進にあたり同社は、広告やパッケージで「ノーマル」を使わないこと以外に、「ブランドの広告において体型、サイズ、プロポーション、肌の色にデジタル修正を行わない」、「マイノリティ・グループの人々を起用した広告を増やす」ことを宣言している。

 

今後避けるべき、女性マーケのNG概念

新戦略へと舵を切ったユニリーバのこの事例は、業界関係なく全ての業界・企業が自社のマーケティングに活かすことができる。これまで「普通」もしくは「良し!」と思って採用したキャッチコピー、パッケージデザイン、女性モデルは、実は、ターゲット女性たちのコンプレックスを助長したり疎外感を与えているかもしれない。自社の広告などがそんな見せ方になっていないか?今一度、確認してみよう。ここでは過去の炎上案件なども思い返しつつ、日本企業が陥りがちな代表的ステレオタイプを項目別にピックアップした。当てはまるものがあった場合は、社内・部署内で女性や美を再定義することから始め、訴求方法を見直してみよう。

体型・外見に関するNG概念

<体型>

  • 細いことが、美しさの条件
  • 女性は皆、痩せたいと思っている
  • くびれがあることが、女性らしさの条件

<体毛>

  • 女性は体毛がないもの(脇、腕、脚、口周り、デリケートゾーン)
  • 女性は体毛は剃るのが当たり前

<バスト>

  • バストが大きいことが、女性らしさの条件
  • バストが大きい女性はモテて、小さい女性はモテない
  • 女性は皆、バストを大きくしたいと思っている
  • 女性は皆、男性はバストが大きい女性を好むと思っている

美しさ・美容ケアに関するNG概念

<肌>

  • 色白が美しさの条件
  • 毛穴レスが美しい顔肌の条件
  • シミ・シワがないことが美しさの条件
  • 女性は皆、色白になりたいと思っている
  • 女性は皆、シミ・シワをなくしたいと思っている
  • 女性は皆、若さと美しさを追い求めている
  • 女性は皆、化粧をしたいと思っている

<髪>

  • ツヤツヤでサラサラが、美しい髪の条件
  • ボリュームある豊かな毛髪量が、美しさや女性らしさの条件
  • 女性は皆、髪の毛をサラサラにしたいと思っている

<年齢>

  • 若さは女性の価値
  • 加齢とともに女性の価値は下がる
  • 女性は皆、若く見られたい
  • 女性は皆、加齢にネガティブな気持ちを持っている

<顔>

  • 二重まぶたが美しい顔立ちの条件
  • 尖った鼻が美しい顔立ちの条件
  • ぷっくりしているのが美しい唇の条件
  • 日本の女性は外国人やハーフの顔立ちに憧れている

家族に関するNG概念

<家族計画・家族構成>

  • 女性は皆、結婚するもの
  • 女性は皆、結婚したいと思っている
  • 女性は皆、出産するもの
  • 女性は皆、出産したいと思っている
  • 30代・40代の女性=育児・子育てママ
  • 60代以上の女性=孫がいる

<家事・育児・介護>

  • 家事・育児・介護は女性が主導するもの
  • 育児や介護が必要になった時、仕事をやめたり働き方を変えるのは妻の方

恋愛に関するNG概念

  • 女性は皆、異性愛者
  • 女性は皆、イケメンが好き
  • 女性は皆、年収の高い男性が好き
  • カップルや夫婦は、男性が年上、女性が年下

健康に関するNG概念

  • 広告に起用するのは、健常者・健常児
  • 最前線で仕事をするのは、健常者

仕事に関するNG概念

  • 最前線で仕事をするのは、健常者や、育児・介護をしていない女性
  • 収入は夫の方が高いもの
  • 企業や店舗の受付=女性
  • テレビのアナウンサーや気象予報士=若い女性、顔立ちやスタイルが良い女性
  • 客室乗務員=若い女性、顔立ちやスタイルが良い女性

 

社会規範・ジェンダー規範にとらわれない女マケ

美を再定義し多様な女性を広告に起用する動きは世界的に活発化している。国内では、資生堂が義足のファッションモデルをグローバルキャンペーンアンバサダーに起用したり、貝印がバーチャル女性の脇の毛を見せるコミュニケーション広告(#剃るに自由を)を出し話題をさらった。いずれも女性たちからは高評価で、時代の変化を感じさせる事例だ。こういった広告を目にする機会は、今後格段に増えていくだろう。

本稿後半では、これからの女性マーケティングで避けるべき概念を、”あるある”なステレオタイプの視点からピックアップしたが、改めてこれらを眺めると、「あらゆる人への配慮を考えたら、もう何も言えなくなってしまう…」「なら、どんなことだったら言っても大丈夫なのか?」と、もはや正解がわからなくなってしまう。

ひとまずは、これまでの社会規範やジェンダー規範に則ったり前例を手本にして「普通はこうだよね」と考えるのを辞めてみよう。家族や友人、道行く人などを見て「この人はどんな美しさがあるのか?」と、様々な美しさを自分なりに探して定義してみるのも良い練習になるし、美容やファッションのグローバル系企業のプロモーションを見るのも参考になる。もちろんウーマンズラボでも、参考になる企業事例は引き続き紹介していきたい。

 

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