女性の血糖コントロールを阻んでいるものは何? 日常生活に潜む阻害要因

糖尿病患者が血糖コントロールを実践・継続するには、本人の強い意思、病気・不調を治したいという意欲、食事療法や運動療法など治療に関する知識、治療に取り組むための時間確保、料理力、生活習慣改善、周囲の協力など、実に様々な要素が必要だ。故に血糖コントロールは容易ではなく、挫折してしまう人が多い。では具体的には、日常生活のどんなことが患者の血糖コントロールを阻んでいるのだろうか?女性たちのリアルな声に耳を傾けると、様々な阻害要因が見えてきた。

女性の糖尿病事情

糖尿病とは?

糖尿病はインスリンの作用低下により血糖値の上昇を抑える働きが低下し、高血糖が慢性的に続く病気のこと。放置すれば様々な合併症(網膜症・腎症・神経障害など)を引き起こし、末期には失明、壊死による足の切断、透析治療が必要になることも。脳卒中や心筋梗塞などのリスクを増大させるリスクもある。

国内の患者数は2,000万人

厚労省の推計によると糖尿病有病者は1,000万人、糖尿病予備軍は1,000万人で、合計すると糖尿病患者数は2,000万人にものぼるそのうち720万人は20〜64歳で、現役世代の10人に1人が糖尿病あるいは予備軍と推計されている。

男女別・年代別の特徴と、更年期との関連

次に、男女別・年代別に糖尿病有病者を見てみよう。以下図の通り糖尿病は男女共に中高年に多く、女性より男性の割合が高い。糖尿病は中年期以降で特に注意が必要な病気だ。

ちなみに女性の糖尿病と更年期の関連については、日本女性医学学会が次の見解を示している。更年期による女性ホルモンの減少が糖尿病発症に直接的に影響するというよりは、加齢による身体的変化が発症に影響を及ぼすという見方だ。

閉経が糖尿病の危険因子であるとは必ずしも言えない。しかし、加齢とともに肥満が増加し、糖代謝機能が低下することから、更年期以降に糖尿病を発症しやすいことは事実であり、この年齢の女性に対する予防的管理が求められる。(引用:「女性医学ガイドブック 更年期医療編 2019年度版」日本女性医学学会)

治療状況

こちらは国内全体のデータではないが、参考になるのでご覧いただきたい。東京都福祉保健局が糖尿病の治療状況を公表しており(H26 都民の健康と医療に関する実態と意識,福祉保健局)、それによると、要治療者のうち約半数が治療を受けていない(以下)。診断されても治療を受けない、あるいは治療を途中でやめてしまうことも、患者数の増加に並び糖尿病における重要課題とされている。

  • 現在治療を受けている…46.4%
  • 現在治療を受けていない…48.0%
  • 無回答…5.6%

 

女性の血糖コントロールを阻んでいるもの

糖尿病の女性たちが血糖コントロールを実践・継続する上で直面している悩みや困りごとには、どのようなものがあるのだろうか?女性向け質問サイト大手の「発言小町(読売新聞社)」を覗いたところ、日常生活の些細なところに血糖コントロールを阻む要素が潜んでいる様子が見えてきた。糖尿病を患っている3人の女性と、糖尿病の家族がいる2人の女性が実際に投稿した内容を見ていこう。

モチベーションの低下

治療に対するモチベーション低下は、継続的な血糖コントロールを阻む最大の要素だ。しっかり血糖コントロールに励んでいる人であっても、時の経過とともにモチベーションが低下していくケースは珍しくない。

7年前に糖尿病予備軍となったある50代の女性は、食事と運動による生活習慣改善を真面目に続けたことで見事に数値を改善。彼女には糖尿病で人工透析をした家族がおり、病気の恐ろしさを理解していたことがプラスに影響したのだろう、継続的な血糖コントロールに成功した様子。だが最近は食事をセーブする生活に疲れ果て、「体に良くない」とわかっていながらも暴食気味に。彼女の投稿には「もう何もかも投げ出したくなってしまって」「続けることって本当に難しいですよね…」といった弱音が。そんな自分に喝を入れて欲しいと、質問サイトに助けを求めた。

この投稿には、彼女と同様に血糖コントロールに努める中高年女性らから、応援メッセージと合わせ自身が実践している食事改善や運動のコツなどが寄せられた。

糖尿病宣告のショック・人生への失望

糖尿病を宣告されたショックの方が勝り治療への意欲が湧かないことも、血糖コントロールを阻む要素だ。

ある40代の女性は不調や病気に次々に襲われ続けていることですっかり気落ちし、「病気ばかりの人生に疲れました」「また次に何が襲ってくるかもわからないと思うと不安」「友達もたくさんいるのですが、皆健康でキラキラしているので、最近会うのもつらくなりました」「こんな呪われた身体を殺してやりたい」と投稿。彼女が血糖コントロールに取り組んでいるか否かは投稿内容からはわからないが、年齢とともに健康力が失われていくことで、人生そのものに失望した様子を読み取れる。

この投稿にも、同じ状況にいる人からの声が複数寄せられた。彼女同様に複数の病気を抱えながら生活を送る同世代の人が多く、中には「糖尿病、子宮摘出、橋本病、腎盂炎」を抱える女性も。「皆健康に見えても、いちいち口に出さないだけでは?中年以降になれば誰もが病気の1つや2つは持っているもの」と投稿者をなだめる声も。

職場の環境

これは仕事をしている人に限った話になるが、職場環境も血糖コントロールを阻む要素となる。糖尿病患者やダイエットに励む女性たちからよく聞かれる悩みは、お土産やお菓子を配り合う職場の習慣で、「毎回『いらない』と断るのは気まずい」「同僚のスイーツ話に入れない」「同僚に気を遣わせてしまう」などといったことだ。特にお菓子好きな女性が多い職場や、同僚の出張が多い職場、付き合いのある会社から頻繁にお菓子が贈られる職場に見られる”あるある”の光景で、同僚とのコミュニケーションを大事にする・気にする女性たちにとっては軽視できない悩みのタネだ。

フルタイムで働いている40代女性は、糖尿病治療のために薬を服用中。お菓子を絶ち真面目に血糖コントロールを続けている様子だが、彼女の職場は女性が多く、お菓子が度々配られるという。ある日、同僚がドーナツをすすめてきた際に「血糖値が高くてドクターストップがかかってるの」と断ったところ、気まずい雰囲気に。同僚のお菓子の話題にも入れず疎外感を感じるようになり、「スイーツを食べない方、職場などでスイーツの話題になったときどうされていますか?」と投稿した。

この質問に対し、同じく糖尿病で血糖コントロールをしている人たちが、上手な断り方などを回答として寄せた。

無理解で非協力的な家族

職場の環境よりもっと厄介なのは、無理解かつ非協力的な家族の存在だ。本人がいくら血糖コントロールに励もうと思っても、生活を共にしている家族が理解を示してくれたり協力してくれなければ、ついつい誘惑に負けて甘いものを食べ過ぎてしまったり、運動をサボりがちに。血糖コントロールの継続は困難になる。

また、糖尿病を患う家族がいる家庭内で意見が対立することも、糖尿病患者に悪影響をもたらすことになる。さらには家庭不和を招いたり、家族の健康管理を主導する立場になりやすい女性に負担がかかることにも。

0歳の子どもがいるある20代の女性は、糖尿病である義母が血糖コントロールや生活改善に努めないことに悩み、質問サイトにアドバイスを求めた。彼女が真に心配しているのは義母の体や健康ではなく、重症化により義母が要介護になった際に、自分たち家族の生活に影響が及ぶかもしれないこと。要介護になることで義母と同居するのも嫌だし、1年後に控えているフルタイムでの職場復帰も諦めたくない。彼女をさらに苦しめているのは、「残り少ない人生なんだからあれこれうるさく言うな」と義母を擁護する夫の存在。彼女によると夫は、糖尿病のことも、そして重症化の先に要介護の可能性があることについても深く考えていないとのこと。

これに対し多くの回答者が「義母本人が治療の努力をしないなら、病状が悪化して失明したり足が壊死して切断になっても、放っておけばいい」との意見を寄せた。

ボディポジティブ思考

時代によって変化するトレンドや価値観も、時に健康問題を悪化させることがある。近年、プラスサイズモデルに代表されるように、様々な体型をポジティブに受け入れるとする「ボディポジティブ」の考えが世界的に広がっているが、これについてある女性が問題提起をし、他者に意見を求めた。

彼女の妹は10代。太っており糖尿病を患っているが、プラスサイズへの憧れから「今のままの体重を維持する」と主張しているという。それを心配した彼女は、「私の妹のように、その体型に憧れて若いうちから生活習慣病を患い治そうともしない女性が出てきてしまうことを考えると、体型にも多様性をと声を大にして言うことがあまり良い傾向に感じられません」。多様な体型を認め合う空気が醸成されてきたことには賛成をしつつも、健康のことを考えると全面的に賛成はできないとのこと。

これに回答を寄せたほとんどの人は彼女と同意見で、ボディポジティブの風潮を良しとしつつも「ボディポジティブを目指すなら、同時に健康維持・管理の必要性も知られていくべき」という投稿も見られた。

これは投稿者も回答者も実に鋭い指摘で、ボディポジティブブームを採用することが多いファッション業界、化粧品業界、メディアも認識しておくべき問題だ。日本人は白人よりも肥満が少ないものの糖尿病にかかりやすいことが指摘されており、白人女性のボディポジティブトレンドに、日本の女性がそのまま倣うのは黄信号。様々な体型を認め合う社会の新潮流は、多くの女性の自己肯定感向上を促す素晴らしいものだが、体重増加やぽっちゃり体型を良しとする風潮が、時に血糖コントロールを阻む可能性もある。特にトレンドに敏感な若い女性は要注意だ。

 

女性の健康食品の選択基準は?

小林製薬の紅麹サプリを巡る問題で、健康食品への不信感や動揺が消費者の間で広がっています。特に男性よりも健康意識・健康行動者率が高い女性による “健康食品の摂取控え” が懸念されることから、健康食品を普段摂取している20〜70代女性を対象に、健康食品に対するイメージの変化や、今後の摂取意向、今後の健康食品の選択基準を調査しました。女性たちのリアルな声からは、今後の健康食品の開発・販促・コミュニケーション設計のヒントを見つけることができます。詳細は「紅麹サプリ問題で、健康食品の選択基準に変化 女性消費者分析でわかった88キーワード」へ。

紅麴サプリ問題 女性消費者動向分析

 

 

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