パラサイト・シングルとは? 増加の原因と女性たちの悩み
女性の未婚率は年々上昇し、「シングル女性」「おひとりさま女性」が増えている。今回フォーカスしたいのは、経済的に自立しているシングル女性ではなく、経済的自立をしていないパラサイト・シングルの女性。マーケティング業界では注目されず、どちらかといえば日本の社会問題として注目されることが多いパラサイト・シングルだが、男女あわせて今や人口の約1割を占め一定規模の市場を形成している。
目次
パラサイト・シングルの基礎知識
「働くママ」「(お金を稼ぐ)独身女性」「シニア女性」「(SNSを積極的に利用する)20代女性」などは各社が狙う人気ターゲットで競合が多いが、パラサイト・シングル女性をターゲットにする企業は現状少ない。競合が少ない市場で新規顧客層の開拓を狙いたい企業にとってパラサイト・シングルはビジネスチャンスかもしれない。
パラサイト・シングルの意味
パラサイト・シングルとは、社会人になってからも親元で生活し、経済的にも精神的にもいつまでも自立せず、家事など生活全般を両親に依存している未婚者を指す。パラサイト(寄生)しているように見えることから「パラサイト・シングル」と表現される。社会問題として頻繁に取り上げられるパラサイト・シングルは「(親の経済力に依存してきた結果)親が亡くなった後や親の介護が始まると、子ども本人に経済力や生活力がないために、悲惨な状況になる」と見られることが多い。しかし実家で生活していることから、収入のほとんどを自由に使えるので、時間持ち・金持ちでゆとりある生活に本人は満足している側面もある。
パラサイト・シングルの特徴
パラサイト・シングルは本人が就業しているケースと、就業せずにニートまたは引きこもりに陥っているケースの2つに大別される。
前者は、自由で気ままな実家暮らしを手放してまで一人暮らしや結婚をして家庭を持つことにメリットを感じておらず、親に経済的・精神的に依存し続け、“子ども”の状態から抜けきれていない。子どもの時と変わらず両親に世話をしてもらうことを当たり前のように感じているのが特徴とも言える。
「家賃がかからず、料理をしてもらえて、洗濯やゴミ出しもしてもらえるー。パラサイト・シングルをしている方が出費も時間も大幅に節約できるのだから、あえて面倒なことや苦労をする必要はないよね」という合理的な考えを持ち合わせている。結婚せずに親と同居しているが経済的・精神的に自立しているシングル(独身者)ももちろんいるが、広く一般的に認知されているパラサイト・シングルは親への依存性の高さと、大人に成長しきれていない子どもっぽさ、実家暮らしを続けていることに対する満足感の高さが際立つ。
後者は精神疾患を患っているケースが多いため、本人に自立や一人暮らしをしたい気持ちがあっても心身の不調から自立できずに長年悩んでいる。
パラサイト・シングルは1980年代後半から増加していると言われている。35~44歳層を例に増加率を見てみよう。「親と同居の未婚者の最新の状況2016(総務省統計局)」によると、1980年には39万人で35~44歳人口の中で僅か2.2%だったが、2016年には288万人で16.3%にまで上昇。さらに、親と同居している35~44歳の未婚者288万人のうち、基礎的な生活を親に依存している可能性のある人は、1980年には僅か5万人だったが、2016年には52万人まで増加している。親と同居の未婚者数を20~54歳層で見てみると1,118万人で(2016年)、人口の約1割を占める数字になる。
2030年には全人口の約半数が「シングル」になるという予測も出ている(野村総合研究所)。今後「シングル」のうち「パラサイト・シングル」の割合が上がる可能性は高い。
パラサイト・シングルになる原因
では、なぜパラサイト・シングルはわずか30年で増加しているのか?以下3つの時代変化が要因と考えられる。
- 非正規雇用者割合の増加。社会人であっても親元から自立できるたけの経済力がない
- 「友だち親子」の増加。成人しても親への依存性が高い
- 無理して実家暮らしをやめる必要がない(兄弟姉妹が多かった昔に比べ、少子化時代の今は、子が実家に残り続けても親の大きな家計負担になりづらい)
なお若年層のパラサイト・シングルに関しては若年層の貧困化も一因にあるが、あらゆる消費シーンにおいて「見栄・無理する」よりも「コスパ・効率」を重視する若者世代特有の経済的で賢い価値観も影響していると考えられる。
パラサイト・シングルが抱える問題
若いパラサイト・シングルの親は子どもの世話をする元気がまだ十分にあり経済的・時間的ゆとりがあるので、子ども本人に不安はない。不安が大きくなるのは、パラサイト・シングルのまま年齢を重ねた中年期以上だ。
親の介護
パラサイト・シングルがいずれ向き合うことになる問題が、親の介護。親が要介護となった時に生活が苦しくなり共倒れする可能性が高い。パラサイト・シングルではない場合も共倒れするケースはあるが、パラサイト・シングルはそのリスクがより高くなる。生活全般を親に委ねて生きてきたために子ども本人の生活能力は著しく低いからだ。基礎的な生活や家計の管理能力、社会的支援に関する知識が乏しく、親の介護に対する備えや危機意識も十分ではない。親の介護や死に直面した時にようやくその深刻さに気付く。
自分の将来に対する不安
問題の2つ目は自分の将来に対する不安。経済的にも精神的にも依存していた親が亡くなった場合、自立した生活ができるかどうか?という本人の不安は大きい。近年社会問題化している孤独死はパラサイト・シングルにとっては大きな不安要素だ。経済力があるシングルは、将来的にグループホームに入居したり、サービス付き高齢者向け住宅に入居するなどして孤独化を避けることができるが、経済力がなく生活能力も決して高いとは言えないパラサイト・シングルは孤独死やセルフネグレクトのリスクが高い。
本人も親もまだ若く元気なうちは、パラサイト・シングルは収入の多くを自分自身に使えるため消費が活発で経済力があるように見えるが、それは親に依存しているから成り立っていただけであり、親の高齢化や、介護、死をきっかけに生活は困窮する。パラサイト・シングルが増え始めたのが1980年代後半、当時20代前半だったパラサイト・シングルたちは、現在50~60代で、その親が70~90代。パラサイト・シングルの高齢化が進んでいることも特筆しておきたい。いわゆる8050問題だ。
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女性のパラサイト・シングルの実態
前述の総務省調査では男女比の記載がないため女性のパラサイト・シングルの正確な割合は不明だが、パラサイト・シングル女性のニーズと悩みをご紹介したい。
女性のパラサイト・シングルならではの悩み
女性のパラサイト・シングルは、例えばアイドルの追っかけに夢中だったり、自分への美容投資額が高いなど、自由を謳歌し消費に積極的な一方で、将来への備えやリスク管理能力に乏しい。また、将来設計を考えず「今が楽だったらそれで良し!」という考えが強いためにパラサイト・シングル状態を継続しているのだから、悩みを抱きやすいというよりは楽観的なキャラクターの女性が多い(ただし、前述の通りパラサイト・シングルは就業しているケースと就業していないケースとに大別される。ここでは主に前者を想定して話を進めたい)。
自称パラサイト・シングルによる口コミサイトやブログへの投稿には、「考えが甘すぎる」「楽観的すぎてびっくりする」「パラサイト・シングルの子どもに何もしつけをしない親も問題」といった非難の声が集中している。楽観的で自由を謳歌しているパラサイト・シングルに対し、実家を出て自立している兄弟姉妹などがその楽観さにイライラを募らせている。自由を謳歌し楽しそうな印象が強いが、そんな彼女たちにも悩みはある。例えば次のような悩みだ。
<就業しているパラサイト・シングル>
- 親任せにしているため家事全般が苦手、わからない
- 親が食事管理をしてきたため、いざ一人になったときに健康的な食事づくりができない、わからない
- 自分の好きなことにお金を使って謳歌してきたため、貯蓄が無い、あるいは少ない
- お金の管理能力に乏しい
- そろそろ結婚しないと…と思う頃には適齢期を過ぎており婚活のハードルが高いと考えている
- 年齢が上がってくると周りの目が少々気になってくる。しかし今さら自立して1人暮らしするのも面倒だし、それによる出費はもったいない
- 仕事に夢中になり結婚にも興味がなく、ずっと親元で生活してきた。親は亡くなり気づいたらアラカンで独り身。この先ずっと一人かと思うと不安な気持ちになる
<ニートや引きこもりのパラサイト・シングル>
- 好きでパラサイトしているわけではない。できれば自立したいが体調(精神疾患のケースが多い)が悪いから自立できない
- 定職に就きたいが(ニート期間が長かったから/引きこもっているから/ブランクが長いからなどが理由で)就けない。非正規雇用のため安定した収入を得たくても現実は難しい
女性のパラサイト・シングルのニーズ
ヘルスケア行動を促すことは、このクラスタ―に関しては容易ではない。ヘルスケアギフトを例に考えてみる。
自己管理能力があり自立している女性は、経済的・精神的ゆとりや気遣い力がありコミュニケーション能力も十分にあるので、家族や親戚にヘルスケアギフトを贈る発想があるが、“何でも親まかせ”のスタンスになりやすいパラサイト・シングルはなかなかそうはならない。
とはいえ、パラサイト・シングルは一定規模の市場を形成しているため企業としてはパラサイト・シングルをターゲットに捉えることで新たな市場開拓の可能性がある。気を付けたいのはニーズがどこにあるのかという点。保険商品、検診など将来の備えに対するニーズや、生活力を上げる商品・サービスに対するニーズよりも、趣味嗜好・欲求を満たすニーズの方が大きいのが特徴。ヘルスケアなら、健康よりも美容系商品・サービスの方がより好まれやすい。美容は趣味嗜好・欲求を満たす要素が強いからだ。
男性との出会いを促すようなスポーツイベントも相性が良いだろう。パラサイト・シングル女性は、中年期頃までは実家暮らしで結婚せず、親に依存していることに焦りを感じていない。しかしアラフォーまたはアラフィフになる頃には「そろそろ私も将来を考えないと」と少しずつ考え出す。しかし一般的な婚活イベントでは年齢の壁がある。そんな彼女たちの心を掴むのは、気軽に参加しながら男性と出会えるスポーツイベントや趣味のイベントだ。
中年期以上の“おひとりさま女性”だけを対象としたツーリズムも相性が良いかもしれない。パラサイト・シングルであることに悩みつつも周囲に相談できずにいる彼女たちに、同じ状況にいる“おひとりさま女性”と集い情報交換ができる場は貴重だ。一般の女性なら興味を示しやすいヘルスツーリズムで気を惹きたいところだが、このケースにおいては彼女たちの関心は「ヘルスケア」よりも「悩みの共有、情報交換」。訴求するときは「おひとりさま女性」の方が適切だ。
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