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保険薬局チェーン、上位10社の事業実績ランキングと取り組み事例 〜アインHD・日本調剤・クオールHDなど〜  

2016年から2年に一度行われた医療費改定によって、調剤報酬の減額と処方箋枚数の落ち込みで苦戦した保険薬局業界。最近5年間にチェーン薬局の売り上げ上位10社が25%成長し、特に保険調剤事業で1,000億円を超す4社の実績が合計9,953億円となっている。だが、販管費増大などで、いよいよ保健調剤事業は利益を得にくいセグメントと化してきた。近年の保健薬局の数字の動向と、各社の取り組みに注目してみる。(記事=ドラッグストアジャーナル)

保険薬局ランキング上位10社の保険薬局関連事業、1兆3,438億円

保険薬局ランキング上位10社の保険薬局関連事業実績【表1】は、上場企業の決算資料からまとめたもの(各社のファーマシー事業、調剤薬局事業、保険薬局事業、地域薬局ネットワーク事業、調剤サービスの売上高)。最近5年間における主力の保険薬局関連事業の実績は以下の通り。

◾︎2020年度:1兆721億円(前年比1.5%増)
◾︎2021年度:1兆1,242億円(同4.9%増)
◾︎2022年度:1兆1,861億円(同5.5%増)
◾︎2023年度:1兆2,692億円(同7.0%増)
◾︎2024年度:1兆3,438億円(同5.9%増)

【表1】

調剤薬局ランキング上位10社の保険薬局関連事業実績

【出典】ドラッグストアジャーナル(上場一部企業決算資料から作成)

 

【表1】の通り10社合計の売上額は、2020年度:1兆721億円→2021年度:1兆1,242億円→2022年度:1兆1,861億円→2023年度:1兆2,692億円→2024年度:1兆3,438億円、この5年間で約25%増、2,717億円増額した。

上位10社の5年間における成長率に目を向けると(括弧内は伸びた金額)、1位がアインHDの46.4%増(1,217億円)、2位は日本調剤の31.9%増(779億円)、3位はトーカイの31.6%増(139億円)、4位:ファーマライズHDの23.8%増(101億円)、5位はシップヘルスケアの23.6%増(64億円)、6位はメディカルシステムネットワークの17.9%増(178億円)、7位はクオールHDの15.4%増(228億円)、8位はメディカル一光の12.3%増(27億円)、9位は医薬品卸企業傘下の共創未来(東邦HDグループ)の4.9%増(45億円)と、1位から9位まではプラス成長。10位はスズケングループの保険薬局事業は不採算店舗の閉鎖(69店)などで、901億円→840億円となり61億円の減収となった。

 

調剤売上額トップは3,848億円のアインHD

【表2】は、保険薬局チェーン上位4社の保険薬局事業の実績だ。トップのアインHDは、ファーマシー事業とリテール事業の2025年4月期連結決算は4,568億円(前年同期比14.3%増)だった。このうちファーマシー事業は3,848億円で、最近5年間に46.3%も成長した。驚異的な数字である。

2020年度の処方箋枚数は、前年度の2019年度から8.7%減少(調剤報酬改定)して2,096万枚(2020年度)となったものの、2021年度からは2,298万枚→2022年度:2,506万枚→2023年度:2,736万枚→2024年度:2,846万枚と応需枚数は5年間に35.8%も増加している。だが同社はリテール事業にも注力しており、2025年4月期決算の実績では、まだまだ売上高は微々たるものだが前年同期比96.2%と、飛躍的な売上高拡大に成功した。リテール事業は、医薬品をはじめ国内外の最新コスメやメイクアップ用品、スキンケア用品、健康食品、雑貨などを幅広く取り揃え、美と健康をテーマにした「アインズ&トルペ」を中核としており、オーガニック店舗の出店による客数の増加、Francfrancの買収を含め、売上高は好調に推移した。なぜ同社は、保険薬局事業に次ぐ第2の柱として「アインズ&トルペ」の育成に急ぐのか。それは保険薬局事業で利益が得にくくなっているからである。

【表2】

調剤薬局チェーン上位4社の保険薬局事業の実績

【出典】ドラッグストアジャーナル(上場一部企業決算資料から作成)

 

トップ3社の薬局事業は減益

引き続き【表2】を見てみよう。4社いずれも、調剤報酬改定があった2020年度は、2019年度比マイナス成長で、アインHD:2,096万枚(8.7%減)、日本調剤1,422万枚(3.2%減)、クオールHD:1,337万枚(9.8%減)、メディカルシステムネットワーク:829万枚(8.7%減)、4社合わせて5,864万枚、7.3%減った。

しかし、翌年の2021年度からは4社の処方箋枚数は一度もダウンすることなく、2021年度:6,029万枚(前年度比6.1%増)、2022年度:6,535万枚(同8.4%増)、2023年度:7,082万枚(同8.4%増)、2024年度:7,360万枚(同3.9%増)。5年間における実績は1,676万枚増、増加率は29.5%である。ちなみに5年間における各社の店舗数は、アインHD:1,065→1,290、日本調剤:670→753、クオールHD:811→948、メディカルシステムネットワーク:416→457。4社合計で2,962店舗から3,448店舗と393店舗増えた。

一見好調に見えるが、実は保険薬局事業には、度重なる調剤報酬改定や昨今の人件費など販管費増大によって、保険薬局事業は利益を得にくくなっている現状がある。実際にアインHD(直近の通期業績で保険薬局事業のセグメント利益12.0%減)、日本調剤(同11.5%減)、クオールHD(同6.5%減)のいずれも、保険薬局事業は増収減益となっている。これは大手3社だけではなく、保険薬局業界全体に蔓延しているネガティブなトレンドでもある。

当然ながらこの経営を継続していれば、減益続きも待ったなしだ。だからこそ、保険薬局事業の減益幅を埋めるために、アインHDの「アインズ&トルペ」のような利益を得られる新たな事業確立への挑戦が不可欠なのだ。

 

調剤主力型チェーン薬局の課題とこれから

保険薬局業界のトップランナーであるアインHDは、前述のようにリテール事業を強化しながらも、ファーマシー事業では薬局業務DX推進・サービス強化(生成AI搭載電子薬歴システム導入)、次世代店舗デジタルサービス実現(アプリ機能の拡充)などのほか、M&Aでアイングループ入りした「さくら薬局」(833店舗)によって店舗数は2,464店舗、調剤事業の売上額は3,848億円から次年度は5,300億円を超える規模になる見込みだ。

日本調剤は、100店舗にロボット調剤を導入した。今後5年間に全店へ導入するという。さらに一部店舗(157店:2025年3月末)にAIを活用した薬歴作成支援サービスの導入、在宅医療分野への積極的な参画などのほか、PB商品を含むヘルスケア商品取り扱いの拡大に取り組む。同時に、処方箋を持参しなくても来店できる店づくり、新しい顧客層の獲得を目指しPBのOTC漢方を展開している。

クオールHDは、忙しい共働き夫婦、スマートフォンに不慣れなシニア層、医療アクセスに課題を抱える遠隔地、地方在住者などへの遠隔服薬指導などに力を入れながら、企業存続のための注力事業であるオーソライズドジェネリックを展開する製薬事業、MRや薬剤師の派遣に取り組むBPO事業に強力な投資を実施している。

まだまだ保険薬局事業は、売上額を稼ぐ重要なセグメントであることは間違いない。しかし、保険薬局の経営を取り巻く環境は日々悪化している。日本調剤のオーナーが自社株を外資系ファンドに売却した姿は、それを物語っているものだった。保険薬局は、新たな利益源の育成に注力しなければ、保険薬局自体の運営も立ち行かなくなる。各社がどのように保険薬局を存続させるために挑戦していくのか、ぜひ注目したいところだ。

 

【執筆】ドラッグストアジャーナル

 

ドラッグストア・薬局業界に特化した日刊メディア『ドラッグストアジャーナル』は、トップ・幹部のインタビューや店舗・イベントレポート、産官学への提言など、ここでしか読めない記事を掲載。ウェブメディア『Hoitto!』は、ヘルスケア関連の商品・サービスやトレンドを紹介。業界記者で培った製配販とのネットワークを武器に、ビジネスのヒントになる、かつ正しく選択された情報をお届けし、社会全体のヘルスリテラシー向上を目指します。この記事の無許可での転載・複製・データ使用は厳禁とさせていただきます(運営:ヘルスケアワークスデザイン株式会社)

 

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