フードファディズムとは?過去の事例と消費者の意識変化
「○○で痩せる!」「○○が体に良い」……食事に関するトレンドはめまぐるしく変化し、日々メディアによって流される食情報が生活者に与える影響力は絶大だ。2015年「水素水」が一大ブームとなったが、翌年、国立健康・栄養研究所は健康な人への有効性について「信頼できる十分なデータが見当たらない」と発表した。今こうした “フードファディズム” に翻弄されないために、目まぐるしく変わる食情報を的確に判断し、評価する能力が問われている。
目次
フードファディズムとは?
ヘルスケアニーズが高まる一方で、新たに浮上している課題が「フードファディズム」。メディアで得た情報を鵜呑みにして、特定の食品の過剰摂取に陥ってしまう人は少なくない。
フードファディズムの意味
フードファディズムとは、特定の食品を摂取すると健康になる・病気が治る、不健康になる・病気になるなどの情報を過大評価して偏った食行動を取ること。ファディズム(faddism)とは、「一時的流行」「一時的な流行を熱心に追うこと」という意味。テレビや書籍・雑誌などのマスメディアによる情報発信が発端になることが多い。
フードファディズムの歴史
1952年に、懐疑主義者として有名なアメリカのサイエンスライター、マーティン・ガードナーさんが著書「In the Name of Science(日本語版「奇妙な論理」)」の中でフードファディズムの概念について紹介。日本ではその後、栄養学者の高橋久仁子さんによってフードファディズムという言葉が紹介され、広く知られるようになった。彼女は1990年後半からこれまでに、フードファディズムの問題点を起点にした書籍を多数執筆している。
フードファディズムの問題点 〜消費者視点〜
本来は、さまざまな食べ物をバランスよく食べることで食材の恩恵を受けて栄養バランスを整えることができる。しかし、性別・体格・体質・年齢・持病により、過剰にとってはいけない栄養素や摂取が必要な栄養素は異なるので、一つの食材・食品・栄養素に偏り過剰に摂取することは、過剰症を引き起こしたり栄養バランスを崩すなど、かえって健康を損ない病気を引き起こす要因になることもある。「健康に良い」はずの食材や食事方法も、行き過ぎるとさまざまな健康被害をもたらす。持病のある人にとっては命取りになることさえもある。これが、消費者が警戒すべきフードファディズムの問題点だ。近年はSNSの浸透でフードファディズムは加速する傾向にある。テレビ番組や雑誌・書籍などのマスコミが取り上げた食材・食事法がSNSによって短期間で拡散されるるため、社会的流行に至るまでの時間は短く影響力も大きくなる。
フードファディズムの問題点 〜企業視点〜
一過性のブームで需要が増え売り上げが伸びても、その多くが一時的なものなので、長期的に見るとマイナスになるケースは多々ある。需要に応えようとすると、流通の確保・変更、生産体制の変更などが必要となりコストが上がってしまうからだ。安定した供給を持続できなくなるために既存顧客を失うリスクもある。食品ロスジャーナリストの井出留美さんは、消費者のフードファディズムが企業にも悪影響を及ぼし食品ロスという社会課題を助長させていることを次のように指摘している。
こうして爆発的に売れたものというのは、視聴者(消費者)の熱が冷めると、一気に売り上げが縮む。多くの企業は「対前年比で○%増」を売り上げ目標にしている。何かの要因で爆発的に売れた翌年というのは、苦しい。通常と比べて高めな売り上げ目標が設定されるからだ。が、現実には、爆発的レベルの時ほど売れない。在庫過多になる。食品ロスが生じ、食品の廃棄が発生する。(引用:ヤフーニュース「フードファディズムはなぜ食品ロスを生み出すのか」)
フードファディズムの事例
食材によるフードファディズム
<事例1.寒天>
たくさん食べても低カロリーであることや満足感を得られやすい点が、痩せたい女性の間で評判となり2005年に流行。しかし実際は摂取カロリーが極端に減ってしまう上、栄養バランスが悪くなりがち。また食物繊維が豊富な寒天は便秘解消に良いといわれているが、一度にまとめて摂取すると食物繊維が腸内で水分を吸収して膨らみ、逆に便秘を悪化させてしまうケースもある。Q&Aサイトのyahoo知恵袋やOKWAVEでは、寒天ダイエットによる便秘の悪化を訴える声が多く見受けられる。
テレビ番組で「寒天」で健康にダイエットを見て、早速、粉寒天を食前、お湯に溶かして飲んだり、味噌汁に入れて飲んでいるのですが。お腹が張るようになり、ちょっと便秘気味になっているのですが。粉寒天は規定量の1~2gです。体はどのようになっているのでしょうか? 粉寒天ダイエットとともに毎日2~3キロのマラソンをしています。体重は減っていません。(引用:OKWAVE「粉寒天で腹が張るのですが」)
<事例2.納豆>
納豆に含まれるイソフラボンがダイエット効果を促すとして、2007年に流行。きっかけは当時人気のあった有名な生活情報番組による放送。番組内で紹介されるやいなや、手軽なダイエット食材として納豆需要が急上昇した。全国各地で在庫がなくなるほどの反響を見せたが、のちにテレビ番組の捏造であったことが発覚。さらには過去にも同じような過剰演出やデータの改ざんを行っていたことがわかり社会問題にまで発展した(その後、番組終了に)。ここまで流行した理由には、納豆が身近な食材であったことや、人気番組のお墨付きという信頼性の高さがあった。
<事例3.バナナ>
2008年には「朝バナナダイエット」が流行。ダイエット特別番組がきっかけで広く知られるようになった。方法はシンプルで、朝食をバナナと水にするだけ。挑戦したタレントの森公美子さんが一ヵ月半で7kgもの減量に成功し話題となった。朝にバナナを食べるだけという手軽さと、著名なタレントが実際に成功したことが流行った理由と考えられる。しかし糖質が比較的多く含まれるバナナは、食べ過ぎると糖代謝の悪化や中性脂肪の増加につながる恐れがある。朝バナナダイエットを始めてから、かえって太ってしまったという声も多い。
1ヶ月は続けてたのですが、私には向かなかったみたい。便通も逆効果、体重も増加で良いことは一つもなかったダイエットでした。(引用:FIT Search「朝バナナダイエットをやってみた!」)
<事例4.牛乳>
2010年頃からは「牛乳が体に悪い」とする書籍や記事が登場。牛乳に含まれる乳糖を分解することができない「乳糖不耐症」が原因で、下痢を引き起こすといった主張や、牛乳の飲み過ぎは骨粗鬆症を招くといった噂などその内容はさまざま(しかし骨粗鬆症財団によると、牛乳や乳製品が骨粗鬆症の原因になるという報告はないとのこと)。
食事法によるフードファディズム
<事例1.糖質制限>
2015年頃から登場し注目を集め続けているダイエット食事法。主に食事から炭水化物を抜く方法で、主食以外は比較的自由に食事ができるため、手軽に始められるダイエットとして人気に火が付いた。しかし過度な糖質制限を実施するとエネルギーとなるはずの糖質の必要量を確保できないため、不足分を補おうとタンパク質や脂質の摂取量がどうしても増えてしまう。タンパク質の過剰摂取は、特に腎臓病患者や予備軍にとって病状を悪化させる原因となり、また脂質の過剰摂取は脂質異常症を招き、脳梗塞などのリスクを上げる可能性もある。
クローズアップ現代(NHK)「糖質制限ブーム! ~あなたの“自己流”が危険を招く~」は、“いき過ぎた”糖質制限の事例を紹介。3食ごはんを抜き、おかずだけを食べる生活を送っていた女性が一カ月でふらつきとめまいを覚え、病院に駆け込んだという例が挙げられた。
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<事例2.プロテインダイエット>
2010年頃からは、一食を特定の食品に置き換える“置き換えダイエット”のジャンルで「プロテインダイエット」が登場。DHCは「DHCプロテインダイエット」シリーズを販売しており、栄養豊富で日によって味を選ぶことができて且つ続けやすいのが人気のポイント。しかしタンパク質にあたるプロテインの過剰摂取は腎臓病のリスクを上げる危険性がある。「医者が教える食事術 最強の教科書―20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方68」の著者で AGE牧田クリニック院長の牧田善二医師が担当した症例では、尿アルブミン(腎臓病の初期症状として尿中に検出される)の数値が突然悪化した患者が、プロテインを飲んでいたことが判明した。
<事例3.ベジタリアン>
菜食主義の「ベジタリアン」もフードファディズムの一例だ。野菜中心のヘルシーなイメージと、ベジタリアンを公表する芸能人の存在が流行を後押しし、ベジタリアン対応レストランも増えた。しかし肉や魚を摂取しないベジタリアンは必須アミノ酸のバランスが悪く、細い人が多い。海外では8年間ベジタリアンを続けた女性がニキビの悪化に悩み、意を決してベジタリアンを脱したところきれいに改善したという例も。健康に不可欠な必須アミノ酸が不足すると栄養が行き届かず、健康も美容も損なってしまう恐れがある。
変化するフードファディズム
消費者の意識変化、新たなニーズ
健康思考の生活者が増え、テレビ番組や雑誌などで健康情報を紹介するメディアは以前よりも増えている。またスマホ利用者の増加で常に情報とつながるようになった現代人は、以前にも増して多くの健康情報と接するようになった。健康ブームのサイクルは以前よりも早まっており、今なお次々にやってくる健康情報を過信してフードファディズムに陥っている消費者はいるものの、一方では、めまぐるしいトレンドの変化に疲れ気味の人が増えているのも事実。流行を追いかけるよりも“自分に合った方法を教えて欲しい”、“正しい情報を取捨選択したい”というニーズは近年急速に高まっている。
企業に求められること
消費者の意識変化により企業に求められることも変化した。消費者はこれまで主にマスメディアから健康情報を得てきたが、いまや情報収集の方法はwebメディアやSNS、コミュニティサイトと多様化している。今消費者が求めているのは、万人に向けられたマスアプローチではなく、個々の症状や悩みに対応したパーソナライズなアプローチだ。実際に、大手企業やベンチャーを中心にヘルスケア業界ではパーソナライズ商品・サービスが登場し、多くの女性の関心を集めている。
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求められるのはヘルスリテラシ―
どんな良いものも“過ぎれば毒”。フードファディズムの危険性はまさにそこにある。健康を守るためにも情報に惑わされないことはもちろん、自身の身体の特徴と体質を知り、何が必要なのかを見極めておくことが大切だ。「得た情報は本当に正しく自身にとって必要なものなのか?」、これからの時代、正しい情報活用のためのヘルスリテラシー向上が個々の生活者に求められる。多くの生活者がのぞむことの一つに「企業には、公平な視点で“どの商品・サービスが私にあってるか”アドバイスしてほしい」といったことがある。生活者のヘルスリテラシ―を高める取り組みは、今後企業にとっても重要施策の一つになっていくのではないだろうか。
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