【2022年トレンド⑦】加速するアクティブエイジング
ウーマンズが毎年2月に発表する恒例の「女性ヘルスケア市場のトレンドキーワード」。2022年は7つのキーワードを発表した(下記)。本稿では「加速するアクティブエイジング」を解説。
世界的に進む高齢化、風潮強まるダイバーシティとインクルージョン、ウェルビーイングニーズなどを背景に、加齢に対するイメージや向き合い方を見直そうとする動きが加速している。その概念を言語化したものが「アクティブエイジング」や、同義語の「エイジング・グレイスフリー」「ヘルシーエイジング」だ。
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- 関心層にも無関心層にも、意識させないヘルスケア
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- マジョリティは高齢者へ、エイジテックの急伸
- デジタルの“負”に商機、デジタルウェルビーイング
- 加速するアクティブ・エイジング(◀︎今回はココ)
目次
アクティブエイジングとは?
アクティブエイジング、WHOが定義
アクティブエイジングは、1999年の国際高齢者年や2002年にスペイン・マドリッドで開催された高齢化に関する世界会議などでWHOが提唱したのが始まり。3本柱に「健康」「参加」「安心」の3要素を据え、「歳を重ねても生活の質が向上するように、健康、参加、安心の機会を最適化すること」と定義している(参考:Active Ageing A Polilcy Framework / 保健医療科学2021,Vol.70No.3)。
同義語1:エイジング・グレイスフリー
アクティブエイジングと同様の概念で「エイジング・グレイスフリー」という言葉もある。「優雅に年齢を重ねる」という意味合いで、アクティブエイジングを、より柔らかく華やかに捉えている。欧米ではすでに広がっている概念で、国内でも、盛り上がりには欠けるものの徐々に広まり始めている。
同義語2:ヘルシーエイジング
高齢期のウェルビーイングが語られる際に「ヘルシーエイジング」という言葉が使われているのも耳にしたことがあるだろう。こちらはWHOがアクティブエイジングの提唱以降に使い始めた言葉で(2015年以降)、「機能的な能力を維持し、高齢になっても健康でいられるようにすること」と定義している。
アクティブエイジングは、QOL向上のために健康・参加・安全の機会を最適化することに重点を置いているのに対し、ヘルシーエイジングは、高齢期の健康課題や社会課題に具体的にフォーカスしながら、QOL向上を実現するためのロードマップを明確に示している。高齢者のニーズに合わせた医療システムの構築、長期的な統合ケア(治療、リハビリ、緩和、終末期ケアなど)の整備、エイジフレンドリーな街づくり、エイジズム撤廃に向けたキャンペーンなど、要介護の高齢者をも含むウェルビーイングを目指している(詳細:老化と健康に関する世界報告書,WHO,2015」)。
なお、WHOは2020年8月に「ヘルシーエイジングの10年=健康な高齢化の10年(Decade of Haelthy Aging2020-2030)」を発表し、今はその取り組みが進められている真っ最中。SDGsの国連アジェンダ 2030 のタイミングに合わせた設定で、高齢化と健康に関するWHOグローバル戦略として、2021年〜2030年の10年間で取り組む行動計画を盛り込んでいる。取り組む4つの行動分野は以下。
- エイジズムとの戦い(年齢や加齢に対する考え方、感じ方、行動の仕方を変える)
- 高齢者の能力を育む地域社会づくり
- 高齢者に対応した個人中心の統合ケアとプライマリーヘルスサービスの提供
- 長期介護を必要とする高齢者に質の高い介護サービスを提供する(機能的能力を維持し、基本的人権を享受し、尊厳を持って生活できるように)
ヘルシーエイジングの10年を成功させるためのプラットフォームもある。世界中の誰もがアクセスでき、ニュース、専門家、団体など、ヘルシーエイジングの実現を支える各種情報を閲覧できる。
同義語3:AHA
アクティブエイジングとヘルシーエイジングをまとめてAHA(Active and Healthy Aging ) と表現することもある。ひっくるめると、以下の解釈になる。
Active and Healthy Aging (AHA) は、健康と介護、雇用と社会への参加、または身体的安全と経済的安定などの分野を改善することにより、人々の全体的な生活の質を (年齢を重ねるにつれて) 向上させることを目的としています。また、高齢化人口のニーズに対応するための革新的で費用対効果の高い技術、サービス、および政策を促進することにより、健康、ケア、および社会サービスシステムの長期的な持続可能性に貢献しています。
AHA は、ほとんどの先進国が現在直面している課題である高齢化社会への対応です。高齢者の生活の質を改善し、商品やサービスを持続可能な形で提供し、最終的に高齢化社会に移行するには、公共政策立案のすべての分野にわたる利害関係者による共同の取り組みが必要です。(引用:The European Centre for Social Welfare Policy and Research)
アクティブエイジング、企業事例
40〜50代を応援するプロジェクト(朝日新聞社×宝島社)
朝日新聞社と40代向けの女性誌GLOW(宝島社)は、アクティブエイジングの体現を目的に「エイジング・グレイスフリープロジェクト」に取り組んでいる。生涯の中で幸福度が下がりやすいと言われている40~50代女性を勇気づけ後押しする情報の発信や勉強会、イベントなどを開催。以下は同プロジェクトが目指しいていること。
人生100年といわれる現代。40代、50代女性が主役となる時代がやってきました。そんな中、欧米では「Aging Gracefully(=優雅に年齢を重ねる)」という概念がすでに浸透しつつあります。私たちは「Aging Gracefully」を優雅なだけでなく、『わたしらしく、ゆるっと、優雅に輝く』と解釈し、加齢に対する新たな価値観として、日本での浸透を目指します。(引用:エイジンググレイスフリー)
勉強会開催(バイエル医薬品)
医療用医薬品のバイエル薬品は、以前より人々のヘルシーエイジング実現のための活動に取り組んでおり、一般向けに「糖尿病」「脳卒中」「健康寿命」などをテーマにした勉強会を開催している。
71〜105歳の女性のアートを展示(森美術館)
2021年4月から2022年1月まで森美術館(東京・六本木)で開催されたアート展「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」も、アクティブエイジングを世間に発信し話題に。世界各地で挑戦を続ける70代以上の女性アーティストの活動に光を当てたコンセプトで、アーティスト16名の年齢は71歳から105歳。アートを実際に見た人たちは「パワーをもらった」「元気をもらった」「パワフル!」「90歳近い作り手とは思えない迫力と諧謔を感じた」など、高齢女性のエネルギッシュな生き方を評価する声をSNSに投稿している。
女性に対する年齢差別を問題提起(VOGUE)
アクティブエイジングの空気を醸成した重要な立役者といえば、やはり女性誌。とりわけ外資系ファッション誌が積極的で、中高年のハリウッド女優へのインタビューを通じて女性に対する年齢差別を問題提起するというコンテンツは、特に反響が大きい。女性誌の中でもトレンドを常にリードし、かつ影響力が大きいVOGUEの事例を見てみよう。
’90年代後半から2000年代に各国で一大旋風を巻き起こした米国の大ヒットドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ(SATC)」の続編「And Just Like That…」の放送が決定した2021年の冬のこと。続編が各メディアで報じられるや否や、20年前の放映当時には見られなかった女性キャスト3人のシワや白髪といったエイジングサインの出現を辛辣に批判するコメントがネット上に溢れた。これについてキャストの1人であるサラ・ジェシカ・パーカー氏は、加齢における女性蔑視・年齢差別があることをVOGUEのインタビューで語った。ーー男性俳優は、シワ・白髪・たるみが出ても「渋くなった」「貫禄が出た」「カッコ良くなった」などポジティブに受け取られることが多い一方で、女性俳優には厳しい目が向けられがちであるーー。詳細は以下の記事に掲載。
高齢期のウェルビーイング、2030年以降の国際目標に
高齢期を心身ともに健康的に過ごすための環境整備や向き合い方は、以前より先進国の政府を中心に提唱されてきたが、昨今は生活者に近い場所にいる企業やメディアが積極的だ。いわゆるエイジテックが市場で盛り上がり始めているのが、その最たるエビデンス。
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世界レベルで高齢期のウェルビーイング達成を目指そうとする動きは今後さらに強まる見込みで、これについて北海道医療大学 歯学部 教授の三浦宏子氏が「SDGsフレームワークに基づく Healthy Ageing 評価の動向」の中で、深く頷ける見解を示しているので最後にご紹介したい。SDGsが期限を迎える2030年以降の次期アジェンダに、高齢化に関する目標が盛り込まれる可能性が高いと述べている。実際に次期アジェンダに盛り込まれれば、今以上に高齢者向けビジネスやエイジテックの市場は急拡大するだろう。ビッグウェーブは、もう目前。そして今後、中高年女性に間違いなく支持されるのは、加齢をポジティブに応援してくれる企業やブランドだ。
SDGsにおいて,エイジングを直接取り上げた目標項目はないが,Healthy Ageingの概念はSDGsが目指しているものと近似しており,間接的に多くのSDGs目標はエイジングと密接な関連性を有するものである.国連が2021年からDecade Healthy Ageingを展開することに象徴されるように,これからの10年間で高齢化が世界規模でさらに進展し,多くの中所得国が高齢化がもたらす課題に直面することが予測されることを踏まえると,現行のSDGsが期限を迎えた後の次期アジェンダの検討において,高齢化に関する全世界的な目標が掲げられる可能性は極めて高い。
ジェンダード・イノベーションEXPO開催(お知らせ)
フェムテックの一大ブーム、性差医療・性差ヘルスケアの急速な広がり、女性ヘルスケア市場へ新規参入する企業の急増などの業界動向を踏まえ、健康業界の展示会として国内最大規模の「健康博覧会」と、女性ヘルスケア市場の分析を専門に行う「ウーマンズ」は、性差を考慮した女性ヘルスケア製品が集まるBtoB展示会「ジェンダードイノベーションEXPO」を開催します。出展ご希望の企業様はお気軽にお問合せください。詳細はコチラ。
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