長生きを覚悟、人々の意識も製品・サービスも「人生100年時代仕様」へ
「人生100年時代」がユーキャンの新語・流行語大賞にノミネートされたのは2017年末。今なお長生きをリスクと捉え不安視する声は強いが、人々のマインドに変化が生まれそうだ。長生きを見据えた社会構築が徐々に進み、各社も人生100年時代ならではの不安・ニーズ・ウェルビーイングに対応する製品・サービスの開発に続々と乗り出している。人々の意識とヘルスケアは、いよいよ人生100年時代仕様へとアップデート。
※本稿は、2023年4月に当社が発行した「女性ヘルスケア白書2023」のp.27〜35でご紹介している内容を編集してお届けします。無料ダウンロードがまだの方はコチラ!
100歳以上の女性、8万人超え
公衆衛生の改善や医療技術の進歩を背景に、日本は長寿化。1950年は女性61.5歳・男性58.0歳だった平均寿命が、2020年は女性87.71歳・男性81.56歳に。今後も延伸を続け、2050年には女性は90歳を超えると推計されている。長寿化と共に100歳以上の高齢者の数も増加。1963年は全国でわずか153人だったが、1981年に1,000人を超え、1998年に1万人、2012年に5万人を突破し、昨年は初めて9万人を超え90,526人だった(前年比+4,016人)。52年連続で過去最多を更新しており、いわゆる「センテナリアン」は今やそう珍しい存在ではなくなっている。「人生100年時代」という言葉も広く浸透し、100歳まで生きることは誰にとっても遠い話ではなくなった。
「人生100年」をテーマにした書籍や雑誌の特集などメディアの情報発信も、この5年ほどで一気に増えた。試しにアマゾンを覗いてみよう。「人生100年」で検索すると、生き方指南、健康づくり、学び直し、働き方、マネープラン、センテナリアンのリアルライフなど、「人生100年」をテーマにした多様な視点の書籍が発売されている。
女性の方が男性より長生きしやすいことから、「人生100年」を自分ゴト化する傾向があるのは特に女性。実際に100歳以上の人は圧倒的に女性に多く、90,526人のうち約89%が女性で80,161人だ。
人生100年、何が不安?
誰もが100年を生きる可能性が出てきたことで人々の心に芽生えたのは、長生き不安。これまでは70〜80年の人生を想定した社会システムが構築され、個人のライフプランもそれくらいの寿命を想定したものであった。だが、年々進む長寿化や「人生100年」の浸透に伴い、健康寿命、認知症、介護問題(老老介護、介護殺人、介護職員による高齢者虐待など)、ポリファーマシー、孤独死・孤立死、年金問題、老後資金の枯渇、高齢期の就労、高齢ドライバーの事故など、長生きによるさまざまな問題がクローズアップされるようになったことで、長生きをリスクと捉える風潮が急速に高まった。これまでの生き方やライフプランは人々にとって持続“不可能”に見え始めてきたのだ。実際にどんなことに人々は不安を感じているのか?いくつか調査結果を見ていこう。
人生100年時代のイメージ、女性の方が男性より「どんより」
個人・法人の人生100年時代を支援するライフシフト・ジャパン(東京・中央)が、10~70代の男女5,000人に「人生100年時代のイメージ」を調査したところ(2022.12)、男女ともにネガティブに捉える「どんより派」が半数を超えた。男性より女性に多く(女性66.8%,男性57.7%)、年代別に見ると、高年齢層より若年層に多いことが明らかに。各種調査でも明らかにされているが、長生きに対して楽観視しているのは男性や高年齢層で、女性や若年層は不安視する傾向が強い。不安視する女性が多いのは、女性の方が長生きする可能性があることや、若い時から健康・美容を通じて自分の体と向き合う習慣があり危機意識が高いからだろう。
具体的にはどのようなことに「どんより」を感じるのか?女性と男性、それぞれの声を見てみよう。
人生100年にあたり、健康寿命を意識したことある?
続いて、終活情報メディア「終活瓦版」による調査(2023.3)。40代以上の男女200人に「健康寿命について意識したことがあるか?」聞いたところ、8割超えが「ある」と回答した。「意識したことがある(81%)」「意識したことはない(12%)」「わからない(7%)」と回答した人たちそれぞれに理由を聞いたところ、次の回答が返ってきた。
■健康寿命を意識したことが「ある」
- 健康な状態で長生きしないと、周りの人達に迷惑をかける。迷惑はかけたくないから(40代女性)
- 身近な介護が必要な高齢者を見ていて、自分を投影してしまう(50代女性)
- 数年前から血圧が高くなり、その後、コレステロールの数値も悪くなり、最近では肝臓や腎臓の数値が悪化し始めてきている事から健康寿命は意識しています(40代男性)
■健康寿命を意識したことが「ない」
- 52歳ですが周りの人達もまだ気にしてないから(50代女性)
- 今は健康だと思うから意識したことありません(60代女性)
- 健康寿命という言葉を知らなかったし考えたことも無かった(40代男性)
■わからない
- テレビなどでは見たことがあるが実際に意識したり何かをしたことはないから(40代女性)
- 今、健康であることに気をつけて生活などを改善しているので、先に目が行かない(50代女性)
- 健康寿命という言葉を聞いたことはあるが深く考えたことはなかった(40代男性)
続いて、「自分の健康について不安なこと」を聞いたところ、トップ8は以下だった。
- がん、心臓病、脳卒中などの重病(114人)
- 生活習慣病(108人)
- 認知症(89人)
- 歯周病や歯の変化(55人)
- 目の病気(53人)
- うつ病などの心の病気(41人)
- 骨粗鬆症(35人)
- その他(13人)
シニア期に働くことの不安は?
続いて、求人検索のIndeed Japanによる調査。50~79歳の1,800人(世代・男女で均等割付各300人)に「シニア期に働きたいか?」聞いたところ、約6割が働く意欲や必要性を感じていることがわかった。
続いて「意欲・必要性がある」と考えている人(1,049人)に「シニア期に働くことに対する不安や課題があるか?」聞いたところ、9割が「ある」と回答し、具体的な内容のトップ5は以下だった。身体的・精神的な健康や、意欲の維持に不安を感じる人が多いことがわかった。
- 健康状態を維持できるか(59.6%)
- 働くための気力を維持できるか(38.5%)
- 肉体労働に耐えられるか(28.1%)
- 十分な収入が得られるか(25.9%)
- 職場の人間関係がうまくいくか(22.8%)
人生100年時代仕様、製品・サービス事例
「長生きはリスク、不安」から、安心して長生きできる社会へーー。長生きを恐れることなく人生100年を謳歌できるよう、高齢期のさまざまな健康問題・健康ニーズや、生活不便に着目した製品・サービスが続々と登場している。AI、VR、ロボットなどのデジタルテクノロジーを活用した高齢者特化型の開発や、これまで見過ごされてきた、あるいは軽んじられてきた諸問題を解決する製品・サービスが増えており、高齢者や、要介護者とその家族のウェルビーイングを追求したものが目立つ。デザインにこだわった製品も多く、以前と比べると、高齢者向け製品・サービスは随分とスタイリッシュになってきた。現在の高齢者市場はアンメットニーズが無数に残されているため、企業にとっては参入しやすい。高齢期女性特有の悩みや「不」に着目した、人生100年時代仕様の製品・サービスを開発していこう。そのためにまずは、企業側の思考も人生100年仕様に。
ベストセラー続編「ライフシフト2」
「人生100年時代」の言葉が広まるきっかけとなったベストセラー書籍『ライフシフト』の続編(東洋経済新報社)。2021年に発売され今回もたちまち話題に。人生100年をポジティブに生き抜くための生き方・働き方・思考の転換など、多面的に行動戦略を説く。ビジネス面で特に参考にしたいのは「自分と他人の年齢に対する考え方・概念を変えるべき」という著者らの主張。長生きをするほどに健康状態の個人差は大きくなり、かつ複雑に多様化する。その課題に対応するには「生物学的年齢」「社会的年齢」「主観的年齢」の概念が欠かせなくなる。事業開発やマーケティングの参考に。
55項目をチェック「遺伝子検査 元気生活応援キット」(DHC)
「2型糖尿病」「血圧」「動脈硬化」「LDLコレステロール」など生活習慣病の代表的な項目はもちろん、女性に多い「変形性関節症」「骨粗しょう症」「摂食障害」など55項目の体質の傾向や病気のリスクがわかる検査キット「遺伝子検査 元気生活応援キット」。がん・心疾患・脳血管疾患をはじめとした生活習慣病による死亡は全体の死因の半数を超えており、長寿化が進むなか予防対策は急務。生活習慣病の予防・早期予測・早期発見・早期治療の製品・サービスの需要は今後も拡大が見込まれる。
自立した高齢者向け賃貸住宅「へーベルVillage」(旭化成ホームズ)
「老人ホームには入りたくないけど年齢に合った住居に住みたい」。自立したアクティブシニアに“ちょうど良い”サービスを提供する賃貸住宅「ヘーベルVillage」。社会福祉士などによる定期訪問、見守り機能、医療機関との連携などフォロー体制は万全。同社は自立~フレイル期の後期高齢者の健康寿命延伸を目指した住宅設計を強化しているところで、以下画像はそれを反映した居室空間の図面。転倒防止のベンチやシニアカート置き場を確保した玄関、家事を続けられるよう家事動線を極力シンプルにしたキッチンなど、高齢者の生活スタイルやニーズに配慮している。
高齢者の新しい移動手段「WHILL Model S」(WHILL)
高齢者をはじめ歩行や移動に困難を感じている人に向けた、歩道を走れるスクーター「WHIILL Model S」。時速6km以下で走行、7.5cmの段差も乗り越え可能。直観でわかりやすいシンプルな使い心地を維持しつつ、運転の喜びを引き出すためにハンドルの操作性にこだわった。「電動アシスト自転車よりもバランスが取れて安定し、シニアカーよりもスタイリッシュ」という新しいポジショニングも特徴。民間調査によれば、将来的に免許返納を考えている人の8.5割が「日常生活の移動に困ると思う」と回答している。免許返納後の高齢者の新しい近距離移動手段として浸透しそうだ。
ミドル世代が注目する「介護脱毛」(リゼクリニック)
介護脱毛とは、将来介護される立場になった際に清拭や排せつ後のふき取りなど介護者に負担とならないように、あらかじめデリケートゾーン(Vライン,Iライン,Oライン)の脱毛をしておくこと。陰部の炎症や感染症を防いだり、オムツ交換時のニオイ軽減などのメリットもある。医療脱毛のリゼクリニックが40~59歳の男女1,100人(男女550人ずつ,2022.7)を調査した結果、「女性で約8割、男性の半数以上」が介護脱毛を希望。いずれも2年前の調査より希望者は増加しており、実際に、2010年9月から2022年8月末までの12年間で「アンダーヘア脱毛を契約した40歳以上の女性患者数」は約68倍に増加したとのこと。“もしも”の要介護に備え、介護脱毛が一般的になりつつある。
認知症との共生に向けた病院のデザイン(メディヴァ)
病院経営支援のメディヴァは、認知症の人の課題(見当識障害・判断力障害・空間認知・視覚認知障害など)に対し、科学的根拠に基づいたデザインを病院に取り入れることで、認知症の人が生活しやすい環境づくりに取り組む。例えば、「認知症の人にとって穴に見える黒い絨毯は院内で用いない」「文字だけでは認識できない人のために、文字とピクトグラムを併記したトイレサインを壁に取り付ける」など。実証実験では、こういったデザインの導入により、認知症の人の症状が維持・改善する傾向を期待できることがわかった。
多剤服用のリスク軽減「ポリファーマシー対策プロジェクト」(ライクケア,メディカルガーデン)
6種類以上の薬を服用すると副作用などのリスクが高まることがわかっている。いわゆる多剤服用が近年問題になっており、特に多剤服用に陥りがちな高齢者が危ない。有料老人ホームなどを26ヶ所運営するライクケアは入居者の多剤服用に着目し、プロジェクトを立ち上げた。介護職員による入居者の状況を薬剤師へ報告し、薬剤師は医師へ減薬を提案。医師は減薬の可否を判断する。医薬品の副作用でさらに薬剤が追加されている可能性を考慮し、薬学・医学的に判断し薬を減量・中止しながら経過観察を行う。入居者の安心・安全な生活の提供とQOL・ADLの向上を目指す。
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