無意識の思い込み「アンコンシャス・バイアス」41項目、男女の意識差(20〜60代)
自分自身では気づいていない「ものの見方やとらえ方のゆがみ・偏り」のことを指す、「アンコンシャス・バイアス」。プロモーションで特に気をつけるべきは性別に関するもので、「男はこうあるべき、女はこうあるべき」といった“決めつけ”を描写したコンテンツはNGだ。最近は企業側のリテラシーが高まり、性別役割意識などを露骨に表現したTVCMや動画広告を目にすることはなくなってきたが(特に大手メーカーのBtoC広告は配慮に長けている)、残念ながら、それはまだまだ理想郷。政治・職場・家庭内・親戚や町内会での集まりなど、実社会では未だアンコンシャス・バイアスだらけだ。
内閣府は昨年、性別によるアンコンシャス・バイアス41項目(以下)を明らかにする調査を実施した。「男はこうあるべき、女はこうあるべき」といった思い込みや偏見は全体的に男性に強く、一方で、「こうあるべき」という考えを他者から言われたり感じた経験は女性に多いことなどがわかった。
調査概要
内閣府は、性別によるアンコンシャス・バイアス(※)の解消を図ることを目的に、男女それぞれの意識・実態を調査(「性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究」2022年8月)。対象は47都道府県の20〜60代の男女10,906人(女性5,384人, 男性5,452人,その他70人)で、属性は未既婚・正規雇用・非正規雇用・自営業・学生など。「家庭・コミュニティ領域」「職場領域」「その他」における性別役割や性別に基づく思い込み41項目について、自分の考えに当てはまるかどうかなどを聞いた。
<家庭・コミュニティ領域>
- 家事・育児は⼥性がするべきだ
- 男性が洗濯物を⼲すのはみっともない
- 家を継ぐのは男性であるべきだ
- 男性は結婚して家庭をもって⼀⼈前だ
- ⼥性は結婚によって、経済的に安定を得る⽅が良い
- 結婚したら姓を変えるのは⼥性であるべきだ
- 男性は仕事をして家計を⽀えるべきだ
- 共働きでも男性は家庭よりも仕事を優先するべきだ
- 共働きで⼦どもの具合が悪くなった時、⺟親が看病するべきだ
- 学級委員⻑や⽣徒会⻑は男⼦が、副委員⻑や副会⻑は⼥⼦の⽅が向いている
- ⼥性に理系の進路(学校・職業)は向いていない
- 男性であればいい⼤学を出て出世を⽬指すべきだ
- PTAには、⼥性が参加するべきだ
- 親戚や地域の会合で⾷事の準備や配膳をするのは⼥性の役割だ
- ⾃治会や町内会の重要な役職は男性が担うべきだ
- 実の親、義理の親に関わらず、親の介護は⼥性がするべきだ
- デートや⾷事のお⾦は男性が負担すべきだ
<職場領域>
- 組織のリーダーは男性の⽅が向いている
- ⼤きな商談や⼤事な交渉事は男性がやる⽅がいい
- 事務作業などの簡単な仕事は⼥性がするべきだ
- 職場では、⼥性は男性のサポートにまわるべきだ
- 育児期間中の⼥性は重要な仕事を担当すべきでない
- 男性は出産休暇/育児休業を取るべきでない
- 仕事より育児を優先する男性は仕事へのやる気が低い
- 営業職は男性の仕事だ
- 受付、接客・応対(お茶だしなど)は⼥性の仕事だ
- 職場での上司・同僚へのお茶くみは⼥性がする⽅が良い
- 転勤は男性がするものだ
- 男性なら残業や休⽇出勤をするのは当たり前だ
- ⼥性の上司には抵抗がある
- 同程度の実⼒なら、まず男性から昇進させたり管理職に登⽤ するものだ
- ⼥性社員の昇格や管理職への登⽤のための教育・訓練は必要ない
- 仕事で成功していても、結婚をしていない⼥性は何かが⾜りないと感じる
- 仕事で成功していても、結婚をしていない男性は何かが⾜りないと感じる
<その他>
- ⼥性は感情的になりやすい
- ⼥性は論理的に考えられない
- 男性は気を遣う仕事やきめ細かな作業は向いていない
- 男性は⼈前で泣くべきではない
- ⼥性には⼥性らしい感性があるものだ
- 男性より⼥性の⽅が思いやりがある
- ⼥性はか弱い存在なので、守らなければならない
(※)「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」とは、自分自身は気づいていない「ものの見方やとらえ方のゆがみや偏り」のこと。自分自身では意識しづらく、ゆがみや偏りがあると認識していないため、「無意識の偏見」と呼ばれている。本調査では性別に基づく役割や思い込みを明らかにするため、「女はこうあるべき」「男はこうあるべき」といった性別に関する内容が質問項目になっている。
調査結果
アンコンシャス・バイアス、8割
41項目のうち1つでも「そう思う」または「どちらかといえばそう思う」と回答した人は、男女合わせて76.3%。「女だから」「男だから」という性別による思い込みや偏見は多くの人が持っていることがわかった。
男性に多い、「女・男はこうあるべき」
41項目の全結果を男女別にまとめたのが以下のグラフ(「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」の合計)。40項目において男性の割合が高く、唯一女性が上回ったのは「女性は感情的になりやすい」。男性の方が全体的に、性別による思い込みや偏見が強いことがわかった。
男女それぞれのトップ10は以下。ランクインしている項目はほぼ同じだが、男性の方が全体的に割合が高い。
もう少し詳しく見てみよう。以下グラフは年代別に作成したもので、男女ともに年齢によって意識差が見られる。例えば「男性は家庭をもって一人前だ」「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」「共働きでも男性は家庭よりも仕事を優先するべきだ」は、男女ともに年齢が上がるほど割合が高くなる。
女性に多い、「女・男はこうあるべき」と言われた経験
思い込みや偏見が強いのは男性である一方で、そういった思い込みを他者から言われたり、あるいは他者の言動や態度から感じた経験は全体的に女性に多い。以下表は、性別に基づく役割や思い込みを言われた・感じた経験を男女別・項目別にまとめたもの。トップ10にランクインした項目は男女で明確な違いが出ており、男性は「家庭・コミュニティ」領域のことで言われた・感じた経験が多いのに対し、女性は「家庭・コミュニティ」「職場」「その他」と多岐にわたる。女性の方が「こうあるべき」と言われたり感じる場面が多いことがわかった。
また、「性別役割を言ってきたり言動を感じさせた人」も男女で異なる。男性は主に「父親」や「知人・友人」から言われたり感じるのに対し、女性は「職場の男性上司」「母親」「父親」「男性の親戚」と多様だ。
男女それぞれの声
■女性
- ⺟親が専業主婦なので、⽗親のようなお⾦に余裕のあるパートナーを⾒つけると今のような⽣活ができると⾔われたことがある(⼥性20代)
- 義⺟が私に介護してもらうと⾔った時(女性20代)
- ミスをした男性を注意したら⼥性はすぐ感情的になるよねと逆切れされた(⼥性20代)
- 仕事で「⼥性らしい感性で考えて欲しい」と⾔われた(⼥性20代)
- チームリーダーはやっぱり男性の⽅が理性的なので、⼥性よりは男性の⽅がいいって会社の⼈の話を聞きました (⼥性20代)
- 職場にて、男性職員が育児休暇を取ることについて反対されていたのを聞いたことがある(⼥性20代)
- 職場に来客があった際にお茶だしは⼥性から貰った⽅が嬉しいから出してと⾔われた(⼥性20代)
- ⾼校⽣のときに友⼈と将来の話をしているとき、⼥性は就職しても賃⾦が低いからいずれは結婚しなければならない、という話になった(⼥性30代)
- 祖⺟にしっかりと収⼊のある男性に養って貰いなさいと⾔われた(⼥性30代)
- 出産を控えていますが、夫の会社では育児休業が取りづらいです。取るなとは⾔わないが、その間、お前の仕事どうするの︖戻る場所ないよ︖やる気ないの︖お前そんなんだから仕事できないんだよ。家のことは嫁さんがするだろ︖…などなど。実質的に取れない(⼥性30代)
- 仕事探しの時期について、⼦どもの育児や家庭を優先させたほうが良いと実⺟や義⺟から⾔われた。偏⾒ではないと思うが、夫は育児の場 ⾯で話にも出てこなかったので、基本的には家事・育児は仕事をしても⼥性がしなければいけない事だという印象を受けた(30代 女性)
- ⼦どもが体調を崩した時、常に看病をしないといけない。夫からはお⺟さんが看病してくれる⽅が⼦どももうれしいから、と協⼒はあまり得られない(女性30代)
- ⼥性がPTAの集まりに参加するのは当然と⾔われた。別に男性が参加してもいいのでは︖と思った(女性40代)
- 男性は結婚してもここで仕事を継続する可能性が⾼いから、能⼒が劣っていても男性を優先に昇進させる(⼥性40代)
- 学歴よりも早く結婚してお⾦に困らない⽣活をするのが良いと進路相談で⾔われた(⼥性40代)
- 実際に娘が結婚する時に相⼿の親から娘が姓を変えるべきだと⾔われていた。当⼈同⼠話し合って娘の旦那が変えることに決めていたのに相⼿の親が譲ろうとしなかった(50代女性)
- 姑から介護は⻑男の嫁だけがするものだといわれた。隣に次男夫婦が親に買ってもらった家に住んでいるが、介護は関係ないと(⼥性50代)
- 取引先との商談の際に、実際は⼥性の私が責任者として動いていたにも関わらず、表⽴って対応したのは男性社員だった。その場では明らかに「アシスタント」として扱われた(⼥性50代)
- 結婚している職場の同僚から、「あなたは結婚していないから、考え⽅が偏っている、⾃分勝⼿」と⾔われたことがある(⼥性50代)
- 職場の上司から、勤務態度について⼥性だから思いやりを持って接しなさいと⾔われた。男性職員も同じ勤務態度なのに、理不尽な思いがした(女性50代)
- 近所の男性は、「男が洗濯物を⼲すのだけはみるにたえない。やめたらいいのに」といっていた(⼥性60代)
- ⾃治会の活動の打ち上げで、男性は飲んで騒いでいるのに、料理は奥さんたちが作り配膳し、酒の⽤意をし、寒くても我慢を強いられる(女性60代)
- 町内会の集まりで重要な⾏事の決定をするとき、町内の男性の意⾒が優位に⽴ってあまり⼥性の意⾒を聞いてもらえなかった(女性60代)
- 学⽣の頃ですが、親戚の男性に『⼥性の⼈⽣の⽬標は、結婚して⼦供を作って家庭を築いて幸せになることだ』と⾔われたことがある(⼥性60代)
- 就職するとき、仕事よりも結婚して経済的に安定した⽅が幸せになれると、⽗親から⾔われた(⼥性60代)
■男性
- 仕事のミスを注意された際に泣いてしまい、男は泣くなと⾔われた(男性20代)
- 学校での家庭科の授業で⼥性の将来について、⼥性は結婚して家庭を持つことが望ましいという事を先⽣が⾔っていた(男性20代)
- 家を継ぐのは男と⽗親から⾔われた(男性30代)
- 男性は事務職ではなく営業職を受けるべきと職業安定所で⾔われた(男性30代)
- 仕事中にサポート業務は⼥性に任せるように⾔われた(男性30代)
- 今年、第⼀⼦が産まれて育児休暇を取ろうと妻に相談したところ、「男性は、育児休暇は取らずに仕事して稼いできてね」と⾔われた事(30代男性)
- ⼈⼿が少ないタイミングで来客に対し私(男性)がお茶を出したところ、お茶を出すのは⼥性のほうが感じが良いと上司に⾔われたことがある(男性40代)
- 実家で、お盆の配膳の⼿伝いをしたら、親戚に、それは、男のやることじゃないといわれた(男性40代)
- 結婚相談所で男性が⼥性と⾷事するときは代⾦を奢るべきと⾔われた(男性40代)
- 上司に、⼥性の同僚の昇進を希望したところ、特に理由もなく同年代の男性上司を優先すると伝えられた(男性40代)
- 仕事の開発グループのリーダーについて、同僚の⼥性の⽅が優秀なのに、男性だからという理由で私がなったこと (男性40代)
- 特に⺟親が、⼥性はいくら頑張っても限界があるので経済的に安定したパートナーと結婚した⽅が良いと⾔っていた(男性40代)
- 親戚⼀同から男は嫁を貰って⼀⼈前と何回も⾔われた(男性50代)
- その年迄結婚してないのは⽋陥がある(男性50代)
- 会社の上司から、休⽇出勤は仕事がおくれているのなら、男なら休みであろうと、仕事をすべきであると暴⾔を吐かれた。 ⼥性には、休⽇出勤などはやらせられないから、当然男がカバーすべきであると⾔われた(男性60代)
ヘルスケア領域のアンコンシャス・バイアスは?
本稿では性別役割意識に関するアンコンシャス・バイアスを見てきたが、他にもいろいろな視点で考える必要がある。ヘルスケアマーケティングで言うなら、例えば「自社商品・サービスは健康または健常な人が購入する(特に1次予防ソリューションの場合)」という無意識の前提や、「障害のある人や高齢者・要介護者は、機能が良ければ買ってくれる。デザインは追求する必要はない」「命が助かったのだから、患者は手術や副作用による外見変化を受容している」「女性は痩せたい・若返りたいと思っている」といったニーズの決めつけなども、アンコンシャス・バイアスだ。無意識に自分の中に染み込んでしまった思い込みが、実は見込み客や顧客を遠ざけるマーケティング設計につながっているかもしれない。炎上対策のためにも、社内・部署内で今一度、多様な視点でアンコンシャス・バイアスについて確認してみては?
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