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女性が「がん」を自分ごと化するのはいつ? 5,000人のサイト検索行動から見えた”非当事者”の意識と民間企業への影響力

本稿は、医療・ヘルスケアに特化した市場調査会社の株式会社インテージヘルスケアによる連載記事です。同社では、がん患者の意識や行動をさまざまな視点から性別・年代別に分析しており、これまで「がん患者の記録行動」や「がん患者の情報源」について解説してきました。続く今回のテーマは、「サイト検索行動」。1年にわたるログデータからは、がん非当事者ががんを自分ごと化したり関心を持つタイミングが見えてきました。

約5,000人のサイト検索行動を分析

インテージヘルスケアは、Webログデータ「i-SSP(注1」を用い、集計可能な12,969人(注2のデータのうち、がん関連サイトを検索した4,909人の1年間の検索行動を分析しました。アンケートでは見えない無意識の行動から、時期・時間帯による関心度の変化や情報接触のトリガーが判明しました。特にがん関心層の過半数が「民間企業サイト」を訪れている事実が見えました。

<記事のポイント>

  • 【Who】 分析対象の98%が「がん非当事者」。40〜50代が約半数を占め、自身の健康リスクと家族のケアが重なる「ダブルケア世代」が探索を主導。
  • 【When】 全体の関心は10月の「イベント」で最大化し、女性は5月で再燃する。時間帯は夜21時以降の「自分時間」にアクセスが集中する。
  • 【Source】 情報源として最も多くの人に選ばれているのは「民間企業」。特に検査関連のサイトが公的機関以上に支持されている。

 

アンケートではなく「行動ログ」で見る、予防意識のリアル

「がん情報の検索」というと、患者やその家族による闘病のための情報収集をイメージしがちですが、実際には「今は健康だが、将来に不安を感じている」あるいは「検診の結果が少し気になった」という「がん非当事者」も、日々多くの情報に接触しています。本稿では、インテージの「i-SSP(インテージシングルソースパネル)」を用い、2024年9月から2025年8月までの1年間におけるWebログデータを分析しました。 なお、本分析における「ログデータ」は、あらかじめ独自に定義・選定(注3した「国内の主要ながん関連サイト」への接続ログを抽出・集計しています。対象としたがん関心層4,909人のうち、本人または家族が罹患していると回答している人は約2%で、98%は「がん非当事者」です。

 

「男性より女性」「40〜50代」が、がんを自分ごと化

年代構成を見ると、40代と50代が全体の約47%を占めました。また、男女比では約6割が女性であり、がん関連サイト未接続を含めた全体12,969人の比率(男性53%、女性47%)と比べると、女性が比較的多く関連サイトに接続していました。

図表1:年代別・性別ユーザー分布

【出典】インテージヘルスケア

 

この世代は、加齢に伴い自身のがん罹患リスクが現実味を帯びてくる時期であり、同時に70〜80代の親を持つ「介護予備軍・現役世代」でもあります。 特に女性にとっては、更年期などの体調の変化と向き合いながら、親や子どものケアという役割の「サンドイッチ世代」の時期と重なります。「自分のため」の予防・検診情報の確認と、「家族のため」の検索という2つの動機が、40〜50代が最もアクティブな情報収集層(家庭のヘルスケア・ゲートキーパー)である理由と言えそうです。

 

時期別で異なる検索トリガー、女性は5月の「生活的トリガー」

月ごとのアクセス推移からは、人々ががん情報を検索する動機となる、異なる2つの「トリガー」が見えてきました。

■10月:「社会的トリガー(イベント)」で関心が最大化する
年間で最もアクセス数が多かったのは10月(2,861PV)でした。 10月は「ピンクリボン月間」をはじめ、企業や自治体での検診推奨、がん啓発のニュースが増える時期です。こうした「社会的なイベント・外部からの情報」がトリガーとなり、性別を問わず多くのアクションが生まれていると考えられます。

■女性:5月の「生活的トリガー(家族)」で再燃する
一方、女性は5月にアクセスの動きが見られ、男女差が顕著に現れました。 10月のような大規模なイベントがないにも関わらず、アクセス数が急増(1,410PV)し、一人あたりの閲覧数も約3.9ページまで上昇します。5月は「母の日」や「ゴールデンウイーク」があるため、「家族と一緒にいる時間」や「母親など家族や自身を考える時間」が増えるといった個人的・生活的な理由が、検索行動のトリガーとなっていると考えられます。実際、検索先を確認すると「がん情報サービス(ganjoho.jp)」のような専門的なサイトが多く選ばれていました。家族や自分の健康についてじっくりと時間をかけて情報を精査しているため、結果として一人あたりのPV数が高くなっていると考えられます。

図表2検索熱量の推移(男女別PV)

【出典】インテージヘルスケア

 

■12月:情報遮断、忙しさが関心を奪う
男女共通の特徴として、12月はアクセス急減が見られ、ピーク時の10月(2,861PV)や9月(2,632PV)と比較し、12月は1,683PVまで落ち込みます。この時、訪問人数(UU)の減少率は3.5%に留まっていますが、閲覧回数(PV)は34%と大きく減少しています。 年末は多忙な時期のため、生活者が「サイトを訪れはするが、深く読まずに離脱している」ことが考えられます。

図表3:検索熱量の推移(訪問人数とPV)

【出典】インテージヘルスケア

 

選ばれているがん関連サイトは「公的機関より民間企業」

がん関連サイトに接続する人は、どのサイトを最も信頼し訪れているのか。アクセス回数(PV)と訪問人数(UU)の両面から分析すると、公的機関以上に企業サイトが生活者に浸透している実態が見えました。

■圧倒的シェアを持つ「民間企業」
最も多くのユーザーが訪れていたのは、検査関連企業などの「民間企業」のサイトで、今回の分析対象者の約55%に達します。 対して「国・政府関連」を訪れたのは約29%に留まりました。 つまり、公的機関の約2倍の人が民間企業のサイトを情報源として選択しています。

■具体的に「誰」が選ばれているのか?
具体的にどのような企業サイトが支持されているのか、訪問人数(UU)のTOP2を確認しました。

  • 内視鏡検査機器メーカーの啓発サイト
    924 UU / 1,701 PV (女性598人 : 男性326人)
  • 郵送型尿検査サービス会社の啓発サイト
    579 UU / 1,569 PV(女性325人 : 男性254人)

1位は内視鏡検査機器メーカー、2位は尿検査サービスのメーカーでした。 内視鏡のトップメーカーによる検査解説や、尿でリスクチェックができるスクリーニング検査のサイトが上位を独占しています。がん非当事者である生活者は、医学的な詳細よりも「私の不調は大丈夫か(解説)」や「手軽なチェック方法(解決策)」という、身近なソリューションを求めていることが示唆されます。 これらのサイトへのアクセスは女性比率が約6割を占めていました。

■「国」より「病院」を選ぶ生活者
「医療機関」と「国・政府」を比較した場合、総アクセス数(PV)では「国・政府(5,062回)」が上回っていましたが、訪れた人数(UU)で見ると「医療機関(1,576人)」が「国・政府(1,403人)」を逆転しています。

  • 国・政府サイト
    人数は少ないが、深く調べる「専門書」のような役割
  • 医療機関サイト
    より多くの人が訪れる。症状や検査について、まず確認する「身近な相談窓口」のような役割
図表4:主要情報源のPV数と人数)

【出典】インテージヘルスケア

 

図表5:主要情報源の一人あたりの閲覧数)

【出典】インテージヘルスケア

 

がん関連サイトへのアクセス、女性は「夜」男性は「朝」

がん関連サイトに接続している時間帯を見ると、1日の中でもアクセスの変化に傾向がありました。 アクセスログを時間帯別(3時間刻み)に集計したところ、全体としては夜間のアクセスが最も多いものの、男女で「ゴールデンタイム」が異なることが判明しました。

図表6時間帯・男女別アクセス数推移)

【出典】インテージヘルスケア

 

■全体のピーク:21:00〜24:00
1日で最もアクセスが集中するのは、夜の21時から深夜0時にかけての時間帯です。

■女性のピーク:「夜」のプライベートタイム(18:00〜24:00)
女性で特徴的なのは、18時以降の伸びです。 特にこの時間帯では、男性に対し女性が多くアクセスしています。 仕事、家事、育児などのタスクを終え、一息ついた夕食後から就寝前の時間帯が落ち着いて情報を精査できるタイミングであることがうかがえます。

■男性の特異点:「朝」の通勤タイム(06:00〜09:00)
一方で、早朝06:00〜09:00の時間帯において、男性(1,253PV)が女性(1,161PV)をやや上回っています。 男性にとって、出勤前の自宅や、通勤電車の中での「隙間時間」が、健康情報に触れる重要なタッチポイントになっている可能性があります。

 

非当事者が「がん」を自分ごと化する3つの要素

以上のログデータ分析から、がん非当事者が、がん情報を「自分ごと」として捉える瞬間には、共通する背景があることが見えてきました。

■主体は「40〜50代」である
全世代の中で40代と50代が最も能動的にがん情報を検索していました。自身の健康リスク、周囲の影響など「がん情報に触れるべき当事者意識」を最も強く持っている世代だと考えられます。

■関心は「環境」に影響される
10月の社会的イベントや、5月の生活行事、そして1日の終わりの夜21時以降など「外部からの影響」や「静かな閲覧環境」が整ったタイミングで検索行動が高まると示唆されます。 逆に、12月のように多忙な環境下では情報は遮断される傾向にありました。

■より選ばれるのは具体的な情報
がん非当事者が最も多く選択したのは、公的機関よりも、民間企業が提示する「分かりやすい情報」でした。検査関連サイトが上位を占めた理由は、「知識」そのものよりも、「検査」や「チェック」といった「今すぐできる具体的なアクション」の情報を自分ごととして取り込んでいることが考えられます。

「がん」というテーマが非当事者に響く背景には、40〜50代という健康リスク意識が高まる世代であることと、社会的環境の重なりがあります。こうした状況下で「具体的な次のアクション」が提示されると、情報はスムーズに受け入れられ、検索という能動的な行動につながると考えられます。

注1:株式会社インテージが提供するPC約12,000人、モバイル約13,000人という国内最大規模のモニターを有し、ウェブサイトの閲覧履歴(URL、検索ワード)やアプリ利用状況といった行動ログを継続的に収集するプラットフォーム。アンケート調査のような回答者の記憶に依存する方法とは異なり、実際の行動に基づく客観的かつ詳細なデータを用いることで、利用者の無意識的な情報探索行動までをも捉えることが可能。
注2:i-SSPと株式会社インテージの保有する疾患・症状パネルが紐づく人数。この紐づけにより、疾患・症状別に更に深堀りした分析も可能にしている。
注3:本分析のために独自に設計された分類タグ体系を用いて、がん関連のサイトを「情報源の分類(国・政府関連機関、医療機関など)」「内容の分類(予防・検診、治療法、生活支援など)」「サイトの機能(情報提供、コミュニティ形成など)」「対象読者(患者・家族、一般など)」といった複数の軸で定義した。

【提供元】 株式会社インテージヘルスケア

インテージヘルスケアは幅広い疾患領域における実績、医療やヘルスケアに特化した専門性の高さ、豊富なアセットを活かし、お客様の意思決定につながるインサイトをご提供します。本記事では「i-SSP」を用いて「がん関連サイト」をテーマに分析を行いました。その他にも、更年期障害、PMS、月経困難症、子宮内膜症など婦人科系疾患をはじめ、様々な疾患症状をテーマにお客様の課題に沿った分析をご提案可能です。ぜひこちらよりお問合せください。

 

 

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