美容医療の現場で活用されている再生医療

iPS細胞(人工多能性幹細胞)が発表されて以来、国内でも多くの話題を集め医療の最前線として注目されている「再生医療」。医療の概念そのものを大きく変えた発見だったが、美容医療の分野ではどのような治療が登場したのだろうか。(執筆:美容医療の専門サイト「alluxeWEB」)

まず最初に気をつけておきたいのが、再生医療とはまだまだ発展途上の技術であるということ。そして美容医療の分野で「再生医療的に」語られている技術の多くが、ニュースで取り上げられた「再生医療」ではないということ。(美容医療で使われているのは、分類上は、体性幹細胞などを使う第2種再生医療、あるいは体細胞を加工して用いる第3種再生医療と言われるもので、iPS細胞やES細胞は第1種再生医療)

詳細はとても長くなるので別の機会に譲るとして、今回は美容医療で使われている「再生医療的な治療」にはどのようなものがあり、どのような可能性があるのか、ご紹介していきたい。

美容医療の中で広く取り入れられている「再生医療的な治療」といえばPRP(多血小板血漿)だ。PRPは血液を採取して、血小板が多く含まれている部分のみを抽出し、自己由来の注入材を作り出す。

美容医療は、これまでも、肌の「再生」能力を活用することで効果を引き出してきた。レーザーやピーリング、ダーマローラーなどは大雑把にいえば肌にケガには及ばないダメージを与えることで細胞を活性化して肌質の向上を促す治療だ。この効果には細胞の成長や回復を司る「成長因子」が必要となる。PRPは自己由来の成長因子が多く含まれているため、これを注入することで人体の再生能力が高まるのではないか、という発想から生まれた治療である。

関節が痛む箇所に注射するなど外科治療的な分野でも使われてきた技術で、美容の場合はこれをエイジングケアのためにヒアルロン酸を注入するような場所(目元、ほうれい線など年齢の影響が見えやすい場所)や頭皮に注射したりする。コラーゲンや自前のヒアルロン酸が増えて若々しさを取り戻す。一週間から二週間かけて徐々に効果を発揮し、約3カ月後ぐらいに効果が最大になる、と言われている。

美容医療のメジャーな注入治療であるヒアルロン酸製剤やシワの原因となる表情筋を抑制するボツリヌストキシンに比べて、効果の実感は薄いものだが、これらの注射が工業的に精製された薬剤なのに比べてPRPの場合は自分の血液から作られているという安心感がある。

気になる効果については、実は出てきた当初は謳い文句に比べて効果が低すぎるという意見も多かったが、最近は技術も高まってきたのか、限定的ながらポジティブな感想も増えてきたという印象だ。医師の間でも効果に関して意見は割れている。自己由来ではないグロースファクターをカクテルすることによって効果をブーストするという試みも行われており、こちらはすでに再生医療というよりも水光注射などの美容成分注入の発想に近づいているように思える。

PRPは血液からだが、脂肪から抽出される成分を使って美容医療を行うケースもある。

脂肪吸引した自分の脂肪をバストに注入して行う豊胸注入治療があるが、胸に入れた脂肪の生着しなかった部分が石灰化して、マンモグラフィーで乳がんと見分けがつかなくなる、という問題点があった。遠心分離機などを使って抽出した自己脂肪由来の幹細胞を注入する際に混ぜる、もしくは生成して綺麗にした脂肪のみを注入することによって生着の可能性が増して、危険性が減るという発想から生まれたセリューションやコンデンスリッチなどと呼ばれる治療だ。胸が小さいというコンプレックスだけではなく、出産や乳がん手術、事故、加齢などによる乳房の変化からバスト形成術を求めるニーズは高く、さらに研究の発展が期待される分野である。

以上、一部ではあるが美容医療において採用されている「再生医療的な治療」についてご紹介した。いずれもこれまでの美容医療の延長上にあり、劇的な変化をもたらすものではなかった。次々に登場する製剤やマシンに押されて、今のところ美容医療のメインストリームという状況にはない。しかし、iPS細胞やES細胞の研究がさらに進んでいけば、いつの日か、歳を取らない肌、薄くならない頭髪、完全に復活した乳房などを、多くの人が手にできる未来がくるのかもしれない。

 

【執筆】株式会社alluxe

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