エコノミークラス症候群の症状・予防法・対策グッズ商品
熊本地震をきっかけに飛行機での移動中以外でも発症の危険性があると広く知られるようになった「エコノミークラス症候群」。日常生活にも潜むリスク要因と予防方法とは?国や医学会、企業が生活者に向けて発信している情報や専門対策商品の事例を見ていこう。
目次
エコノミークラス症候群とは?
エコノミークラス症候群とは?
厚生労働省はエコノミークラス症候群について次のように定義している。
【エコノミークラス症候群とは】
食事や水分を十分に取らない状態で、車などの狭い座席に長時間座っていて足を動かさないと、血行不良が起こり血液が固まりやすくなります。その結果、血の固まり(血栓)が血管の中を流れ、肺に詰まって肺塞栓などを誘発する恐れがあります。(引用:厚生労働省「エコノミークラス症候群の予防のために」)
飛行機のエコノミークラスで長時間同じ姿勢で座っていると起きやすいことから「エコノミークラス症候群」「エコノミー症候群」「旅行者血栓症」と言われているが、静脈血栓塞栓症の通称であり、肺血栓塞栓症、または深部静脈血栓が引き起こす深部静脈血栓症とも言う。飛行機から降りた直後など長時間同じ姿勢をとって急に立ち上がった時などに呼吸困難やショック状態に陥り発症するケースが多く、時としては死に至るほどの危険性がある。
厚生労働省の人口動態調査を見てみると、日本では少なかった急性肺血栓塞栓症の発病者数は1980〜1990年頃から増加し始め、1990年~2000年にかけてさらに急増している。増加に伴い、エコノミークラス症候群は1980〜1990年頃から徐々に知られるようになっていった。
エコノミークラス症候群の原因
エコノミークラス症候群の原因は血液の粘度が高まり血管中に血の塊となる血栓ができてしまうこと。では、何が血液の粘度を高めるのか?以下の理由がある。
- 長時間同じ姿勢で座る→下肢が圧迫され血流を悪くする
- 食事や水分補給の不足→脱水傾向に陥る
- 乾燥した空気→体内にある水分の蒸散を招く
- 低い気圧→体内にある水分の蒸散を招く
厚生労働省はエコノミークラス症候群の危険性が高い人として具体的な項目を挙げている。
- 4時間以上の長時間の飛行
- 短期間に頻回飛行機を利用した場合
- 高齢者
- 肥満のある人
- 最近大きな手術を受けた人
- 妊婦
- ホルモン補充療法中の人、経口避妊薬を飲んでいる人
- がんのある人
(引用:厚生労働省「怖い!エコノミークラス症候群」)
エコノミークラス症候群の症状
血栓の大きさにより症状の程度は異なるが、血液中の酸素濃度が低下しているため膝の痛みや運動の困難が訪れる。しかし肺血栓症研究会によると患者の約8割は突発的な呼吸困難が初期症状として現れているという。
- 足(脚)の痛み
- 足(脚)のむくみ
- 歩行時や階段での経験したことのない息切れ
- 胸や背中の痛み
- 動悸や冷や汗
- 失神
- 呼吸困難
(参考:国立循環器病研究センター「 急性肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)の話」)
病院での診断と治療方法
病院での診断方法
上述した初期症状にある四肢の痛みや息切れなどを聴取し、皮膚の色の変化や把握痛(握って痛いか)の有無を診察する。疑いが強い場合は超音波検査や人体の断面図が見られる造影CT検査により血栓の有無を確認することもある。
診療料
病院により多少の異なりはあるが、血栓症の検査のみであれば約4,000円前後で行うことができる。例として(医)アルコ会が運営するアルコクリニックでは健診のオプションとして血栓症検査を3,780円(2019年現在)で実施している。
治療法
血栓を溶かすことが目的となるため、基本的には血液を固まらせないようにする「抗凝固療法」が用いられる。必要に応じて脳梗塞などの治療で使われる「血栓溶解療法」や血栓そのものを手術で取り除く「外科的肺動脈血栓摘除術」、下大静脈に血栓を捕獲するためのフィルターを入れる「下大静脈内フィルター留置術」などが行われる。
(参考:日本呼吸器学会「エコノミークラス症候群(肺血栓塞栓症)に関するQ&A」、阪和記念病院「下大静脈内フィルター留置術」)
飛行機以外でも気をつけたいケース
近年では飛行機以外にもエコノミークラス症候群を発症するケースが相次いでおり、特に災害による避難所生活で思いがけず引き起こされることも。いずれにしても長時間の座位が起きやすい場面では注意が必要だ。
避難所生活
避難所生活では狭い避難所や車中泊によってエコノミークラス症候群が発生しやすい。避難所では周囲の目を気にしてトイレの回数を減らすために十分に水分補給をしなかったり、体を動かす機会が激減するからだ。また車中泊では避難所よりも狭い空間を寝床にするので、身体の自由がきかず避難所よりも発生率は高い傾向にある。2016年の熊本地震では51名がエコノミークラス症候群による入院を余儀なくされ、2018年の北海道地震では8名が発症した。避難所生活において啓発の動きが広まるきっかけとなった。
長時間のデスクワーク
長時間座りっぱなしのデスクワーカーの体は、飛行機での移動中と同じ状態になりやすい。さらに冷暖房がきいた室内は乾燥しているので、体内の水分が蒸散し血液がドロドロに。十分な水分補給と小まめに席を立ちあがって体を動かすことが必要だ。
遠距離バス
決められた座席で自由がきかずに移動する遠距離バス内もまた、エコノミークラス症候群が引き起こされやすい。座りながらでも行える運動で同じ姿勢を続けないように気を付けたい。
国・学会・企業による、エコノミー症候群の予防方法
エコノミークラス症候群の予防方法(厚労省)
厚生労働省はエコノミークラス症候群の予防法として以下の対策方法を提示している。
- ときどき、軽い体操やストレッチ運動を行う
- 十分にこまめに水分を取る
- アルコールを控える。できれば禁煙する
- ゆったりとした服装をし、ベルトをきつく締めない
- かかとの上げ下ろし運動をしたりふくらはぎを軽くもんだりする
- 眠るときは足をあげる
(参考:厚生労働省「エコノミークラス症候群の予防のために」)
予防のための足の運動はこちら。
避難所での予防方法(日本呼吸器学会)
日本呼吸器学会では一般的な予防方法の他に、避難所生活での注意点も紹介している。
- 【一般的な予防】
①下肢の運動…かかとの上げ下ろし運動やマッサージなど軽い体操やストレッチ運動
②水分補給…1日500mlのペットボトル2本が目安
③生活習慣の見直し…標準体重の維持や野菜や食物繊維の積極的な摂取、禁煙など - 【避難所生活での予防】
①睡眠の改善…夜間の消灯、6時間以上の睡眠
②運動の維持…1日20分以上のウォーキングなど
③良質な食事…食塩制限、カリウム類の積極的な摂取
④体重の維持…震災前の体重と±2kgを維持する
⑤感染症予防…マスクの着用、うがい手洗いの徹底
⑥血栓予防…十分な水分の摂取
⑦薬の継続…降圧薬、循環器疾患の薬の継続
⑧血圧管理…定期的な血圧測定
(参考:日本呼吸器学会「エコノミークラス症候群(肺血栓塞栓症)に関するQ&A」)
予防体操・マッサージ方法を動画で紹介(日本赤十字熊本健康管理センター)
日本赤十字社熊本健康管理センターは、熊本地震の後にエコノミークラス症候群予防のための動画を作成した。動画では病気の内容と原因を伝えるとともに、予防法として「足の運動」「水分補給」「弾性ストッキングの使用」を呼びかけている。さらにそれぞれのより分かりやすい動画も作成しており、弾性ストッキングの活用や履き方、予防体操やマッサージ方法も個別で確認できる。
「インフライト体操」を動画で紹介(JAL)
JALはエコノミークラス症候群の注意を呼びかけ、予防対策方法と合わせて、機内でできる体操「インフライト体操」を動画で公開。インフライト体操は呼吸方法の紹介や足先や膝を中心に座ったままできる体操で、最後には運動後のマッサージ方法を解説している。
世界血栓症デーに合わせ啓発イベント開催(バイエル薬品)
バイエル薬品は世界血栓デーの10月13日にイベントを開催。ここでは2014年と2018年を例にイベント内容をご紹介。
- 【2014年 エコノミークラス症候群啓発イベント】
羽田空港内で血栓症アンバサダーとANA キャビンアテンダントによるミニトークショーを開催し、血栓症予防エクササイズの紹介を行った。また静脈血栓塞栓症について分かりやすく解説した小冊子も配布し、認知度の向上を目指した。 - 【2018年 血栓症予防の呼びかけ】
東京スカイツリータウンにて1日限定の血栓症予防の啓発イベントを行った。当イベントでは「運動」と「水分補給」にフォーカスし、それぞれの効果や大切さについて有名タレントをゲストに招いてトークセッションで解説した。
エコノミークラス症候群の防止グッズ商品
着圧靴下・タイツ・ストッキング
フライトソックス
エコノミークラス症候群の予防対策として作られた飛行機用靴下。足首からふくらはぎと心臓に近付くにつれ圧力値が低くなっており、足の血行促進を助ける機能をもつ。血液の循環を助けむくみも防ぐ、長時間のフライトに最適な予防グッズ。
メディキュット
着圧市場シェアNo.1の、女性に大人気の着圧シリーズ。足首、ふくらはぎ、太ももにかけて少なくなる着圧が掛かっており、日本人女性の寸法に合わせたデザインが施されている。
医療用弾性ストッキング セラファーム
医療用タイプの弾性ストッキング。医学的に適切な圧迫圧で作られておりセラファームは目的別に3段階の圧迫圧のストッキングを用意している。3段階中、最も高い圧迫圧は下肢静脈瘤の軽減を目的にしている。エコノミークラス症候群の予防には3段階中、真ん中の段階をすすめている。
フットレスト
飛行機や新幹線などで使える足の休息グッズ。座席テーブルにかけてベルトを調節するだけでハンモック式のフットレストが出来上がる。足やふくらはぎをのせて自由にできることで疲労軽減やリラックス効果を期待できる。
ステッパー
自宅でも職場でも気軽に足踏み運動ができる健康器具。「座りながら歩く」ことができるエコノミークラス症候群にも有効な予防グッズ。
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