乳がんの状況 〜罹患率・死亡率・生存率〜
【乳がん月間】
女性がんの中でも特に大々的な啓発キャンペーンが世界的に展開されるのが、乳がん。日本でもピンクリボン運動が広く社会に定着し、企業各社による啓発も年々活発化している。フェムテックブーム真っ只中ということもあり、今年は乳がんにまつわるデータや問題についていつも以上に関心を寄せているビジネスパーソンも多いのでは?
「乳がん月間」の今月は、乳がんに関する知識を深めたり、企業の啓発キャンペーンについて考えよう。全3回の連載でお届け。第1回目の今回は乳がんに関して最低限理解しておきたい基礎知識を、国立がん研究センターのデータなどを用いて網羅的に解説していく。
- 【Vol.1】乳がんの状況 〜罹患率・死亡率・生存率〜(◀︎今回はココ)
- 【Vol.2】健康行動促進の仕掛け作りがうまい啓発事例(国内)
- 【Vol.3】健康行動促進の仕掛け作りがうまい啓発事例(海外)
目次
国内の乳がんの状況
乳がんとは?
乳がんは乳房にできる悪性の腫瘍。しこりとして見つかる前に、乳房の周りのリンパ節や、他の臓器(骨、肺、胸膜、肝臓、脳など)に転移して見つかることがある。乳がんの種類や性質によって、広がりやすさ、転移のしやすさは異なる(国立がん研究センターがん対策情報センター)。東北大学病院のデータ(2011-2014年)によると、乳がんが発生しやすい場所は次の通り。
- 1位:乳房の外側の上(53%)
- 2位:内側の上(19%)
- 3位:外側の下(14%)
- 4位:内側の下(6%)
- 5位:乳首付近(4%)
(参考:日本対がん協会「乳がんの基礎知識」)
乳がんのリスク
乳がんのリスクとしては以下が指摘されている。
- 体内のエストロゲン濃度が高い
- エストロゲンを含む経口避妊薬の使用
- 閉経後の長期のホルモン補充療法
- 初経年齢(初潮)が低い
- 出産経験がない
- 授乳経験がない
- 閉経年齢が高い
- 閉経後の肥満
- 飲酒
- 運動不足
(参考:国立がん研究センターがん対策情報センター)
全がんから見る、乳がんの状況
乳がんは女性の全がんの中で最も罹患率が高いことが知られているが、死亡率は低い。以下表は男女別の罹患数(2018年)と死亡数(2019年)をランキングでまとめたもの。「乳がん」は罹患数が1位だが死亡数は5位となっている。
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | ||
女性 | 罹患数 | 乳房 (93,853) |
大腸 (65,840) |
肺 (40,777) |
胃 (39,103) |
子宮 (28,542) |
死亡数 | 大腸 (24,004) |
肺 (22,056) |
膵臓 (18,232) |
胃 (14,888) |
乳房 (14,839) |
|
男性 | 罹患数 | 前立腺 (92,021) |
胃 (86,905) |
大腸 (86,414) |
肺 (82,046) |
肝臓 (26,163) |
死亡数 | 肺 (53,338) |
胃 (28,043) |
大腸 (27,416) |
膵臓 (18,124) |
肝臓 (16,750) |
乳がんの罹患率(年齢別)
乳がんの好発年齢はいつなのか?年齢別の乳がんの罹患率を見ると、40代から増加しピークは60代後半〜70代前半であることがわかる。
乳がんの死亡率(年齢別)
続いて死亡率について。前述の通り罹患率は70代を過ぎるとその後は年齢とともに下がっていくが、死亡率は年齢とともに高くなっていく。
乳がんの生存率
乳がんの生存率は全がんの中でも高く、がんと診断されてから5年後の生存率を表す「部位別がん5年相対生存率」は、92.3%。1位:甲状腺がん(95.8%)、2位:皮膚がん(94.6%)に次いで乳がん患者の生存率は3番目に高い。反対に生存率が最も低いのは膵臓がん(8.1%)。次いで胆のう・胆管がん(22.1%)、肝臓がん(35.1%)。
罹患率・死亡率・生存率についてザッと見てきたが、これらの数字が示す通り、乳がんは罹患率は高いものの死亡率は低く生存率が高い。故に乳がんは、ブレストアウェアネス(乳房を意識する生活習慣)、検診受診、早期発見、早期治療が重要と言われているのだ。
乳がん検診受診の実態
乳がん検診受診率
乳がんは早期発見・早期治療が重要だが、日本は検診受診率が低いことが問題になっている。啓発キャンペーンや有名人の乳がん罹患のニュースなどを背景に受診率は徐々に高まってはいるものの、国際比較をすると依然として低く、7カ国中で最下位。欧米諸国の約半数にとどまる。
乳がん検診の流れ
- 乳がん検診(一次検診)
- ・異常なしの場合は、定期的に検診を受ける
・異常ありの場合は、精密検査を受ける(二次検査) - ・精密検査を受けた結果、乳がんと診断された場合は治療へ
・精密検査を受けた結果、「異常なし」「良性の病変」の場合は定期的な検診を欠かさずに受ける
乳がん検診(一次)は、国の指針によりますと、対象は40歳以上で、問診、乳房X線検査(マンモグラフィ)が基本になっています。視触診は推奨はされていませんが、実施する場合はマンモグラフィ検査と併用します。乳がん検診はマンモグラフィ検査が国際基準ですが、乳腺の密度が高い40代の検診精度が低くなるという課題があり、近年、マンモグラフィ検査に「超音波検査」を組み合わせたり、単独で用いたりする方法を採用しているところもあります。(引用:日本対がん協会「乳がんの検診について」)
検診場所・内容
乳がん検診には「住民検診」「職場検診」「個人検診」の3つがある。
- 住民検診
低価格で手軽に受けられる。40歳以上を対象にしているケースが多い - 職場検診
低価格で他の検診と一緒に受診可 - 個人検診
施設や内容は自分で好きなところを選べる。自由度が高い分費用がかかる
乳がん患者の声
ネット上の声
ネット上には乳がん患者や、その家族による投稿が多く見られる。
41歳、独身で乳癌になりました。私も両親が亡くなったら一人になります。兄弟はいますが離れています。これだけ未婚率が上がっていて、がん患者も増えているので、これからは高齢者向けだけでなく、多様なシェアハウスや施設ができていくのでは、と思います。実家暮らしで、いつかは自立したいと思っていましたが、病気になって、抗癌剤の副作用で動けなかった時など、“一人じゃなくて良かった、両親が元気で良かった”、と心から思いました。人は一人では生きていけないと実感しました。(引用:発言小町)
私も昨年の7月に母を亡くしました。母は乳癌からの転移で肺癌の末期でした。本当に苦しみました。でも何とか家に連れて帰り私は介護休暇で母につきっきりで介護しました。今でもその母親との日々が思い出されてどうしようもなく寂しい気持ちになります。(引用:発言小町)
3年前のクリスマスの日、私は海の見える病院で乳がんの手術をした。(中略)術後の弱った体と疲れ切った心に追い打ちをかけるような医師の言葉が脳裏から離れない。「あなたはスキルス性の乳がんですから抗がん剤は受ける方がいい」と。私は「なるべくなら抗がん剤は受けたくないのです」と述べた。暗い気持ちで診察室を出る私の後ろ姿に「サプリメントに走らないようにして下さいね」と言われた。今にして思えば医師の何気ない一言がぐさりと胸に刺さるのも病気の特徴だが、抗がん剤を勧めるにしてももう少し患者の気持に沿った言い方はないものだろうか。(引用:認定特定非営利活動法人がんサポートコミュニティー)
私は温存手術で「見た目さほどかわらない」とか術前言われましたが、そんなことはありませんでした。時間が経てばもとに戻るとか思えないぐらい、ざっくり抉られ、乳頭もいびつに曲がっちゃっいました(泣) 摘出、縫合は先生のお考え(ご判断)や病巣の広がりも関係してるとは思いますが…温存手術の再建は保険適応外で全額負担だと聞いています…。場合によっては再建できません。というのも含めまして、選択できる状態であっても、どちらが良いとか言えないです。(引用:ヤフー知恵袋)
乳がん患者を理解する書籍
乳がんに関する情報
乳がんに関する組織、学会、団体
- 国立がん研究センターがん情報サービス
- 乳がん 受診から診断、治療、経過観察への流れ(国立がん研究センターがん情報サービス)
- がんチェックリスト(国立がん研究センターがん情報サービス)
- 日本対がん協会
- 日本乳癌学会
乳がん治療を理解する書籍
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