難易度高の「健康経営支援サービス」、中小企業300万社にアプローチする前に知っておきたいデータ

健康経営支援の中でも特にここ最近増えているのが、女性ワーカーを対象にしたサービス。特にフェムテックブームの到来で加速した印象だ。だが実際はそう簡単にはうまくいかず苦戦しているところが多い。

大手への売り込みを想定していても、「営業したいが、大手は大きすぎて問い合わせ先がわからない」「アプローチ方法がわからない」「健康経営を標榜しているから興味を持ってもらえると思ったのに、内実は力を入れていなかった」「導入はしてもらったが、短期で打ち切られた」といったところで大抵つまづく。となると次に狙うのが中小企業。約1万社の大手に対し中小は300万社を超えるのだから、間違いなく有望市場だ。…のはずなのだが、現実は大手への売り込みよりもさらに厳しい戦いを強いられる。それを肌感覚ですでに理解している企業も多いのでは。

今回は中小企業の健康経営を支援したい企業が、営業・マーケティングの参考になるデータを集めた。中小企業の健康経営の取り組み状況、向き合い方、女性ワーカーの健康施策の実態について見ながら、中小企業への提案で必要なことについて考えていこう。

健康経営の全体像

まずは健康経営の現状について全体像を把握するのに役立つレポートから。経産省が昨年9月に公表した「健康経営の推進について(経産省ヘルスケア産業課,令和2年9月)」では、健康経営に関する顕彰制度の概要解説、認定状況(年次推移、地域別など)、健康経営に取り組んだことで社内で変化したこと健康経営と企業業績との関係などについて考察している。

特にこちらのレポートから読み取りたいのは、申請数・認定数ともに年々増えていることと(以下上段)、健康経営に取り組んだことで変化した内容が大手と中小では若干異なる点(以下下段)。中小企業の間でも、徐々に健康経営に取り組む企業は増えている。

 

 

「健康経営に関わる顕彰制度の種類が増えてきて違いがよくわからない(※)」と感じている人、「健康経営によってどんなメリットがもたらされるのか?」を改めて理解したい人、国内の認定状況を営業資料に使いたい人は、こちらのレポートの一読がおすすめ。サクッと全体像を理解できる。※現在の顕彰制度は5種:健康経営銘柄/健康経営優良法人(大手法人部門)/健康経営優良法人(大手法人部門ホワイト500)/健康経営優良法人(中小企業部門)/健康経営優良法人(中小企業部門ブライト500)

 

 

女性ワーカーの健康施策、取組み状況

健康経営の全体像を見たところで、次に、女性ワーカーの健康施策の状況について見てみよう。健康経営に取り組んでいる企業を対象に調査した経産省のデータを元に編集部が、女性ワーカーの健康施策を企業規模別にランキング化してまとめたのが以下の記事。大手と中小でランキングに大差はないものの、各項目の実施割合については明らかな違いがあることがわかった。大手は様々な健康施策に積極的に取り組んでいる様子で、例えばランキング1位の「婦人科健診・検診への金銭補助」については、8割超えの企業が実施している。一方で中小は全項目において実施割合が低い。健康経営に取り組んでいる企業であっても、中小の場合は女性ワーカーに絞った健康施策には消極的なようだ。

ランキング詳細は以下の記事からご覧いただきたいのだが、ここでは、大手と中小の違いに関するファインディングスをサクッとご紹介。

<大手>

  • 女性の健康施策に取り組む法人の割合は高く、スタンダードになっている
  • 法人側に金銭的負担がかかる施策にも積極的
  • 女性の健康施策に取り組んでいない法人は5.7%

<中小>

  • 女性の健康施策に取り組む法人の割合は低く消極的。浸透していない
  • 環境整備や周知などの施策は、比較的取り組みやすい様子
  • 女性の健康施策に取り組んでいない法人は13.6%

 

 

中小企業の経営者1,000人に聞いてわかった、低い意識

ここからは中小企業に絞って、健康経営の現状を見ていこう。アクサ生命が今年3月に公表した「職場の健康づくりに関する意識調査」が参考になる。職場の健康づくりについて中小企業の経営者1,000人に聞いた調査で、健康経営の認知度・実施割合ともに低く、また、取り組み意向についても消極的と読み取れる結果が出た。「健康経営を知らない」と回答した経営者は、なんと3割を超えていることが判明。経営者ですらこんな状況なので女性ワーカーの健康施策には当然のこと無頓着な様子で(あるいは意識が低く)、今現在実際に「女性の健康保持・増進」に取り組んでいる企業はわずか6.4%。かなり少数派だ。

大手と中小では健康経営に対する意識に乖離があることがかねてより指摘されているが、まさにそれを象徴している調査結果だ。この結果を見る限り、とにもかくにもまずは、経営者層の意識改革が必要だ。

以下は当調査の中でも特にチェックしておきたい結果概要。詳細はレポートに掲載。

<健康経営の取り組み状況>

  • 1位:健康経営を知らない(33.9%)
  • 2位:取り組んでいないが、聞いたことがある(26.3%)
  • 3位:現在取り組んでいる(20.8%)
  • 4位:取り組んでいないが、内容まで知っている(16.5%)
  • 5位:現在取り組んでいたが断念した(2.5%)

<健康経営に取り組んでいない理由>

  • 1位:効果がわかりにくいから(37.4%)
  • 2位:何から取り組めばいいのかわからないから(32.9%)
  • 3位:従業員の負担が増えるから(21.3%)
  • 4位:継続に管理コストがかかるから(20.3%)
  • 5位:特になし(17.3%)
  • 6位:導入にコストがかかるから(15.9%)
  • 7位:浸透に時間がかかるから(11.7%)
  • その他(1.6%)

<従業員の健康のために今後行いたい取り組み>

  • 1位:健康診断の実施または受診の勧奨(42.9%)
  • 2位:感染症予防(30.3%)
  • 3位:長時間労働への対応(26.2%)
  • 4位:ストレスチェックの実施(21.9%)
  • 5位:受動喫煙対策(21.2%)
  • 6位:メンタルサポート相談(17.0%)
  • 7位:運動機会の増進(14.7%)
  • 8位:食生活改善(13.1%)
  • 9位:女性の健康保持・増進(10.1%)
  • 10位:睡眠改善(7.3%)
  • 11位:産業医の設置(7.1%)
  • その他(1.6%)
  • 特になし(24.6%)

<利用したい健康経営支援サービス>

  • 1位:健康経営の実践を継続サポートしてくれるサービス(38.5%)
  • 2位:保健師によるストレスチェック実施支援サービス(38.4%)
  • 3位:従業員や人事労務担当者が利用できるチャット型医療相談サービス(34.8%)

 

優良中小企業の健康経営を分析

最後にご紹介したいのは、健康経営のプラットフォームを運営するIKIGAI WORKS(東京・三鷹)が先日公表した「ブライト500白書」。健康経営優良法人に認定された中小企業の中でも特に優秀な取り組みをしている「ブライト500」に認定された企業を分析したレポートで、認定企業の都道府県分布、企業規模、業種分布、健康経営の取り組み事例などを分析している。具体的な取り組みや中小企業ならではの健康経営の課題について知りたい人は、インタビュー記事をチェック。ブライト500に認定された3社の事例が紹介されている。

【出典】IKIGAI WORKS

【出典】IKIGAI WORKS

 

中小企業の健康経営支援、提案の難易度は「高」

自身が健康業界や大手企業に属していると、「企業は健康経営をしていて当たり前」「健康経営は誰もが知っている一般用語」「フェムテックがブームだし、企業はこれから女性ワーカーの健康支援を強化する」と思いがちだが、それはあくまで大手の話。健康経営が中小企業にまで浸透するにはまだまだ時間を要することが、各種データから読み取れる。

健康経営そのものを知らない経営者が未だ3割もいる上に、健康経営に取り組んでいる”意識高い系”の企業であっても、女性ワーカーの健康施策については消極的なのだから、女性特有の健康問題に着目した健康経営支援サービスを提案・営業しても、そう簡単には興味を持ってもらえないのは明白だ。それを踏まえ最後のまとめに入ろう。中小企業に売り込む際に最大の壁になると心得ておくべきは、

  1. 健康経営に関する知識・情報の不足
  2. 人・資金のリソース不足により、健康経営の優先順位が低い
  3. 従業員数が少ないので、女性ワーカーのみを優先する施策の推進は社内で合意を得づらい

この3つに尽きるだろう。3においては本稿で見てきた各調査では言及がなかったが、編集部に届く企業からの声の中でもトップクラスの「あるある」だ。大手企業ですら「女性ばかりを優先できない」という声が多いのだから、女性ワーカーに特化した健康施策の浸透は前途多難だ。健康経営のメリットを視覚化しつつ、経営者層の意識改革を促すー。地味な解決案だが、中小企業に提案する際は、サービスの提案のみならずこれらの啓発もセットにしたい。

 

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